2009-03-17

18日(水)も通常営業

mfmap.gifあまりそういう印象はないでしょうが、伏見は実は気が弱いオカマなのです。ステージに上がるとなぜかスーパーサイヤ人になってしまうのだけど(笑)、ふだんはいたって小心者。喫茶店で注文したのと違う飲み物が運ばれてきても、なにも言えずに受け入れてしまうような子なの、ホントよ。

なので、自分のバーでも、「すみません、財布を忘れてきてしまって…」というお客さんにも「じゃあ次でいいよ」と言ってしまったことが二度ほど(一度はアイランドの上でやっていたイベント時)。でもね、そのお客さん二人ともがその後、支払いに来ないのですよ。これって最初から狙っているのかしら…そうは思いたくないけど。ほんとに忘れたのならしかたないと思うけど、ふつうなら翌週にでも来るのにねえ。そんなに悪い人に見えなかったから入店させてしまったのだが、これからはこの手も気をつけなければならないのかなあ(一人はアンケートに答えてもらったので、連絡先を知っているといえば知ってるんだけど)。

しかしお店をやっているとマジ人間の勉強になりますね。明日もいったいどんな事件が起こるのやら。

ところで、店のBGMは最近ちょっと古めのヒット曲を中心にセレクトしているのだが、実は毎回微妙に違う選曲になっている。ipodに入れている曲を数十曲くらずつ替えているのだけど、今回はmaxを加えました。あの時代のポップスはそれほど得意じゃないのだけど、彼女たちのものはなぜかお気に入り。アムロちゃんよりも馴染むんだよね。

営業時間は19:00-04:00(夜中お客様がいなくなった時点で看板を消します)。

2009-03-16

いただいたご本『マジックランタンサーカス』


最近の夜中のエフメゾはどこぞの文壇バー?と錯覚するようなときがある。どうしたわけか店内が編集者や作家で埋まってしまい、名刺交換会がはじまったりするのだ。だけどあくまでも伏見の店はゲイバーなので、いちばん身分が高いのはゲイ様であることは変わらない(貧乏な若ゲイ、大歓迎!)。有名作家といえどもここではゲイ以下の身分という認識で、女性やノンケは「ブス」「便所女」「粗チン」などとの暴言に耐えられる方のみに入店を許可している(笑)。

この本の著者の一村征吾さんもあるお客さんに連れて来られた方で、先頃、ランダムハウス講談社 第二回新人賞を受賞された期待の新人作家だ。帯にはかの村上龍氏の推薦文が添えられている。「この作品によって、幻想小説が復活するかも知れない」。伏見はまだ途中までしか読んでいないのだが、かなり面白く、冒頭の文章からして印象的だ。「便器を流れる液体があまりにも青かったので、僕はバランスを失いかけた」。色彩が頭にフラッシュバックするようで、ぐいっと引き込まれた。日米でデビューする彼の今後に注目だ!(ちなみに、チーママのヤス子さんは彼のことをイケメンと言い、頬を赤らめておりました)

2009-03-14

いただいたご本『天然ブスと人工美人 どちらを選びますか?』


著者の山中登志子さんとは、「週刊金曜日」をめぐる論争となった「オカマ問題」のときに知り合った。そのときは誠実で優秀な編集者さんだなあという印象で、彼女が美醜の問題で苦悩を抱えていて、考察を深めている方だとは知らなかった。

というか、山中さんは本書で、オカマに間違われて傷ついたと書いていたが、伏見はこの新書を読むまで彼女がアクロメガリーという病気を患っていることも知らなかったし、実は勝手にMTFなんだと思い込んでいたのだ(失礼。と言うとそれも差別のような気がするので、謝罪はしないが)。

この本は読まれるべき内容に富んでいて、面白いと言えば面白い。しかし、山中さんはかつて林真理子氏のエッセイを読んで、女性エッセイストが書くものは毛糸のズロースを三枚も重ねてはいているみたいだという批判に喝采したというが、山中さん自身もまだ潔くパンツを脱いでいない気がする。その躊躇ゆえに、伏見の読後感はどうもすっきりせず、彼女も毛糸のズロースを一枚残していてそのなかはムレムレだ、という印象なのだ。その湿潤な毒にかなりやられる。そしてそれをいろんな方に読んでもらいたいとも思う。ムレムレのパンツに繁殖する細菌こそ、現代の女性たちの病みの大元になっているのだから。

2009-03-13

いただいたご本『だれでも一度は、処女だった』

あの、だれでも一度は処女だったとおっしゃいますが、伏見は処女だったことはありません!!←当たり前

よりみちパン!セ・シリーズは新書的な教養本のなかにときにイロモノ路線の本が差し挟まれるのだが、これはやっぱそっちの筋でしょうなあ。いや、けなしているわけではないのですが、この本の著者はある種の変態だと思うんですね。フェティッシュなこだわりって変態性の証拠。そして自分の母親にその処女喪失体験をインタビューする冒頭は、手に汗にぎる母娘の攻防戦。緊張感が読み手に伝わってきて、つかみはOKという感じ。

思春期の少女にとって何より関心があるのがロストヴァージンの問題なのだろう。考えてみたら、そのことだけをテーマにした本というのをこれまで見たことがない。ありそうでなさそうな処女喪失インタビュー集。なかなか商売も上手い。こうなるとやはり、童貞喪失本にも期待が高まりますね。映画監督の松江哲明氏が担当のようなので、近刊を楽しみにしたい。伏見としてはそっちのほうが読みたいわけです。だって膜には興味ないんだもの。←あくまでも趣味

2009-03-11

男ができるカレー

mama.jpg今月に入ってからエフメゾのメニューにカレーを入れました。その名も「男ができるカレー」。お世辞もあろうが、なかなか好評です!

ママの水曜日は午前中のカレー作りからはじまります。っつーか、八十四歳の老母まで動員して二人がかりで大量の材料の切り分けからはじめるのですが、鍋が焦げつきやすいので、交替でかきまぜるのです。その間、伏見ママは「男ができるように〜、男できろ〜、恋愛成就〜」と祈りながらお玉を回します。もう魔女の呪いじゃないが、念を込めて、お客様の恋愛が成就するようにカレーを作るわけです。なので、これを食べれば男ができること請け合い(レズビアンの場合には女ができます)。←ほんとか!?

そして只今も調理中です。お暇な方は今晩食べに来てくださいね。男ほしいんでしょ、男!!

営業時間は通常の19:00−04:00(深夜お客様いなくなった時点で、看板を消します)。

2009-01-27

ノンケおよび女子の入店について

mfmap.gifエフメゾはゲイバーを名乗っていますが、女子もノンケもOKのミックスバーでもあります。けれど、あくまでもゲイバーが基本で、ゲイのお客様を中心に営業を考えております。もちろん、料金もサービスも特別差を設けているわけではなく、コンセプトとしてのゲイを大切に接客していく方針、ということ。

それで、お店では冗談で「女子は差別します!」「ノンケ男子は一本のマラにすぎず」などと「差別的」な発言がママの口からしばしば飛び出したりします。そういうキャムプなコミュニケーションを「セクハラ」と感じたり、PCに反すると不快に思ったりするような方は、店の空気に馴染まないと思います。あくまでのゲイバーのノリを楽しめる方にのみ開かれた空間を心がけております。

ノンケおよび女子の皆様は、それをご了承の上ご来店ください。よろしくお願い申し上げます。

2009-01-18

エフメゾはできる店です(笑)

081.1_fuku.jpg友人たちにはよく知られたことだが、伏見ママの趣味は他人をカップリングすることで、店をはじめる前から友人知人のお見合いめいたことはまめにやってきた。これは、伏見ママが友情に厚いからとか慈愛に満ちているから、ではなく、カップリングすること自体が自分の快楽だったりするから。べつにそれでデキたカップルがまぐわうところを想像しながら「うっしっしっ……」とかしているわけではなく(←キモ)、誰かが自分をきっかけに幸せになってくれるだけでキモチイー!と感じられるのだ。

伏見はサッカーにはたいして興味はないんだけど、毎年お正月は高校サッカーを見て感動に浸る。そのときの感覚と、カップリングの快楽はちょっと似ている気がする。なにか他人様からその旬(もしかしたらそれは「青春性」というものかもしれないが)をいただいて、自分の心のコラーゲンにしているというイメージだ。べつに旬は若い人からでなくてもいただける。もちろん男女も関係ない。

そんなわけで、毎週水曜日は営業以上にカップリングをがんばっているわけだが、実は、開店して半年以上経ち、けっこうデキているのである! 知っているだけで複数組がエフメゾで恋人同士になっているし、きっと、ママの目を盗んで交尾をしている子たちもいるはず(笑)。で、先日、発覚したのだが、なんと、ノンケの男女までエフメゾで恋に落ち、いま付き合っているというのだ。(プライバシーに関わるので詳細は省きますが)知り合いに連れられてきた女子と、たまたまそのときに飛び込みで入ってきたノンケ男子(ママの本の読者)が、その後、そのようなことになっていると聞いて、ママは狂喜乱舞。

いやあ、ママ業って美味しい商売ですね。虚弱な伏見は水曜の翌日は毎週、寝込んでしまうのだが(昨日も風邪を引いたのか悪寒がして布団のなかでブルブル)、こんなふうに幸せになってくれる人たちがいると「やるぞー!!」という気になってくる。

でも、まあ、一応商売でもあるので、その念願が叶った女子に、
「じゃあ、お祝いに1杯いただくわね?」とママ接待。
その手の営業はしない方針なのですが、1杯で男がデキれば安いもんでしょ! ちなみにその男子はけっこう美形でした。

2009-01-15

いただいた写真集『MONSTER』

MONSTER。この写真集のタイトルにこれほど適切な文言はないだろう。それはエイズという厄介なMONSTERを題材にしているからばかりではない。なんと言っても被写体がHIV 、ゲイの活動家であり、編集者であり、文筆家であり、女装のパフォーマーでもあるピンクベアこと、長谷川博史氏なのだから。

戦後の日本のゲイシーンでは三島由起夫はじめ化け物的なエネルギーを放った人物が何人かいるが、長谷川氏がそのひとりであることは間違いない。一般に知られている名前ではないが、この人と一度関わったらその印象は生涯消えない焼きごてのように押されてしまう。そこらにころがっている革命家きどりの活動家ではない。自らの不遇を訴えるだけのマイノリティでもない。ましてや医療や行政の言いなりになっている病人でもない。被差別感も情欲も野望も孤独も愛憎も政治も友情も……俗世にあるすべての感情をうちに沸騰させる、巨大なエネルギーそのものなのだ。

写真家はこの一筋縄ではいかない被写体と闘うようにシャッターを切っている。かわいそうな感染者、いたいけな患者という物語に押し込められない獰猛な彼に、苛立ち、納得し、疑問を持ち、挑発され、距離を置き、説得され、恐れながら向かい合おうとしている。まるで格闘技のようにファインダーの向こうとこちらでその存在を賭けて。そして、そうした緊張のあいまに差し込まれる日だまりのような風景。それは戦場に咲く一輪の花のようなものかもしれない。その緊張と弛緩の不断の営みが人間の世界そのものに感じられる作品だ。

長谷川博史というMONSTERのことをこの日本という国に知らしめたい。LGBTの若いアクティヴィストはこの化け物と、菊池修氏同様、四つに組んで格闘してほしい(スルーするのは簡単だが、せっかくここに踏み台にするには最高の先達がいるのだ。これを使わない手はない)。そしてぼく自身、いつかこのMONSTERのことを書いてみたい。けれど、それをするにはいまのぼくは疲れ過ぎている。下手に手を出したら彼が放出する激流に巻き込まれて粉々になってしまうだろう。

*この不景気な時代にこういう(売れないだろう)写真集を出版したリトルモアに敬意を表したい。出版社としての見識と、矜持に感嘆するばかりである。

2009-01-12

次に扉を開けてくれるのは誰?

mfmap.gifバー営業をやっていると、いろんなセクシュアリティ、世代、職業、主義主張の人たちが来てくれるので、自分の時代遅れな感覚や浅はかな物の見方にハッとさせられることが多い。はじめる前は(傲慢にも)お客さんはママ(←伏見)の話しを聞きに来る人が多いのかと思っていたら、そんな人はほとんどいず(笑)、それぞれが自分を語ってくれるので、店ではほぼ聞き役に徹している。

それに、水曜日などという「ついで」では人々が二丁目には来ない曜日に営業しているので、伏見に会いに来店する人ばかりかと思いきや、実際はそうでもない。意外と、というかけっこうママの「過去」を知らないお客さんも多いのだ。若い方には、「え? ママって本を出しているんですか?」などと言われること多々ある(笑)。ノンケのお客さんは物書きとしての伏見を知っていて来る人がほとんどだが(仕事方面の方が多いので)、ゲイのお客さんはかえってママの経歴とは無関係に訪れる。それだけとっても、ゲイのなかでいかに情報の流通が多様化しているのかがよくわかる。

先週は、伏見の大学時代を知っているという同窓生が来てくれた。同窓生といっても当時友だちだったわけではなく、先方は学内でオカマを公言していた伏見を見知っていたようだが、こちらはそんな近くにゲイがいたとは気づかかった。そんな同窓生と四半世紀のときを経て自分の店で会うというのも感慨深い。週に一度、定位置に身を置いて、自分を開いていることの面白さだろう。今年もどんな出会いがあるのかワクワクするばかり〜。

14日(水)の営業は19時からです。ヤス子チーママ、司お末とともにお待ちしております。カフェタイムは休業中です。先週に引き続き、今週は、25歳以下(18歳以上)の学生には二杯目をごちそうします!

2008-12-28

いただいたご本『アンの愛情』

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● 松本侑子訳・モンゴメリ作『アンの愛情 (集英社文庫 モ 8-3) (集英社文庫)

松本侑子さんに「赤毛のアン」シリーズの第三弾『アンの愛情』をお送りいただいた。彼女はもうすっかり「赤毛のアン」の権威で、小説家、翻訳家のほかに研究者という肩書きを名乗っても当然だと思う。ちゃんと仕事を積上げていっている松本さんの爪のあかでも飲みたい伏見である。

物語のこの辺りの展開は映画では知っているんだけど、小説で読むのは(たぶん)初めてなのでとても楽しみ。ふだん「出会って3回以内にやらないと勃たねえよ」みたいな世界に生きていると(笑)、逆に、幼なじみと結ばれるという恋愛に強く憧れますね。今年はまったテレビドラマ「砂時計」もそうだし。ギルバートいいですね。あぁ!

2008-12-27

いただいたご本・中野翠『ラクガキいっぷく』


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今年も押し詰まってまいりました。例年のごとく、お送りいただいた中野翠さんの一年のコラムをまとめた単行本を読みながら、08年を振り返っている伏見です。

それにしても時代の移り変わりが激しい。秋の金融危機以前と以降ではマスコミの論調は全然違うし、どんな殺人事件も次々と起こる不可思議な犯罪のなかですぐに記憶があいまいになってしまう。もはや秋葉原の事件すら、「あれ、今年のことだっけ?」という感じだ。そういう変化を中野さんが時代に刻み付けた言葉とともに辿るのは、自分の考えを整理するのにうってつけ。

中野さんの筆致は今年も鋭く、瑞々しい。無駄な「権威」を身につけないのは彼女の他の人にはない魅力だと思う。

2008-12-26

湊かなえ『告白』


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● 湊かなえ『告白』(双葉社)
★★★★ やめられないとまらないかっぱ海老せん♪のようなミステリー

友だちが「面白いから読んでみなよ」と勧めるので、珍しく新刊本を購入。とくにミステリーファンではないのですが、話題になっているだけあってエンターテイメントとして秀逸。時代的な闇を引き受けていて、自分のなかのどす黒い感情が揺すぶられる。年末年始、ブラックな気分になりたい人にはお勧め。

純文学的な読みからすると、人物造形がステレオタイプだとか、説明的だとかといった「ステレオタイプな批判」がされるのかもしれないが、もうそんなことどうでもいいのよ。心臓がドクンと動いてくれることが、(退屈な)文学的な価値なんかよりもずっと意味がある。著者は小説家としても大したものだが、社会学者とかにもなれる頭の良さを持っていると思った。

いただいたご本「論叢クィア」「精神看護」

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*「論叢」って「ろんそう」と読むのだそうです。「ろんぎょう」って読んでいて変換しても文字が出てこないわけだ(笑)。知らなかったー!

sei.jpg本書は昨年設立されたクィア学会の学会誌。伏見の参加しているシンポジウムも活字化されているのだが、伏見の発言はこれまで残した対談、鼎談の類ではもっとも内容のないもの。大きなテーマをそのまま振られても言葉が出てこないという伏見の実力ゆえの結果なので、自己責任と受け止め、学会誌に恥を残すことにした。その他にも、現在、話題沸騰中の論文・森山至貴「「懸命にゲイになるべき」か?」なども収録。

「精神看護」2009.1(医学書院)は伏見が『発達障害当事者研究』の著者、綾屋紗月さんと熊谷晋一郎さんと行った対談が掲載されている。こちらは近年脳の劣化がはげしい伏見にしてはノリノリでトークをしている。ときどき脳みそが甦るみたいですね(笑)。三人でコミュニケーションの困難さについて語り合っています。できることなら綾屋さんたちのご著書を読んだ上で読まれることを勧めます!

2008-12-21

上野千鶴子ほか『セクシュアリティの社会学』


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● 上野千鶴子ほか『岩波講座現代社会学 (10)』(岩波書店)

★★★ この本が出版された時代はまだ社会構築主義も洗練されていませんでしたね

上野千鶴子ほか『セクシュアリティの社会学』と、ジェフリー・ウィークス『セクシュアリティ』はともに、これまで精神医学や心理学などがもっぱら対象としてきた「性」「セクシュアリティ」の領域を、社会学や歴史学の視点から捉え直そうと試みる論考である。前書は上野千鶴子はじめ現代日本の気鋭の社会学者らの手による論文集で、後書はポスト・フーコーの旗手と欧米で評価の高いジェフリー・ウィークスの翻訳である。

これらは、「人の性とは何か?」という問いかけのもとに言葉を編み上げてきた精神医学や心理学といった近代の「知」に対して、「『人の性とは何か?』と『知』が問いかけるのはなぜか?」、「そのことによってどんな現象が近代に生じたのか?」という問題意識にそって、「性」に社会的、歴史的な分析を加えている。 続きを読む…

田中美津『いのちのイメージトレーニング』


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● 田中美津『いのちのイメージトレーニング (新潮文庫)

★★★★ この人の言葉には言霊があります

『いのちのイメージトレーニング』は、ちっぽけでいながら至上のものである「私」、という人生を、いかに喜びに満ちて生ききるかを思索した本である。

著者の田中美津は、70年代初頭のウーマンリブ運動の旗手として活躍。「それから大しておもしろくもない活動でさらにエネルギーが奪われて……もととも弱かった私のからだは一層ヨレヨレになってしまって……『もはやこれまで』と思うに至ってメキシコへ」。

4年の滞在を経て、帰国後、鍼灸師になる。そして、近年、イメージトレーニングと出会い、自らインストラクターも始めるようになった。 続きを読む…

2008-12-20

辻仁成『ワイルドフラワー』


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● 辻仁成『ワイルドフラワー (集英社文庫)

★★ 伏見には文学が本質的にわからないのです

ニューヨーク、破滅、ホモセクシュアル、インモラル、純愛…といった言葉がちりばめられた宣伝文句から、「過激なエロチシズムや風俗」を売りにした、ありがちな小説なのかという気がしていたが、『ワイルドフラワー』が問題にしているのは、今日の男としてのアイデンティティーとは何か? という極めて時代的なテーマであった。
 
肉体的にも想像力においても盛りを過ぎた中年作家と、自分がゲイではないかとおびえ、そのことに決着をつけようとニューヨークへやってきた青年。恋人の白人女にペットのように調教されてきた写真家の卵。その三人の男たちが、一人の女との関係を軸にして、自らに男としての存在証明を試みようと苦闘する物語が、同時進行していく。 続きを読む…

長山靖生『鴎外のオカルト、漱石の科学』


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● 長山靖生『鴎外のオカルト、漱石の科学』(新潮社)

★★ 現在も世の中の半分はオカルトですよね(笑)

『鴎外のオカルト、漱石の科学』、なんとも妖しい題名である。といっても内容はけっしてキワモノではなく、本格的な文藝評論、時代批評となっている。

著者のあとがきによれば、「二十世紀は科学の時代だったが、漱石や鴎外は、科学の成果や自然科学が提示した新しい思考法を、どのように理解し、また利用したのだろうか」という問題意識から、「時代を超えて読み継がれて、後世になっても同時代人のごとくに影響を与え続ける『不死の人』」としての彼らを輪郭づけている。 続きを読む…

2008-12-19

大塚隆史『二丁目からウロコ』


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● 大塚隆史『二丁目からウロコ―新宿ゲイストリート雑記帳』(翔泳社)

★★★★★ 頭でっかちではない、本当に練れた思想というのはこういうのを指すのだと思う

『二丁目からウロコ』の著者である大塚隆史氏は、日本という土壌の中で、一貫して「ゲイ」であろうとしてきた希有な人物である。この国でも90年代になって、ゲイ・ムーブメントは活発な様相を呈してきているが、たぶん、ゲイ・リベレーションという方向性を初めて公に示したのは大塚氏ではなかったかと思う。

70年代末、人気ラジオ番組「スネークマンショー」の中で、ゲイ・パーソナリティとして全国の同性愛者に向って「『ゲイ』として肯定的に生きよう」とメッセージし、「ゲイ・リブ」や「カミングアウト」の言葉を海外から輸入したのは氏の功績である。 続きを読む…

イブ・コゾフスキー・セジウィッグ『クローゼットの認識論』

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● イブ・コゾフスキー・セジウィッグ『クローゼットの認識論―セクシュアリティの20世紀』(青土社)

★★★ こういうマニアックな文体に官能する人にはいいんだろうけど、もっとわかりやすく書けよ!って感じ

アメリカに遅れること20年、日本でゲイ&レズビアンのムーブメントが活発化したのは、90年代に入ってからのことであった。そこで主張されたのは、同性愛というのは趣味・嗜好の問題ではなく、その人の存在にとって本質的な指向性なのだから、それを差別したり否定したりすることは人権の問題だ、というものだった。

日本でそうした「本質主義」の考え方を背景にした運動が展開され始めた頃、欧米では、同性愛者というアイデンティティそのものが近代において構築されたもので、それこそが権力作用の産物であると批判した、フーコー以降の「構築主義」の理論がゲイ・スタディーズやフェミニズムに積極的に導入されていた。 続きを読む…

2008-12-15

西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』


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● 西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

この本は圧倒的に5つ星です! ★★★★★

サイバラ先生の漫画の熱心な読者というわけでもなかったけれど、いろんな機会に断片的に作品を拝見し、面白い方だなあとは思ってきた。でも今回、よりみちパン!セシリーズで刊行された『この世でいちばん大事な「カネ」の話』を読んで、神様のように尊敬してしまった。身体はってるってスバラシイ!

かつてなら会話のタブーと言えば、性と金だったと思うが、いまや性はある意味で個性を語るのと同義となり、それこそ一般人でさえも「萌え」という言葉を使って自分の「性的偏向」を口にできるようになった。一方で、金に関しては、「これで儲けられる!」みたいなビジネス本はたくさん出版されているけれど、自分の生々しい体験として書かれることはあまりない。やはり、それは最後まで隠しておきたいことなのだ。

そうした事柄を本書は著者自身のディープなおいたちや体験を通じて真摯に言葉にしている。これ、けっこう勇気のいることだと思う。そして、パン!セの読者である思春期の子供たちに語りかける問題としても、いまの時代とりわけ重要なテーマだろう。金で人生ころぶのは簡単なことなのだから。

サイバラ先生の言葉には体験の裏付けがあり、血と汗の匂いがする。

「仕事っていうのは、そうやって壁にぶつかりながらも、出会った人たちの力を借りて、自分の居場所をつくっていくことでもあると思う」
「手で触れる「カネ」、匂いのする「カネ」の実感をちゃんと自分に叩き込んでおく。そういう金銭感覚が、いさというときの自分の判断の基準になってくれるからね」
「お金との接し方は、人との接し方に反映する。お金って、つまり「人間関係」のことでもあるんだよ」

金は人間関係、なんてなかなか言えないこと。しかしそれは現代社会の本質でもある。いやあ、学ぶこと大です! お金について40代になるまでほとんど真剣に考えてこなかった伏見には、本書はもう聖書のようにも思えてくるほどだ。ページを繰りながら、思わず、正座してしまった(笑)。

平成不況の今日、一家で読むべき必読書!