2008-11-29
門倉貴史『世界の下半身経済が儲かる理由』
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● 門倉貴史『世界の下半身経済が儲かる理由―セックス産業から見える世界経済のカラクリ』
★★★★★ 着眼点がすばらしい!
ページを繰るごとに、数字というリアルに衝撃を感じないではいられないレポートである。『世界の下半身経済が儲かる理由』『「夜のオンナ」はいくら稼ぐか?』は、風俗産業などの実態をとらえる統計データがほとんど整備されていない状況のなか、エコノミストの著者がフィールドワークでまとめ上げた「下半身の経済白書」だ。
なぜ性産業の実態経済がこれまで示されてこなかったのかは、本書が指摘するように、売買春などの収益のかなりのパーセンテージが違法行為に属するもので、したがって税務申告されない「地下経済」に属するからである。また、それ以前に、性を公的に語ることがはばかれてきたゆえに、まっとうな研究者が対象にするような課題とされなかったためでもあるだろう。
しかし本書が明らかにしたのは、倫理の問題はさておいて、性産業がエコノミーとしても無視できない規模の影響を持っていることだ。事実に勝ることはないので、著者の分析を一部ここに羅列してみよう。
● ソープランドの市場規模は年間で約9819億円。これは名目GDPに対する比率で、0.13~0.15%に当たる。
● ファッションヘルスとイメクラの市場規模は(合法店と違法店を合わせて)約6708億円。
● ピンサロの市場規模は約6457億円。これは地方交付金(6232億円)を上回る規模になる。
● 「援助交際」の市場規模は約420.9億円から547.2億円。……
ほとんど他に研究の蓄積のないところで著者が試算した数字ゆえ、その精度には議論の余地があるとは思うが、とにかく想像を絶する規模の市場がここに「在る」ということだ。
そして金銭を媒介にして性を求めているのは男性ばかりでなく、いまや女性もそうだという事実。ホストクラブの市場は、ソープランドには及ばないが、ファッションへルスを凌駕する8584億円に達するという!
非合法な売買春に関して、著者の言いたいことはおよそこうだ。倫理で性の売買を禁止してみたとことで、それは「欲望」が存在するかぎりなくならない。かつては人身売買として女性の売り買いが行われていたから、とりあえず非合法化することは妥当だったが、それはかえって産業を地下に潜らせることになった。結果、マフィアなどブラックな勢力をふとらせ、「労働」するものの環境や安全が脅かされているのが現状。とすれば、ドイツやオランダのように合法化して、国家の管理と監視のなかに条件付きで置いたほうがましだ。
もちろん著者は売買春を合法化した国の例を挙げ、そこにも問題が多いことに自覚的だ。より貧しい国からアンダーグラウンドのルートで「売春婦」が流入するなど、経済格差のなかで生じる犯罪だ。しかし、これだけ巨大なマーケットを地下に放置しておくことは、そこで働いている人たちを切り捨てることにもなる。
性の市場化に対しては、臓器移植などと同様さまざまな考え方がある。個々人が抱く倫理観には幅がある。が、いま、もう一度現実を見据えることから、議論をはじめるのが正しい態度といえるだろう。いくら理念で現実を打ち消してみても実態は何も変わらないからだ。そういう意味で、著者の整理したデータと分析は、議論の前提となる格好の資料を提示してくれるはずだ。