本の紹介

書評『セックス格差社会』


『世界の下半身経済が儲かる理由』で性と経済の問題を斬新に論じた著者であるが、今回は性と格差社会を数値から分析しようと挑んでいる。「もしかすると、近年の所得格差の拡大と恋愛経験の有無には、なんらかの因果関係があるのではないか?」

実際、著者の調査によると、「年収別にみた交際女性のいない独身男性の割合」では、年収が少ない男性ほど彼女がいないことが現れている。年収200万未満だと73.9%が彼女がおらず、年収が上がるごとに「彼女いない率」は減少していく。これは18〜34歳の独身男性のアンケート調査であるが、「年収別にみた性風俗に行ったことのない独身男性の割合」でも、「年収別にみた1月あたりのセックス回数がゼロの独身男性の割合」でも、年収が低くなればなるほど性愛も貧困になる。 続きを読む…

いただいたご本『童貞の教室』


著者の松江哲明さんとは何度かお仕事をしたことがある。とても感性豊かで、実直な青年という印象で、また会ってみたい人の上位にランクしている方なのだが(←偉そう)、本書はうーん……。いただいたご本で文句をつけることはしない主義なのだけれど、どうにもこうにもヌルくてヌルくて、ユルマン温泉で無理やり筆下ろしをしているような気分……。

そりゃ伏見が最近耳にした初体験話が、「掲示板で知り合った人のアパートへ行ったら、もう一人いて3Pでした」とか、「実の祖父にフェラチオされたのが、初めての性交渉でした」とか、「40歳になるまでモンモンと過ごしていて、やっと念願叶いました」とか、「アナルは使っても膣は使わずに三十六歳」とか……けっこう強烈なネタばかりで、ふつうの男子の告白じゃあ読み物として満足できない、つまり感性がガバガバになっていることも事実だろう。しかし「童貞の教室」と題するなら、もう少し性愛の部分を突っ込んで、広い視野での分析もほしかった。そしてここで「あんにょんキムチ」ネタはしつこい。

やっぱ一度、松江を掘らないといけない気がしてきた。松江、ケツの穴おっぴろげて来ーい!

とも思うのだが、まあ、中学生や高校生の生な青少年にしたら、このあたりのヌルーい感じがいちばんリアリティがあるのだろう。そういう意味では、思春期男子との接続は上手くいっているのかもしれない。だけど、松江は一回掘らないと駄目だな(しつこい)。

いただいたご本『人間の未来』


どんだけ仕事すれば気が済むの?と言いたくなるほど多作な竹田青嗣氏の新刊。副題に「ヘーゲル哲学と現代資本主義」とあるように、近代哲学の完成者として現代思想の標的となったヘーゲルを再評価することで、資本主義と国家を再定義しようとする野心的な論考である。竹田氏の主張は一貫していて、現代思想の価値相対主義からはなんら新しい社会構想は生まれず、ポストモダンの批判を経て、新たに近代哲学を鍛え直すことでしかこの世界に展望はない、というもの。

伏見は本作を読んでいてマジ感動してしまった。行間に情熱がほとばしっていて、とても熱いのだ。この人のこういう熱量はいったいどこから生まれるのだろうか、とほとほと感心してしまったのである。みんなが相対化の言説を振りかざして相手を無化することにばかり専心している状況で、ちゃんと土俵を作ろうという構えの大きさも、(ポストモダンの人からすれば滑稽なのかもしれないが)やはり人間として魅力的だ。そしてもちろん言説としても生産的だ。こういう強靭で志のある先人がいることは幸福なことだと思う。

竹田氏のように質的にも量的にもすごい仕事をしている人を前にすると、忙しさにかまけてちっとも仕事をしないのは情けないことだと痛感する。本当のところ忙しさは口実で、それは自分と向き合いたくないための言い訳にすぎないのだ。書くべきものを持っている人はどんな状況のなかでも書かざるを得ない。それがない人は、結局、「書けない」のである。

いただいた未読本(すみません) 


いただいたご本でもどうしても読めないものがある(ごめんなさい!)。建築関係の書籍がそれで、その理由は、「そんな金ねぇんだよ!」の一言に尽きる。なので、文字を追う気になれないのは貧乏な自分のせいでしかない。この『建築バカボンド (よりみちパン!セ)』もパン!セが仕掛けてくるのだからよほど面白い内容に決まっている。でも、「そんな金ねぇんだよ!」ともう一人の自分が耳元で怒鳴るので、まだ読めないでいる。「感想ほしけりゃ金をくれ!」と安達祐実っぽく言いたい。

苦手な分野に「酒」というのもある。バーのママをやって半年以上経つのに、先週も「スコッチで」と言われて「スコッチって何?」と聞き返してしまった情けないママなのだが、それにも理由がある。小さい頃に父が酒乱気味だったので、お酒というとどうしても身構えてしまって、好奇心の対象にならないのだ。数週間前も、ちょっと泥酔気味のお客さんが入ってきたときに、「もう閉店なので」と断ってしまった。楽しい酔っぱらいならいいのだが、目が血走っている人を見ると恐怖感が先にたってしまう。なので、この『こどものためのお酒入門 (よりみちパン!セ)』も読めずにいる。でも、これはママという職業柄、教養本として読まないとならないよなあ。

同性パートナー生活読本―同居・税金・保険から介護・死別・相続まで (プロブレムQ&A)』もまだ未読なのだが、周囲での評判もよく、具体的な問題に対処する内容になっているようなので、当事者にはもってこいの一冊だろう。『挑発するセクシュアリティ―法・社会・思想へのアプローチ』は小倉康嗣氏の論文だけ読ませてもらっていて、こういうフーコーの使い方なら前向きでいいなあと。ゲイ・アイデンティティやゲイ共同性をいまさらいくら懐疑したって、こんなユルユルな時代にどんな意味があるのかわからないからね。まあ、そのくらいしかモチーフがなければ仕方ないけど。

いただいたご本『マジックランタンサーカス』


最近の夜中のエフメゾはどこぞの文壇バー?と錯覚するようなときがある。どうしたわけか店内が編集者や作家で埋まってしまい、名刺交換会がはじまったりするのだ。だけどあくまでも伏見の店はゲイバーなので、いちばん身分が高いのはゲイ様であることは変わらない(貧乏な若ゲイ、大歓迎!)。有名作家といえどもここではゲイ以下の身分という認識で、女性やノンケは「ブス」「便所女」「粗チン」などとの暴言に耐えられる方のみに入店を許可している(笑)。

この本の著者の一村征吾さんもあるお客さんに連れて来られた方で、先頃、ランダムハウス講談社 第二回新人賞を受賞された期待の新人作家だ。帯にはかの村上龍氏の推薦文が添えられている。「この作品によって、幻想小説が復活するかも知れない」。伏見はまだ途中までしか読んでいないのだが、かなり面白く、冒頭の文章からして印象的だ。「便器を流れる液体があまりにも青かったので、僕はバランスを失いかけた」。色彩が頭にフラッシュバックするようで、ぐいっと引き込まれた。日米でデビューする彼の今後に注目だ!(ちなみに、チーママのヤス子さんは彼のことをイケメンと言い、頬を赤らめておりました)

いただいたご本『天然ブスと人工美人 どちらを選びますか?』


著者の山中登志子さんとは、「週刊金曜日」をめぐる論争となった「オカマ問題」のときに知り合った。そのときは誠実で優秀な編集者さんだなあという印象で、彼女が美醜の問題で苦悩を抱えていて、考察を深めている方だとは知らなかった。

というか、山中さんは本書で、オカマに間違われて傷ついたと書いていたが、伏見はこの新書を読むまで彼女がアクロメガリーという病気を患っていることも知らなかったし、実は勝手にMTFなんだと思い込んでいたのだ(失礼。と言うとそれも差別のような気がするので、謝罪はしないが)。

この本は読まれるべき内容に富んでいて、面白いと言えば面白い。しかし、山中さんはかつて林真理子氏のエッセイを読んで、女性エッセイストが書くものは毛糸のズロースを三枚も重ねてはいているみたいだという批判に喝采したというが、山中さん自身もまだ潔くパンツを脱いでいない気がする。その躊躇ゆえに、伏見の読後感はどうもすっきりせず、彼女も毛糸のズロースを一枚残していてそのなかはムレムレだ、という印象なのだ。その湿潤な毒にかなりやられる。そしてそれをいろんな方に読んでもらいたいとも思う。ムレムレのパンツに繁殖する細菌こそ、現代の女性たちの病みの大元になっているのだから。

いただいたご本『だれでも一度は、処女だった』

あの、だれでも一度は処女だったとおっしゃいますが、伏見は処女だったことはありません!!←当たり前

よりみちパン!セ・シリーズは新書的な教養本のなかにときにイロモノ路線の本が差し挟まれるのだが、これはやっぱそっちの筋でしょうなあ。いや、けなしているわけではないのですが、この本の著者はある種の変態だと思うんですね。フェティッシュなこだわりって変態性の証拠。そして自分の母親にその処女喪失体験をインタビューする冒頭は、手に汗にぎる母娘の攻防戦。緊張感が読み手に伝わってきて、つかみはOKという感じ。

思春期の少女にとって何より関心があるのがロストヴァージンの問題なのだろう。考えてみたら、そのことだけをテーマにした本というのをこれまで見たことがない。ありそうでなさそうな処女喪失インタビュー集。なかなか商売も上手い。こうなるとやはり、童貞喪失本にも期待が高まりますね。映画監督の松江哲明氏が担当のようなので、近刊を楽しみにしたい。伏見としてはそっちのほうが読みたいわけです。だって膜には興味ないんだもの。←あくまでも趣味

いただいた写真集『MONSTER』

MONSTER。この写真集のタイトルにこれほど適切な文言はないだろう。それはエイズという厄介なMONSTERを題材にしているからばかりではない。なんと言っても被写体がHIV 、ゲイの活動家であり、編集者であり、文筆家であり、女装のパフォーマーでもあるピンクベアこと、長谷川博史氏なのだから。

戦後の日本のゲイシーンでは三島由起夫はじめ化け物的なエネルギーを放った人物が何人かいるが、長谷川氏がそのひとりであることは間違いない。一般に知られている名前ではないが、この人と一度関わったらその印象は生涯消えない焼きごてのように押されてしまう。そこらにころがっている革命家きどりの活動家ではない。自らの不遇を訴えるだけのマイノリティでもない。ましてや医療や行政の言いなりになっている病人でもない。被差別感も情欲も野望も孤独も愛憎も政治も友情も……俗世にあるすべての感情をうちに沸騰させる、巨大なエネルギーそのものなのだ。

写真家はこの一筋縄ではいかない被写体と闘うようにシャッターを切っている。かわいそうな感染者、いたいけな患者という物語に押し込められない獰猛な彼に、苛立ち、納得し、疑問を持ち、挑発され、距離を置き、説得され、恐れながら向かい合おうとしている。まるで格闘技のようにファインダーの向こうとこちらでその存在を賭けて。そして、そうした緊張のあいまに差し込まれる日だまりのような風景。それは戦場に咲く一輪の花のようなものかもしれない。その緊張と弛緩の不断の営みが人間の世界そのものに感じられる作品だ。

長谷川博史というMONSTERのことをこの日本という国に知らしめたい。LGBTの若いアクティヴィストはこの化け物と、菊池修氏同様、四つに組んで格闘してほしい(スルーするのは簡単だが、せっかくここに踏み台にするには最高の先達がいるのだ。これを使わない手はない)。そしてぼく自身、いつかこのMONSTERのことを書いてみたい。けれど、それをするにはいまのぼくは疲れ過ぎている。下手に手を出したら彼が放出する激流に巻き込まれて粉々になってしまうだろう。

*この不景気な時代にこういう(売れないだろう)写真集を出版したリトルモアに敬意を表したい。出版社としての見識と、矜持に感嘆するばかりである。

いただいたご本『アンの愛情』

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● 松本侑子訳・モンゴメリ作『アンの愛情 (集英社文庫 モ 8-3) (集英社文庫)

松本侑子さんに「赤毛のアン」シリーズの第三弾『アンの愛情』をお送りいただいた。彼女はもうすっかり「赤毛のアン」の権威で、小説家、翻訳家のほかに研究者という肩書きを名乗っても当然だと思う。ちゃんと仕事を積上げていっている松本さんの爪のあかでも飲みたい伏見である。

物語のこの辺りの展開は映画では知っているんだけど、小説で読むのは(たぶん)初めてなのでとても楽しみ。ふだん「出会って3回以内にやらないと勃たねえよ」みたいな世界に生きていると(笑)、逆に、幼なじみと結ばれるという恋愛に強く憧れますね。今年はまったテレビドラマ「砂時計」もそうだし。ギルバートいいですね。あぁ!

いただいたご本・中野翠『ラクガキいっぷく』


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今年も押し詰まってまいりました。例年のごとく、お送りいただいた中野翠さんの一年のコラムをまとめた単行本を読みながら、08年を振り返っている伏見です。

それにしても時代の移り変わりが激しい。秋の金融危機以前と以降ではマスコミの論調は全然違うし、どんな殺人事件も次々と起こる不可思議な犯罪のなかですぐに記憶があいまいになってしまう。もはや秋葉原の事件すら、「あれ、今年のことだっけ?」という感じだ。そういう変化を中野さんが時代に刻み付けた言葉とともに辿るのは、自分の考えを整理するのにうってつけ。

中野さんの筆致は今年も鋭く、瑞々しい。無駄な「権威」を身につけないのは彼女の他の人にはない魅力だと思う。

湊かなえ『告白』


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● 湊かなえ『告白』(双葉社)
★★★★ やめられないとまらないかっぱ海老せん♪のようなミステリー

友だちが「面白いから読んでみなよ」と勧めるので、珍しく新刊本を購入。とくにミステリーファンではないのですが、話題になっているだけあってエンターテイメントとして秀逸。時代的な闇を引き受けていて、自分のなかのどす黒い感情が揺すぶられる。年末年始、ブラックな気分になりたい人にはお勧め。

純文学的な読みからすると、人物造形がステレオタイプだとか、説明的だとかといった「ステレオタイプな批判」がされるのかもしれないが、もうそんなことどうでもいいのよ。心臓がドクンと動いてくれることが、(退屈な)文学的な価値なんかよりもずっと意味がある。著者は小説家としても大したものだが、社会学者とかにもなれる頭の良さを持っていると思った。

いただいたご本「論叢クィア」「精神看護」

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*「論叢」って「ろんそう」と読むのだそうです。「ろんぎょう」って読んでいて変換しても文字が出てこないわけだ(笑)。知らなかったー!

sei.jpg本書は昨年設立されたクィア学会の学会誌。伏見の参加しているシンポジウムも活字化されているのだが、伏見の発言はこれまで残した対談、鼎談の類ではもっとも内容のないもの。大きなテーマをそのまま振られても言葉が出てこないという伏見の実力ゆえの結果なので、自己責任と受け止め、学会誌に恥を残すことにした。その他にも、現在、話題沸騰中の論文・森山至貴「「懸命にゲイになるべき」か?」なども収録。

「精神看護」2009.1(医学書院)は伏見が『発達障害当事者研究』の著者、綾屋紗月さんと熊谷晋一郎さんと行った対談が掲載されている。こちらは近年脳の劣化がはげしい伏見にしてはノリノリでトークをしている。ときどき脳みそが甦るみたいですね(笑)。三人でコミュニケーションの困難さについて語り合っています。できることなら綾屋さんたちのご著書を読んだ上で読まれることを勧めます!

上野千鶴子ほか『セクシュアリティの社会学』


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● 上野千鶴子ほか『岩波講座現代社会学 (10)』(岩波書店)

★★★ この本が出版された時代はまだ社会構築主義も洗練されていませんでしたね

上野千鶴子ほか『セクシュアリティの社会学』と、ジェフリー・ウィークス『セクシュアリティ』はともに、これまで精神医学や心理学などがもっぱら対象としてきた「性」「セクシュアリティ」の領域を、社会学や歴史学の視点から捉え直そうと試みる論考である。前書は上野千鶴子はじめ現代日本の気鋭の社会学者らの手による論文集で、後書はポスト・フーコーの旗手と欧米で評価の高いジェフリー・ウィークスの翻訳である。

これらは、「人の性とは何か?」という問いかけのもとに言葉を編み上げてきた精神医学や心理学といった近代の「知」に対して、「『人の性とは何か?』と『知』が問いかけるのはなぜか?」、「そのことによってどんな現象が近代に生じたのか?」という問題意識にそって、「性」に社会的、歴史的な分析を加えている。 続きを読む…

田中美津『いのちのイメージトレーニング』


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● 田中美津『いのちのイメージトレーニング (新潮文庫)

★★★★ この人の言葉には言霊があります

『いのちのイメージトレーニング』は、ちっぽけでいながら至上のものである「私」、という人生を、いかに喜びに満ちて生ききるかを思索した本である。

著者の田中美津は、70年代初頭のウーマンリブ運動の旗手として活躍。「それから大しておもしろくもない活動でさらにエネルギーが奪われて……もととも弱かった私のからだは一層ヨレヨレになってしまって……『もはやこれまで』と思うに至ってメキシコへ」。

4年の滞在を経て、帰国後、鍼灸師になる。そして、近年、イメージトレーニングと出会い、自らインストラクターも始めるようになった。 続きを読む…

辻仁成『ワイルドフラワー』


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● 辻仁成『ワイルドフラワー (集英社文庫)

★★ 伏見には文学が本質的にわからないのです

ニューヨーク、破滅、ホモセクシュアル、インモラル、純愛…といった言葉がちりばめられた宣伝文句から、「過激なエロチシズムや風俗」を売りにした、ありがちな小説なのかという気がしていたが、『ワイルドフラワー』が問題にしているのは、今日の男としてのアイデンティティーとは何か? という極めて時代的なテーマであった。
 
肉体的にも想像力においても盛りを過ぎた中年作家と、自分がゲイではないかとおびえ、そのことに決着をつけようとニューヨークへやってきた青年。恋人の白人女にペットのように調教されてきた写真家の卵。その三人の男たちが、一人の女との関係を軸にして、自らに男としての存在証明を試みようと苦闘する物語が、同時進行していく。 続きを読む…

長山靖生『鴎外のオカルト、漱石の科学』


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● 長山靖生『鴎外のオカルト、漱石の科学』(新潮社)

★★ 現在も世の中の半分はオカルトですよね(笑)

『鴎外のオカルト、漱石の科学』、なんとも妖しい題名である。といっても内容はけっしてキワモノではなく、本格的な文藝評論、時代批評となっている。

著者のあとがきによれば、「二十世紀は科学の時代だったが、漱石や鴎外は、科学の成果や自然科学が提示した新しい思考法を、どのように理解し、また利用したのだろうか」という問題意識から、「時代を超えて読み継がれて、後世になっても同時代人のごとくに影響を与え続ける『不死の人』」としての彼らを輪郭づけている。 続きを読む…

大塚隆史『二丁目からウロコ』


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● 大塚隆史『二丁目からウロコ―新宿ゲイストリート雑記帳』(翔泳社)

★★★★★ 頭でっかちではない、本当に練れた思想というのはこういうのを指すのだと思う

『二丁目からウロコ』の著者である大塚隆史氏は、日本という土壌の中で、一貫して「ゲイ」であろうとしてきた希有な人物である。この国でも90年代になって、ゲイ・ムーブメントは活発な様相を呈してきているが、たぶん、ゲイ・リベレーションという方向性を初めて公に示したのは大塚氏ではなかったかと思う。

70年代末、人気ラジオ番組「スネークマンショー」の中で、ゲイ・パーソナリティとして全国の同性愛者に向って「『ゲイ』として肯定的に生きよう」とメッセージし、「ゲイ・リブ」や「カミングアウト」の言葉を海外から輸入したのは氏の功績である。 続きを読む…

イブ・コゾフスキー・セジウィッグ『クローゼットの認識論』

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● イブ・コゾフスキー・セジウィッグ『クローゼットの認識論―セクシュアリティの20世紀』(青土社)

★★★ こういうマニアックな文体に官能する人にはいいんだろうけど、もっとわかりやすく書けよ!って感じ

アメリカに遅れること20年、日本でゲイ&レズビアンのムーブメントが活発化したのは、90年代に入ってからのことであった。そこで主張されたのは、同性愛というのは趣味・嗜好の問題ではなく、その人の存在にとって本質的な指向性なのだから、それを差別したり否定したりすることは人権の問題だ、というものだった。

日本でそうした「本質主義」の考え方を背景にした運動が展開され始めた頃、欧米では、同性愛者というアイデンティティそのものが近代において構築されたもので、それこそが権力作用の産物であると批判した、フーコー以降の「構築主義」の理論がゲイ・スタディーズやフェミニズムに積極的に導入されていた。 続きを読む…

西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』


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● 西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)

この本は圧倒的に5つ星です! ★★★★★

サイバラ先生の漫画の熱心な読者というわけでもなかったけれど、いろんな機会に断片的に作品を拝見し、面白い方だなあとは思ってきた。でも今回、よりみちパン!セシリーズで刊行された『この世でいちばん大事な「カネ」の話』を読んで、神様のように尊敬してしまった。身体はってるってスバラシイ!

かつてなら会話のタブーと言えば、性と金だったと思うが、いまや性はある意味で個性を語るのと同義となり、それこそ一般人でさえも「萌え」という言葉を使って自分の「性的偏向」を口にできるようになった。一方で、金に関しては、「これで儲けられる!」みたいなビジネス本はたくさん出版されているけれど、自分の生々しい体験として書かれることはあまりない。やはり、それは最後まで隠しておきたいことなのだ。

そうした事柄を本書は著者自身のディープなおいたちや体験を通じて真摯に言葉にしている。これ、けっこう勇気のいることだと思う。そして、パン!セの読者である思春期の子供たちに語りかける問題としても、いまの時代とりわけ重要なテーマだろう。金で人生ころぶのは簡単なことなのだから。

サイバラ先生の言葉には体験の裏付けがあり、血と汗の匂いがする。

「仕事っていうのは、そうやって壁にぶつかりながらも、出会った人たちの力を借りて、自分の居場所をつくっていくことでもあると思う」
「手で触れる「カネ」、匂いのする「カネ」の実感をちゃんと自分に叩き込んでおく。そういう金銭感覚が、いさというときの自分の判断の基準になってくれるからね」
「お金との接し方は、人との接し方に反映する。お金って、つまり「人間関係」のことでもあるんだよ」

金は人間関係、なんてなかなか言えないこと。しかしそれは現代社会の本質でもある。いやあ、学ぶこと大です! お金について40代になるまでほとんど真剣に考えてこなかった伏見には、本書はもう聖書のようにも思えてくるほどだ。ページを繰りながら、思わず、正座してしまった(笑)。

平成不況の今日、一家で読むべき必読書!

福島次郎『蝶のかたみ』


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● 福島次郎『蝶のかたみ』(文藝春秋)

★★ こういう感性って文学好きにはいいのだろうけど……

福島次郎は『三島由紀夫―剣と寒紅』で、文壇のタブーであった三島由紀夫の同性愛を自らの青春の体験と絡めて描き、世間の注目を多いに集めた人物である。その彼の自伝的な小説「蝶のかたみ」と、1996年に芥川賞候補になった「バスタオル」を併録したのがこの作品集である。

淡々と流れる文体の行間に垣間見える深いやみは、主人公(著者)の己の人生に対する怨嗟と、同性愛への愛憎をはらんでいる。 続きを読む…