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[第13章●本の買い方読み方しまい方]
3… 古稀から始めた読書生活
[2004.06.17登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

今日はぐんと年齢をあげる。

しかし、多国籍軍参加問題ってヘンですよね。「なしくずしに構造が変わってしまわないか、不安です」とかと言っている問題じゃないでしょ。

いわば、アメリカでは「ジャイアンツのキャンプに参加します」と言っていて、日本に帰ってきてからは「いや、宮崎でキャンプするだけのことです。なんも堀内の指示はうけません」と言いつくろっているわけだから、指揮権が確保できるかとか、戦闘地域になったらどうするかということじゃなくって、「ゆーてることがわからんやん」ということだと思う。「どっちやねん」、と。

ま、本の話にもどって……。


H.Tさん……女性、75歳、夫と二人暮らし、主婦

女学生の頃、親友がよく本を読んでいて、まあ、難しいのをよく読むわねと思っていたが、自分は少女雑誌を見るくらいで、ほとんど本は読まなかった。だいいち戦時中でもあったし。結婚してからも、新聞は毎日欠かさず読むが、本を読みたいとも思わなかった。

夫は小説本を中心によく読んでいたし、息子も娘も本好きといってもいい家庭だったが、自分は忙しかったし、テレビの方が面白かった。

70歳になるころ、寝付きが悪くなった。ふとんの中でつまらないこと。たとえば近所づきあいで何か言われたとか、親戚のだれそれの体調がどうこうとか、が思い出され、くさくさしてますます眠れなくなったりしていた。

そんなとき、本箱を見ると、昔夫が読んでいた本が並んでいて、あ、そうだ、本でも読んでみようと思ったのがきっかけで、本を読むようになった。

すでに多くの本は処分してしまっていたが、日本文学全集とかは残っていたので、太宰治とか田山花袋とかを何度も繰り返し読んだ。

本を読んでいると、本の世界の中に引き込まれるから、つまらないことを考えなくてもよい。楽しい気分のまま、眠くなり、本を閉じてゆっくり眠れる。

そんなころ、図書館の味を覚えた。図書館と言っても、自転車で5分くらいのところにある、区民センターの図書室である。

「ずいぶん評判は悪いのよ。みんなここはひどいねと言ってるんだけどね。本はちょっとしかないし、古いしきたないし。365日同じ本だから、もうどこになにがあるか、全部わかるくらい」

いつも3冊借りる。もっとたくさん借りることはできるのだが、5日に1冊くらいが読む速度としてちょうどくらいなので3冊にしている。

借りるのは藤沢周平や池波正太郎のものが多い。藤沢周平の存在を知ったのは、テレビのドラマで、見ていて面白かったから、原作を読もうと図書館で借りたのがきっかけ。それがずいぶんよかったので、つぎつぎと借りて読んだ。区民センターにあるのは全部読んだから、巻末の本の広告や新聞でみたタイトルをリクエストして区立図書館から取り寄せた。

「用紙に本の名前なんかを書いて(区民センターのカウンター)に提出すると4、5日で来ましたよと電話がかかってくるのよ。だからちょっとまてば、区民センターでもどんな本でも手に入る」

池波正太郎も同じような経緯で読み始めた。あとは童門冬二とか。最近の小説家はあまりおもしろくないし、直木賞とかとったのは、予約がいっぱいで借りられない。借りても、きっと面白くないと思う。

「年寄りだから、やはり昔の本がいいのかしらねえ」

ただ、本だけではないのだが、なんでも極端に忘れやすくて困る。読んだ本の内容も、すぐにすっかり忘れてしまう。

「主人に、おまえなんか10冊くらいの本をぐるぐる順番に読んでいればいいんだって言われるんですよ」

つまり10冊の本が一巡するくらいには、先に読んだ本の内容はすっかり忘れているから、ふたたび一巡すればいい、ということ。

「前に読んだ、ということは分かっているのよ。でももういちど読んでみても、ちっとも思い出さない。なんだか、いやになっちゃう」
「べつにいいじゃないですか。楽しいんでしょ。知識を増やすために読んでいるわけでも、仕事のネタを仕入れるために読んでるんじゃないでしょ。ぼくだってずんずん忘れますよ」
「でも覚えてたほうがいいじゃない。その話題が会話の中に出てきても、何も言えないのは残念だし」
「忘れてりゃこそ、そんな蔵書の少ない図書館でもずっと楽しめるんですから」
「それもそうね。そういや、何度も借りている本が何冊もあるわよ」

本は毎日必ず読む。寝る前には30分は読む。ただ、30分以上読んでいると目が痛くなってくるので、それ以上読む場合は、起きあがって、枕の上に本を置き、ふとんの上に座って読み続ける。そうしないと目に悪い。寝ながらよむのは文庫本のほうが扱いやすいから、わざわざ文庫本を借りてくることもある。

昼間も居間で読むこともある。夫が囲碁のテレビとかを見ていると、つまらないので、本を読む。

「ほら、あのひと、このごろ耳が遠いからテレビの音をとても大きくすることがあって、そういうときはうるさいから、本を持って二階に逃げるの」

今読んでいるのは松本清張の「真贋の森」。

「納戸を整理したら主人が昔読んでいた文庫本がたくさん出てきたの。もしかしたら息子が読んでたのかもしれないけど。その中にあったから読み始めたんだけど、ずいぶん面白いのよ。松本清張はいっぱいあったから、これからしばらくは図書館に行かずにすむわね」

ぼくは電話で以上のような話を聞きながら感心していた。それはインタビューでも取材でもなく、森羅万象に話題が拡散する超絶楽しい時間であったのだが、それにしても、実質的読書デビューが70歳というのはスゴいと思った。

若い頃から読書が好きな人でも、目だとか根気だとかのせいで、読書量が激減するか、本を読む習慣を放棄する年齢なのではないだろうか。すべてがすべて、そうだとは思わないが。

着実に月6冊を読み続け、雨の日も雪の夜も読まない日はないというのだから。

なにも「本を読む」ことが偉いと思っているわけじゃない。でも本を読むことを楽しみと考えている中年男にとっては、たいへん勇気がわく話だった。

ま、年金制度がちゃんとなってもらわないとならないが、70過ぎて読書三昧の日々がくるかもと思えば、健康管理でもやっておこうか、という気になる。

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