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[第15章●その他よしなしごと]
26… その世論調査はちょっとズルいぞ
[2006.03.30登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

本日(2006年3月29日)、新聞を読んでいたら、ちょっとズルいなあという記事を見つけた。

「新聞宅配継続 86%『望む』 特殊指定見直し 全国調査」という見出しで、共同通信が週末に行った世論調査の結果を報道している(東京新聞)のだが、これ、ちょっと反則じゃないか、と思った。

今話題になっている独禁法における新聞の特殊指定をどうするかという問題に関してとられた世論調査であるわけだ。昨年末に公正取引委員会が新聞特殊指定の見直しを示唆したことことに端を発し、なんだかその筋で大騒ぎになっている。新聞各社はもちろん、政治家(たとえば総理大臣とか官房長官とか民主党とか)や地方議会(たとえば北海道議会)なんかがこぞって反対を表明しているそうだ。

けれども、国民レベルとしては、どうか。すくなくとも、ぼくは世論調査をしなくてはならないほどの大問題だとは思えない。つーか、素直に考えて公取委のいっている「ちょい時代遅れじゃないん?」という指摘はもっともだよなと思っている。

新聞の特殊指定とは、(1)新聞社が地域や相手によって価格を割り引く (2)販売店が価格を割り引く (3)新聞社が販売店に注文数以上の部数を押し付ける の3点を禁止するという指定だ。

ナベツネさんをはじめ、特殊指定堅持派の方々は、これこそが新聞の内容とか、宅配制度を担保しているものであり、ゼッタイ守らねばならん、とおっしゃっている。しかしなあ、(3)に関しては「押し紙」というセンモン用語もある。言葉があるくらいなら実態もバリバリに存在するということだろう。また(1)(2)に関しては、相手によって契約時にビール券だとか洗剤だとかをどんどん上げたりするし、×ヶ月分はタダでいいっすよ、というような売り方もあるそうじゃない。

まあ、それはいいとしましょう。

ぼくがギモンなのが、特殊指定を堅持することが、どうして宅配制度の必要条件といえるのだろう、ということだ。これがよくわからない。特殊指定は宅配を義務づけているわけではないし、地域や相手による値段の差と宅配というサービスがどのように関係があるかもよくわからない。

まあ、それもいいとしましょう。

この記事を読んで、なによりズルっこいなあと思ったのは、アンケートの取り方についてである。
全国どこでも同じ新聞であれば原則的に同一価格と定め戸別配達(宅配)制度を支える独禁法の「特殊指定」見直し問題を受け、共同通信社が二十五、二十六両日に実施した全国電話世論調査で、宅配制度を「続ける方がよい」との回答は86・6%に達し「続ける必要はない」とする10・5%を大幅に上回った。

また同一紙ならどの地域でも「同じ価格がよい」が73・5%だったのに対し、「価格差があってもよい」は24・2%。特殊指定が撤廃されれば、宅配制度崩壊の恐れもあると指摘されているが、多くの人はこうした状況を望んでいないことが浮き彫りになった。(東京新聞06.3.29)


現在、新聞には宅配サービスがある。そういう状況の中で「宅配を続けた方がいいか、なくてもいいか」と聞かれれば、ほとんどの人は「ま、あってもいいんじゃないの」と答えるのが当たり前なんじゃないか。「宅配を続けるか、それとも値段を下げるか」とかというぐあいに、宅配か、別のサービスかの選択でなければ、あえて宅配廃止すべしと答える人は、実にマレであろうということは、明らかであろうと思う。10%もNOといった人があったほうが不思議なくらいだ。

「同じ価格がいいか、価格差があってもいいか」という設問もそうで、これは新聞じゃなくて、どのような製品について聞いても、同じような答えが返ってくると思う。たとえば「自動車はどの地域でも同じ価格であったほうがいいですか、それとも地域によって値段に違いがあってもいいと思いますか」という設問でも同価格がいいと答える人の方が多いと思われる。

だいたい、もし特殊指定がなくなって、価格の競争が可能になれば、起こりうる価格差の「理由」は、僻地より(運送コスト、販売コストの小さな)都市部で安くなる、とか、長期間の購読を契約したらディスカウントする、というようなものだろう。

「新聞は現在、どれだけ長期間同じ新聞を購読していても同価格ですが、長い期間同一新聞を購読する読者に対して、価格を値引くようなサービスがあってもいいと思いますか」あるいは「配送や販売のコストがかからない新聞社の近くの地域では、新聞が少し安く買えるというサービスがあればいいと思いますか」という質問なら、答えはまったく変わるだろう。

こういう質問をして、見え見えの結果を掲載したあげくに「特殊指定が撤廃されれば、宅配制度崩壊の恐れもあると指摘されているが、多くの人はこうした状況を望んでいないことが浮き彫りになった」。……。この結論はナイんじゃないの。

たとえば、ごみ回収の有償化(ごみ出しに対して従量制で料金を徴収すること)に対する反対意見の有力なひとつは、有償化すると不法投棄が増えるおそれがあるということであるが、「不法投棄が増えてもいいですか」という質問にNOが圧倒的多数だったとして、それをうけて「ごみ回収の有償化を市民が望んでいないことが浮き彫りになった」と書けないのと同じである。

この世論調査は、それを実施し、掲載している新聞自身についてのものである。つまり自分自身に対する記事である。だからこそ、他の分野に対してよりも、慎重かつ公平な切り口が必要なのではないか。

記事はそれに続けて、
調査では、宅配制度や同一価格の是非のほか、新聞について特に重視する点も質問。「記事の内容が良い」を挙げたのが71・1%を占めた。「読者に対するサービスが良い」が12・9%で続き、「価格が安い」は11・8%にとどまった
となっているけど、そりゃそうでしょう。新聞が「安い」と思っている人は少ないと思うよ。けど、それを掲載しているのが、低価格で拡販を目論んでいる(んでしょ)東京新聞であるところが、なんだか面白かった。

ま、世論調査というのはえてして「誘導尋問」的ではあるのだが、今回のはあまりにもあからさまだし、また、返す刀で、世論調査一般に対しての懐疑をますます大きくしたと、ぼくは思う。

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