2008-11-25

帚木 蓬生『インターセックス』


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● 帚木 蓬生『インターセックス

★★★ 性的少数者にとってインターセックスはミステリーではないからなあ(笑)

本書はインターセックスや性同一性障害など医療の周縁に置かれてきた人々や、臓器移植などの先端医療を素材にしたミステリーである。前半は登場人物たちの性、とくにインターセックスとは何たるかに焦点を当て、後半から殺人事件の謎解きが展開される。

が、この作品の肝はむしろ前振りにあるだろう。事件の不可解さよりも、性の不可思議さのほうがよほどミステリアスだからである。

男女の区分は一般に考えられるほど明確ではない。生物学的にいっても典型的な男と女の間には、さまざまなタイプの性が存在する。ふつう男性の染色体は46XY、女性は46XXだが、XYの染色体を持っていても、外性器が女性化しているものもいれば、XXにもかかわらず、ペニスのような性器を有している場合もある。あるいは、少数ではあるが、男女両方の生殖器官を持ち合わせているケースも見られる。

インターセックスは近年まで日の目を見ることなく、当事者やその家族は、そのありようをまるで罪であるかのように語ることはできなかった。インターセックスの子供たちは、ありのままの状態を医療の名の下に「治療」され、医師や家族の望む性別に無理やり合わせるように施されてきた。

しかし現在では幼い時期に不可逆的な手術を課してしまうことへの批判があり、この小説でも主人公の女性医師は、当事者が選択できる時期までインターセックスの状態を保持するべきだと主張する。

こうした変化には、世界的な性的少数者の可視化の影響が大きい。実際に日本でも九十年代以降、インターセックスの当事者の著作なども刊行され、自助グループも生まれた。

この小説はそうした時代背景のなかで書かれたものであり、インターセックスを興味本位で扱うものにはなっていない。彼らの切実な人生を軸に、医療過誤の問題、医療倫理の議論などが、登場人物の口を通して提起され、読み手はこれらについて考えざるを得なくなる。

ここで描かれる多様な性を前にすると、我々は、二元的な性別とはいったい何なのか?という根本に立ち返らずにはいられないはずだ。

*初出/時事通信