2007-06-01

私信・上野千鶴子さまへ

yoku.jpgご無沙汰しております。
朝日新聞で鶴見俊輔さんと対談をなさっている様子を拝見したばかりです。相変わらずご活躍のようですね。

先日、ポット出版から拙著をお送りさせていただきました。編集者がぶしつけな書評の依頼をしたようで、大変失礼いたしました。お忙しくてご執筆いただけないとのことで、残念でしたが仕方ありません。

ただ、私としましては、今回の本だけは上野さんにお目通しいただいて、ご批判をもらえればと切に願っております。上野さんがご多忙なのは重々承知しておりますが、『欲望問題』は、学恩がある(と勝手に私が思っているだけですが)上野さんへの手紙、あるいは、「自主上野ゼミ」をやってきた私なりの「博士論文」として書いたものです。長い間、私なりに上野さんから多くを学び、また自身の活動を通して切実に考えてきたことを自分の言葉で誠実にまとめてみました。そして、この本は上野千鶴子思想への根本的な疑問にもなっていると思います。もし上野さんに私の「問い」にお応えいただけるのなら、それ以上のことはありません。

もちろん上野さんがもっと重要なお仕事を抱えていらっしゃること、私ごときの願いに応える義理も関係もないことはよく心得ております(それはそうでしょう!)。が、私は今度の本では自分の抱いた問いを上野さんに真摯にぶつけてみたいのです。すごく、ずうずうしい、あつかましいことを書いているのはわかっています。けれど、このことは、たぶんもうこういった本を書くこともない私の、活動家としての、理論家?としての最後の願いです。自分がとりあえずたどり着いた場所が本当に間違っていないのか、どこに問題があるのか、何か勘違いがないのかを、上野さんの胸をお借りして確認したいのです。

すでに、ポット出版のサイト*では、多くの論者の方々からこの本についての書評をご寄稿いただいております。橋爪大三郎さん、中村うさぎさん、遥洋子さん、小浜逸郎さん、藤本由香里さん、竹田青嗣さん、吉澤夏子さん、赤川学さん、黒川創さん……など40名近い人たちからご意見、ご批判をいただいております(これから、田中美津さん、伊田広行さん、加藤秀一さん……などからもご寄稿いただけるようです)。それぞれ考えさせられる内容なのですが、それらを読むにつけ、益々、上野さんのお考えを聞かずにいられない気持ちになっております。
*http://www.pot.co.jp/pub_list/index.php/category/promotion/yokuboumondai/

思えば、私が文章を書く人生になるきっかけを作ってくださったのは、上野さんです。セクシュアリティを考える言葉を与えてくださったのも上野さんなら、「ニュー・フェミニズム・レビュー」という場を与えてくださったのも上野さんです。私自身は、勝手に「上野千鶴子の一番弟子」を自称してきましたが、それは冗談ではなく、いったい上野千鶴子の弟子で私以上の仕事をしているやつがいるのか? という自負を(ひどく生意気にも)秘めてまいりました。と、泣きを入れても、戦略的な上野さんが私の誘いに乗るようなことはないと思いますが、あるいは、市井のオカマなど相手にするのもバカバカしいでしょうが、これは正直な気持ちでもあります。

今回、私がこの本を執筆しようと思ったのは、ジェンダーフリーなどをめぐる上野さんのご発言を遠くから見ていて、何か、とても不誠実なものを感じたからでした。それは、これまで上野さんのことを尊敬し、青春時代からアイドルとして敬愛してきた私には、ひどく残念で、一冊の本を書かずにはいられないほどの焦燥を与えました。本当に上野さん、それでいいのか?と。私がこの本を書かざるを得なかったのは、自分の信じていたものを(たとえ意見の違いがあっても)信じていたい、という一心からです。

と、すっかりファンレターになっていました。とにかく、私の気持ちを伝えたく思いました。振り返ってみれば、これまで何度かお目にかかったことはありますが、そのときはインタビュアーとしての私でしかなく、伏見憲明として同じ高さの目線で上野さんと向い合ったことはありません。知り合ってもうずいぶん経ちますが、どうしたわけか公開の場で対話したこともただの一度もなかったですね(まあ、身分を考えれば当然ですが)。

べつにストーカーになるつもりはありませんが(笑)、今後、場合によっては「性別二元制」をめぐる公開シンポジウムなども呼びかけさせていただこうかとも考えております。高見にのぼられた上野さんが象牙の塔から降りてきてはくれないかもしれませんが、新宿二丁目のようなふつうの人が集まるところにお迎えして、ジェンダーやセクシュアリティ、「性別二元制」をめぐって本当に私たちがどこに向かっていけばいいのか、差別をなくすにはどうしたらいいのかを議論する機会などあったら意義深いと、ひそかに構想しております。

長くなりました。ご多忙のところお付き合いいただきまして、ありがとうございした。たくさんの重要なお仕事を抱えて大変だとは思いますが、体調に留意されて、益々ご活躍してください。また遠からずご連絡さし上げます。いい年をした中年オカマが「お姉様、もっとかまってぇ」とだだをこねているような気持ち悪い文面になってしまいました。お許しください。でも拙著にお目通しいただければ幸いです。

2007.3.26
伏見憲明

*これは3月の末に上野千鶴子さんへ送ったお手紙です。「個人的なことは政治的なこと」ということで、私信を公開します。ちなみに他人の私信を公開する趣味はありませんが、上野さんからは音沙汰なしです。彼女のリクエストに応えて版元が2冊も献本したのですけどね……。献本には必ず「取り急ぎ御礼まで」と律儀にはがきを返される上野さんにして、いったいどうしたことか。まだ都知事選を闘っているんでしょうかねえ。