2007-07-06

QJw「会社で生き残る!」8

vol.2.jpgソフトウェア開発●30歳
オネエは警官にはーー向かなかった

[名前]成田登志生
[居住地]東京
[業種]ソフトウェア開発
[職種]QA(品質管理)

・入社前からオカマばれ

勤めている会社は外資系のIT関連の企業です。アメリカや上海で開発されたソフトウェアの不具合検証を行ったのちに日本の各メーカーにお渡しする、という品質管理の仕事をしています。従業員は全世界で500〜600人くらい、日本で20人、小さい会社ですね。日本の会社は出来て10年くらい。入社して4年目です。QA(品質管理)マネージャーという肩書きはありますが、役職にはついていません。平社員ですね。

この会社はある派遣先で知り合った女の子に紹介されました。それまで昼は派遣、夜は二丁目で店子のアルバイトをして食いつないでいたんです。昼間は普通に働いていたつもりだったんですが、その彼女に、「あんたオカマでしょ」と言われてそれで急に仲良くなりました。一緒にご飯を食べに行ったときに、脇を締めて食べる男はいない、って言われてばれたんです(笑)。その彼女が次の派遣先として選んだのがいまの会社で、誘われてそこには正社員として入りました。どうせ毎月給料をもらうならボーナスをもらえたほうがいいかな、と思って。

就職のとき、オネエなのにどうしよう、とは考えませんでしたね。自分の行動の一つひとつがオネエで普通の男と違うのはもうどうしようもないから。何を言われても気にしないし、それを嫌に思うひともいれば、好んでくれるひともいるだろうと、勝手に思っています。カミングアウトは自分ではしていませんが、その紹介してくれた彼女が私の面接の前に、社長はじめ全員に話していたんです(笑)。それを私はまったく知らなくて、歓迎会のときに初めて聞かされました。でもそのときの社長の挨拶が、「ウチの会社は同性愛に偏見を持たない会社なので安心して働いてください。乾杯!」だったんです。それで20人で乾杯。いい会社ですよね。外資系だからということもあるかもしれない。噂ですが、アメリカの本社では男性の半数がゲイだとも聞いています。

だから職場でセクシュアリティが問題になることはありません。女性差別の問題もないと思います。社長が40歳で社員は20〜30代、男女比は若干男性が多いくらいです。社員の入れ替えも激しくないし、技術畑なので派閥争いもありません。ですからゲイということで不愉快な思いをしたことはありませんね。私は鼻炎で鼻水がよく出るんですが、そうすると女子社員が、「用意しておきました」といってわざわざピンク色のティッシュ箱を差し出してくれたり(笑)、そんなふうに気を遣われています。男性社員も私に話しかけてくれるときはみんな笑顔だから、よく思ってくれているんじゃないかな? 会社の中では親しくやっています。社内恋愛もありますよ。だからといってそれをネタにして話すということはありませんね。

猥談もなくて潤滑油としての会話は、たとえば、「インテルチップの入ったマックではウインドウズが動かせるらしいね」みたいな(笑)。色っぽい話題はほとんどありません。アフターファイブにみんなで飲みに行くということもありません。アメリカの社風かもしれませんが、仕事とプライベートがきっちりと分かれています。ただ社長がイベント好きで、釣りクラブをつくっていたり、バーベキューの企画を立てて3ヵ月に一度みんなで遊びに行ったりすることはあります。

自分のオネエは小さいころからですね。女の子とばかり遊んでいました。周りからワンピースやスカートを借りて……たぶん女の子たちばかり可愛い服を着ているのがくやしかったんでしょうね。出身は青森、恐山のふもとです。ホモ、オカマと、からかわれてはいました。そう言われることは嫌でしたが悩んでも仕方がないと思っていました。でも嫌われてはいなかったんじゃないかな。そうやってからかわれていても、学校が終わると一緒に帰って駄菓子屋に寄ったりしていましたから。いじめではなかったと思います。たぶん(笑)。

中学校に入ってもポジションは変わりませんでした。気が付くと女の子たちの輪の中にいて……ただ男の子はだんだん男っぽくなっていって部活に励むようになるじゃないですか、それで離れていきました。林間学校で男の子同士のグループに分けられるときは、クラスの中でもゲームの話をしているオタクグループにいましたね。好きなひともいましたよ。体育教師が好きでした。そのひとは34、5歳くらいだったかな。オタクの友達の中でも女の子からは耽美系の雑誌を借りて読んでいたので自分が男を好きになることに違和感もなく、自然にその状態を受け入れていましたね。男が男を好きになることに悩んだりはしなかった。耽美の世界の美少年カップルと、自分とその体育教師は同じ部類だと考えていたのかもしれません。告白はしなかったけど。そうですね……セックスをしたいというより振り向いてもらいたい感じ。野球部の子にばかり笑顔を見せないでオタクの世界で細々と生きている私も見てよ、って(笑)。

自分のことをゲイだと自覚したのは、高校に入って初めて『さぶ』や『薔薇族』を読んだときですね。近所にエロ専門の本屋があって、そこでドキドキしながら買ったのを憶えています。それでゲイという世界があることを知って、たぶん私はそこに所属するんだろうな、と。高校でも、ホモ、オカマ、と言われていましたけど、あまり気にせずしれっとしていましたね。なんで気にしないんだろう? 小さいころから「ひとはひと」という考えがあったのかもしれない。親の教育ですかね。母は補導員をやっていまして、警察の世話にさえならなければあとは何をしてもいいというひとでしたし、父も私がナヨナヨしていることを咎めたりはしませんでした。だけど、家族にカミングアウトはしていません。うしろめたさというか、基本的に両親のことは大好きなので、可能であるなら孫の顔を見せてあげたいという気持ちはありますね。

・警察学校の寮に「りぼん」

高校を卒業したあとは東京に出て、新宿にある声優の専門学校に通い始めました。二丁目にも出るようになりエッチもしましたが、それよりもオネエを受け入れてくれる場所でみんなと飲んで騒ぐことが楽しかった。だけど、学校は出たものの声優の道は諦めて、1年くらいアルバイトで生活をしていたら、母に、そろそろ就職しなさい、と警察の募集要項を持ってこられて(笑)。試験を受けたら通ったんですね。あとで聞いた話だと面接官が母と同じ職場だったひとらしくてコネもあったみたいです。それで地元に帰って就職しました。

警察学校に入った最初の2ヵ月は体力的に大変でした。朝から5、6キロ走りそのまま柔剣道の稽古をしてそのあとは逮捕術をやって……、嫌でしたけど、やらなければいけないことだったらやるわよ、みたいな(笑)。教官にビールを注いだときに、「オカマっぽいな」と言われたりはしていました。全寮制で部屋もすべてチェックされるんですが、私の部屋には『りぼん』が置いてあったり薔薇の花が飾ってあったりしていたので、「お前の部屋は特別だな」とか言われていました。あとは方言の女言葉が出たりして。自分では超ノンケを装っているつもりでいましたがどうも駄目でしたね(笑)。けれどあえて自分から「オカマです」とは言いませんでした。バレたらバレたで私はかまわないけど、母も現役で働いていたし、親や親戚が嫌な思いをするのは嫌だな、と思っていましたから。警察にもゲイはいると思いますが、住みにくい世界だとは思います。「お前は東京で文化的なことを学んできたかもしれないがここでは全部殺せ、警察の世界の輪を乱すな」ということも言われていました。

警察を辞めた一番の理由は適性に欠くということでした(笑)。私は目の前で喧嘩が起きても怖くて止めることができなかったりね。いろいろな課があるので、たとえば生活安全課で子どもたちと向き合っていくことなら自分にも出来るかもしれないと思ったんですが、暴力団対策課も生活安全課の中にあったんですよ。アタシ絶対無理だ、と思って。鑑識課で自殺か他殺かわからない死体の写真を見るのも嫌だし、かといって交通課も刑事も口が悪い、どうしよう、行くところがない、って(笑)。警察学校10ヵ月、交番勤務2ヵ月のちょうど1年で辞めました。

・ノンケ社会に興味

そのあと親元に戻らず東京にまた出てきたのは、自分がオネエであることを表現しやすい場所は東京しかないだろうと思ったから。私はゲイやホモというよりオネエですね。自分の中では男性より女性が強い。恋人ができたことはありませんが、ノンケに失恋したことはあります。パートナーがいたらいたで楽しいとは思いますが、いないから寂しいとは思いませんね。すごく寂しくてひとに頼りたくなるときはありますが、そういうときは誰にも連絡しないようにしています。話を聞いてくれるひとはいるだろうけど、未来永劫そのひとが自分のそばにいるわけではないので、この寂しさは自分で処理しなければならない問題だと思ったりして。急に入院することになったときに身の回りの世話を頼める友達はいます。保険は会社で入っているだけ。ネット証券の株の売買はやっています。それなりに儲けたこともありますよ。将来や老後のことはあまり考えていません。たぶん私はずっとひとりで、周りには電話をしたりお茶をしたりする友達がいる、というくらい。恋愛に全てのエネルギーを注いでのめりこむことはありませんね、それは仕事にもありませんが。

最近、やりたいことがないので週末をどう過ごしていいのかわからないんですよ。二丁目のゲイシーンでは私ができることはすべてやってきたつもりでいるんですよね。性愛や限られたアイテムだけのゲイの付き合いには飽きてしまったところがあります。いまはノンケ社会に興味があるかな。二丁目にはない遊び、ゴルフや釣りに手を出してみようかなと思っています。何度か会社で釣りにも行きましたが、全然面白くないんですよ。でも周りでは社長たちが本当に面白がってやっている。その面白さがわかれば私もはまることが出来るかもしれない、とそこに望みを繋いでいる気はしますね。