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真実・篠田博之の部屋[番外24] [2001年8月04日]
真実・篠田博之の部屋
[番外24]
 では、ここまで論じてきた話を踏まえて、次のテーマに移ります。編集者がどこまで原稿に口を挟めるかという問題です。
 この問題は、別の商品での考え方をまず出してみた方がわかりやすいでしょう。例えば、ある機械メーカーが、工場に部品を頼むとします。サイズも性能も数も、発注通りのものが出来上がったら、それをメーカーは約束通りに受けとり、代金を払うしかない。
 長さ5センチのボルトを1万本発注したのに9千本しかなかった、サイズが4センチしかなかった、要求した耐久性がなかったといった欠陥があれば受け取らずに突き返すなり、やり直しさせることにも正当性がありますが、発注した段階で条件に入っていない「色は黒にして欲しかった」「うちのロゴを入れて欲しかった」といった点を挙げて突き返すのは約束違反です。
 約束違反であっても、「わかりました」とボルト工場が納得すればいいんですけど、そうじゃなければ、注文したボルトの代金をともあれ払って商品を引き取って、そのボルトを我慢して使用するか、破棄して改めて発注し直すしかない。下請け工場のミスではなく、発注内容のミスなのですから、その責任は発注した側が負うしかありません。
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 では、原稿の場合。あくまで著者が著作権をもつ原稿を出版社に複製使用させるだけで、原稿用紙なりなんなりの物を引き渡すわけではないので、機械部品とは話が違いますけど、基本的には機械と同じに考えていいと私は思っています。
「このエピソードを入れて欲しい」と編集者が発注したのにそのエピソードが入っていない、千字と言ったのに五千字も書いてきた(すまん)、となれば、原稿を突き返すなり、ボツにされてもしょうがない。しかし、編集者が発注した原稿依頼の内容をクリアしていたら、編集部は黙って受け取るしかないということです。
 ところが、出版界ではしばしばこの原則は守られず、あとになってから、原稿依頼になかった条件を出してきて書き直しをさせる編集者がいます。これはルール違反であり、発注する側の能力に欠陥があるのです。
 私の経験では、「編集長が、個人名を挙げて批判をするのは好きではないと言っている」という理由で編集者が書き直しを命じてきたことがあります(「創」じゃないですよ)。編集長の趣味にこちらが合わせなければならないのなら、先に編集長の趣味一覧を出していただくしかない。さもなければ、編集長の趣味などわかるはずがないではないですか。あちらの勝手な事情で書き直しをさせるのなら、書き直し作業のギャラを別途支払うか、掲載はせずにギャラだけ払うか、どちらかにするしかない。
 機械メーカーが「うちの社長は銀色のボルトが好きではない」とあとから言ってきても、「知るか、バカ、だったら先に言え」という話です。この場合、メーカーは銀色のボルトを買い取って新たに発注をし直すか、色を塗り直す手間賃を払うべきであることは容易にわかります。一般的に日本で使用されているボルトの原材料よりもずっと質が悪くて安価な材料を使用していることがわかった場合は、条件提示がなかったとしても、メーカーはそのボルトを突き返せますが、通常使用している材料なのに、「今回はこれでは弱すぎるんだよ」と突き返すことはできない。
 これと同様、日本人ライターに特に注釈なく原稿を依頼したら、日本語で書いてくることが想定できますから、英語で原稿を書いてきたら、書き直させることもいいでしょう。この間、「いつもの松沢の原稿よりテンションが低い」と書き直しを命じられました。この場合は、「松沢の署名で原稿を頼む以上、いつもの松沢のテンションで」という条件が、特に明示されていなくても、両者の間で合意されたと見ることができます。イマイチ私は、どこをもってテンションを低いとするのか理解できなかったのですけど、一部、原稿を直しました。
 しかし、「個人名を挙げて批判する」というのは私だったらいかにもやりそうなことであり、それをやらせないためには事前にそう申し入れてもらうしかないのです。銀色のボルトがウリの工場に、何も言わずに発注したら、銀色のボルトを納品するに決まってます。
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 ボルトのように、その出来不出来、条件を満たしているか否かが客観的数値で出やすいものと原稿は違うという意見も当然あるでしょう。私もそう思います。であるが故に、原稿依頼においては、細かな条件の提示がなされるべきだと思うのです。評価が曖昧にならざるを得ない原稿という商品だから、曖昧さを減ずべく、細かな条件を出さなければならない。出さないのなら、あとでとやかく言うべきではない。
 提示された条件がイヤなら書き手は原稿依頼を受けなければいいという判断ができますが、いったん書いてから直しを命じられて、「そんな直しはできない」となったら、互いに困ります。
 上述の例において、最初に「実名を挙げての個人批判はしないで欲しい」という条件が出されていたのなら、私はたぶんその条件を飲んだ上で原稿依頼を引き受けたかもしれません。それがイヤなら引き受けないだけのことです。しかし、あとになって言ってくるのは、無駄な手間を書き手に強いることです。
 ここでの条件提示は、どんなに細かくてもかまいません。「枕にこういうエピソードを入れて、オチはこうして。文章は短く平易に」と具体的な文章の構成や文体までを提示してもいい。どんなに細かな条件のボルトをメーカーが依頼してもよく、ボルト工場がそれを断ってもいいのと一緒です。
 こういう条件提示はしばしば雑誌や本を見せることでなされます。「うちはこんな機械を作っている」と見せることによってどんなボルトが適正かを見極められるように、「うちは20代の男性向けの雑誌で、これこれこのような趣旨で、部数はこれくらいで」といった雑誌の概要を説明した文書とともに原稿依頼書が送られてくることがよくあります。「これを読んで原稿の条件はだいたい推測してくれよ」ということです。それが女性ファッション誌であれば、「チンコやマンコって書くなよ」という条件をこちらは受け取ることができます。これもありでしょう。
 もしそんな条件をすべて提示することがイヤなら、「一旦できあがった原稿に対して、再度検討を加える」という条件を提示すればいい。場合によっては「原稿はこちらが勝手に手を入れることもあります」という条件を出したっていし、書き手側が「連載をやる代わりに、うちのの引越の手伝いをやれ」と条件を提示したっていい。
 事前の合意があれば、印税が何パーセントであっても、あるいはゼロであってもかまわないのと一緒です。
 三才ブックスが出していた「裏モノの本」の元編集者に聞いて驚いたのですが、あの雑誌では、編集者が勝手に原稿を直すことが恒常的に行われていたそうです。例えば「借金が50万」とあったら、より迫力を出すために、編集者がゼロをひとつ増やす。この場合は事実を改竄していいのか否かという問題と、もうひとつは編集者が原稿を勝手に直していいのか否かという問題と大きくふたつありますが、後者については、原稿を書く前の合意さえあればいいのだと私は思っています。「うちでは借金の金額を増やすなど、編集部が勝手に手を加えるが、それでもいいか」の一言さえあればいい。「裏モノの本」ではそれがなかったことが問題でしょう。
 理想を言えば事前の承諾ですが、直しを入れる段階での承諾を得るだけでもいいでしょう。「ここを直したいんだけど、いいかな」とか「こう直したけど、いいかな」と書き手に確認する。事前に条件提示がない部分を直すのはルール違反ですけど、書き手が承諾すれば問題ない。
「王手」
「待った」
「しょうがねえな、一回だけだぞ」
 と両者が合意すればルール違反でも問題なしです。
「大手」
「待った」
「ダメだよ。オレの勝ちね」
 となれば、オレの勝ちであるように、書き手がそれを拒否した場合は編集部が直すことはできません。人の良識だのなんだのという以前に、著作権的に言ってそうなのです。「だったら、うとでは載せられない」というのもありですけど、この場合は、なにがしかの原稿料は払わなければなりません。
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『ワタ決め』をお持ちの方は、帯裏を見てください。お持ちでない方は、「ワタ決め」のコーナーを見てください。ここでは、直しをどう考えるかを本人に選択してもらっています。
「誤字脱字を含めて一切手を加えないで欲しい」「誤字脱字レベルのみ直して欲しい」「文意を変えないレベルで隅々チェックして、見栄えのいい文章にして欲しい」「加筆、削除、訂正などすべてお任せ」の4つの選択肢があり、直した文章を再チェックするか否かも選択できます。「チェックは必要なし」とした人でも、あとで不快に思われるのはいやなので、第一弾では、全員にゲラをお送りして、チェックしてもらっています。
 こういった合意なく、こちらが勝手に直し、あとで文句を言われたら、弁明のしようがありません。特に「ワタ決め」の場合、相手がどの程度のものを書けるのかがまったくわからないため、このような取り決めをはっきりさせておいた方がよく、口約束ではない文書として残しています。なおかつボツになり得ること、本ができた時にギャラが発生すること(すなわち、本ができなかった時、掲載されなかった時はギャラが出ない)なども明示しています。本当はギャラの金額まで明示した方がいいんですけど、印税方式のため、部数や定価が決定しないと、金額がわからないのです。
 このような方式にしたのは、編集側が自分をガードするためでもあるのです。これならあとで文句言いっこなしですから。
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