2007-07-14

比留間久夫『YES・YES・YES』

yesyesyes.jpg● 比留間久夫『YES・YES・YES』(河出文庫)

 これはいわゆるゲイ小説でも、同性愛をテーマにした作品でもない。全編に男と男の性行為が描写されていた為、そう勘違いする向きもあったが、ここには同性間での性行為はあっても、同性愛は存在しない。

 主人公は「自己破壊」すべくゲイ専用のホストクラブで男相手に身を売る、十代の青年である。彼は同性に性的欲望を抱くゲイではなく、女性を性愛の対象とする異性愛者だ。けれどもプロの売春夫として老若さまざまな男たち(といってもゲイだが)ベッドを共にする。そしてそういった行為の中で、時には快楽さえ獲て、「希薄な日々」を繰り返していく。 続きを読む…

井田真木子『同性愛者たち』

douseiai.jpg● 井田真木子『同性愛者たち』

 僕はときどき自分がすっごく幸運なんじゃないかと思う。何をって? 1960年代にゲイとして生まれたことを。
 
考えてみれば、僕らの世代はみーんな団塊のオッサンやオバサンたちのお古をリメイクして使ってきたのだ。ロックだって、アニメだって、ファッションだって元をたどればたいがい60年代に遡る。80年代を席巻したエコロジーやフェミニズムでさえ、その担い手は全共闘の残党だ。キャツラときたらまるでイナゴの大群のように押し寄せては、そこいらじゅうを食い尽くしてしまうのである。結果、後続世代は二番煎じに甘んじるしかない。そう、僕らには自分たちに固有のテーマなんて残されていなかった。カウンター・カルチャーにも、共産主義にも、フェミニズムにも、エコロジーにも、ぜ−んぶ乗り遅れて来たのだ。 続きを読む…

2007-07-13

QJw「会社で生き残る!」10

vol.2.jpg大手出版●31歳
風俗接待はエンターテイメントの一種

[名前]近藤崇
[居住地]東京
[業種]大手出版
[職種]編集者

・はじけた大学時代

新卒で入りましたから、入社して9年目になります。早稲田大学の文学部にいたこともあって、卒業したら出版社で編集の仕事をしたいと思っていたので、希望通りです。文芸雑誌を出している出版社を主に受験していまの会社に合格しました。最初に配属された部署は漫画週刊誌でしたが、現在は小説の単行本をつくる編集部にいます。役職はついてませんし、私が一番若いので部下はいません。 続きを読む…

2007-07-10

QJw「会社で生き残る!」9

vol.2.jpg高校教員●43歳
「先生、さぶっぽいですね」

[名前]青山大輔
[居住地]東京
[業種]教育
[職種]公立学校教員

・東京の先生はスカしてる?

都立高校の教員です。一度新卒ですぐ教師になって、それを数年で辞めて、留学したり大学院に行ったり一般企業に勤めたりしてからまた復帰したので、教員生活は通算すると13年ほどですね。いままで正規に勤めてきた学校は高校ばかりです。自分のセクシュアリティを自覚する以前、子どものころからずっと学校の先生になりたいと思っていたから、この職に就くときにゲイであることによる葛藤はまったくなかったですね。 続きを読む…

2007-07-09

アカデミアへの問いかけ

http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20070702/1183388698
http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20070702/1183388699

FemTumYumというブログのtummygirlさんとずっとやり取りをしているのですが、そこで、以下のような問いかけをしたので、こちらでも。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

前言撤回。ピリオドは止めます。

このやり取りをご覧の方々に広くご意見を伺いたいです。とくにアカデミズムに関わるみなさんに。

まず、事実関係を確認すると。私はブログ FemTumYumにおいて、tummygirlと名乗る人物が「どこかの学会」で私の著作を俎上に乗せて発表したことを知りました(そしてそのエントリの内容を信じました)。tummygirlさんのご連絡先がわからず、コメントの書き込み方もよくわからなかったので、まず、自分のブログに呼びかけのエントリをアップしました。そのすぐあとに、hatenaのコメントの投稿の仕方がわかったので、FemTumYumにも同様のものを書き込みました。

呼びかけた内容は、英語に弱い私としては、tummygirlさんがアップされている英文の発表原稿をできたら訳していただいて、ポット出版の「欲望問題」のコーナーに投稿してもらえないか、あるいは、公開の場で討論をしませんか、というものです。(FemTumYumのエントリの内容が真実だとすれば)その英文の原稿は公的な場所で発表されたものですので、俎上に上げられた人間としてそれについて誰が行ったのかを知り、できれば内容を検討し、必要と思えば応答したかったからです。ただ、私は匿名の人物とネットで論争のようなことはしない主義です。少なくとも自分だけ名前を明らかにして相手は匿名という形ではしません。今回は、それが公の場で発表されたものであるということだったので、そのように思ったわけです。

しかしtummygirlさんはブログの自分と、学会発表をした実名をつなげることはしないというお考えで(学会で発表したものだということを記し、それを一部といえどもブログ上にアップしているにもかかわらず)、あくまで実名で応ずることはしたくない、という立場です。たぶん今後、書評をいただいたとしても、この論理でいくと、それも匿名で、ということになるのでしょう。

コメントにも書いたのですが、もちろんtummygirlさんが私の呼びかけに応じて公開討論に出たり、書評を書く義務はありません。そのことを断られるのは仕方ない。けれど、私としてはせめて、ネット上ではなく私個人に実名を教えてくれないか、とお願いしました。なぜなら、そうでなければ、私には公的な場で自分が俎上に上げられたことについて、どうにも知ることができないからです。そのテキストだけは中途半端にネット上に上げられているにもかかわらず。そして、もし反論が必要だと思っても、直接発表した本人すらわかりません。ブロガーのtummygirlさんと実名の研究者の方をあえてつなげて暴露するつもりはありませんが、ご自身が学会で発表したということを記しているわけですから、俎上に上げた人物から問い合わせを受けたら、個人的に発表者としての名前を明かすくらいは、義務ではなくても「仁義」だと私は考えます。それが言説に関わる人間の(倫理とはいわないが)「礼儀」ではないか、と。

しかし私が個人的なアドレスを(勇気を出して)コメント欄に記したにも関わらず、tummygirlさんは応じるつもりがないようです。はてさてどうしたものか。

みなさんにお考えをお訊きたいのですが、そもそも学会という公的な場で行われた議論に対して、俎上に乗せられた人間はアクセスできないのでしょうか。発表する側はそれが「業績」になるのに対して、俎上に乗せられた側は誰が行ったのか知る権利もないのか。学会という場に関わる人たちは、そうした問い合わせを受けたときに、それに関心を払わなくていいというのが、慣習なのか。その辺り教えていただけませんか。

このようなことはこれから多く起こりうると思いますので、ご意見をいただければ幸いです。

http://www.pot.co.jp/otoiawase/index.php

トーマス・ソングさんのブログ

QJ5.jpgQJ vol.5「夢見る老後!」、QJr vol.1「あなたに恋人ができない理由/関係が続かない原因」にもご協力いただいたトーマス・ソングさんがブログをはじめました。彼の人生は小説以上にドラマティックで、近代の矛盾をそのまま抱え込んだ個人史です。何年か前に来日されたおりには、伏見が少人数の会を催して、とても有意義にお話しをさせていただきました。一つ一つのエピソードが歴史の証言なのですよ! ご興味のある方は以下へ。

http://ameblo.jp/thomas-penfield

Thomas Song(トーマス・ソング)
1929年、韓国人を両親に東京で出生。大連で少年期(1934−46年)を過ごし、旧制高校一年のとき(1945年)日本敗戦。翌46年冬、ソ連占領下の大連から南朝鮮に脱出。48年、単身渡米。高校、大学を卒業(53年)、徴兵され軍務服役後、米国に帰化(56年)、研究院修了。大学の司書と教員生活20数年後、引退。パートナーとの共同生活37年。在米58年。フィラデルフィア在住。

2007-07-08

いただいたご本『変えてゆく勇気』

kamikawaaya.jpg上川あやさんからご著書をお送りいただきました。

少し前の出版ですので、さすがに伏見もすでに手にしておりましたが。岩波新書から、というのがインパクトありましたね。実は伏見も10年ほど前に岩波新書へ性的マイノリティの本を出そうと企画を持っていったのですが、そのときはまったく相手にされず(すでに講談社現代新書は出していたのですが、出て来た編集者は「売れないとねえ…」みたいな高いところからの対応で、あんなに不愉快な経験というのも珍しかった!)、やはり権威の壁は高いなあ、とあきらめたことがありました。そして時代は過ぎ去り、性的少数者であることを明らかにして初めて公職についた上川さんが、そこからデビュー作を出されました。この10年の性的少数者の社会的認知の広がりを感じないではいられません。

上川さんとは一度パーティでご挨拶をしたくらいで、じっくりお話しをしたことはありません。でもいつも尊敬の念をいだいていて、彼女の挑戦が大きく状況を動かしたと評価している次第です。先般の選挙でも大量得票で当選し、地方議会から地道に政治的キャリアを積み上げていかれるのだろうと見守っています。上川さんにもいつの日か国政で活躍してもらいたいと願っているのは、伏見だけではないでしょう。

● 上川あや『変えてゆく勇気ーー「性同一性障害」の私から』(岩波新書) 740円+税

2007-07-07

注目!

これまでネットでやり取りなどしない主義だったのですが、いま、FemTumYumというブログのtummygirlさんとこのようなコミュニケーションを交わしています。←掲示板童貞、喪失?

http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20070702/1183388698
http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20070702/1183388699

ぼくとしてはtummygirlさんと公開の場での議論を望んでいます。まさか「海外の学会」では伏見憲明について批判?して、国内でぼく自身と直接対話をするのを避ける理由なんてないでしょ?(笑) 「話せばわかる」とは思わないけれど、異なる考え方、異なる言語圏にいるのもの同士が言葉を交わすことは意義深いと思います。昨今そういう対話がちゃんとなされないことの問題を感じます。それこそが学問の制度化じゃないの?

それにクィア&ジェンダー・スタディーズって、現場と不可分の「運動」なわけだから!

毎日このブログに立ち寄られる一般のLGBTのみなさん、ぼくのラブコールがアカデミズムの方に届くのか、ご注目ください!

2007-07-06

QJw「会社で生き残る!」8

vol.2.jpgソフトウェア開発●30歳
オネエは警官にはーー向かなかった

[名前]成田登志生
[居住地]東京
[業種]ソフトウェア開発
[職種]QA(品質管理)

・入社前からオカマばれ

勤めている会社は外資系のIT関連の企業です。アメリカや上海で開発されたソフトウェアの不具合検証を行ったのちに日本の各メーカーにお渡しする、という品質管理の仕事をしています。従業員は全世界で500〜600人くらい、日本で20人、小さい会社ですね。日本の会社は出来て10年くらい。入社して4年目です。QA(品質管理)マネージャーという肩書きはありますが、役職にはついていません。平社員ですね。 続きを読む…

2007-07-05

面白いエントリみーつけ!

FemTumYumというブログに興味深いエントリがありました。

http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20070702/1183388698
http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20070702/1183388699

ブログのコメント欄に以下の文章を書き込もうとしたら、使っているソフトのせいか上手く投稿することができず、書き込めなかったので、自分のところにアップします。誰かFemTumYumのtummygirlという方を知っていたら、ご連絡してくれませんかねえ。こういった分野の大学の先生なので、非常にかぎられているはずですが(笑)。どうぞよろしくお願い申し上げます。それからご本人が見てくださったら、すみません、こんなぶしつけなやり方で。hatenaってよく使い方がわからないのです。

FemTumYumのtummygirl 様

はじめまして。伏見憲明です。
発表された内容、大変興味深いです。
が、情けないのですがなにせ英語に弱いので、訳していただき、
「欲望問題」のサイトにご寄稿いただけたらとてもありがたいです。
身勝手ながら、貴方の分析、批判などなどぜひ読んでみたいです!
こういうのは海外の学会で発表されるのも意義ありますが、
日本国内でやり取りしたらより実りがあるのではないでしょうか。
(「欲望問題」では公にはほとんど議論が起こらない状態なので、
すごくありがたいです。あなたの議論が知りたいです)
あるいは、ぼくは今、大学の中で理論家として「実践」をしている方々が、
どんな指針をムーブメントに与えてくれるのかに興味を持っています。
ご都合のよろしいときに、どこか公開の場で、
さまざまご教授いただくわけにはいきませんか?
理論というのは一般の人々の思考に届き、
現場の方向付けになるものでなければ使えません。
ぼくらのムーブメントの指針をもらえればと思います。
ご多忙でしょうから、日程は貴方に合わせます。
いつでも座敷は用意します。
お名前を存じ上げず、メルアドも探せなかったので、
お手数ですが、ぼくのサイトからメールをお返事いただけないでしょうか。
ぜひとも! 胸をかしていただければと思います。

http://www.pot.co.jp/otoiawase/index.php

2007-07-03

QJw「会社で生き残る!」7

vol.2.jpg環境分野の企業●43歳
自分を虐めてやろうと営業職に

[名前]しげ
[居住地]東京
[業種]環境分野の企業
[職種]水質分析・主任

・昭和の田舎ゲイ

ぼくはある意味、典型的な「昭和の田舎のゲイ」だったと思います。生まれたのは昭和37年で、比較的保守的な土地柄の山口県宇部市で育ちました。父親は11人兄弟の長男だから、とにかく親戚縁者の多さは普通じゃありませんでしたね。その親父の長男だから、家を継ぐという意識は自然に植え付けられました。当時はセクシュアルマイノリティに肯定的な「ゲイカルチャー」なんてものはかけらもなかったから、思春期に入って自分の性癖に気づいてからの葛藤は、半端じゃなかった。小学6年のころにはもう薄っすらとその自覚があったし、中学の時分には「このままずっとここにいたら、いつか殺されるんじゃないだろうか」と本気で危惧していました。 続きを読む…

2007-07-01

QJw「会社で生き残る!」その6

vol.2.jpg大手不動産●36歳
ホモ嫌いの上司が実はホモだった!

[名前]吉田武志
[居住地]大阪
[業種]大手不動産
[職種]営業

・営業が自分に向いている

勤めているのは、一応名前の知られている大手不動産会社です。自分は営業でチーフをしています。営業という仕事は、すでに顧客になってもらっているところをまわるものと新規開拓の2種類あります。今回は仕事で東京に来ています。

勤続して13年……その前は事務系の仕事をしていました。その会社には新卒で入って約2年いました。転職した理由は仕事が面白くなかったから。かといって自分のしたいこともわかっていなかったので、再就職の活動は大変でした。次に不動産業を選んだのは、営業が自分に向いているのではと思ったからです。実際、いまは営業の仕事を面白いと思っています。ひとと話をする仕事じゃないですか。その中でいろんな考え方を聞けるし、どの業種の景気がいいとか世の中の流れもわかる。対人関係の面白さもあるし、それに居心地は悪くありません。 続きを読む…

2007-06-29

QJw「会社で生き残る!」その6

vol.2.jpg美術工芸品制作●35歳
心霊現象で退職

[名前]瀬尾公太
[居住地]関東
[業種]サービス業
[職種]美術工芸品制作

美術工芸品の制作と販売をしている会社で働いています。従業員は正社員が10人くらいで、あと、扱いはアルバイトやパートになりますが、職人さんが数名います。ぼくは社員として営業で入りましたが、いまは制作を中心に働いています。みんな横並びなので、役職はないですね。社長がいて、各部署で独立しています。母方の祖父が始めた会社で、現在は兄が社長をしています。働いて8年になります。

20代は、大学を卒業してから1年半くらい老人保健施設で相談員の仕事をしていました。できたばかりの民間施設で理事長が同じ大学を卒業したひとで、誘われて就職しました。働きやすい環境でしたが、古戦場跡に建っていた施設だったせいでしょうか、オープンして3ヵ月で施設長が倒れたり、職員が交通事故にあったり、職員の家族が亡くなったりしまして、ぼくも車での通勤途中に追突事故にあってしまって、怖くなって(笑)、辞めてしまいました。 続きを読む…

2007-06-26

QJw「会社で生き残る!」その5

vol.2.jpgメガバンク●42歳
オカマはノンケの2倍働く必要がある

[名前]西本潔
[居住地]東京
[業種]メガバンク
[職種]事務管理

・デビューしてすぐサセコになる

勤務しているのは、某メガバンクです。入行してちょうど20年弱といったところですね。支店での融資などの経験を経て、本部の商品開発等に関わり、現在は事務管理部門に所属しています。エリートかどうかですか? うーん、中の上という感じですか(笑)。同期入社の連中と比較して、昇進が遅れたときなどは、心が乱れ、ひどく悔しい思いをした時期もありましたが、現在は、気持ちに折り合いをつけるすべを身につけ、適当にやり過ごしています。出世するためにこれから費やすエネルギーと、その見返りとしてのサラリーアップを比較した場合、「もうしんどいことは嫌。いまのままで十分満足」というのが本音かな。 続きを読む…

2007-06-24

QJw「会社で生き残る!」その4

vol.2.jpgトレーダー●32歳
運用資金は400万円→6千万円

[名前]藤井貫太郎
[居住地]東京
[業種]金融関係
[職種]トレーダー

・「結婚したら一人前だ」

投資家といわれると歯痒いですが、ぼくがやっている株の売買は、「システムトレード」と呼ばれているもので、決められたタイミングで、機械的に売買を繰り返していくという投資法です。大きなドローダウン(含み損)をかかえることもしょっちゅうあるため、それに耐えられる精神力と、ある程度の資金力がないと真似のできない投資法かもしれません。 続きを読む…

2007-06-22

QJw「会社で生き残る!」その3

vol.2.jpgシステムエンジニア●41歳
お姫様抱っこのためにマンションを購入

[名前]永山雄樹
[居住地]東京
[業種]コンピューター関係
[職種]システムエンジニア

・ニ丁目デビューとともに店子に

コンピューター会社でSEをしています。内容は、たとえばパソコンでもそうですが、本体があってプリンターやカメラがついていたりしますよね。そこでプリンターがおかしいと、プリントできません、というメッセージが画面に出ます。それが大きなシステムになると、もっと大きなコンピューターにそれぞれのパソコンやいろいろな機器がネットワークでつながっていて、何かがおかしいと情報が上がってくる。それをどこが悪いのかを切り分けて、直せるものは自分で直したり、専門家が必要なときは状況を伝えて必要なひとや部品を調達する仕事です。 続きを読む…

2007-06-21

QJw「会社で生き残る!」その2

vol.2.jpgサービス業●30歳
彼氏と暮らすために上京

[名前]大阪しんじ
[居住地]東京
[業種]サービス業
[職種]事務

・パートナーと出会って大阪から東京へ

情けない話ですが、転職歴は激しいです。地元の大阪で、高校を卒業してすぐに働きに出ました。当時はまだ幼くて何をしたいのかも考えずに就職したので、わりとすぐに辞めてしまって、それと前後して働きはじめたゲイバーで2年ほど店子をしていました。そのあと、24歳のときにフォークリフトの免許を取って横浜の建築現場に働きに行ったりしていましたが、そこも半年ほどで辞めて、また大阪に戻って来て建築資材の販売会社に就職しました。それあたりからですかね、先のことをゆっくり考えるようになったのは。それで、このままいくのかなあ、と思っていたらいまのパートナーと出会ってしまいました。彼は東京に住んでいて、遠距離のお付き合いをしているうちに、一緒に住んでもやっていけるかもしれないと思えるようになって、大阪を離れて東京に出てきました。いまの仕事はこっちに引っ越してからなので、はじめて1年弱くらいですね。事務の仕事をしています。 続きを読む…

2007-06-19

QJw「会社で生き残る!」その1

ikinokoru.jpg会社で生き残る!

取材●伏見憲明 構成●茶屋ひろし・川西由樹子

芥川賞を受賞した絲山秋子氏の『沖で待つ』に、
こんな言葉がある。
「事実は現場にしかないのですから」
──まさにその通りだ。
本当のことは一人ひとりの生活の中にしかない。
一方で、理論は理念の自己弁護に終始しているし、
アンケートや統計で出てくる数字にも
時代のリアリティを感じられなくなっている。
だったら、「現場」に話を訊きにいこう。
一般社会で生きるゲイたちはいったいどんな思いを抱いて働いているのか、
どんなふうに社会生活を生き抜こうとしているのか。
そしてそこにあるリアリティとはどういうものなのか。
業種、職種、年齢などを異にする
13人のゲイたちに、インタビューを試みた。
みなさん、語りにくいことをいっしょうけんめい言葉にしてくれた。
そこに浮かび上がってきた、06年のゲイたちの時代がここにある。
続きを読む…

クィア・ジャパン・ウェブ(QJw)公開

vol.0.jpgこれからQJシリーズをネット上で展開します。

バックナンバーの記事の再録ほか、今後、新たな記事を制作して、QJwのカテゴリーにアップロードしていく予定です。

第1弾として「クィア・ジャパン・リターンズ」vol.2の特集「会社で生き残る!」のルポルタージュ記事を公開することにします。昨年、伏見が13人のゲイ社会人に取材して、職場、社会生活におけるゲイをめぐるリアリティを浮き彫りにしようとしたものです。「ゲイたちの現在」をいっしょに考えていければ、と思います。

2007-06-01

私信・上野千鶴子さまへ

yoku.jpgご無沙汰しております。
朝日新聞で鶴見俊輔さんと対談をなさっている様子を拝見したばかりです。相変わらずご活躍のようですね。

先日、ポット出版から拙著をお送りさせていただきました。編集者がぶしつけな書評の依頼をしたようで、大変失礼いたしました。お忙しくてご執筆いただけないとのことで、残念でしたが仕方ありません。

ただ、私としましては、今回の本だけは上野さんにお目通しいただいて、ご批判をもらえればと切に願っております。上野さんがご多忙なのは重々承知しておりますが、『欲望問題』は、学恩がある(と勝手に私が思っているだけですが)上野さんへの手紙、あるいは、「自主上野ゼミ」をやってきた私なりの「博士論文」として書いたものです。長い間、私なりに上野さんから多くを学び、また自身の活動を通して切実に考えてきたことを自分の言葉で誠実にまとめてみました。そして、この本は上野千鶴子思想への根本的な疑問にもなっていると思います。もし上野さんに私の「問い」にお応えいただけるのなら、それ以上のことはありません。

もちろん上野さんがもっと重要なお仕事を抱えていらっしゃること、私ごときの願いに応える義理も関係もないことはよく心得ております(それはそうでしょう!)。が、私は今度の本では自分の抱いた問いを上野さんに真摯にぶつけてみたいのです。すごく、ずうずうしい、あつかましいことを書いているのはわかっています。けれど、このことは、たぶんもうこういった本を書くこともない私の、活動家としての、理論家?としての最後の願いです。自分がとりあえずたどり着いた場所が本当に間違っていないのか、どこに問題があるのか、何か勘違いがないのかを、上野さんの胸をお借りして確認したいのです。

すでに、ポット出版のサイト*では、多くの論者の方々からこの本についての書評をご寄稿いただいております。橋爪大三郎さん、中村うさぎさん、遥洋子さん、小浜逸郎さん、藤本由香里さん、竹田青嗣さん、吉澤夏子さん、赤川学さん、黒川創さん……など40名近い人たちからご意見、ご批判をいただいております(これから、田中美津さん、伊田広行さん、加藤秀一さん……などからもご寄稿いただけるようです)。それぞれ考えさせられる内容なのですが、それらを読むにつけ、益々、上野さんのお考えを聞かずにいられない気持ちになっております。
*http://www.pot.co.jp/pub_list/index.php/category/promotion/yokuboumondai/

思えば、私が文章を書く人生になるきっかけを作ってくださったのは、上野さんです。セクシュアリティを考える言葉を与えてくださったのも上野さんなら、「ニュー・フェミニズム・レビュー」という場を与えてくださったのも上野さんです。私自身は、勝手に「上野千鶴子の一番弟子」を自称してきましたが、それは冗談ではなく、いったい上野千鶴子の弟子で私以上の仕事をしているやつがいるのか? という自負を(ひどく生意気にも)秘めてまいりました。と、泣きを入れても、戦略的な上野さんが私の誘いに乗るようなことはないと思いますが、あるいは、市井のオカマなど相手にするのもバカバカしいでしょうが、これは正直な気持ちでもあります。

今回、私がこの本を執筆しようと思ったのは、ジェンダーフリーなどをめぐる上野さんのご発言を遠くから見ていて、何か、とても不誠実なものを感じたからでした。それは、これまで上野さんのことを尊敬し、青春時代からアイドルとして敬愛してきた私には、ひどく残念で、一冊の本を書かずにはいられないほどの焦燥を与えました。本当に上野さん、それでいいのか?と。私がこの本を書かざるを得なかったのは、自分の信じていたものを(たとえ意見の違いがあっても)信じていたい、という一心からです。

と、すっかりファンレターになっていました。とにかく、私の気持ちを伝えたく思いました。振り返ってみれば、これまで何度かお目にかかったことはありますが、そのときはインタビュアーとしての私でしかなく、伏見憲明として同じ高さの目線で上野さんと向い合ったことはありません。知り合ってもうずいぶん経ちますが、どうしたわけか公開の場で対話したこともただの一度もなかったですね(まあ、身分を考えれば当然ですが)。

べつにストーカーになるつもりはありませんが(笑)、今後、場合によっては「性別二元制」をめぐる公開シンポジウムなども呼びかけさせていただこうかとも考えております。高見にのぼられた上野さんが象牙の塔から降りてきてはくれないかもしれませんが、新宿二丁目のようなふつうの人が集まるところにお迎えして、ジェンダーやセクシュアリティ、「性別二元制」をめぐって本当に私たちがどこに向かっていけばいいのか、差別をなくすにはどうしたらいいのかを議論する機会などあったら意義深いと、ひそかに構想しております。

長くなりました。ご多忙のところお付き合いいただきまして、ありがとうございした。たくさんの重要なお仕事を抱えて大変だとは思いますが、体調に留意されて、益々ご活躍してください。また遠からずご連絡さし上げます。いい年をした中年オカマが「お姉様、もっとかまってぇ」とだだをこねているような気持ち悪い文面になってしまいました。お許しください。でも拙著にお目通しいただければ幸いです。

2007.3.26
伏見憲明

*これは3月の末に上野千鶴子さんへ送ったお手紙です。「個人的なことは政治的なこと」ということで、私信を公開します。ちなみに他人の私信を公開する趣味はありませんが、上野さんからは音沙汰なしです。彼女のリクエストに応えて版元が2冊も献本したのですけどね……。献本には必ず「取り急ぎ御礼まで」と律儀にはがきを返される上野さんにして、いったいどうしたことか。まだ都知事選を闘っているんでしょうかねえ。