2011-10-19
「フリー入帖」とはどういう意味か
ここ二回、日誌当番が回るたびに返品のことを書いてきました。
・機械仕分けでも謎の逆送がなぜ起こるのか考えてみた(追記あり)
・トーハンの返品可否登録)
今回は「機械仕分け〜」の記事で予告していた
「フリー入帖」という言葉について書きたいと思います。
出版営業であれば、一度は体験してそうな会話に以下のようなものがあります。
書店「御社はフリー入帖ですか?」
営業「ふ、ふりぃ?」
私は最初解りもせずに「そうです」と答えたような気がします。ダメですね。
書店が「フリー入帖ですか?」と聞いてくるときは、
十中八九「いつでも返品できますか?」の意味と考えていいと思っています。
細かいこと抜きに返品できるかどうかが書店にとって大切だからです。
しかし、出版は委託商品(新刊、長期)をのぞいては、
注文品=買切が原則と言うか、建前です。
とはいえ、買切と言うことは、
注文した分は売れないまま死に在庫になれば損になります。
そうなると、書店は冒険してドーンと展開するとか、
ちょっと置いてみようかという様子見の仕入が出来なくなるので、
確実に売れるもの以外には慎重になってしまいますよね。
というわけで、ポットもそうですが、
結構多くの版元が「委託・注文問わずいつでも返品を受け付ける」わけです。
売れ残っても返せるわけですから、ちょっと置いてみようとか、
長く置いてみようとか、販売する書店の自由度はかなり大きくなります。
出版社としてもじっくり売って欲しいと思いますから、いつでも返品を受けるとするわけですね。
ではポットは書店に聞かれていることのとおり、
いつでも返品を受け付けているのだから「フリー入帖」なのでしょうか。
私は「フリー入帖ではない」と考えています。
その理由は書店と出版社の間には取次がいるということです。
過去2回で書いたように、返品逆送は
・取次は返品不可品は書店に逆送する
・だが、その基準はよくわからない
・しかも取次によっても違う
ということがあります。
書店と出版社は直接契約しているわけではなく、
それぞれが取次と契約することによって、
本を流通させているわけです。
その契約の中で、少なくとも出版社と取次の契約上は注文品は買切扱いです。
トーハン(出版メディアパル)が出している「よくわかる出版流通のしくみ」にもはっきり書いてあります。
なので、注文品で入ってきたものは逆送するのが契約上は「正常」です。
また、取次はこれまた建前上「いつでも返品を受け付けている」ということは
ないことになっているはずです(だって契約と違うし)。
要するに、出版社がいくら「いつでも返品を受け付けている」と言っても、
取次にとっては契約上の筋として逆送することが正しいということです。
事実ポットの本は逆送されることがあります。
すると、書店が言う「フリー入帖ですか?」=「いつでも返品できますか?」に対して、
まっすぐ「フリー入帖です」と答えると、バッチリ逆送されました!
ということが起こりうるわけです。
なので、私はフリー入帖かどうか聞かれたときは
「いつでも返品・入帖承りますが、取次判断で逆送されることがあります。
なので、もし可能であれば返品の際は尹の名前で返品了解としてお返し下さい」
と答えるようにしています。
最後にタイトルにある「フリー入帖」の本来の意味は結局何かについて、推測。
先にポットは「フリー入帖ではない」と考えていると書きました。
それは、「フリー入帖」という仕組みそのものが別個存在していると考えているからです。
例えば一定以上大手の出版社の場合、点数も部数も膨大な数になりますし、
仕掛け販売は毎月のようにあるでしょう。
そうなると、店頭で毎月自社の本を山積して欲しいわけです。
ルール通りだとその度に膨大な逆送が起こります。
そうすると取次にとって大きな利益が上がるものの、
逆送そのものが大きなロスになります。
そこで、きちんと取次に話を通した上でいつでも返品できる仕組みが、
昔から存在したのではないかと考えています。
つまるところ、書店側から見れば、
「フリー入帖」=「いついかなる時でも返品が可能」
取次、出版社から見れば
「フリー入帖」=「いついかなる時でも返品が可能なように両者の間で納得したもの」
というものであり、大元の意味としては同じ言葉で微妙にニュアンスが変わっているのではないか、と。
そうした中で、出版社はどこでも「フリー入帖」にできるわけではないですが、
書店は「フリー入帖」の本に大抵触れるわけですから、
圧倒的に書店の方が言葉に馴染みがあります。
そうしていくうちに「いついかなる時でも返品が可能」という意味が独り歩きしたのではないか、
というのが私の推測です。
あくまで推測なので、業界の生き字引のような方がいたら、
フリー入帖の謎を教えて欲しいですね。
というわけで「フリー入帖」の謎を考えてみました。
出版関係の方以外どうでもよすぎる話ですが、なんかの参考になれば。