2007-06-21
QJw「会社で生き残る!」その2
サービス業●30歳
彼氏と暮らすために上京
[名前]大阪しんじ
[居住地]東京
[業種]サービス業
[職種]事務
・パートナーと出会って大阪から東京へ
情けない話ですが、転職歴は激しいです。地元の大阪で、高校を卒業してすぐに働きに出ました。当時はまだ幼くて何をしたいのかも考えずに就職したので、わりとすぐに辞めてしまって、それと前後して働きはじめたゲイバーで2年ほど店子をしていました。そのあと、24歳のときにフォークリフトの免許を取って横浜の建築現場に働きに行ったりしていましたが、そこも半年ほどで辞めて、また大阪に戻って来て建築資材の販売会社に就職しました。それあたりからですかね、先のことをゆっくり考えるようになったのは。それで、このままいくのかなあ、と思っていたらいまのパートナーと出会ってしまいました。彼は東京に住んでいて、遠距離のお付き合いをしているうちに、一緒に住んでもやっていけるかもしれないと思えるようになって、大阪を離れて東京に出てきました。いまの仕事はこっちに引っ越してからなので、はじめて1年弱くらいですね。事務の仕事をしています。
自分のセクシュアリティを自覚したのは中学1年生のときです。小学生のころもリーダー格の男の子にくっついているような子でしたが、性欲が起きてくるとはっきりと男が好きだとわかるようになりました。小学生のころから、オカマっぽいよね、とは言われていました。それがひとを馬鹿にしている言葉だということはなんとなくわかっていたので、そう言われたら否定していましたね。好きなひとはいるけど言ってはいけないことなんだろうな、と思っていました。
・高校3年間を捨てる
高校生になったころに、ちょうどテレビで「同窓会」というドラマが放映されて雑誌や新聞でその手の記事が目に入るようになりました。2年生のときに古本屋で初めて『さぶ』を見つけて買いました。家に持ち帰るわけにはいかないので、そのときはショッピングモールのトイレで読んでそのまま捨てて帰りましたけど(笑)。そうして自分がゲイだとわかってからは、高校の3年間はもう捨ててしまおうと決めました。ゲイであることに悩みはしませんでしたが、バレたらまずいな、とは思っていたんですね。クラスメイトから話しかけられないような暗いキャラをつくって、休み時間もひとりで本を読んでいました。とりあえず卒業まではおとなしくやり過ごしてしまおう、働くようになったら好きに動いていい、と自分の中で決めたんです。
それで卒業して就職したあとに、ゲイ雑誌の文通欄で最初にコンタクトを取った1歳年下の男の子と出会いました。それが初体験でした。でもその子と付き合い始めて、一緒にゲイバーに行って他のゲイのひとと話をするようになったことで、かえって悩みはじめましたね。それまで想像だったことを現実のものとして経験すると、どうしていいのかわからなくなってしまったんです。もちろん解放された部分もありました。お店でテレビを見ていても「このひとかっこいい」と素直に言えるし、何でも話せる友達も出来たし、友達にゲイリブ団体にも連れて行ってもらって話を聞いたりしていました。そこから、親にもいずれカミングアウトしたいとか、考えを一気に持っていきましたね。けっきょくゲイバーに勤めていることが母にばれて、なし崩しのカミングアウトになりましたけど。母は泣きましたね。理解してくれたかどうかはわかりませんが最終的には、あなたの人生だから、と言ってもらえるようになりました。ただ父には、耐えられないだろうからけして言わないでくれ、と母に釘を刺されました。でも父も気付いているのか、いまでもあまり結婚の話には触れませんね。
東京に出てくる前に勤めていた建築会社の居心地は良くありませんでした。「なんで結婚せえへんの?」と頻繁に言われていましたから。息苦しかった。みんな20代で結婚しているような社風だったし、大阪は他人にかまいたがる風土だから。「ジブンそっちの趣味があるんちゃうん?」とも言われていましたが、笑ってごまかしていました。下ネタは多かったですね。若いアルバイトの子たちは女の子の前でも風俗の話を平気でしていました。そういうときは、「ぼくは偽フェミニストなんで」とか言ってそこからすぐ離れましたね。職場での男女格差はすごくありました。大卒でも女の子は10年働いて給料が1万も上がらない。そういう職場で一緒にいる友達は、なんていうか、反応の穏やかな男子を選んでいました。女の子にはひとりだけカミングアウトをしました。彼女とは仕事のあとに飲みに行って愚痴大会もしていたので、言っても大丈夫かもしれない、と思って。そしたらやっぱり大丈夫だった。「ああ、そうなんや」とあっさり納得されました(笑)。彼女とはいまも連絡を取り合っています。
女性経験はありませんが、一度だけぼくに好意を持ってくれた同期の女の子と実験してみたことはあります。裸になると逃げ場がなくなるので、服の上から彼女の胸を軽く触ってみました。それでぼくは何も感じなかったので、これは駄目だ、と。
いまの仕事に関しては、それまで肉体労働がほとんどで、30代から先を考えたらいつまで体が持つかわからないということと、年齢的に異業種転職がむずかしくなってきたので、キャリアを持つためにデスクワークをしていきたいという理由で探しました。でもゲイとして働きやすい職場を探そうとは考えていませんでした。ただ働きはじめたら、前の会社とは違ってみんな他人に関心を払うことがほとんどないので楽ですね。いまの現場は3人しかいないから、昼休みもばらばらに取るんですね。仕事以外の無駄話もしない。飲み会はありますが、強制ではないし給料の出ない仕事はしたくないので、ぼくは行きません。そんな感じなので、たぶんカミングアウトをしても意味がないですね。
じゃあこの仕事をずっと続けていくつもりか、というとそうではなくて……。実は同居している彼氏が家業を継ぐために今年の夏に実家に帰らなくてはいけなくて、それにぼくも同行することになっているので、そのときに退職するつもりでいます。向こうでは同居するわけではなくて、ぼくは近くにアパートを借りてまた仕事を探します。保険なんかも、いまは会社の社会保険だけですが、向こうに落ち着いて仕事が見つかったら整えていこうかな、と。彼の後継ぎの話は東京に出てくる前からわかっていましたが、向こうのご両親が急に倒れてしまって時期が早まってしまった。それでふたりで散々話し合いをした結果、そういうことになりました。
・セックスがなくなっても幸せ
ぼくは仕事でキャリアを築いて満足感を得るということに幸せを感じるタイプではないんですね。愛する相手がいて、そのひととの生活を軸に仕事があるということがベースになるので、彼がいなくなって仕事だけが残った東京にいても意味がないというか。それに、彼は仕事の一環で発展途上国の支援活動をしていまして、ぼくもいろいろ調べたり勉強したりしているうちにそっちの分野に興味が広がってきたんです。将来はふたりで海外支援のNGOの活動をしていけたらいいな、と話しているんです。彼は家業を継ぎたくなくて親にカミングアウトもしていますが、いまは認めてくれていなくて、その問題が片付くまではぼくもそばにいて勉強をしていようかな、と思っています。
初めてちゃんと付き合っていると実感を持てたのが、いまのひととの関係です。それまではご多分に漏れず1年続くか続かないかという恋愛ばかりを繰り返していました。たぶん自信がなかったんだと思います。普通は学生時代にいろんな恋愛経験をするじゃないですか。ぼくは高校の3年間を捨ててしまったので練習が出来ていなかったんですね。20歳前後で、いざ付き合いはじめてみたらどうしていいのかわからないことばかりでした。誰かに必要とされていたらとりあえず安心出来るから、相手の欲求に応えることに一生懸命になりすぎて限界まで我慢をしてしまう。それで最後に爆発して関係が終わる、ということばかりを繰り返してきたんです。そんなことをやっていても不毛だし、長く付き合っていけるひとと早く出会いたいと考えるようになったころにいまのひととネットで知り合いました。音楽の趣味が似ていたので、お互いのホームページが繋がって、そこから友達づきあいがはじまりました。もともとお互いにタイプだったんですが、そのときはまだそれぞれに彼氏がいたし、大阪と東京で距離もあったので、最初は友達でした。でもそのおかげで、ちゃんと話をすれば聞いてくれるひとだとわかっていたので、実際付き合い始めても限界が来る前に話が出来るようになりました。彼も、そろそろパートナーが欲しいけれど見つからない、と話していて、ぼくより5歳上の分その思いが深刻だったので、お互いにこれでやっと落ち着いた感じでしたね。
いまは幸せです。彼とは、セックスがなくなるという山も1回越えました(笑)。そのときは話をして乗り越えました。ぼくがあなたに感じなくなったから一緒にいたくないわけではなくて、一緒にいたいけど感じなくなったから、そのことをあなたがどう思うかと考えるととても心配するし悩む、というような話をしました。そうしたら向こうもそれをわかってくれて、一緒にいたいと言ってくれました。外に性欲のはけ口を求めるとか、そういった話はしたくないようだったので、その辺りはあまり追求しませんでした。ぼくは精神的に満たされているので外に気がいくことはありません。妄想はたくさんしますよ(笑)。街を歩いていてかっこいいひとがいたら頭の中でいろいろしますけど、いまの関係を壊してまでそれを現実にすることはないですね。彼とは、エッチはなくなりましたがスキンシップはたくさんします。だからもう、恋人という感覚ではなくて家族ですね。「これからだよねー」といろんなひとに言われています(笑)。