2008-12-03

J・ストルテンバーグ『男であることを拒否する』


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● J・ストルテンバーグ『男であることを拒否する』(勁草書房)

★ 妄想っぽくって笑える

かつて「俺は男だ!」などというタイトルのドラマがあった。男という存在をこれほど無根拠に肯定してみせてくれる表現もないと思うが、たしかにあの時代、男であることはそれだけで底上げされていたように思い返す。

ところが、女の子たちが男たちに満足できるセックスを堂々要求するようになり、田中真紀子氏のような女性政治家が台風の目になっているような今日では、「俺は男だ!」は空しい力みにしか聞こえない。 続きを読む…

2008-12-02

マイケル・P. ギグリエリ『男はなぜ暴力をふるうのか』


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● マイケル・P. ギグリエリ『男はなぜ暴力をふるうのか―進化から見たレイプ・殺人・戦争』(朝日新聞社)

★★ ふつうに考えてみれば、性にだけ生物学的な影響がないはずがないよね

性をめぐる生物学的研究はフェミニズムの登場以後、苦戦を強いられてきた。それまで宿命だとされてきた男女の性差は、ジェンダーとして、ことごとく歴史や社会によって構築された虚構であると暴き立てられた。

実際、そういう視点が学問に持ち込まれることによって、研究者は相当注意深く議論を展開することになった。それは生物学という学問にとっても前進だったと考えられる。が、それでも社会的構築ということでは割り切れない現象として性があることは、否定しようもなかった。 続きを読む…

河口和也『クィア・スタディーズ』


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● 河口和也『クイア・スタディーズ (思考のフロンティア)』(岩波書店)

★★★ 理論から導かれる現状分析にリアリティがない

本書は、同性愛者など性的少数者が、近代社会の中でいかに排除され、そこから主体性を取り戻そうとしてきたのかを、理論に焦点を当ててたどる試みだ。さらに、セクシュアリティを近代や資本主義というパースペクティブにおいて相対化し、社会と少数者との関係を再定義しようとする議論を展開している。

著者の分析は興味深い。 続きを読む…

2008-12-01

「人とつながる 社会とつながる」「長期療養 生活のヒント」

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●「人とつながる 社会とつながる」「長期療養 生活のヒント」
ぷれいす東京
JNP +

★★★★ みんなに読んでほしい一冊

今回紹介する冊子は、HIVに感染している人たちの生活をサポートするためのガイドブックである。アンケートや調査分析によって、セックスライフ、マネーライフ、メンタルヘルス、医療機関との関係…と当事者が抱える様々な問題が見えてくる内容となっている。 続きを読む…

木原音瀬『FRAGILE 』


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● 木原音瀬『FRAGILE (B‐PRINCE文庫)

★★★★★ もっと文学的な評価があってもいいのでは

昨今よく耳にする「腐女子」とは、男性同士の性愛を表現した小説や漫画、いわゆるボーイズラブを愛好する女性を差す俗称である。そうした嗜好を満たす書籍のマーケットは出版業界のなかでも一角を占めているのをご存知だろうか? これは諸外国では考えられない現象である。ふつうの女性たちが、なぜこれほど男性同性愛を描いた表現物を欲しているのか?と。 続きを読む…

坂東 眞理子『女性の品格』

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● 坂東 眞理子『女性の品格 (PHP新書)

★★ 読んで面白くはないわな

いまどき「女性の品格」という古風なタイトルに、道徳のような人生訓。にもかかわらず、本書は280万部を越える大ベストセラーとなっている。内容そのものより、その現象こそが興味をそそる一冊と言える。

私の周囲でこの本を読んで人たちの評価は、おおむね否定的なものだ。まず書かれていることが「当たり前」すぎるというもの。そして、ジェンダーフリーの時代にあえて女性に特別な規範を割当てようとしている点。とくに後者は、著者のスタンスを保守的と感じ、拒否感を抱かれている。 続きを読む…

加藤秀一『“個”からはじめる生命論』


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● 加藤秀一『“個”からはじめる生命論 (NHKブックス)

★★★★ 大筋共感なのだが、どこかに違和感が

「生命」という抽象的な概念で人間を一律にとらえる価値観は、果たして何をもたらしたのか。それは生の肯定というよりはむしろ、我々を生きられるべき生命とそうでない生命に分別し、その序列化を押し進めているのではないか、と著者は問う。 続きを読む…

2008-11-30

木村朗子『恋する物語のホモセクシュアリティ』


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● 木村朗子『恋する物語のホモセクシュアリティ―宮廷社会と権力』 

★★★ 密教的な文体に幻惑されるが、ロジックはよくある近代主義批判。っちゅーか、著者が自分の文体に恋する物語のセクシュアリティ(笑)

私たちは現在の自分たちに当てはめて過去の人間をとらえがちだ。
 
性に関しても同様で、例えば男同士の性愛関係であれば、その二人は「同性愛者」であったと考える。けれど、私たちが性の欲望を異性愛/同性愛という概念で認識するようになったのは、近代になって西洋文明が流入してからのことで、それまでは自分たちのアイデンティティを性の傾向によって分類する思考自体がなかった。 続きを読む…

礫川 全次 編『ゲイの民俗学』


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● 礫川 全次 編『ゲイの民俗学 (歴史民俗学資料叢書 第3期)

★★ 資料価値としての推薦

『ゲイの民俗学』はおもに戦後、昭和20年代の同性愛関連の論考を収録した資料集である。「民俗学」と題されてはいるが、これらはほとんど当時の風俗誌(エロ本)の片隅に掲載された記事であり、いまの感覚でいうところの「学」とはほど遠い気分で執筆されたものに違いない。彼らにしたら、現在のごとく東大で「クィア学会」の設立大会が催されたり、各大学でセクシュアリティ研究がさかんに行われたりといった言説状況は、まるでSFの世界だろう。

しかし、この時代の「同性愛」への眼差しはとにかく熱い。行間から伝わってくる書き手の情熱は尋常ならざるものだ。 続きを読む…

2008-11-29

渡部 伸『中年童貞』


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● 渡部 伸『中年童貞 ―少子化時代の恋愛格差―

★★ テーマはいいんだけど、本としては安易な作りかな

ジェンダー、つまり社会的に作られた性別規範というのは、近年評判が悪い。いや、正確に言えば、性別役割への批判そのものからジェンダーという概念は生み出されたのだ。ジェンダーからの解放はここ数十年の男と女の大きなテーマであった。男らしさや女らしさなどというものから解かれて、自分らしく生きよう! というやつである。 続きを読む…

門倉貴史『世界の下半身経済が儲かる理由』


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● 門倉貴史『世界の下半身経済が儲かる理由―セックス産業から見える世界経済のカラクリ

★★★★★ 着眼点がすばらしい!

ページを繰るごとに、数字というリアルに衝撃を感じないではいられないレポートである。『世界の下半身経済が儲かる理由』『「夜のオンナ」はいくら稼ぐか?』は、風俗産業などの実態をとらえる統計データがほとんど整備されていない状況のなか、エコノミストの著者がフィールドワークでまとめ上げた「下半身の経済白書」だ。

なぜ性産業の実態経済がこれまで示されてこなかったのかは、本書が指摘するように、売買春などの収益のかなりのパーセンテージが違法行為に属するもので、したがって税務申告されない「地下経済」に属するからである。また、それ以前に、性を公的に語ることがはばかれてきたゆえに、まっとうな研究者が対象にするような課題とされなかったためでもあるだろう。 続きを読む…

ヘイマー&コープランド『遺伝子があなたをそうさせる』


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● ヘイマー&コープランド『遺伝子があなたをそうさせる―喫煙からダイエットまで』(草思社)

★★ ある種の教養書

本書は先端の遺伝子研究の成果を、一般の読者にわかりやすく伝えようとする啓蒙の書である。各章の冒頭には、小説仕立てのパートが置かれ、読み手は、日常の外側にある遺伝子という問題を、その物語を通じて身近に感じ、自分に置き換えて考えることができるようになっている。

著者によると、私たちの行動や思考は自らの意志によってコントロールされていると考えがちだが、実は、そこに遺伝子によって作られた気質というものが大きく関っているらしい。 続きを読む…

2008-11-28

歌野晶午『女王様と私』


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● 歌野晶午『女王様と私』 (角川書店)

★★★ オタク文学の成果

『葉桜の季節に君を想うということ』でミステリーの枠を超えて広く支持を集めた歌野晶午の新作である。今回も極上のエンターテイメントを提供しながらも、現代社会のよどみに深くメスを入れている。

とにかく登場人物たちのキャラクターが面白い。主人公はひきこもりの中年男性。四十四歳にしていまだ童貞で、人形を妹にして会話をするいわゆるオタクだ。タイトルの「女王様」は十二歳の美少女で、中年男を奴隷のようにあつかい翻弄する知能犯。その他にも、娘のわがままを許してやまない身勝手な母親、小児性愛の学校教師……など現在を象徴するかのような人々が物語を織りなす。 続きを読む…

大塚ひかり『ブス論』


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● 大塚ひかり『ブス論 (ちくま文庫)

★★★★★ 学術的にもエンターテイメントとしても楽しめる労作

「美」を探求した本なら珍しくないだろうが、「醜」の歴史を掘り起こした本というのは聞いたことがない。大塚ひかり著『太古、ブスは女神だった』は、醜つまりブスが日本史の中でどのように扱われてきたのかを、古典文学を中心に丹念に洗い出した前代未聞の書である。

日本最古のブスは、最古の女神であるイザナミノ命だと言う。イザナキノ命とセックスして日本国土を生んだその女神は、もとは美しい女だったが、死ぬと黄泉の国へ行き、腐乱死体の姿に変わり果てた。彼女を追ってきた夫イザナキノ命は、それを見ると逃げ出してしまう。夫に捨てられたイザナミノ命は、人類の死をもって復讐する。「太古、美は権力であり、繁栄の源だった。しかし醜さもまた『命』」として尊ばれていた。 続きを読む…

2008-11-26

田口ランディ『被爆のマリア』


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● 田口ランディ『被爆のマリア』(文藝春秋)

★★★★ こんなに上手に小説を書いてみたい

「川の水はいつも流れているが、川は変わらない。変わっているのに変わらないもの。それが川だ」。ここに収録された4つの短編小説は、原爆と今、戦争と平和の間を流れている川の水音を聴き取ろうとした物語である。

著者の田口ランディは「イワガミ」で、広島を取材する作家、羽島よう子に自分を託したのだろうか。羽島は、平和記念式典が形骸化している様を目の当たりにしたことで、心のひっかかりを得、広島について書きたいという気持ちを強くする。「私の知らないリアルに触ってみたかった。私にとって戦争はいつも遠い国で起こっているバーチャルなもの。悲惨さと自分との距離感がわからない」。 続きを読む…

2008-11-25

帚木 蓬生『インターセックス』


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● 帚木 蓬生『インターセックス

★★★ 性的少数者にとってインターセックスはミステリーではないからなあ(笑)

本書はインターセックスや性同一性障害など医療の周縁に置かれてきた人々や、臓器移植などの先端医療を素材にしたミステリーである。前半は登場人物たちの性、とくにインターセックスとは何たるかに焦点を当て、後半から殺人事件の謎解きが展開される。 続きを読む…

上野千鶴子編『構築主義とは何か』


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● 上野千鶴子編『構築主義とは何か』(勁草書房)

★★★★ すべてのカテゴリーは構築されたもの、というところでこの議論は一周する。本当に難しいのはその先で、では何を持って価値があるとするのか、というスタートラインに戻る。

本格的な学術書であるにもかかわらず、『構築主義とは何か』は、SF小説を読んだときのような刺激的なビジョンを、脳に想起させてくれる。

現在、哲学や思想の先端では「世界が言葉で表現されているというよりも、言葉が世界を構成している」という了解があるとのこと。「私」というのは、自由な意志を持って世界と向かい合っているようなフリーハンドの存在ではなく、言葉を介してしか事物を認識したり、自ら存在したりすることができない「エイジェンシー」と呼ばれしもの。しかしどうしたわけか、その「エイジェンシー」は、言語の宇宙から言葉を選択する自由だけは与えられているらしい。 続きを読む…

2008-11-24

ホーキング青山・ビートたけし『日本の作法』


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● ホーキング青山・ビートたけし『無差別級トークバトル日本の差法―ビートたけし×ホーキング青山 (新風舎文庫)』(新風舎)

★★★★ ビートたけしにはいまだに共感し切れないところが

あえて波風を立てようと目論んだ一冊である。本書は「世界の北野」ことビートたけしと、自称「史上初の障害者お笑い芸人」ホーキング青山が、事なかれ主義の世間に向けて放った差別論対談だ。

ホーキング青山は先天性多発性関節拘縮症のために生まれつき両手両足が使えない重度の障害者で、デビューして以来、自らの障害をネタにしてはばからない芸風で勝負してきた。

「とにかく生まれたときに、医者から父親が『死産にしますか?』っていわれて、『うちは育てます』っていうことになった。そこから始まったわけですよ、ボクの人生は」 続きを読む…

いただいた雑誌「バディ」09.1


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● 「Badi (バディ) 2009年 01月号 [雑誌]

伏見ももう15年くらいお世話になっているゲイ雑誌「バディ」が、今月号からリニューアル。
なんと版型がB5版に大きくなって、グラビアも見応えがあるようになりました! 

ゲイ雑誌にとって版型の問題はずっとつきまとっていて、薔薇族サイズと異なるゲイ雑誌はこれまで(伏見のやったQJrも含めて)成功していない。が、雑誌という媒体自体がどん詰まりに来ている現在、「バディ」もこの際、積極的に打って出たのだろう。吉と出るか凶と出るかわからないが、その心意気に大きな拍手。今後益々、紙媒体は厳しい状況になっていくと思うが、守りにいるより、こうして新たな展開を求めていったほうがいい。「バディ」の編集者もどんどん代替わりしていて、伏見が最初に仕事をしたときのスタッフはほとんど残っていないはずだけど、あと10年くらいは続いていってくれたらなあと願う。

2008-11-23

小倉千加子『結婚の条件』


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● 小倉千加子『結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)

★★★★ こういうのはリアリティを持った分析ができる先生なんですけどねえ(笑)。

知り合いにこんな女性がいる。40代前半、独身。中流の下といった家庭環境で育ち、私立の四年制大学を出て、それなりの企業に就職して今日に至る。30代半ばを過ぎた頃、都内にワンルームマンションを購入するも、内心、まだ結婚はしたいと考えている。男性関係は、20代に何人かと付き合った程度で、それ以後、さして浮いた話もない。母親には何度も見合いを勧められたが、断固拒否。それが取りざたされる度に、実家に足が遠のいていく……。

彼女は例の「負け犬」ということになるのだが、そういう女性たちは、まさに昨今問題となっている少子化や晩婚化を押し進める「層」を成している。そんな女性たちの乙女心や、社会的背景を鮮やかに分析して見せるのが、小倉千加子『結婚の条件』と、上野千鶴子・信田さよ子『結婚帝国 女の岐れ道』である。 続きを読む…