ベルリン映画祭現地レポート スタジオ・ポット

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[2004-02-13(金)]

ベルリナーレ(ベルリン国際映画祭)9日目


text: 青木淑子
aoki@pot.co.jp

電車内の検閲官

記者会見の様子

朝、とても厳しかったです。眠い目をこすりながら、それでも青汁を作り、息子の分も作って出発。新聞を電車の中で読む気力もあまりなく、ひたすらビタミンCのトローチタイプをなめていました。
途中、朝早いというのに、乗車券の抜き打ち検閲に会いました。
ドイツの乗り物には、改札がありません。従って、チケットを買わずに乗ることもできるのです。なので、時々抜き打ちに検査の人がやって来て、チェックをするのです。チケットを持っていなかったら、その場で罰金を徴収されます。現金を持っていなければ、罰金の30ユーロを早急に振り込まなければならなりません。私はもちろん、チケットを持っていましたので、問題ありませんでしたが、そんな朝早くに、どうしてチェックなんてするのかな、と考えさせられました。
そこでご覧ください!! 後ろ姿ですけれども、左の髪の長い女性が、検閲官なのです。幸いにして誰も捕まらなかったので、良かった〜!

と、朝からなんだかいや〜〜な気分になっていて、いっそ行くのをやめようとすら思いましたけれども、やっぱり頑張るぞ! と気合を入れ、ベルリナーレ・パラスト上映10分前に到着!
あらら〜〜! すごいすごい!! 朝の部は、もう数日前から空いてきたというのに、今日は満杯状態! すっかり焦って、席をやっとのことで確保しました。さすがエリック・ロメール監督だわ!
そんな些細なことだけで感動する私・・・。でも・・・・。始まってみたら、私のすごく好きな監督なのに、ちょっと辛い映画でした・・・。ロメールの作品の中でも、あまり好きじゃない部類に入ってしまいました・・・。

「Triple Agent」より

作品は、「Triple Agent」(Eric Rohmer監督)で、フランス作品。1936年のフランス。スペインでの民衆の戦争が勃発している頃、当時の帝政軍の将官だった男が、ギリシャ人の妻を伴ってパリに逃亡します。しかしこの男、実は何やら謎の人物で、スパイではないか、と疑われているのでした。対コミュニストのロシア側なのか、ロシアのダブルエージェントなのか、あるいはナチ、あるいは全て?それらがはっきりしないままに物語は進みます。一方で、妻をこよなく愛している(ように見える)のですが、それもどうなのか?!最後はかなり辛い(コンペは辛い終わり方が多いですね・・・)のですけれども、本当に期待しすぎて見てしまったため、なんだかきつかったです。私の好きなロメール作品とはちょっと違う感じ・・・。確かに、戦争を表現する方法は、ロメールらしいというか、すっきりとスマートでいいなぁと好感が持てましたが、妻とのやりとり、時代との関わり方など、ピンと来なかったです。とっても残念で、でもひと目ロメール監督に会ってみたいと思い、急いで記者会見の会場に走りました。そうしましたら、なんとロメール監督は欠席とのこと! が〜〜ん!どうして〜!? 近くに座っている松山さんに質問してみました。「あのね、ロメール監督って記者会見とか嫌いなのよ。それでほとんどこういう公の場は欠席なの。でも、つい数年前に出席したことがあり、これは変わったのかな、と思ったんだけれども、やっぱり元に戻ってしまったみたいねぇ。」とのこと・・・・残念〜〜! それを知っていた世界のジャーナリスト達、ほとんど皆さん会場にやって来ていませんでした。
とっても空いていた記者会見。もう、出ようかと思ったけれども、良い席に座っていたのでそれもできず・・・。で、記者会見が始まりました。(写真参照)3人のプロデューサーと主演女優、男優が出席したのですが、女性のプロデューサーがロメールと長年の付き合いだそうで、彼の不在をうめるような発言をしていました。ロメール監督は、ぜひベルリナーレに出席したいと思っていたのですが、83歳というご高齢であることと、背中に痛みがあり、歩行が困難とのことで、致し方なく欠席したということでした。本当に残念です。どうか早く快復して欲しいです!!
ロメール監督は、映画との関わりは「カイエ・ドゥ・シネマ」誌での映画評論家が出発点でしたが、その後同誌の編集長を5年務めました。映画を作っていたのは意外に早く、1950年からで、作品はとても多く、日本にも沢山のファンがいます。現在はソルボンヌ大学の教授をしているのですが、映画も精力的に作っています。ただ、その女性プロデューサーが言っていましたが、フランスだけでロメール作品の資金を調達することは難しく、海外のプロデューサーとの共同作業によって、なんとか完成までこぎつけたのだそう。こんなに巨匠でも、なかなか大変なのですね・・・やはりメジャー映画というわけではありませんし・・。
もっともっとこれからも頑張って創作して欲しい監督です!
主演女優のKaterina Didaskaluが美しかったのが印象的。とても上品な雰囲気のある女優さんでした。

「Ae Fond Kiss」より

2本目は、「Ae Fond Kiss」(Ken Loach監督)。イギリス、イタリア、スペイン、ドイツの合作映画です。ケン・ローチ監督は、社会派でも有名ですが、この作品もばりばりの社会派の作品でした。でも、暗く激しい描き方なのではなく、ある若い白人女性とパキスタンの男性の恋を軸にして、とても観客が気持ちを移入しやすいように作られていました。好感の持てる作品だったと思います。
あんなに大きなベルリナーレ・パラストの会場で、偶然座った席のお隣に大久保さんがいらっしゃいました!! あら〜! 奥様は他のパノラマの作品を見ているのだそうで、夕方まで別行動なのだそう。そんな訳で、大久保さんと一緒に見ました。後でかよちゃんとも合流して3人で記者会見にも行ったのですが、まずは映画の内容から:
グラスゴウで暮らす、DJとして成功しているパキスタン人のカシム。彼の両親は敬けんな回教徒で、同じ宗教の人間しか結婚相手には認めないため、すでにいとこの女性をカシムと結婚させることにしています。本人の意思とは関係なく、それは勝手に進められてしまうのです。そこに、カシムにとっては今まで出会ったことのない、とても賢く自立した白人女性が出現するのです。彼女は、カシムの妹の学校の音楽教師。
カシムは彼女の存在が気になり、少しずつ距離が縮まり、ついに二人は恋に落ちるのですが、二人で自由なスペイン旅行を満喫している時に、良心が痛んだカシムは、自分には婚約者がいて、近々結婚することになっているのだ、と彼女に打ち明けます。
二人を中心に妹や両親、姉を通して、、宗教、家族、恋、兄弟、自由、エゴ、人種など、根本的な問題が噴出し、保守的なカシムの両親と姉、精神的に自由で解放されている新しいタイプの妹と白人の恋人の間にいるカシムは、心乱されるのです。彼女の方はカトリックで、カシムとつき合うことで学校内でスキャンダルが巻き起こり、退職を迫られます。果たしてカシムは両親を説得できるのでしょうか、彼らは恋を成就できるのでしょうか? 妹がとても進歩的な女の子に描かれており、好ましかったですが、もちろん現実はもっともっと厳しいものなのではないかしら、と思いもしました。でも、全体的にとても心がある作品という感じがして、こんな睡眠時間が短かった私なのに、まったく居眠りをしなかったのはすごい!!主演女優のEva Birthistleが会見で言っていましたが、通常の映画の作り方は、もちろん脚本が与えられ、結末を把握し、それに見合った演技を最初から構築して作品に向かい合うのだけれども、今回はラストを知らされず、そのことが効果的に演技にも反映した、というようなことを言っていました。若い二人の主演女優、男優は、フレッシュな雰囲気で良かったです。カシムを演じたAtta Yaqubも、目が綺麗でさわやかでした。そして記者会見でのローチ監督は、それはそれは優しい目をしていらして、とても印象深い素敵なおじさまでした!! 落ち着いた、物腰の柔らかい紳士という感じ。もう、それだけで、「映画良かったです〜!」と言ってしまいそうな私なのでした・・・・。(単純)

「20:30:40」より

そして今日最後の作品。これ、本当にごめんなさい!! ケン・ローチ監督で今日の私の全てのエネルギーを使い果たしてしまったらしく、私はほとんど眠ってしまったのです〜!!決して作品が悪かったのではありません。むしろ面白そうでした。かよちゃんと一緒に見ていたのですけれど、かよちゃんは最後に面白かったと言っていました・・・。残念〜〜! 私は今日は。つまらなくて寝たのではなく、疲れて睡眠不足だったために失敗してしまったのです。あ〜〜もう!! なので、後日かよちゃんから少し感想など聞いてみようと思いますが、とにかくカタログにある内容を読んでみました:「20:30:40」(Sylvia Chang監督)で、台湾、香港合作映画です。この、シルビア・チャンという女性の監督は、もともと女優なのですが、1981年から監督としても活躍。現在は50歳にはとても見えない若さで、監督業と女優業をこなしています。彼女が主演の女優のひとりで、40代を演じています。その他、レネ・リウが30代のスチュワーデスを、そしてリー・シンジが20代の女性を演じており、脚本は、3人が考えたものをベースに作られています。20代、30代、40代のそれぞれの女性の生き様を描いた作品。20代は、厳しい親の目から離れ、ポップスターを目指して上京、そこでいろんな人々に出会います。30代のスチュワーデスは、同時に二人の男性とアフェアをしています。一人は妻子ある医者、そしてもうひとりは若いツバメ?40代は、離婚してシングルを満喫している女性で、そこにある男性が出現しますが、彼は自分の娘ほどの若さの女性とも関係があったのでした・・・。・・・というような作品のようです・・・・。でも、ところどころ目を覚まして見ていた時には、やけに映画の中の女性が生き生きしているなぁ、と感じていました。それくらいですね、私の感想は・・・とほほ・・。何でもやってしまえ〜っていう勢いのある、はじけた作品には見えました。

さて、明日はもう各賞発表の日。でもコンペ作品はあと1本残っています。それを朝9時に見て、その後2時くらいに発表になるのだと思います。どうなるでしょうねぇ。
それから、昨日のお約束の新聞ネタを少しここでご紹介しておきますね。

*ジュード・ロウが、2時間だけ遅ればせながらベルリナーレに登場。記者会見で、北欧の女性ジャーナリストが、もしもロウがジェームス・ボンド役を依頼されたら引き受けるか、という問いに対して、そのフィギュアは自分はあまり好きじゃない、と最初はそっけなく答えたものの、考え直して楽しそうに想像しながら、「うん、それもなかなかいいかもしれないな」などと言ったのだそうです。ジュード・ロウのボンド!! かっこいいかも〜〜〜!!
*クラウディア・カルディナーレが、ロメール監督作品の一般上映のために、ベルリナーレに駆けつけたそうです。写真では、もう随分のお年だよねぇ、と思いましたが、メイクも相変わらず派手で、さすがイタリアの女優さんってパワフルだなぁ、と感心しました。
*ベルリナーレのベルリン版名物おばちゃま、エリカ・ラバウさんはカメラマン。でも、ただのカメラマンではないのです。そのバイタリティ溢れる個性は、映画関係者の心を捕え、賞まで受賞してしまうほど。例えば映画祭のディレクター、コスリック氏は、まだ彼が何者でもなかった無名の頃、彼女だけが撮影したいと言ったことを感謝して、映画祭では彼女専用の撮影場所を常にキープしてくれているのです! もう32年もベルリナーレで撮影しているというのですから、本当にすごいおばちゃまです!故ファスビンダー監督や、我らのヴェンダース監督などが、彼女を気に入って映画に出演させたほどの魅力的な女性。白髪の髪を振り乱し、よろよろとカメラスタンドの最も良い場所に入る姿は、まだまだ現役のカメラマン。いつも皮のパンツにジャケットを身につけ、独特の雰囲気を放っています。皆に愛されている、幸せなおばあちゃまカメラマン! ベルリンには楽しいキャラクターが多いです。今度話しかけてみようかな・・・?
*タレントキャンパスには、結局行くことができずにこのままするずるなのかな、と残念でなりませんけれども、新聞によると、2回目の今年は随分世界に認知されたようで、なかなか素晴らしい展開だったようです。およそ3800人の応募者の中から、選ばれたのが522人の若き才能溢れる作家達。83カ国の若者が参加したのだそうです。監督、脚本、制作、俳優、そして音楽家。一同に集まった様子は、まるで期間限定のちょっとしたエリート大学の雰囲気があったようです。そして、ここでは誰と何をするか、ということもこれから重要なので、出会いを大切にしてどんどんと自己紹介をそれぞれが頑張ってし合い、希望を持って精力的に話をしていたようですね。中にはもちろん内向的な人もいるでしょうけれども、ここでは何と言っても、才能が大切。才能さえあれば、お互いが惹かれあうはず、とばかりに、スピーディに出会いを楽しんだようです。今度、畑中さんから感想をお聞きしてみたいものです!
*今日のベルリン新聞のコンペの星(熊)をチェックしてみますと、Before Sunset,Gegen dieWand,Svjedociあたりが良い点をもらっているようです。アンゲロプロス監督は賛否両論。ベルリン新聞ではあまり良い評ではなかったのですが、かよちゃんが定期購読しているターゲス・シュピーゲル(かよちゃんも私と同様、あの新聞争奪戦にはついていけず、購読している新聞にしか目を通していないとのこと・・・・。やっぱりねぇ・・・。)では、良い評だったようです。

は〜!! 一気に書きました! 今日はもうここまで! 限界だ〜〜。明日も早いし、シャワーを浴びて寝ます! つよ子は急仕事がばたばた入って、それをこなすのが精一杯の状態。申し訳ありませんが、今日はお休みです・・・。ごめんなさい。映画祭が終わって、ちょっと落ち着いてから、トークを予定していますので、少々お待ちくださいね!

あっという間に映画祭も終わりになりますね。もう受賞だなんて・・・。ああ、また喉が痛くなってきた・・・。青汁を作らないと!

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