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[第15章●その他よしなしごと]
8… 敬称の問題
[2005.02.21登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

ちょっとまた脱線。

キョンキョンが交通事故をおこしたみたいで、新聞サイト各所に「小泉今日子タレント(39)を書類送検した」という記事が並んだ。なんだかなー。この「タレント」という敬称もどき。まてよ。先日は「萩原健一容疑者を逮捕」だったっけな。

いずれにしてもこういうの、なんとかならないかなあ。いつも思う。「タレント」ってのは敬称じゃないでしょう。どう考えても。などと考え始めると、こりゃもう迷路に迷い込むわけだ。

じゃあ、「社長」ってのは、どうか。

たとえば社会人になって最初に教えられることのひとつは「社長」とか「部長」ってのは、それ自体が敬称であるから「さん」とかを付ける必要はないということだ。吉岡社長さん、なんて呼ぶと、なんだか場末のバーみたいだ、ちう具合に。

しかし、これも考え始めると、どうもヘンなルールである。社長、部長は感覚的にスムースだが係長になるとどうか。もしぼくが係長という職責にあったとしても、どっかのバーで「いしだかかりちょー」と呼びかけられたら、それは敬称とは受け取らないんじゃないかな。ましてや昨今はわかりにくい職制が多い。グループリーダーとかエグゼクティブアシスタントとか。

「長」が付かなくても「専務」とか「相談役」が敬称なら「備品管理係」も敬称ということになる。これは、またもやもしぼく自身なら、呼びかけられると不快であろうと思う。

いっそ、韓国のように役職にも「様」を付けるというルールの方が明快である。聞きかじりでは、韓国では社長様という言い方が社内的にも社外的にも当たり前だと言う。たしか「様」は「ニム」というんだっけ。だから「首領様」というのはなんもアナクロな呼びかけではないんですね。

「社長」は敬称であるから下に「様」とか「さん」を付けないというルールがあるおかげで、社外に対してなんかいう場合は「社長の中山は外出しております」というような言い方をするべきだ、なんて教育がなされているのがしっかりとした会社だと見なされている。これもなんだかなー。

ひるがえって、社外にたいしては、社内の人間には敬称をつけず、呼び捨てにするというルールはどうか。

ヒダカさんは社外に対しては「いまサワベが申しましたように」と社長のサワベさんのことをこのように言及する。一昔のように、社内・社外が固定的な関係であったような時代ならこの方法は混乱がないのであるが、今はもうそのへんがぐちゃぐちゃだからややこしい。会社を横断したグループで仕事をする場合もある。そうしたときにその10人のなかで2人だけが同じ会社に籍を置く人たちであった場合、その2人だけがおたがいのことを呼び捨てで表現するなんてのだと、どうもカタいな、とか、グループより出身会社に拘泥しているなとみなされる。

ソニーだっけは、お互いに職責で呼び合うことを禁じているらしい。正しい方法である。でもその会社は社外的にはどうしているんだろう。いっそ、社内も社外も「さん」で統一したほうがいいんじゃないか、と思う。

ぼくは下請けで仕事をすることが多いから、長い間、この社内・社外・さん付けルールで困惑し続けてきた。そこで最近はもう人からどう思われてもいいから、みんな「さん」付けで一本化している。ただし戦いモードの時は別で、そのときは旗幟を鮮明にするため、オーソドックスな「身内は敬称なし」をあえて採用することもある。ま、それは例外。

それはそうとして、職責・役職自体が敬称であるというのは、どうもばかばかしい習慣だと思う。

その何だかよくわからない伝統があるうえに、マスコミには「悪者は呼び捨てにするべきだ」という思い込みってかルールが存在し、そのうえ昨今は「悪者であっても人権は配慮すべきである。少なくとも配慮しているというポーズを示すべきである」という小手先のルールまでが付け加わったので、ますますヤヤこしい。

だからキョンキョン(て、もはや呼べないのかなあ)が事件をおこすと「小泉今日子タレント」という奇妙なことになる。「小泉今日子の主演作」という言い方は普通の時には書きうるのであるから、逆に、事件を起こすと敬称もどきが追加されるという妙なことにもなる。

しかも「悪者」といっても、逮捕時点では警察がそう考えているというだけのことにすぎない。法的に黒白が決するのは、裁判の判決が下ってからだ。その判決だって誤審ということもある。逮捕だけでいきなり「悪者」とみなすのは、あまりにもヘンである。大仰にいいたてると、憲法違反である。

ま、だから、ということで、新聞なんかは「日高崇容疑者を逮捕」というような奇妙な言い方を発明したのであろう。記憶では松本サリン事件の河野さんの時からあたりじゃなかったか。これも考えてみたらヘンな表現だ。容疑者以外は逮捕できないのだから、トートロジーであるとも言える。こりゃ単に「人権を考えてますよポーズ」にすぎないんでしょうね。

だいたい、事件報道にあたって被疑者の実名を公表するというのがすでに社会的な罰を与えていることである。それは生活感覚でもあきらかだし、少年や刑事責任を問えない人の事件で実名が公表されないことでもわかる。これも大袈裟にいえば、さきほどと同じく憲法に反している。

ヨーロッパのいくつかの国では、事件報道の際に名前を公表しないという。そんなことを言い出すと、「この外国かぶれが。ジンケンジンケンと言い募って犯罪が増えてもいいのか」と恫喝されたりするのだろうが、この恫喝そのものが実名公開の懲罰性をいいあてている。

ぼくは、原則として事件報道の際の実名報道はやるべきじゃない、と思う。これによって得られる社会的なメリットはほぼないと思うからだ。

「だって、近くにすんでる人が性犯罪者だったら、名前しっとかないと、困るでしょう」

そんなもん、新聞が報道しなくっても、地域生活を送っていればちゃんとわかるって。それに、そのレベルで要求される情報がすべて新聞にのるわけないでしょ。たとえば痴漢は東京だけで年間2000件が立件されている。その中で報道されるのは、たまたま容疑者が警察官だったり、早稲田の教授だったり、どっかの野球部員であるときだけだ。

成人の事件でもそうなのだから、少年事件ではなおさらである。いや、ちがうな。別に少年法うんぬんは別にしても、成人なみに「実名報道はしない」という方向でいいと思うのだ。最近、少年や刑事責任を問えない場合でも実名報道すべしという主張がけっこう勢力を得てきているように思うのだが、これはヘンです。少年も成人の場合と同様に、ではなく、成人も少年の場合と同様に、と考えればいいと思うのだ。

余談だけど(ま、全体的に余談ですが)、このごろの報道はキツいね。名前こそださないまでも、実家の全景をばっちり撮影したりする(そのくせ、画面にちょこっと入るコンビニのロゴにはモザイクかけたりしている)。「名前ださなきゃいいんだろ、オラっ」って姿勢を感じる。ゴロツキ的思考だね、まるで。

しかし、たとえば政治家などの犯罪では実名報道が必要なのではないか、という部分は、ちょっと留保。いるかもしれんなあ。よくよく考えねばならんが。

仮に、社会的な立場によって実名報道が許される場合があっても、逮捕まえは「さん」付け、逮捕の瞬間からは呼び捨て(ないしそれに準じる扱い)ってのは、これまたヘンである。

先にも書いたように、逮捕はたんなる警察あるいは検察の見解にすぎない。

小泉今日子タレントなんて無茶な伝統破りをあえて犯す勇気があるのなら、いっそ、新聞紙上のすべての敬称をとればいいのである。その方が紙面もすっきりするし、文字数も余裕がでてくる。なにもかもを呼び捨てにすればいいだけだ。アメリカの新聞なんてそうなっているでしょ。

だから寒中身の危険を顧みず、濁流逆巻く神田川に飛び込んで6歳の子供を救った「中野区の日高崇(32)に対して警視総監賞が送られた」と書けばいいのである。

新聞でもテレビでも、ニュースで出てくる人は「善悪」にかかわらず全部呼び捨て。これがいいと思う。

ふぅー。やっと「自分の問題」にたどりついた。マスコミでどういう言葉遣いをしようが、ま、オッサン的義憤とかにはかられるものの、それは自分の問題ではない。だいいち、ぼくが何をおらんだところで、世の中変わるものでもない。

自分の問題、ってのは、ぼく自身が書く文章の中での人物の敬称をどうするか。これに長年悩んでいるわけですわ。

故人は呼び捨て。これはすでに確立したルールだから、非常に助かる。「ヘミングウェイはそう書いた」なんて書いても「おー、ためぐちか。えらそうじゃない」って言われたりはしない。

「内田樹は××」ってような表現は、だいじょうぶ。平気で書ける。内田樹さんの著作には感心もしているし、ソンケー申し上げているっていってもいい。でも、一面識もないし、「公表され、それ自身自立しているモノ」としての存在と見ているから、「内田樹さん」なんて書くと、なんだかかえってヘンな気持ち。なんだか自分を詐称しているって感じかな。それでも、そうでいいんかなあという疑問は常にある。

いちばん難しいのは、ちらっとくらいは面識がある、って人の場合。自分の書く文中でどう処理するのか、これはなかなか解決がつかないでいる。

会社名+さん。これはダメッす。相対で使う時以外は。それははっきりしているんだけどなあ。

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