2008-12-19

大塚隆史『二丁目からウロコ』


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● 大塚隆史『二丁目からウロコ―新宿ゲイストリート雑記帳』(翔泳社)

★★★★★ 頭でっかちではない、本当に練れた思想というのはこういうのを指すのだと思う

『二丁目からウロコ』の著者である大塚隆史氏は、日本という土壌の中で、一貫して「ゲイ」であろうとしてきた希有な人物である。この国でも90年代になって、ゲイ・ムーブメントは活発な様相を呈してきているが、たぶん、ゲイ・リベレーションという方向性を初めて公に示したのは大塚氏ではなかったかと思う。

70年代末、人気ラジオ番組「スネークマンショー」の中で、ゲイ・パーソナリティとして全国の同性愛者に向って「『ゲイ』として肯定的に生きよう」とメッセージし、「ゲイ・リブ」や「カミングアウト」の言葉を海外から輸入したのは氏の功績である。

団塊の世代に属しながら、いち早く欧米のゲイ・ムーブメントの動きに注目し、積極的に自らを「ゲイ・ライフ」の被験者としてきた氏の存在は、性的指向をもって主体を構成するには難しい日本社会の中では、異彩を放っている。

そうした氏の長年の思想が結実したのがこの本である。新宿二丁目という街を通して、そこにやってくる「ゲイ」たちの人間模様、異性愛モデルとは異なる豊穣な恋愛観やセックス観を、簡潔にして明瞭な筆致で綴っている。この際立った魅力は、その表現方法ではないかと思う。事実を客観的に捉えながらも、その視線は高みから見下ろされたものではなく、また「私」という小状況に拘泥されたものではない。遠近自在なカメラのように軽やかに、氏の文体は人間を、事象を映し出している。

「二丁目はゲイの全身を映し出す鏡のようなものだ。そこには人間の持つ明るい面も、暗い面も、余すところなく映し出している。(略)結局、好きなところも、嫌いなところもすべて含めて、自分のありようを受け入れること。その上で、自分をどういう風に変えていきたいかを考えていくことが大切だ。鏡は、変わっていく自分さえ映し出してくれる。そして、自分もまた、二丁目では他の人にとっての鏡にもなりうるのだ」

これは大塚氏の思想そのものである。対立者をその相違点において切り捨てていくのではなく、相手の中に自分自身の姿を見出し、自分の中に相手の存在を探し出すことで、執拗に繋がっていこうとする。鏡自体が思想であり、可能性であり、すべてを包摂していく言葉こそが人を自由にするのだ、と。日本という「個」の輪郭が明瞭になりえない社会で「ゲイ・リブ」を展開してきた氏が得た答えが、それなのではないか。「個」と「個」を対立させていくことで、「私」であろうとする欧米のリベレーションとは明らかに異なる思想がそこに孕まれている。

そういう意味で、アメリカのゲイ・ムーブメント史にもなっているハーヴェイ・ミルクの伝記『ゲイの市長と呼ばれた男』と併読されることを勧める。それぞれの社会の中で試行錯誤してきいた「ゲイ」たちの姿が、より立体的な表情を伴って読み取れることだろう。

初出/現代性教育研究月報