ベルリン映画祭現地レポート スタジオ・ポット

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[2003-2-9(日)]

黒澤を上回る小津の人気

青木淑子
ambient@kt.rim.or.jp

 


 

 

 

 

 

 

今日一日、最も印象に残ったのは、ニッコール・キットマンの記者会見と、「アワーズ」のフィリップ・グラスによるミニマル音楽、そしてドイツの映画、「グッバイ・レーニン!」。特に「グッバイ・・・」は、ヴォルフガング・ベッカー監督の冴え渡る感性が細部にまで感じられ、かなりぐっときたが、その反面、なかなかワールド・ワイドで受け入れられるのは難しいのでは、という心配も少々あり・・。なので、銀熊賞を取ってもらいたい、と控えめに思った。

私は、映画は俳優ではなく、監督を選んで観るタイプだ。好きな監督の作品は、できるだけ映画館で観るようにして、その後ビデオやDVDでしっかりくり返して観る。例えば日本では小津安二郎監督・・・。そして海外ではヴェンダース、エリック・ロメール、ビクトル・エリセやトリュフォー、ゴダールなど・・・。今年は、小津生誕100年の年にあたるので、世界各国で小津の映画が上映される。ベルリナーレも例外ではなく、小津のレトロスペクティブとして、9本ほどの作品が上映される。できれば全て観たいのだけれど、残念ながら夜が多く、体力をかなり消耗している私には無理。観客の反応も見てみたいので、日中に上映される作品を1本だけ観ようと思っています!

小津は、ここドイツでも黒澤明監督と同じ、いやあるいはそれ以上に評価されている。私がミュンヘンの大学の学生だった頃、それはもうはるか20年前になるのだけれど、映画学も専攻していた。岩波ホールのような感覚の映画館がミュンヘンにもあり、そこは、時間制限があるものの、大学に場所を開放していた。前から小津の大ファンだった私は、そこで小津作品をかなりまとめて観ることができたのだけれど、多くのドイツ人学生が来て、それはそれは大盛況だった。

ヴェンダース監督も小津の大ファンだ。(彼は今年の12月、小津監督+作品についてのシンポジウムのために、ビクトル・エリセ監督と供に出席予定です)
彼とはおよそ20年前に、ベルリンで知り合った。当時ヴェンダースは、ベルリンのカント通り(今は別の場所)にあるロード・ムービース・プロダクションで、「パリ・テキサス」と「東京画」を同時に編集していた。ブラジル人の友達、リタの紹介で初めてヴィムに会った私は、すでにミュンヘンの大学でヴェンダース作品を知り、ファンになっていたので、かなり緊張していた。今思えば、30代半ばでヴェンダースは、すでに「パリ・テキサス」のような深い作品を作っていたのだ! これには再び、感動!! ヴェンダースと私の間には、何の接点も見いだせそうもないくらい、彼は私にとって雲の上の人だったけれども、彼も私も小津ファンなのだ、ということだけで、心がうきうきして嬉しい気分になったものだ。
小津作品、このベルリナーレで早く観たいものです! 


『MADAME BROUETTE』

 

 

 

 

 

 

[2003-2-9(日)]

泣きに泣ける『THE HOURS』

五賀雅子
ambient@kt.rim.or.jp

キットマン記者会見

壁のあった場所には、2本の線のようにして石が埋め込まれている

 

 

 

 

 

 

残念なことに、今日は1本も無料提供の水をゲットできなかった。プレスセンターと記者会見場にあるのだけど、あっという間になくなってしまう。それ以外にも今日は残念なことに気づいた。毎年、取材パスを早く取りに行くとスポンサーマークのついた肩掛けかばんをもらえたらしいのだけど、今年はめちゃくちゃ早く行ったのにかばんがなくて、廃止になったのかなーと話していたら、今日はやたらとVW+ロレアルマークのついたかばんを持っている人が多いのに気づいた。もちろん、最初から全員分はないのだから、もらえるかどうかは運次第みたいだけど、うー、それにしてもみんないつゲットしたんだー? て、のっけから意地汚い話ですみません。

さて、今日の1本目は『THE HOURS』。ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープが顔をそろえた華やかな作品と思いきや、これがかなりヘビー。とくにニコールはヴァージニア・ウルフになりきるため、メイクマジックで整形したかのように変貌してる。いやー、根性すわってるなぁー! 
物語は、1923年、1952年、そして現代に生きる3人の女性の人生をクロスさせながら進んでいく。彼女たちがそれぞれ、自分の心に忠実に生きたいと激しくもがく姿が切なく描かれる。同性愛やエイズなどを扱っていてテーマは重い。フィリップ・グラスの音楽が心に切々と訴えかけてきて、涙腺のゆるい人はハンカチを用意したほうがいいかも…。かくいう私もツボにはまって泣けた、泣けた。監督は「リトル・ダンサー」のステファン・ダルドリーだが、キーパーソンとなる幼子の描き方がさすが!(たぶん、近く日本公開のはず)。

2本目はセネガルのMoussa Sene Absa監督の『MADAME BROUETTE』。主人公のマダム(といっても若くてきれい)が夫を拳銃で殺す衝撃的なシーンから始まるが、語り部っぽいコーラス部隊を登場させ軽いノリでストーリーが展開していく。…が、連日の疲れがどっと出て、かなりの時間を夢の中で過ごした私。終わってみれば、印象に残ったのは、セネガルの女性たちが頭や身にまとっていた、鮮やかな黄色い布だけだった。監督さん、ごめんなさい。

3本目は、ドイツ映画『GOOD BYE,LENIN!』。冒頭に、ここで1日目に紹介した旧東地区のテレビ塔が登場。ドイツ映画なんだから出て当たり前なんだけど、「あー! これ、これ知ってる!」的な妙な興奮を味わった(ちょっと大げさか?)。さて、物語は題名が示す通り、東西分断の悲劇を重々しくなく描いている。東ドイツに住むあるファミリーの父親が家族を捨てて西へ。残された母と姉弟がそれを乗り越え生きていくが、ある日母親が心臓発作の末に昏睡状態に…。その後、奇跡的に意識が戻るが、その間に壁は崩壊、東西ドイツは統一されていた。再び心臓発作が起きないよう、息子が考えたのは東西統一を隠すこと。そのために起こるさまざまな騒動に会場内は大爆笑。日本人の私もかなり笑えるシーンがあった。それでいて、終わった後に結構胸にズーンと響く作品だった。(日本公開は?だが、ぜひしてほしい)

ベルリンには、かつての壁の跡が道路に残されている。舗装された道路上を横切る2重のレンガを見つけたら、それが壁の跡だと青木さんが教えてくれた。考えてみれば、ポツダム広場駅を降りてベルリナーレ・パラストに向うとき、いつもこの壁跡をまたいで行くんだよな。

今日は思いきって4本目に挑戦。が、青木さんとは別行動。初めてのドイツひとり歩きになった。観たのはチュニジアのMohamed Zran監督作品『LE CHANT DU MILLENAIRE』。これはパノラマのドキュメント部門に出品されている作品で、Zarzisという場所(雄大な自然が魅力的)に住むさまざまな普通の人々に彼らの生活や夢について聞いている。映像的には面白いと思ったが、なにせ英語スーパーだったもので細かいことはよくわからず…。

いやー、ベルリナーレでは大小さまざまな18ほどの映画館で本当にたくさんの映画が上映されている。コンペ部門の作品より、パノラマやフォーラム部門のほうが実は面白かったりするという声も聞く。とんでもない駄作がある反面、掘出し物も多いとか。ベルリナーレ・パラスト近くにある一般向けのチケットセンターでは、ベルリン子が連日列をなしていて、大作ばかりでなく、いろんなジャンルの作品に行っているようだ。私たちの場合、コンペばかりを追いかけていると、なかなか時間が合わずに行けないことも多いが、明日以降もできるだけ足を運んでみたい。
(今日までの鑑賞本数11本)


『GOOD BYE,LENIN!』

 

 

 

 

 

 


『THE HOURS』

 

 

 

 

 

 

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