今日は待ちに待った『たそがれ清兵衛(THE TWILIGHT SAMURAI)』の上映日。すでに日本で観ている映画だけど、このいかにも日本的な「侍、清貧、無欲」というテーマが外国の人々にどう受け取られるか、本当に興味があった。しかし、青木さんに「せっかくベルリンまで来たんだから、記者会見で質問しなくちゃダメよ!」とプレッシャーをかけられていたので、喜び半分、緊張半分の朝だった。
『たそがれ清兵衛』は、山田洋次監督の初の時代劇作品で、ほんと、しみじみ心にしみるいい映画だ。真田さん演じる清兵衛は、貧しいし、家族の世話で風呂に入る時間もないクサイ侍。そして、武士としての出世よりも家族との暮らしを愛する、今の日本にはあんまりないタイプの男。それが藩主の命令で望まざる同僚武士の首切りに借り出されるわけです。なんか時代劇でありながら、不況の中でつらい現実にいるサラリーマンのお父さんたちの共感を呼んじゃって、「本当のしあわせって何?」と改めて自問自答するお父さん続出。かなりのロングヒットになったのよね。
そんなナイスな映画なもんだから、応援したい気持ち満載。2千人は入るだろうベルリナーレ・パラストがいっぱいになるかどうか、本当にヤキモキした。まるで、わが子の発表会を見守る母親の心境。上映中も、途中で席を立つ人が多かったらどうしよう、笑えるシーンでちゃんと笑いが起きるかしらといろいろ考えて、もう肩凝っちゃった。結局、席は満席になったし、会場が笑いに包まれたシーンもあったし、殺陣のシーンでは、真田さんがジャンプして相手を叩きのめす見事な場面に拍手が起こったほど。あー、良かった!とひとまず安心。
そして、いよいよ私の記者会見初デビューの時間が迫ってきた。ところが! 私の晴れの舞台(?)だというのに、青木さんたら、むかーしから大ファンだった小津映画を観に行くという。そう、今年は小津監督の生誕100年で、世界各国で回顧展が開催される。その皮切りが、ここベルリンなのだ(映画祭の枠組みの中で開催中)。全部で9本上映する予定だが、なかなか時間があわず、やっと見れるということで、青木さんたら「雅子さん、頑張ってねー」と言いながら、心はもう小津映画にまっしぐら。まあ、40歳にもなっていつまでも青木さんに甘えていられないので、気合いを入れて会見場に向った。
さすがに会見場のほうは、ハリウッドスターの時の半分以下(数も熱気も)。来るという話だった宮沢りえちゃんは来れず、会見は山田監督と、舞踏家であり、俳優業は初めてという田中みんさんのみだった。
でも、わたしゃ、ちゃんとやりましたよー! 二人にそれぞれ違う質問をしたんです。まず監督に聞いたのは、「テーマは現代にも充分通じるものなのに、なぜ現代劇ではなくて時代劇で描いたのか」ということ。そしたら監督は、私のほうをちゃんと見て、背景が複雑な現代を舞台に描くのは難しいこと、昔のようにシンプルな社会のほうが伝えたいことがよりストレートに伝わるから…、というようなことを話してくれた。
さらに、田中みんさんへ「舞踏における身体表現のメソッドと、日本の伝統的な殺陣という身体表現とで、アプローチが違うのかどうか」という質問をした。この質問、青木さんの入れ知恵があったので、かなりポイント高かったんじゃないかと思う。だって、田中さんが舞踏家だって知らない人もいたし。彼は、真田さんと最後に壮絶な殺陣のシーンを演じるんだけど、鋭い目と何ともいえないたたずまいが異彩をはなってる。青木さんは15年ほど前に田中さんが暗黒舞踏家として踊っているのを観たことがあるそうで、何でもドーランを体中に塗って全裸で踊る前衛的な舞踏だそう。そういった話を聞くと、確かに、身にまとう空気感が違った。田中さんも私のほうをちゃんと観て答えてくれた。抽象的な踊りと目的に向って動く殺陣は全く違うこと。殺陣は苦手なタイプの動きだったが、一から、長い時間かけてトレーニングして撮影に挑み、今では出てよかったと思っているということだった。
アメリカのジャーナリストからは、なぜ主人公は野心を持たないのかという質問が飛んだ。監督は、主人公が野心を持たず、欲がなく、身の丈にあった慎ましやかな幸せに充足している。だからこそ観客はそのことに憧れ、そういう金銭じゃない豊かさにまだ憧れることのできる自分にも希望はあると感じてくれたんだと思うと話していた。
いやー、記者会見で質問できて満足! いい思い出ができたわ!
今日はこのほかに、スロベニア映画『REZERVNI DELI(SPARE PARTS)』とフォーラム出品作、Li Ying監督の『味(AJI)』を観た。スロベニア映画は、やはり東諸国からの国境越えを助けてお金を稼いでる人々の話。テーマは深刻で、重いが、描き方がかなり地味で物語に入り込み、共感するまでには至らなかった。
『味』というのは、NHKのハイビジョンスペシャル番組で放映されたものを映画として再編集したというドキュメンタリー作品。監督は中国の人みたいだけど日本語ぺらぺら。登場人物は四谷で完全予約制の山東料理店を開いてる佐藤さんご夫妻。奥さんが78歳で、だんなさんが70歳とお年はいっているのに、何かといえばけんかしながらも、夢を持って前向きに生きてる魅力的な人々。すごいのは奥さんが、中国ではすたれてしまった山東料理を広めるために、生まれ育った中国に住みたいという夢を現在進行形で持っていること。清兵衛のように、現状に満足して生きるのもいいけど、佐藤さんのようにいつまでも夢を捨てないで前向きなのも素敵。自分はどうしたいんだろうと、自問自答する私です。
(今日までの鑑賞本数24本) |