2008-12-14

福島次郎『蝶のかたみ』


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● 福島次郎『蝶のかたみ』(文藝春秋)

★★ こういう感性って文学好きにはいいのだろうけど……

福島次郎は『三島由紀夫―剣と寒紅』で、文壇のタブーであった三島由紀夫の同性愛を自らの青春の体験と絡めて描き、世間の注目を多いに集めた人物である。その彼の自伝的な小説「蝶のかたみ」と、1996年に芥川賞候補になった「バスタオル」を併録したのがこの作品集である。

淡々と流れる文体の行間に垣間見える深いやみは、主人公(著者)の己の人生に対する怨嗟と、同性愛への愛憎をはらんでいる。

若い時分、主人公は、父親を異にする弟も同性愛者であるという事実、それも異性装を嗜好とする女性的な彼のジェンダーにどうにも嫌悪感を抱かずにはおれなかった。主人公は自分自身の本質から目を背けるように、弟を遠ざける。

同性愛を悪しきものとする社会において同性愛者を憎悪するのは、異性愛者ばかりではない。同性愛者自身もまた魂の奥深く同性愛者を憎むのである。政治的な自己肯定への道筋を知らない者はいっそう同胞を否定し、相手の中に自分自身の影を認めることから逃れようともがく。

兄と弟の人生が再び交差したのは、母親も亡くなり、互いに老境に達した季節であった。地方で教師をしながら小説を書いてきた主人公とは対照的に、弟は、夜の世界のよどんだ暗渠を、女装のオカマとしてたくましく、したたかに生きてきた。そして最後は、銀座の街角で行き倒れのように孤独な死を迎える。兄は上京し、弟を荼毘に伏して連れ帰る。

弟の遺留品の中にいつか二人で新宿の街を歩いたときに弟が身につけていた着物があった。漆黒の地に金の蝶と銀の蝶が舞う図柄は、自分たちの人生そのもののように兄には思える……。

名もない人生の壮絶な軌跡の後に残された和解と共感。兄は弟とともに自分自身を許したのだろう。同性愛という心の痛みは、そのとき生の彩りになったはずだ。主義主張を超えた、生き抜くことの重みが、この小説には確かにあった。

*初出/静岡新聞(1998.12.13)ほか