2008-11-23
小倉千加子『結婚の条件』
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● 小倉千加子『結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)』
★★★★ こういうのはリアリティを持った分析ができる先生なんですけどねえ(笑)。
知り合いにこんな女性がいる。40代前半、独身。中流の下といった家庭環境で育ち、私立の四年制大学を出て、それなりの企業に就職して今日に至る。30代半ばを過ぎた頃、都内にワンルームマンションを購入するも、内心、まだ結婚はしたいと考えている。男性関係は、20代に何人かと付き合った程度で、それ以後、さして浮いた話もない。母親には何度も見合いを勧められたが、断固拒否。それが取りざたされる度に、実家に足が遠のいていく……。
彼女は例の「負け犬」ということになるのだが、そういう女性たちは、まさに昨今問題となっている少子化や晩婚化を押し進める「層」を成している。そんな女性たちの乙女心や、社会的背景を鮮やかに分析して見せるのが、小倉千加子『結婚の条件』と、上野千鶴子・信田さよ子『結婚帝国 女の岐れ道』である。
小倉は結婚をこう定義する。「結婚とは『カネ』と『カオ』の交換であり、女性は自分の『カオ』を棚に上げて『カネ』を求め、男性は自分の『カネ』を棚に上げて『カオ』を求めている」。身もふたもない話だが、結婚の内実は数十年さして変わっていなかったということである。しかし、当人たちが自らの分をわきまえなくなった結果、容姿や収入といった資源を持たない男女は、なかなか満足のいく出会いを得られず、婚期を先送りせざるをえない事態に至った。
先に紹介した知人の内面は、以下の上野千鶴子の分析で十分言い表せるだろう。「結婚はやっぱりプライドのゲームですから、ピア(同輩集団)の中で結婚年齢が遅れれば遅れるほど、夫に対する要求水準が高くなっていく」。見栄張りによって益々、結婚したいのに結婚できないという悪循環にはまっていくのだ。
彼女が見合いを忌避するのには、こんな心理も働く。「無私無欲でイノセントな部分を印象づけないと女性のジェンダーは評価されないから、打算はなんとしても隠しておかなければならない。(略)モノ欲しそうにしないで、すべては『偶然の出会い』によって起こったようにしなければならない」(小倉)。
小倉や、社会学者の山田昌弘も指摘するように、問題は、より条件のよい結婚が切望されるようになったから、結婚ができなくなっているということだ。それは、欲望の底が抜けた、ということでもあるだろう。物質的に豊かな社会を経験することによって、人々は、労働においても、結婚や育児においても、苦労をしたくなくなった。自分にはもっと贅沢する資格があるという錯覚したのだ。もちろん、そんな戯言は、ある時代条件が可能にしているだけではある。が、ここしばらくは、つまらない結婚ならしないほうがいいし、生き甲斐にならない仕事なら就職してまでやりたくない、という傾向は変わらないはずだ。
それがもたらす将来的な負債への処方せんは、この二つの著作にしても見当たらない。よく議論されるように、保育所の充実など女性が子供を生みやすい環境を整えても、婚外子に対する差別を撤廃しても、しないよりはましという程度で、ことの本質に迫っていないからである。
問題は、あくまでも、身の程知らずな欲望自体にあるのだ。
*初出/現代性教育研究月報(2004.8)