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[第15章●その他よしなしごと]
7… ドジョウじゃないのよウナギは
[2005.02.12登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

年末から一昨日まで、なんだか異常にばたばたしており、あっという間に1月が飛び去っていってしまった。冷静に考えてみると、シゴトの分量でも見込まれる入金金額のタカでみても、決してアップアップとは言えない量でしかなかったのだが、なぜか疾風怒濤で過ぎ去ったような気がする。それらもようやく一昨日落ち着いた。そこで返事もかかずに放置していたメールを処理したりしながら、のんびりとした一日を過ごした。なんだかウララカだなあという気分。その気分のまま、パソを点けっぱなしで散歩にでかけた。

帰ってくると、なぜかキーボードの「J」キーのキートップが外れて、机の下にぶっとんでいる。開いていたエクセルのひとつのセルに「dっさふぁsrgltmdzvtxzfgrjfさxz」というような文字列がごちゃまんと入っている。

このマシンはF12キーを叩くとスクリーンショット(画面の様子をそのまま画像にしたファイル)が撮れるようになっているのだが、そのファイルが3つできている。

ネコのせいに違いない。ネコでなければ不法侵入者か超常現象のどちらかであるが、しかし不法侵入者にしても超常現象にしても、もうちょっと気の利いたことをするはずである。キートップをぶっとばされればぼくとしては不愉快になるのはたしかだが、同じ程度の「悪意」でもって、もっと大きな不愉快をもたらすことはいくらでもある。超自然の存在あるいはドロボーがこんなことをするようになったらおしまいである。なにがうれしいねん、と突っ込まれるだけだ。

ただ、どこでどうやったら、キートップをぶっ飛ばせることができるのか。なんの偶然でそのような結果がでたのか、まるでわからない。だってできないでしょ。キーボードの上に、ネコは座ることはするだろう。そのうえで暴れることもあるかもしれない。でも、それでキートップが外れるのか? 外れないよ。キートップを外すには、ゆっくりとした、かつ、見通しに富んだ作戦が必要になる。

なんだかなあと思いつつも、種々の作業を続行。なんだか処理が重い。再起動をかけたほうがいいかな、その前に、ネコが撮ったとおぼしいスクリーンショットファイル(それはおもいっきり長いめちゃくちゃな名前がついていた)を開こうとダブルクリックした。

だって、あやつはどのような画面を撮影したのか、気になるではありませんか。

するといつまでたっても「ちょっとまって」アイコンがくるくるまわるばかりで、ファイルは開かない。しょうがないなあ、強制再起動だね。

これが悪夢の始まりだった。

それっきりわがPowerBookは立ち上がらなくなってしまった。

電源を抜いて数十分「さます」こともした(経験的には効果大)。電源投入前に静かに祈ることもした(経験的に効果絶大)。それでもまったくだめ。

OSのCDで起動して「ディスクユーティリティ」でみてみると、ハードディスクの内容は見えるのだが、どうやってもそれをマウントできない。「ファットアロケーションテーブル」ってんですか? その部分が壊れちゃったのだろう。

こういう時の定番は、「男らしくフォーマット」である。

ハードディスクをフォーマットして、人生をやり直す。これしかないのだ。え? 
データのバックアップをしてない? だからまいどまいど言ってたでしょお。バックアップはキホンだって。

はい。ワタシはなんども書きました。でも、それは人に言ってきただけで、自分はやってませんでした。

2週間後に、ひとつのデモを人前で行わなければならない。「プレゼン」といってもいいかもしれない。

それはネットワークを介して動くひとつのシステムであって、インターネット上で動くものはちゃんと完成していた。「インターネット上でうごくもの」というのは、ファイルは自分のHDの中にある必要はない。しかし、会場の都合でネットワークに接続できない。だからPowerBookの中に擬似的なインターネット環境をでっちあげ、その中でプレゼンを行うことにした。そのため、システムをローカル向けに書き直した。そのバックアップを全くしていなかったのだ。

これだけはなんとかサルベージしなくちゃならない。そうじゃないと期日までにもういちど同じ作業をやり直さなければならない。おなじことが2度できるとは限っていないし、時間的にもキツい。

暗鬱な気持ちで絶望的な復旧作業に苦戦していると、映画を見て帰ってきたツマ(女は水曜日の映画入場料を理不尽に割り引いてもらえるらしい)が「なんか食べる? ギョウザとか買ってきたけど」

メシ食っている場合でもないんだが、一杯機嫌の彼女につきあって、片手でギョウザとか揚げポテトとかをつまみながらもなんだかんだ。

「まだ直らないの。ヒダカさんに訊いてみたら?」
「うん、さっき聞いた。ディスクウォーリアだったら直るかもしれないって」
「あ、そうそう。ほらさあ、まえにヒダカさんがうちにきたときに、替え歌、教えてくれたでしょお。あれ、なんだったっけ。『飾りじゃないのよ涙は』の替え歌だったよね。あれなんだったっけ」
「しらん。わすれた」
「えー、ついこないだじゃん。やだなあ、ぼけたの? ヒダカさんがその話をしたのは覚えているよね」
「そんなこともあったかな」(キモソゾロだが、否定的な受け答えをするほうが後を引くと思い直して作戦変更)
「地下鉄の中でずっと気になってたんだよね。なんだったかなあ。上着じゃないのよ、……、ちがうなあ」
「カタギじゃないのよヤクザは、とかとちゃうか」
「ばかねえ、それじゃ全然オチないでしょ。そんなのあたりまえじゃない」
「でもあいつは人前で歌なんか歌わないよ」
「あ、ああ、そうだ! 歌わなかったのよ。題名だけ言って。歌って歌ってっていっても『歌えますよ』というだけで、ゼッタイ歌わなかったんだ。でも題名がすご〜かった。『奥歯じゃないのよ前歯は、はんはー』、……、チガウナ」(後で知ったことだが、これは一方の真であった)

爆発しそうになった。

「おれもコップ、ちょうだい」

ーーーーーーーーーーー

翌朝、なんだか昨夜の会話が気になる。時の氏神ってんですか? 新宿へ行ってディスクウォーリアを購入してくる。それですっかり直ればよし、なおらなければ新しく内蔵のHDを買って、HD換装を行う。ぼくの使っているPBのバラシはけっこう困難であるらしいし、その手の作業は非常に苦手だ。

新宿へ何度も往復するのも(距離的に)しんどい。

だったら、POTで作業させてもらえばどうか。

POTだったら新宿にも近いし、工具もいろいろある。ヒダカさんと相談しながら進めていけるだろうし、バラシの難しいところを手伝ってもらえるだろう。

わがままではあるが、その方向で行くことした。新宿でディスクウォーリアとキーボードカバーを購入してPOTへ。もうキートップをネコに外されるのはいやだから、操作性を犠牲にしてもカバーをかけたい。

ディスクウォーリアでも、復旧はできなかった。しかし、そのソフトを使うことで、中身の一部を外付けのハードディスクにバックアップすることはできた。それさえできれば、致命傷ままぬがれたことになる。フォーマットしてもいい。

そこで、ふたたび新宿へ往復して100MBの内蔵HDを買ってくる。ばらしてHDを乗せ換えるのだ。この解体作業が頭に来るほど難しい。ネジも異常に小さいし、なんでここまで外さないとHDがとれないんだというほど、奥にある。

キーボードを外したことで、キートップの下にはいっている無数の髪の毛を、ヒダカ氏がすっかりきれいにしてくれた。かれはこの作業を通じて「キートップ外し」の免許皆伝になったとの由。

作業のかたわら、件の替え歌も再度教えてもらった。それは「ウナギじゃないのよドジョウは」と「奥歯じゃないのよ前歯は」というものであった。歌詞の全曲もちゃんと指導してもらえた。あまつさえ、作業終了後、すき焼きまでごちそうになった。

ながいながい作業であったが、無事復旧。まだまだ環境の全面回復まではいかないのだが、光明は見えてきた。

マジメにバックアップ戦略を再考しなければならないと思った。

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