初めてのライター仕事 [下関マグロ 第15回]
1984年の暮れのことだ。手帳に書きとめた住所と地図を交互に見ながら、新橋にある『とらばーゆ』の編集部にやっとたどりついた。
担当は長崎さんという、僕と同じくらいの年頃の女性だった。テキパキと事務的に打ち合わせが進んでい [...]
高橋名人とカメラ [下関マグロ 第14回]
このシリーズには多くの個人名や会社名が出てくるが、ほとんどは月並みな仮名にしてある。しかし、編集プロダクションの社長につけられた「パイン」という名前は、なんだか突拍子もない感じがするだろう。
それには理由がある。パインと [...]
エロ本の仕事で女の子の路上撮影 [下関マグロ 第13回]
若生出版の柳井が応接室で見せてくれた雑誌は『ムサシ』というごく普通のエロ雑誌だった。まだインターネットもない時代、エロ雑誌というのは、いまから考えられないほど種類があったし、部数もけっこう出ていた。
業界にはまだ余裕があ [...]
こうしてエロ本の仕事をすることになった [下関マグロ 第12回]
今でも四谷四丁目から四谷三丁目にかけての新宿通りを歩くと、ここを3輪の原付バイクで走ったことを思い出す。時期は1984年の秋から1985年の暮れまで。麹町にあるパインの事務所に通っていたのだ。
今でもそうだが、新宿通りか [...]
怪しいニューメキシコの水島 [下関マグロ 第11回]
去年の夏のことだ。千代田区立図書館で本を借りようとしているときに後から「まっさん」と声をかける男がいた。
僕のことを「まっさん」と呼ぶ人間は限られている。本名が増田だから、〝まっさん〟と呼ばれていたが、そういう呼び方をす [...]
放送作家にしてやると騙された [下関マグロ 第10回]
最初に買ったワープロは富士通のマイ・オアシス2だった。高見山がテレビコマーシャルをしていた「ザ・文房具」というシリーズのワープロで、こんなに小さいと宣伝していたわけだが、相撲取りのなかでも巨体の高見山が持っているのだから [...]
無職になり、失業保険をもらうこととなった [下関マグロ 第9回]
雑誌『スウィンガー』の編集長である佐々木公明さんが、電話をくれた。
「増田くんも独身でどこで、ちゃんとご飯食べてないんじゃないの? たまにはウチにきなよ」
佐々木さんは新婚で、同じ会社の女性と結婚していた。だから、僕は両 [...]
北尾トロ(伊藤秀樹)への原稿発注! [下関マグロ 第8回]
広告代理店ハリウッドにいた1984年の夏、僕はけっこう自由にあちらこちらに出歩いていた。
前にも書いたように仕事のひとつは、雑誌編集部を訪れて、オリーブオイルを読者プレゼントのコーナーで取り上げてもらうためだ。
当然なが [...]
イシノマキで逢った人たち [下関マグロ 第7回]
僕の原稿が少し時間的に先に進みすぎてしまった。これでは、読者も少しわかりにくいかもしれないので、僕の原稿も少し時計の針を戻そうと思う。
イシノマキでは、本当に多くの人に出逢った。ただ、僕自身はイシノマキにおいて特異な存在 [...]
小さな広告代理店に入社した [下関マグロ 第6回]
イシノマキの入っているビルのエレベータでのことだ。
「お前、よかったらウチに来いよ」
そう、北関東訛りでしゃべりかけてきた男がいた。広告代理店ハリウッドの社長、葛飾さんだ。僕がイシノマキでなにもすることがなく、クサってい [...]
ライターのギャラについての話〜その1〜 [下関マグロ 第5回]
この原稿は北尾トロと僕が交互に書いているわけだけど、僕自身、北尾トロの原稿を読むのが楽しみである。あの頃は知らなかった新事実というものが、わかるからだ。
北尾トロの前回の原稿にあったイシノマキでのアルバイト料が月に11万 [...]
編集プロダクション「イシノマキ」は天国か地獄か [下関マグロ 第4回]
編集プロダクション「イシノマキ」に籍は置いたものの、いったい何をどうすればいいかまったくわからなかった。
まあ、事情というのは、あとからわかってくるのだが、これは伊藤秀樹(のちの北尾トロ)がイシノマキを辞めたため、その穴 [...]
名刺を作ればライターというけれど [下関マグロ 第3回]
1983年の年末から1984年の正月。僕はひとりで中野坂上のフレンドマンションにいた。スーさんは年末から栃木の実家に帰っていたが、僕は山口の実家には帰省しなかった。理由は、単純に金がなく、電車賃が払えなかったからだ。
部 [...]
初めて出会ったフリーライター [下関マグロ 第2回]
大阪から東京へ来て、雑誌『スウィンガー』を発行する会社に勤務することになった1983年の春。東京駅から中央線に乗って驚いたのは、窓から見える桜の美しいことだ。飯田橋あたりから四谷にかけての線路脇の土手には、桜の樹が植えら [...]
序章 [下関マグロ 第1回]
「せっかく受かったんじゃから、そこへ行きなさい」
母親は、唯一合格した大学に行けと言う。もっともなことだ。僕は、一浪しており、その年に受けた大学もほとんど落ち、たったひとつだけ合格した大学なのだ。しかし、この唯一合格した [...]