ベルリン映画祭現地レポート スタジオ・ポット

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[2004-02-07(土)]

ベルリナーレ(ベルリン国際映画祭)3日目


text: 青木淑子
aoki@pot.co.jp

イン・アー リー

 

メイン会場の客席

インタビュー風景

7日の今日は、息子が前日に友達の家に泊まりに行って留守だったので、これ幸いと朝はのんびりし、青汁だけ作ってささっと飲み、黒パンをお弁当にして8時20分頃ゴー。電車の中で新聞を読んで、ポツダム広場に到着。

「Svjedoci」より

9時からの作品、「Svjedoci」(Vinko Bresan監督)を見ました。
クロアチアの作品で、もちろんというか、なんというか、戦争を題材にしています。でも、視点が違う。これはある意味、ローバジェットを逆手に取って、うまくまとめた映画といえるかも。
ヨーロッパで注目を集めた、Jurica Pavicicsの小説の映画化なのですが、監督によると、そのエッセンスを大幅に縮小し、戦争や、同じ国同士の諍いの空しさ、そしてそれでも明日はやってくる、という希望を表現したかったのだそうです。この小説は、実話であるということで話題になったようなのですが、記者会見で監督は(私、行ったんです、がんばって・・・)、そのように誤解されているけれども、モデルがいるというわけではなく、およそ戦争になれば、同じような出来事があるということで、実際にはあったものの、特定の人物像はないのだそうです。
でも、最後は希望を見出せる終わりに仕上げているため、観客の反応も良く、大きな拍手がありました。話の展開の仕方も、少しずつ過去の出来事がわかるようになっていて、監督がスタッフと共に随分考えた、というのも頷けました。私は嫌いじゃなかったけれど、それにこういった作品こそがベルリナーレらしいのだなって思ったけれど、なんだかどこかに辛い気持ちが残る映画ではありました。それも映画を作る側は、もちろん意図的なのでしょうけれど・・・。

そして、2本目の映画に行く途中、ばったりイン・アー リーに会いました。実は5日にもばったり会ったのですが、彼女はヴィム・ヴェンダース監督の第一秘書。とっても有能で、英語、ドイツ語、韓国語がネイティブで、その他フランス語もできるとか!ドイツの大学で法律を学んだそうで、すごーく頭が切れる才女。
私は前から知り合いで、先日も会合で会ったばかり。その時のお礼を言ったら、あまり時間がなさそうで、ニコニコしているけれども焦っている感じ。ごめんねーイン・アー!! でも、やはり偶然通りがかったパリの荒牧さんをささっと紹介しました。荒牧さん、大喜び! 
(よかったね)そういえば、イン・アーがタレント・キャンパスのカテゴリーで、自分で映画をプロデュースした作品が上映されるのことを思い出し、それは見なくちゃ!といろいろ映画鑑賞の予定をチェックしたら、なんとか11日のスクリーニングで見られそう。そうしたら、イン・アーがすごく喜んで、ぜひ見てねと言って去って来ました。これ、内容を聞くとなかなか面白そうなので、11日にご報告いたします! (ベルリンのインビスの中で、最も美味しいソーセージをさがし求めるストーリーらしい)

「Country of my skull」より

で、2本目。ジュリエット・ビノシュ、サミュエル・L・ジャクソン主演の南アフリカ問題を題材にした作品「Country of my skull」(John Boorman監督)。南アフリカで育った白人のビノシュと、アメリカから取材にやって来た黒人のジャクソン。この二人が、初めのうちは同じ正義を持っていながら相反した考え方を展開しているのですが、徐々にお互いを知ることになり、南アフリカの黒人と白人の溝を二人が体現、そして和解へとつながっていく(かのような)作品。でもねぇ、これがどうも、メロドラマというか、安っぽい感じで、全然面白くなかったです。説得力もないし、強いて言えば役者は一流でしょうが、脚本と監督が良くない感じが・・・。ビノシュは好きなのだけれど、彼女ももしかしたら気に入ってなかったのかも? 彼女もジャクソンもベルリナーレにはやって来ませんでした。記者会見で監督は(これもがんばって行った! でももう行かないかも・・・)、「真実を見つめることは自由(解放)を獲得することになる。そして両者間の和解は可能だということも示したかった」とおっしゃっていましたが、そのようにごり押しにエンドにしたものの、ちょっと無理があったのでは? ビノシュがジャクソンに、「私の肌は、あなたを忘れないわ」とかなんとか言うのですが、あまりにクサいせりふだ〜〜!! 聞いていてこちらが恥ずかしくなってしまいました!
ジャーナリストからの拍手もなしでした・・・・。そういえば、7日の新聞には、何故南アフリカの女優を起用せず、ビノシュだったのか、という質問に、監督はちゃんとは答えられず、恐らく世界市場を意識したからではないか、と書かれていました。それに、アパルトヘイトなど、南アフリカのシリアスな問題をテーマにした作品には、南アフリカの女優は出演するのが(あまりに近い問題なため)無理なのでは、というようなことが書かれていて、ふ〜〜ん、そうなのか、としみじみ。やはり注目されるには、この手の話の場合、スターがいないと成功しないってことなのでしょうかね???

「Country of my skull」より

そして今日最後の映画。「The Missing」(Ron Howaed監督)で、トミー・リー・ジョーンズ、ケイト・ブランシェット主演。1885年のニューメキシコが舞台。メキシコとの国境にほど近い小さな農場で、ケイトが2人の娘と暮らしているところに、謎のインディアン(らしき人)、ジョーンズがやって来るのですが、彼女は彼を、実は自分の父親だと言い、しかも毛嫌いしている。そこから、娘一人がアパッチの集団(若い娘を、残虐な方法で捕まえてはメキシコの人買いに売る)につかまり、一緒になって娘を救おうとするのですが・・・・。というお話ですけれども、これがまたどうも、なんというか・・・。最近見るアメリカ映画ってのは、どうしてこんなに「家族、親子、夫婦、血、家のあたたかさ」などといったキーワードを、これでもかこれでもかと大げさに、しかも保守的に見せようとするのでしょうかね。テロ後のアメリカは、どこか変な感じです、いろんな意味で・・・。とにかく面白くなかった。途中で出たかったのですが、そうなると救われないので、やっぱりたぶんなんとかなるのだろう、と期待しつつ、最後まで見てしまったのでした・・・・。拍手なし。当然でしょう。

ということで、今日は6時過ぎには3本を無事見終えて、さぁ今日はしっかりとマーケットにお買い物に行って、息子の夕飯を作って、などと考えて私の家の駅に着いたら、あらら〜〜、お店が全て閉まっている〜〜! あ、そうでした!
今日は土曜日だったんですね!! もう、曜日が頭からすっかり飛んでしまっていて、わからなくなってしまっていました。土曜日は、遅くても4時くらいまでしか店は開いていません。私の住んでいる地区は、もっと早くて2時がいいところ。全く間に合わず、がっくりして帰宅すると、息子は友達と遊んでいて、夕飯を期待しているではありませんか!! あーもう! 仕方がないので、二人のためにピザのデリバリーを頼みました・・・・。ショック・・・。私は玄米を少し食べて、青汁も作って飲み(これは息子も毎日飲む)すぐに掃除、洗濯を開始!! なかなか大変〜・・・・。映画祭の時は、仕方がないですね・・・。

ということで、お次は皆様お待ちかね、つよ子ちゃんの登場です〜〜!! 今日は会場で会わなかったけれど、携帯のSMSで連絡取り合いました。私はコンペ、彼はパノラマかフォーラムが中心なので、この先会場で会うことも少ないかもです・・・。う〜〜残念!!
かよちゃんも、本当はコンペを見なければならないものの、面白くないものだから、今日などフォーラムの方に行ってしまったしなぁ。でも、会場では映画評論家のご夫妻、大久保さんと森山さんにちょくちょく会うので、明日くらいは一緒にランチでもしてお話できそうです。もう、このお二人はと〜〜っても優しくって、尊敬しているし、大好きなんです。かよちゃんに紹介したら、やっぱりかよちゃんも「わ〜素敵なご夫婦ねー!! いろいろお話を伺いたいわ〜!」と喜んでおりました。恒例の、ベルリナーレ最後の日に一緒に夕飯に行く件も、「絶対に行きましょう!」って大久保さんが言ってくださり、大感激! かよちゃんも誘って、つよ子と5人で行く予定です。いろんな映画のお話が伺えるかも・・・。

さてつよ子ちゃん、どうだったかな、グリーナウェイ監督作品! 監督も来ているようだし、もしかしたら舞台挨拶まであったかも・・・。

 

text: つよこ・フォン・ブランデンブルク

ドキュメンタリー映画「The Nomi Song」監督:Andrew Horn

「The Nomi Song」より

♪アメリカ橋って知ってまぁすかぁ〜♪。昨日、浦島太郎子の話が出たついでに、今日は80年代に流行った兄弟デュオ「狩人」のフレーズからスタート。

違うわ〜!ホントは、♪クラウス・ノミって知ってまぁすかぁ〜♪ではじめたかったんだけど、狩人の存在でさえ危ういかなと思って。(いろいろ気を使っているの、これでも)

ニナ・ハーゲンも真っ青の怒り顔メーク、サリーちゃんのパパのごとくサイドのピンはねヘアスタイル、バウハウスの劇場コスチュームのように背広の肩幅を2mくらい広くしたコスチューム。クラウス・ノミは、マリリンマンソンもキッスもひれ伏す、世界で最もエキセントリックなシンガー、なにを隠そうつよこの最も敬愛する人物の1人。

クラウス・ノミは、もともとドイツ人でベルリンでオペラの声楽を学んだあと、NYに移住。ニューウェーブ全盛の70年代に、その奇抜な外貌と、ベルカント(オペラの歌唱方)を交えた不思議な歌で、NYのアンダーグランドシーンに彗星のごとく現れた。この世のカテゴリー区分の引き出しに入れることができなかったノミは、人からよく他の惑星から来た宇宙人だと形容された。そして、2枚のすんばらすい名作アルバムを残し、83年にエイズでこの世を去った。

80年代に、ノミさまの啓蒙をうけたわたくしとして、彼のドキュメンタリ−映画が上映されるのを今年のプログラムでみてこれは見なきゃと真っ先に思ったものよ。

さてさて、今日の当日いったいドイツでこの映画を観にきてくれる人がいるのかしら?
と懸念していたわたしの心配はまぁったく根拠のないものだったわよ!会場は満員のソールドアウト。「チケットを譲って」と紙に書いて入り口で待つ女の子までいた。あら、あなたも昔聞いたくち?と一瞬でわかるアウトフィットのゲイやレズビアン(と思われる方々)がほとんどなんだけど、あ〜こんなにノミって支持されていたんだ〜とそれだけで目が涙涙(太川陽介の「ルイルイ」じゃないわよ!)した、わたくし。

正直いってドキュメンタリーの作り自体は、単調で山場に欠けるけど、まぁいいわ。ゆ・る・し・て・あ・げ・る。(映画評になっとらん)

ロックとオペラを融合させたノミの歌の2面性が、子供時代に聞いていたマリア・カラスとエルビスの両方からきていることなど、「ふむふむ」と納得する情報が多かった。カルトによるカルトの為のドキュメンタリーね。

「The Tulse LuperSuitcases,
Part II: Vaux to the Sea」より

2つ目の映画は打って変って、ピーター・グリーナウェイの新作「The Tulse LuperSuitcases, Part II: Vaux to the Sea」という長〜いタイトル。なんか世界プレミアみたいで、グリーナウェイ自身も舞台挨拶に来ていてわたくしのすぐ前に座っていた。ベルリン映画祭のダイレクター、コスリックも来ていて、この映画がなんたらこうたらという世界初のえらい手の込んだ技術を使っているとか説明していた。

あのぉ〜、この映画をいったいどう解釈したらいいのでせうか。グリーナウェイの例の画面のいたるところで現象が同時進行していく「どこみたらいいんでしょう」手法は今回完璧に頂点に達しいる。俳優の演技、セリフ、衣装、舞台装置etc隅々にまで手の込んだマイスターピースといえるのかもしれない。しかし、ストーリーがあるようでないようで…。正直いって、英語についていけなかったのよ!だってインテリに輪をかけたアイロニーがばんばん飛び出すクイーンズ・イングリッシュなんですもの。ユーモアの影には文化が潜んでいるから、ドイツでもユーモアを理解するのは厳しかったと思う。そんで、あろうころか、連日の原稿で疲れていたわたくしは、映画の半分くらい寝てしまったのだ。隣の人に肘をつつかれておこされたわたくしは、うかつにもどうやらいびきをかいていたらしい。ふと気が付くと前方に座っていたグリーナーウェイが振り返ってこちらを覗き込んでいた・・・。

グリーナウェイの印象だけど、もうなるほど!って感じだった。中東のアラベスク模様のように幾何学的に緻密に入り組んだディテールを描くだけあって、偏屈神経質英国人もうそのもの。質疑応答の時も、背中に回した手が神経質そうにせわしなく動きまわっているのが気になってしかたがなかった。

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