早いもので、映画祭9日目。最初の頃の緊張感がやわらぎ、肩の力も抜けてきて、ここ2、3日はゆったりした気分で映画祭を楽しんでいる。そういえば、毎日書くことばかりに夢中で、紹介するのがすごーく遅くなってしまったのだけど…。このサイトの更新を、東京からやってくださっているのは、スタジオポットの佐藤智砂さんです。編集業で毎日忙しいのに、本当に感謝、感謝です。この画面の下のほうに、スタジオポットのメニューがあるので、ぜひぜひのぞいて見てください。
さて、今日までずっと観てきたコンペティション部門のエントリー作品も、いよいよ今日上映の2本を残すのみ。どういう観点で上映作品の順番を決めたのかわからないが、今年は前半に注目度の高いハリウッド作品が集中し、後半は普段はあまり観る機会の少ない映画が並んでるなーという印象を受けた。だからといっちゃ何だが、実は今日の作品もあまり期待してなかったのだ。つまらなかったら寝よう!なんて失礼なことを思っていたのだが、2本とも、寝るどころじゃないほどスリリングな内容だった。
1本目はドイツのOskar Roehler監督の『DER ALTE AFFE ANGST(ANGST)』。
若い夫婦のエキセントリックな愛情物語なのだが、冒頭からしてスゴイ。ベッドの中で不能におちいった夫に対し、赤ちゃんが欲しいのにどうするの!という感じで妻が激しく攻め立てる。夫はカウンセリングを受けていて、当初はセックスレス夫婦の話を社会的に描くのかと思って観ていた。ところが、視点はあくまでもふたりにしかない。お互いの愛情はすごく深いのに、普通の生活を築けないふたりの関係が濃密に描かれる。どうやら夫は不能というより、アブノーマルな性癖なのか、妻ではない風俗の女性とはできるみたいで、そのことが妻にバレて、またもすごいけんかになったりする。何とか夫婦関係が持てたたった1回で妻が妊娠したりもして、言葉にすると陳腐な話と思うだろうが、何ともいえない耽美的な世界が広がっている。夫の職業が前衛(?)演劇の演出家みたいなんだけど、途中、途中で挿入される練習シーンがまたスゴイ。何人もの人々が全裸で立ち、前を見据えたままセリフを言う。もちろん、全身がうつっているのでモザイクなしの全裸がえんえん映しだされる。そういえば、この映画祭の報告でずっと私は裸のことを書いているような気がしてきた。最初のほうでジョージ・クルーニーのホントにわずかな全裸シーン(しかも後姿のみ)を興奮して書いたが、それ以後、コンペ出品作の中で本当にたくさんの全裸、しかも前向きの全裸を見た。そうする中で、ハリウッドや日本とヨーロッパ諸国とでは、俳優が肉体をさらすことの意味、ひいては演技へのアプローチの仕方が違うなぁと、改めて感じ入った。
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それにしても、ドイツ映画は面白い。コンペには、3本のドイツ映画が出品されたが、どれもみな違ったタイプで、どれもみな魅力的だった。
2本目はオーストラリア映画『ALEXANDRA’S PROJECT』。妻から夫への復讐が、思いもよらない方法で行われる緊張感あふれるミステリーだった。ALEXANDRAというのは妻の名前。その彼女が考えた復讐計画ということで、こんなタイトルがついたのだろう。冒頭のシーンでは、絵に描いたような幸せな家族が登場する。その日誕生日の夫に、子どもたちがプレゼントを渡し、夜にはびっくりパーティーをするからね、という朝のシーン。ところが夜夫が帰宅すると、家にはだれもいない。しかも電球がはずされ、電話も通じない。夫はパーティーの計画だと思い、テーブルにあったビデオをセッティングする。それは妻と子どもたちの誕生日を祝うメッセージで、思いがけない計画に喜ぶ夫。ところが、その後、妻だけの告白シーンとなり、しあわせそうだった夫婦の内実があばかれていく。妻はずーっとテレビ画面の中での登場だが、これが私にとっては観たこともない手法で、次がどうなるのかまったく予想がつかず、最後まで目を離せなかった。個人的には妻のとった行動はいくら夫への憎しみからとはいえ、ひどいことだと思った。でも、映画的にはすごく面白い展開で、ぜひとも日本公開してほしい。
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さて、今日は私も映画祭では初めて小津監督作品を観ることができた。もちろん、青木さんも一緒だ。映画は昭和33年に製作された、佐分利信、田中絹代主演の『彼岸花』。人間の暗部を描いた2本のあとに観ると、本当に心が洗われるようだ。客席も満席で、階段に座る人もいたほど。ほとんどが外国人の中で観る経験というのも楽しかった。小津作品に出てくる女優さんは本当にきれい。実物がきれいなのもあるのだろうけど、撮り方も上手なのだと思う。
いよいよ明日は受賞作の発表だ。セレモニーへの参加は限られたプレスしかできないので、私は記者会見や資料で情報を収集するつもり。前に書いたテディ賞の発表は今日行われたが、あると思っていたテレビ放映が今年はなかったみたい。チャンネルをいくら回しても見つからなかったので、こちらも、明日合わせて報告します。楽しみにしていた方、ごめんなさい。
(今日までの鑑賞本数27本)
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