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[第13章●本の買い方読み方しまい方]
9… 最寄り書店としてのブックオフ
[2004.06.23登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

つづいて同じくポットの佐藤さん。テープを聞き返してみると、かなりリニアに進行していた(話が前後することはなかった)ので、比較的逐語に近い形で起こしてみた。発言単位に刈り込んだりはしたんだけど、それでもずいぶん長くなった。

なんで、この手法を選んだか。それは単に趣味っていうかきまぐれにすぎない。

ながくてどうもすんません。


■佐藤智砂さん……45歳、女性。既婚、二人暮らし。出版社勤務/編集者

※保留音※
「はい佐藤です」

ー石田です。どうもこんばんは。

「どうもこんばんわー」

ーえっと、そういうことなんですけどね。

「うふふふふ」

ーどっから聞こうかな? 本なんですけどね、どれくらい読んでられます?

「えーっとね。すごいバラツキがあるんですよ。忙しいとひとつきくらい何も読まないときもあるし、そうでもないときもあるし。読み出すと月5冊くらいかな」

ーお読みになるジャンルってどんなもんですか?

「今は小説です。ちょっと前はたとえば橋爪さんのとか、うーんと、仕事がらみ。いわゆる人文系っていうんですか? が、多かったんですけど、半年くらいまえから、『もー難しいのはいいや』と思って」

ーえへへへへ。ムツカシーノハイーヤ。

「そお。仕事で読まなきゃいけないのは読むんですけど、楽しみのための読書としては、『ああ、やっぱり小説がいいなああ』と思って」

ーうん。「インストール」とかおっしゃってましたもんね。

「そうですね。あとは「博士の愛した数式」とかね。」

ー(実は先日石田はこの本を薦められていたのであった)いや、あのまだ読んでないんですけどね。で、具体的な書名としてはこれくらい……

「実はこの3週間くらいはぜんぜん読んでないんですけど、えーっとナンだっけなあ。あ、そうだ。これはもう半年くらい前なんですけど、ポットで泊まって仕事をするときに、夜寝るときになんか読むものないかなってポットの本棚をツラッツラツラとみていたら石田衣良の「うつくしい子ども」かな。それがあって読み出したら面白いなあとおもって、それで最近、「娼年」を読みましたね。ちょっといま、石田衣良を続けて読んでるって感じかな」

ーそういう感じですか? えと、ひとりの作家の本を続けて読む……、作家主義っていう感じですか

「うはははは、そうです。その時代が続いていくっていうか。」

ーで、ずーっと読んでその人の時代が過ぎれば次の人に行く?

「そうですね」

ーその場合、その作家が存命の人である場合、読むスピードの方が早いから、読み尽くすと在庫がなくなっちゃうじゃないですか

「うんうん。待つわけですよね」

ーでえ、他の人にモードが行って、そうこうしているうちに新刊がでる。そうするとどうされます? もう熱がさめてるとかそうじゃないとか。

「新聞広告とか、本屋さんに行ってみると「あ、でてんじゃん」とかと気が付くわけですよね。で、買いますよね。そういう作家が何人かいるわけですよね。で、買って、読んでみるとガッカリすることもあるわけですよね。そうすると「おや」って熱がさめて、で、もう一冊くらい読んで「ああやっぱりぃ」と思うと、その人はちょっとこう…恋心がさめて、もうお友達みたいな関係になる」

ーふむふむ。中がよきゃ見てやってもいいかあ、って関係になるわけですね

「そうそうそう」

ー小説読みにとって、気になる作家っていうのはだんだん増えていくわけですから、どっかで卒業していかなきゃ、とっても忙しいことになっちゃいますよね

「うふふ、そうですね」

ー購入形態は、リアル書店ネット書店の比率はどんなもんですか?

「今はほぼ100%リアル書店ですね。仕事で手にいれなきゃって本はアマゾンで買うことが多いんですけど、自分で本は、アマゾンの時代から、じべたの書店になって、なおかつブックオフ時代になりました」

ーふむふむ。アマゾン時代からすぐブックオフ時代になるんですか?

「ううん。アマゾン時代が終わったのは……。私が自由に使えるお小遣いがなくなって。ばかみたいにDVDとか着物とかを買って、消費していた時代があるんですよ。お金つかいすぎて、お小遣いなくなっちゃって、これは自重せねば、と。アマゾンで買い始めると「あ、これもおもしろそう、これもおもしろそう」ってついつい増えていく。で、気が付くとけっこう……」

ーそーなんだよね。ほら「あなたのお買いになった本がナンボナンボで売れます」ってトコ見ると、ぞっとすることありますよね。

「あははははは。で、そんでついつい買ってしまって、DVDも買ってしまうことになるから、しばらくアマゾンで買うのはやめよう、と避けてたんです。で、前は、文鳥堂原宿店があったときは、あそこにいつもコンビニの帰りに寄ってく、用がなくても、あの前を通れば寄ってくという感じの書店だったんですけど、あそこがなくなっちゃったから。ちょっと遠いんですよ。本屋さんに行こうと思ったときに。子どもの城のところの青山ブックセンターか、外苑前のリブロ? か、バスにのって紀伊国屋の南店っていうことになって、遠いっていうか、ふらっと寄るって感じの書店さんがなくなってしまって。そんで、文鳥堂の向かいっかわにブックオフができてて、文鳥堂さんがあったときもブックオフはあったんだけど、その頃はブックオフに入るのが申し訳ないような気がしていて……」

ーはははは。なんで? やっぱ顧客だから?

「んと、あと店長さんがポットと親しくて、わたしはそんなでもなかったんだけど、沢辺なんかよくお話したりなんかして、あと松沢さんの本を揃えてくれてたりして、ポット出版としてよくしてもらってたんで、なんとなく文鳥堂さんの目の前にあるブックオフに入りづらかったんですよ。」

ーなるほどなるほど

「文鳥堂さんもなくなり、あらためてブックオフに行ってみると「やすいじゃん」と。ちょうどお金がなかった頃だったこともあり、で、買い始めた。」

ーなるほど。ハードカバー、文庫って言うと?

「なるべく文庫を買うようにしてるんです。ていうのは、読んだらもう捨てちゃいたいんです。ハードカバーの本って、やっぱり捨てるのがどこかしのびなくって、文庫だったら、もうお風呂でぬれちゃってもいいや、読みたいときに読めばいいや、って思って、読み終わったら、面白かったらだれかに「これおもしろいよー」って。「もう戻してくれなくっていいから」って」

ー人をいいように処分に使っているわけだ

「そうそう。で人に勧めたいと思わないのはそのままボンって捨てたい」

ーゴミ箱に?

「うん。なんかね、チクリとはするんですけどね。燃えるゴミに入れちゃうのは。けどとっといても場所とるだけで、狭い家のなか、どーすんだって感じで、なるべく文庫を買うようにしています。」

ーほーほー。

「でもブックオフって、新刊の書店に比べて、あれ読みたいなと思って探してもないんですよね。で、文庫がなかったら単行本買って、単行本も読み終わったらだれかにあげるか、なければ、捨てる。」

ーじゃあ、もうブックオフだけ?

「いや、そういうわけにもいかなくて。やっぱりないんですよね。読みたいなと思う本が。だから、いまは(新刊書店と)併用、って感じ。ですかね」

ーなるほど。ブックオフにないから泣く泣く定価を払っているって感じですかね。

「ぎゃはは、そういうとちょっと語弊がある。泣く泣くでもないかな。よろこんで払ってますよ。近いから行っているというとこが強いかもしれない」

ーブックオフだからじゃなくって、単に最寄り書店だから行っている、と。

「いまはお小遣いにも余裕が戻ってきたから、文鳥堂さんが戻ってくるとか、ほかの書店さんができたとしたら、またそっちに行くかな。でも、使い分けてるとこもあって、たとえば林真理子ならブックオフで買うかな、とか。それに本屋さんに身を置くのが好きってこともありますね。この空間に身を置いていたい。いろいろな本を実際にみてみたい。手に取ってみたい。装丁なんかも、やっぱり職業柄、気になるし。で、すぐほしいからそのまま買う」

ー図書館利用はどうですか

「しないですね」

ーどうして? 立地的にいえば、一番近い「大型書店」が渋谷区の中央図書館でしょ。

「そうね。でもやっぱりめんどうくさい。返せないから利用しない」

ー今は行けても、2週間後に図書館へいける時間があるかどうかがわからないってこと?

「そう。それに「借りている。返さなければならない」という心理的な圧迫感があるでしょ。遅れると負担になるでしょ」

ー公立図書館って、ひとつきぐらい遅れてもナンもいいませんよ。ぼくもよくオーバーステイしちゃうこと、あるんだけど、カウンターで何も言われません。犯人としては好都合なんだけど、一般市民の立場から「何とか言った方がいいんじゃないか。強くたしなめたほうがいいんじゃないか」ってアンビハレントなことを思う。

「ははははは。」

ー「捨てる」ってことに戻りますけど、これっていつごろから?

「今年に入ってからですね」

ーへえ、それはやっぱりスペースの問題?

「そうですね、スペースのもんだい。なかには捨てないのもありますよ。これはまたよむから……。いやちがうな。とっときたいからとっとくんですね。もういっかい読まなくても」

ーふうん。じゃあ、読み終わったときに運命が大きくかわるわけだ。本にとっては。捨てられちゃうか、殿堂入りをはたすか。じゃあ、とっとく本もお風呂で濡れてたりするでしょ、それでもいい。それでもとっとく。

「いや、違いますね。何ページか読み始めると、そこでわかるんですよ。これはとっときたいな、って。で、扱いが変わるんですよ。予感がするってか。そうすると、いちいちタオルで指を拭いたりして、なるべく濡れないように読んだりする」

ー捨てるようになって、気持ちよくなった?

「うーんやっぱりね、どこかなんか残るんですよ。お風呂で本を読むのも最初、ずいぶん抵抗があった。本をそんなに粗末にあつかっていいのか、っていう小さい頃の教えが……。なんで本を捨てるのに抵抗があったりするんでしょうね」

ーぼくのリロンでは、それはゴミになってないから、だと思うんですよ。ほら、ゴミってのはさ、「価値を減じたもの」じゃないですか。食べ物だったら中身をたべちゃって、あとは皮だけに減じてしまったとか、服だったら、もう時代に合ってるという価値がなくなってしまった、というか。本はその値打ちがコンテンツだとすると、少し汚れたって、まったく価値が減じたということにはならない。だからゴミ扱いできないんじゃないか、ということになっているんです。

「うんうん。そうですよ、きっと。家電だって、まだ動くとかだとなかなか捨てられませんからね」

ーで、読み方。いつお読みになりますか?

「平日はお風呂で読んで、寝る前に読んで、って感じかな」

ーお風呂で読書は100%?

「うん。ほぼ毎日」

ー滞留時間って30分くらい?

「いや30分入ってたらすごく長いと思いますよ。どれくらいかなあ。ほんとは長く入ってたいんだけど、のぼせちゃうというか。15分くらいかなあ。で、お風呂で読んで、あがって、そのまま寝に行って、そこで読むみたいな……」

ーで、具体的にはどのようにするんですか?

「うーんと。まず洋服をきたままお風呂に行くじゃないですか。それでお湯をいれる蛇口を開いて、そこにバンって本を挟み込むんです。それから洋服を脱いで、じゃじゃじゃってかけて、そのまま湯船に浸かって、で、蛇口のとこから本を取り出して浸かりながら読むんです。で、頭とか洗うときには、これは水がかかっちゃいやだな、と思う本は、いちどドアから外へ」

ー放り出す。

「うん。で、どうでもいいやって本はそのまま蛇口のところに挟み込んで、髪やらカラダを洗う。で、また続きを読む、と」

ーなるほど。じゃあかなり本はベチャベチャになりますね。

「いや、そんなにならないですよ。表紙にお湯のしぶきというかがピピってついたりするけど。そんなにならないですよ。気を付けてっていうのかな、おしとやかにお湯をかけると。ふふふふ。」

ーで、そのあとベッドで読む、と。これが平日パターンですね。じゃあ、休日は?

「休日は、読むときは……。うち椅子ってものがないんです。だからぜんぶねっころがって。床の上にねっころがったり、ソファの上、ベッドのうえ。」

ー休日パターンで本を読むときって、飲み物とかあらかじめ用意します?

「すごく完備しますよ。コーヒーを淹れて、灰皿を持ってきて、もうなんにもうごかなくていいようにして、ごろん、としてひたすら読む。」

ーああ、うちではそのやりかたを「おしょーがつ」と呼んでるんです。「あーもー今日は疲れたからおしょーがつにしよう」ってね。食べるものはテンヤモノとかできあいですませて、なにもしなくていいようにして、パジャマかなんか来て、ひたすらごろごろ本なんか読んで暮らす。

「あーまさにそう。休日はわたしもたいていオショーガツかもしんない。ふふふふふ」

ーいいですよね。おしょうがつは。

「仕事にいかないときはもう1ミリも動かないですよ。ビデオをみたり本を読んだりくだらないテレビを見たり……」

ーで、えーっと「完読・併読」についても皆さんにきいているんですけどね。

「どちらかというと併読だと思います」

ーいや、えと、完読と併読は別の競技でして、完読するかどうか、あるいは完読するということについてなんらかのココロの動きがあるのかどうか、で、併読するしないは別のスポーツでして……

「あ、なるほどカン読か。うん。途中でやめます。途中でやめても平気。」

ー完読率っていうかな。読み始めた本で最後までいくのってどれくらい?

「どうなんだろう。半分はいくかな」

ーじゃあ、半分くらいは途中でやめちゃうわけですよね。その途中でやめちゃう時には、いーんだよ。おめーが悪いんだよ。ちゃんと読ませないからって感じ?

「わはははは。うーんと。どーなのかなー」

ー沢辺さんはちょっとヤなんだって。途中でおわるのが、どこか。

「ふうーん。そうかもしれない」

ー人によっては「終われない」って人もいて、くだらなくてもなんでも、斜め読みであろうがとばし読みであろうが、とにかくエンディングロールをみないと本を閉じられないって人もいるみたいです。最後まで読んであーつまらなかった、と。

「小説だと、これつまんないや、これもうイーヤと思っても、そりゃおまえのせいだろう、と思う。で、自分が反省したりとか、こっちに帰ってくるってことはほぼないですね。書き手のせいにしちゃう。でも評論とかだと、読めない私って、て、ちょっと相手のせいにしちゃえないとこありますね。」

ーほんとはおんなじなんですけどね。小説でも評論でも。

「あはははは。なるほどね。でも……。あそうだ。立岩真也のを読んだときは、本のせいにしたな。でも小説のほうが、本のせいにすることはおおいかな」

ーなるほど。つづいて併読。

「あ、そっちの競技ですね。このスポーツは併読派です。最後まで読まないじゃないですか。でも読んだ方がいいかな、と思っておいてあるわけですよね。で、どんどん忘れちゃうんだけど。そういうところに新しい本が入ってくると、そっちを読んじゃう。いまでも群ようこのがあって、竹田青嗣の『哲学入門』というのがあって、あと1冊。なんだったっけな。いつも3冊くらいがあるかな、そういうの」

ーなるほど。でも、それは純然たる併読ってわけじゃないですね。どっちかっていうと、その本はもう読まない確率のほうが高いわけで、いわば現役選手登録だけが残ってはいるが、試合にはでられない、と。

「???」

最後の比喩はすべったかもしれない。

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