ベルリン映画祭現地レポート スタジオ・ポット

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[2004-02-12(木)]

ベルリナーレ(ベルリン国際映画祭)8日目


text: 青木淑子
aoki@pot.co.jp

評論家ご夫妻、大久保さんと森山さん

ただ今ドイツ時間夜中の1時。先ほど帰宅しました。映画評論家のご夫妻、大久保さんと森山さん達総勢7名で、わいわいおしゃべり+夕飯していたら、あっという間にこんなに遅くなってしまいました。いくら恒例とはいえ、私にはこの原稿書きがあるのに! でも、楽しくて、家に戻る気にはなれなかったのです・・・しかも!! 和食をすっかりご馳走になってしまいました〜!
ありがとうございます+ご馳走様でした、大久保さん+京子さん〜〜〜!!
お礼はラビーンのバウムクーヘンを、一時帰国に持って帰るんでいいですよね〜〜!(←私信)

さて、それではどんどん行きます! なんたって、私は本日再び9時からの映画を見ることになっているのですから、早く書かないと睡眠時間がなくなります!
さすがにだんだん厳しくなってきて、今日など青汁を朝飲むだけでは足りない感じがして、もう1回分を持ち歩いていました! ちょっと喉が痛かったのですが、青汁のおかげでしょうか、もう今はほとんど痛みがない!! 良かった〜〜!!
ということで、早速映画情報に入ります!

「Gegen die Wand」より

1本目は、「Gegen die Wand」(Faith Akin監督)。ドイツ映画です。ハンブルクで生まれた監督は、トルコ人の両親を持ち、要するにドイツで生まれたトルコ人なわけでして、このことは、微妙な意味を持っています。そもそも多くのトルコ人は、「Gastarbeiter」(いわゆる、外国からの出稼ぎ労働者)としてドイツに入って来たのですが、今はそのまま故郷に帰らずドイツで暮らすトルコ人家族が増え、さまざまな仕事についています。ドイツで生まれるトルコ人も多くなりました。そうした新しい世代のトルコ人は、ドイツ語がネイティブで、でも彼らの母国語、つまりトルコ語もできるバイリンガルなのです。監督の視点は、そういうバックグラウンドもかなりあるのではないかな、と思います。今は時間がないのであまりそのことについて書けませんけれども、とにかく内容を書きますと、ドイツで暮らす、40歳のトルコ人男性と20歳のトルコ人女性のお話。アルコールとドラッグに溺れている自暴自棄の男性と、刑務所から出て来て、厳しい戒律のある家族のもとに帰れない女性が、結婚することになるのですが、セックスレスのこの夫婦、歪んだ生活を営むことに・・・。お互いにセックスフレンドもいるのですが、彼女の相手の男性に挑発された夫が、勢い余って暴力を奮ってしまうのでした・・・・。そこからどんどんすごい話になっていくのですが、家族、異国での外国人、夫婦の愛と、とてもインティームな心の問題を、厳しい残酷な現実を通して抉り出します。その手法は、私には決して悪くなく、まぁまぁ面白く見ることができました。登場人物の誰にも共鳴することはできないのですけれど、どこかに「感じるなぁ」と思う部分もあり・・・。それがどうしてなのか、どこなのか、今の私には言語化できないのですけれど・・・。拍手は、とってもありました。指笛ピーピーまであったので、驚きました。

「Trilogia: To livadi pou dakrisi」より

次はお待ちかね! テオ・アンゲロプロスの作品です!! とっても楽しみにしておりました。「Trilogia: To livadi pou dakrisi」(Theo Angelopoulos監督)、ギリシャ、イタリア、フランスの合作映画です。先に書いてしまいますと、私はとっても好きな映画でした。およそ3時間にも渡る長時間映画ではありました。最初は、正直言ってつらかったのです。ほとんど眠りそうになりました。「言葉」を追っていくのが精一杯で、それに集中するあまり、疲れてしまったのです。けれどもその後、突然気がつきました。アンゲロプロス監督の作品は、言葉を追うのではなく、映像を言葉としてとらえれば良いのだと。そう思ったら、靄がどんどん消えてなくなり、私は映像の美を堪能することができたのでした。話はある若い夫婦を軸に、戦争、子供(双子)、家族、時代性と、監督は厳しく社会的視点を持ちながら、その表現というか、手法のアプローチは完璧にアンゲロプロスの「美」なのでした。「旅芸人の記録」から随分時間がたっていますが、大久保さんに言わせれば、「あの時から何ら変わらない」のであり、それは本当にそうなのだと思います。けれども、やはり彼の作品は別格だと思わざるを得ないのでした。あまりにも美しい映像。そこには、ありとあらゆるメッセージと、ある意味小さな小さな希望の光さえ見ることができました。それは、彼の紡ぎだす映像が、光り輝いているからなのだと思いました。悲惨な状態を描いても、決してネガティブではない。さりとて勢いのあるポジティブなのではない。どこか控えめで、でもとても威力のある輝きを感じるのです。衣装の素晴らしさ、自然を捕らえる監督の眼差しの特異性・・・彼にしかできない、その演劇のような、でも決して演劇にはなりえない、完成された映画の世界。長まわし、ワンシーンワンショットのカメラワーク。どうやったのかわからない手法の数々・・・。もう、本当に参りました。かよちゃんも同意見だったのですが、映画評論家のご夫妻、大久保さんと森山さんは、どうやら前から何も変わらないアンゲロプロス監督にがっかりしていらしたようです。それでも私は言いたい! この作品が金熊賞を取ってくれたらいいなぁ、と!!!
あまりに長い作品のため、かなりのジャーナリストが途中退場しました。でも、残った人は、最後まで食い入るように映画を見ていました。最後の拍手は、力強く長いものでした。かよちゃんは、あまりに作品が素晴らしかったので、記者会見に行ったのだそうです。もう、最高だった、と言っていました。いろいろかよちゃんから情報を得たのですが・・・・ごめんなさい! もう頭がめちゃくちゃで思い出せない〜〜〜!!そのうち書かせていただきます・・・・。(あくまで予定です)あ、ひとつだけ。音楽もとても良いと感じたのですけれども、その音楽家の女性も記者会見に来ていたのだそう。監督とのコラボレーションについて、監督は「彼女との仕事は、言葉では言い尽くせない。いわば化学反応のようなものだ」と言ったそうな・・・・。う〜〜ん、すごい言葉です!!

「Lighting in the bottle」より

そして本日最後の作品。コンペ外の映画で、「Lighting in the bottle」(AntonieFuqua監督)。アメリカ映画で、音楽のドキュメンタリーになっています。題材は、ズバリ! ブルース!!エグゼクティブ・プロデューサーが、マーティン・スコセッシ! そして、この作品の制作プロダクションは、ベルリンにあるリバーブ・アングルなのですが、ここはヴェンダースが深く関わっているプロダクションなのです。そのためなのか何なのか、非常に上手いドキュメンタリーに仕上がっていました。最後までじっくり音楽を楽しみ、すっかりのめりこみました。
ブルース好きなら涙が出そうなほどのメンバー!一部を紹介しますと:
Buddy Guy, Angelique Kidjo, Mavis Staples, Natalie Cole, James Blood Ulmer & Alison Krauss, India Arie, Marcy Gray, John Fogerty, Bonnie Raitt, Stephan Tyler &Joe, Perry, The Neville Brothers, Solomon Burke, Chuck D, B.B. King, Mos Def, Shemekia Copeland
等など・・・まだまだ沢山のミュージシャンが、「Salute to the Blus」という名のコンサートを開きました。2003年、2月7日にニューヨークで行われたコンサートのライブをドキュメントしたこの作品、カメラの動きもとても良く、臨場感がたっぷりあり、会場にいなかったことを悔やむのではなく、まるで会場にいて一緒に音楽を聞き入っているかのような雰囲気で見ることができました。私の身体は自然に動き、1曲1曲に感動していました。ジャーナリストの中には、思い余って曲が終わると拍手をする人さえいました。ブルースの魅力をぎっしり詰めたこの作品、私は日本でも多くの音楽映画ファンを魅了すると思いました。

さぁ皆様お待ちかね、つよ子の登場です! つよ子も一緒に夕飯をご馳走になったので、たぶん書けないだろうと思ったのですが、なんのなんの、2時間半寝てから起きてみると、原稿が届いていました! どうぞ〜〜!! 

text: つよこ・フォン・ブランデンブルク
「Pour L'amour du Peuple」より

ドキュメンタリー映画『Pour L'amour du Peuple / I Love You All』監督Eyal Sivan, Audrey Marion フランス映画

う〜ぬ、ヘビーなでも目をそらせられないベルリナーレならではの社会派ドキュメントだわ。ベルリン映画祭では映画館では流れない優秀なドキュメンタリー映画がたくさん上映されるの。一応ジャーナリストの端くれでもあるつよこは、報道とはいったいどうあるべきなのかなぞと、ない脳みそを使ってつらつら考えるに、事実を比較的ストレートに伝えるのが可能なドキュメンタリーの手法にとっても興味がある。映画を作る姿勢はいろいろあるし、勿論ドキュメントでも監督がどのシーンを使うか、どんな音楽をバックに流すかなど編集により、180度違った人物や対象を描くのが可能。
そういった監督の視点を加味していくのがドキュメントを見る醍醐味よね〜。

まず、この作品をフランス人の監督が競作して作ったということにびっくり。監督は、ドイツ人ではない分だけ距離をおいて見ることができたと言っていたけど、このまさに客観性というのがジャーナリズムには必要な一要素だと思う。

この作品は、20年間東ドイツの国家公安局に勤めたある男の半生をフィードバックしたもの。最初は理想国家としてスタートしたが、様々な歪みをはらんだ東ドイツの社会の暗黒面、そして崩壊へと導く社会主義国家制度が、国家組織に属していたものの視点から異常なほどのディテールをもって描かれる。例えば、公共の場など常にカメラで監視状態にあった、公安局のドキュメントや書類の山。内密に行われた家宅捜査、そして常に秘密の公安局員による告発が行われた、誰に対しても猜疑心や警戒心を持たなくてはならなかった事実。「信頼は重要だ、しかし、コントロールはもっと重要だ」は、東ドイツの管理社会を現わした有名な言葉だ。

遅れて映画館に入ったので、たまたま空いている席にすっと座ったけど、映画が始まる前から伝わってくる異様なまでの切迫した雰囲気。隣人がもと東ドイツ市民であることは映画が始まってすぐ確信となった。隣人は時には、嗚咽し、ため息をつき、静かに泣いていた。自分が生きてきた社会の国家組織が行った非人権的行いを内部から暴露される気持ちはどういうものなのだろうか?
個人的にはジャーナリズムには、対象に対するヒューマニズムな視点が必要だと思うのだけど、このドキュメントが最後まで東ドイツのネガティブな面のみに徹していることとと監督が作った史実でないイメージ画像と本物の記録画像の区別がつかない作りになっている点が気になった。(質疑応答で、その点についての質問がでたが、監督はそれについては質問の矛先をぼやかしていた、と見受けられた)

「グッバイ・レーニン!」の成功。壁が崩壊して14年目で、東ドイツ社会の内状や、オスタルギー(東独へのノルタルジー感情)を、ユーモアを通して表現できるようになったことは一つに良いこととも思われるが、グッバイレーニン!にしろ、今回のドキュメントにしろ作り手がみな、西側資本主義のものだけであるのはどうしてだろう?
東ドイツ人による東ドイツのドキュメント作品も見てみたい。

text: 青木淑子
aoki@pot.co.jp

・・・という、今日はけっこうマジなつよ子でした! 再び青木です。

あ、そうそう、大久保さん+森山さんご夫妻の、映画評論家としての金熊賞の予想を、とりあえず伺いました。まだ4本も残りがあるし、エリック・ロメールも見ていませんから、なんとも言えないかもしれませんが、噂では、エリック・ロメール監督の今回の作品は、あまり良くないらしい。ということで、とにかく今まで見た中で、という限定で、予想していただきました。

大久保さん:
「金熊賞は、僕の希望ということでは、ドグマ(デンマークの女性の監督作品、「Forbrydelser」)か、フランス映画の「Feux Rouges」(キャロル・ブーケが出演した作品)だなぁ。」

森山さん:
「私は、実は取材などが入っていたので、今までの作品を全て見たというわけではないのよ。なので、はっきりしたことは言えないけれども、私の趣味ということではなく、一般に考えるとこういう結果になるのじゃないかな、というのは、「Svjedoci」(クロアチアの作品)かしら?」

では、違う意味で映画の専門家であるかよちゃんはというと:
金熊賞 テオ・アンゲロプロス監督作品「Trilogia: To livadi pou dakrisi」
銀熊賞 キム キ ドク 監督「Samaria」

ついでに私の予想(というか、希望)は:
金熊賞 テオ・アンゲロプロス監督作品「Trilogia: To livadi pou dakrisi」
銀熊賞 リチャード・リンクレイター監督作品「Beore sunset」
そして、森山さんと同じく、「Svjedoci」(クロアチアの作品)です。

まぁ、こういうのは、当たらないものなんですけれどもねぇ。とりあえず書きました

今日はこれにてお終い! おやすみなさ〜〜い!

PS:明日かあさって、必ず新聞ネタをアップしますので!! タレント・キャンパスのこと、記者会見に2時間だけやって来たジュード・ロウのこと、ベルリナーレの名物おばちゃまカメラマンのこと・・・。必ず!!

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