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[第13章●本の買い方読み方しまい方]
14… 聞き手の雑感(1)
[2004.07.10登録][2004.07.14更新]

石田豊
ishida@pot.co.jp

本の買い方・読み方・しまい方を知人十数人に聞いてみた。一応、ここで一休み。もうちょっと考えてから第2期の取材を行いたいと思う。で、ここまで話を聞いてきた中で感じた雑感などを。

出版に関してもその流通に関してもまったくの素人であるから、それについてなにかを言うのは無茶でもあるし、不遜でもある。それはわかっちゃいるけど、一人の本好きとして言っちゃう。

2001年の書籍の販売冊数は7億4874万冊だそうだ。日本の総人口は1億2700万人くらいだから、国民ひとりあたり年間6冊弱の本を買っていることになる。2ヶ月に一冊の割だ。この平均に比べれば、ぼくはたくさん本を買っている部類に入る。一連のインタビューで聞いたぼくの知人たちのほとんども、そうだ。

おそらく本の購入に関してもパレートの法則が成り立つのだろう。

ホントのパレートの法則ってのは違う概念だそうだが、人口に膾炙しているのは、2割の顧客が売り上げの8割を担うというヤツ。ここでいうのもそれ。

総販売冊数8割の6億冊を人口の2割にあたる2500万人が購入している。つまり、この上位2割の層では、年間24冊となり、月間2冊の割になる。またまたこの2割を取り出すと、5億冊を500万人が担うことになり、この層は年間100冊、月8冊を購入している勘定になる。

この数字はぼくの生活実感とだいたい符合している。月8冊程度の本を購入している500万人が総売上の64%を担っている。ま、だいたいこんなものではなかろうか。

ぼく自身、この500万人の下層くらいに位置していると考えてよいだろう。8冊というのはこのグループの平均であるから、それ以下でもこのグループの中に入るのだ。インタビューで聞いたほとんどの人もそうだ(つまり取材先はかなりの偏りがあったということでもある)。

以下、この推計が正しいとして話をすすめる。たぶんあってるんじゃないか、と思うしね。

まず、最大の驚きは、月8冊の本を(しかも新刊書を)買っている人が全国に500万人もいるということだ。お仲間がこんなにいるということは、実に頼もしい。自民党員党友だって、全国に140万人しかいないのだ。

しかし、その驚きは、平素感じる不満に直結する。

なんで書店、というか書籍販売業界はこの上得意をダイジにしないか、ということ。

クルマにしても洋服にしてもパソコンにしても、上得意に対しては、手厚い優遇策を行っている。その是非は別にしても、本屋はいくら買っても、ほとんど何もしてくれない。というか、「誰が顧客であるか」も掴んではいない。なにも盆暮れの付け届けをせよ、というわけじゃない。何かくれるのならそりゃうれしいが。

商人として、上得意になんとかしてむくいたいという気持ちがないのが不思議だと思うのだ。

こういうことを出版人とか書店人にいうなら、それは再販とのからみで、とかなんとかと答えるだろう。「ポイントカードの試みなんかもあるんだけどね、でもね」とか。しかし、これは議論がまったく逆転している。顧客に満足を与え、その結果が将来の売り上げに跳ね返ってくるという信念が方針の中心であって、制度とかルールはそれを円滑に行うためにあるはずだ。

再度いうと、何もモノをくれ、というわけじゃない。カレンダーなんてもらってもうれしくない(最近はそれすらくれなくなったが)。くれるのは情報であってもいいし、サービスであってもいい。百貨店なら売り上げ上位2割くらいの顧客は「外商課」が担当する。そういうシクミでもいいだろう。または、前に述べた「立ち読み客を優遇する施策」に対する見直しでもいい。

なによりそういうマーケティングを行うためには、顧客の把握が必要であるのだが、寡聞にしてそういう動きは知らない。少なくとも、ぼくをターゲットにしたそれは経験していない。

書店の取り扱い品目にしても、上得意をダイジにしていないという姿勢が明らかだ。

インタビューでも数人が「本の置き場所」についての問題を抱えていた。本の置き場所がないから本を買わないという意見もあった。これはよくわかる。ウチでも夫婦間のいさかいの何割かはこの問題を導火線にして発生する。

この問題の完全な解消は難しいが、ある程度の対応策はある。書棚だ。偏見であるかもしれないが、本のヘビーユーザーが買う本というのは、四六判、文庫判、新書判が主体になるはずだ。月8冊購入している人の本棚がA4判主体ということは考えにくい。

文庫判新書判は奥行き105〜6ミリ、四六判は127ミリである。にもかかわらず、市販のほとんどの本棚の奥行きは30cmある。家具店にある多くの「書棚」と称する家具は、本以外のものを収納するためのものか、蔵書数が本棚1基分程度のユーザを念頭に開発されたものだろう。大判の本や雑誌も多少はあるからね。

書店の上得意のための書棚は、おのずと形態が違うはずで、そうした商品は家具店より書店で販売するほうが「顧客に近い」ことは想像に難くない。でも、ほとんどの書店では、扱っていないんだよね。

文庫のカバーのウラに結婚相談所の広告を入れるくらいなら、文庫本収納に特化した書棚の広告を入れる方が、よっぽどいい。書店はあのカバーでいくらのキックバックを得ているのかしらないが、書店のコードとかが入っていないことから推測するに、「カバーを無料で提供してもらう」だけのことなんだろう。それだったら、書棚の広告と申し込み欄を印刷する方が割りがよくないか。少なくとも、顧客サービスにつながる可能性が大きい。本を読んでいる人が結婚を希望しているというモデルより、本の置き場所に苦慮しているモデルのほうが自然に連想できる。

ベッドで本を読む人は多い。しかし、ベッドで本を読むための快適な環境の提案というのは、ほとんどない。たとえば、インタビューで紹介した宇田川氏やぼくなどは、隣のベッドに寝ている配偶者から「はやく消灯せよ」という申し入れを受けている。スタンドからの光が無闇に拡散するからだ。

そういう場合には(自分で試していないからはっきりとはわからないが)ナショナルのナイトポイントという読書灯が有効な解決手段になるだろう。これなら、明かり部分は熱くならない(と思う)から、スタンドの光源が熱くてやりきれんという思いをすることもない。明かりの向きが自在に変えられるから、あおむけになった姿勢での読書でもページ面に光を当てることができる。

これも自分で試していないから正味のところはわからんが、電動リクライニングベッドも、読書には有効なはずだ。

言うまでもなく、書店ではこうしたものは販売されていない。一部大型店などで、おもちゃのような読書灯がレジ横に並んでいることもあるが、それくらい。

何がいいたいか、といえば、このことからも、書店のマーケティング姿勢が「上得意指向」でないということが見て取れる、ということだ。「月8冊の本を買う」という上得意の顧客像をつかんでいない、もしくは、すくなくとも、そうした顧客のことを真剣に考えていないということだ。違うかしら。

主たる商品の本の陳列にしてもそうで、過半の書店では、文庫新書は版元別になっている。ブックオフでは文庫は著者名の50音順に各社のが入り交じって並んでいるし、時代小説は時代小説で固まっている。こちらのほうが断然いいとは言わないが、考えているな、という感じはする。ついつい複数買いしてしまう。

新書は番号順になっている。棚の横に吊ってある目録から番号を読み取って検索せよ、というノリなんだろうが、果たしてそのような選書をしている客はどれくらいいるんだろう。それよか「日本史」「動物」といったジャンルで並び替えるほうが、ずっといいはずだ。

もうちょっとお得意をダイジにしても、バチはあたらんだろうと思う。

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たけながえいとさんより
ご意見いただきました

[2004.07.14]

もてなしの心

ほんと、書店はオトクイサマへのもてなしの心に欠けていると思います。
たとえば文庫にしたって、欲しくはないけど新潮文庫のそれとか講談社文庫のあれとか、たくさん買うとその証がもらえますよね。
俺は、スタンプが集まると特製のしおりがもらえる、ってんでもいいと思うんですよ。
気持ちでいいから、お前の店の収入に貢献しているって証をくれよ、ってかんじ。

____

今でも講談社文庫のカバーの端を切って送ると、文庫ボックス、もらえるのでしょうか(石田)

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