2005-02-19

最終日/「Kinsey」ほか最後のコンペ

この日は、もうほとんど見るものなし。でも、9時に最後のコンペ会場で作品が上映されました。コンペ外だったので、見なくても良かったのですが、それでも一応行きました。

ペトラ(以下P):「Kinsey」
Bill Condon監督作品。セックスに関する研究を大真面目にしている教授の話。アメリカとドイツの共同制作。
 

Kinsey
「Kinsey」
監督Bill Condon

これは、悪くなかったな、こういうことって、大切な気がする。それに主演のLiam Neesonが良かったし。私は彼はいいって思うわ。保守的な当時のアメリカ人との葛藤というか、彼は大真面目で研究しているんだけれど、どうしてもテーマがテーマだから受け入れてもらえないことがある。スタッフとの問題、妻との問題、いろいろなことがあって、でもどこまで彼は自分の信念を貫くことができるのか。そういうことを考えた時、これは悪くない作品だと思ったわ。

淑子(以下Y):私は、テーマは興味深いんだけれども、自分は決してコンサバな考えを持っているとは言わないけれど、やっぱり何か表面的な感じて、あまり面白いと思えなかったわ。
アメリカの作品に、心動かされることって、少ないからね。なかなか素晴らしい作品には出会えないの〜〜。

P:まぁそうね、アメリカの映画って、ちょっと軽いのよ。私にはそう感じるものがありすぎる。そして大仰な内容やしぐさ、笑い。趣味の問題だけれども、なかなか良い作品に出会うのは難しいわね。
その後、私達は少し別行動したのよね。淑子はフォーラムの映画を見たのね。

The Devil And Daniel Johnston
「The Devil And Daniel Johnston」
監督Jeff Feuerzeig

The Devil And Daniel Johnston

Y:「The Devil and Daniel Johnston」
ドキュメンタリーで、パノラマ部門で上映され、監督はJeff Feuerzeig。これはカルトのカリスマ、ダニエル・ジョンストンというミュージシャンのちょっとクレイジーなドキュメンタリー作品。全て英語で、字幕もなかったので、かなり厳しかったけれども、最後まで見て楽しめた。というか、彼の狂喜は、音楽の素晴らしさを見てしまった人間にある。純粋なところもあって・・・。とにかく会場は満員で、みんな途中で出ないし、とても深く見入っていたのが印象的だった。

P:さて、それで20日もまだ映画の上映はあるものの、実質的には19日でお終い。淑子は4時にイッセー尾形さんのインタビューがあったわね。私もご一緒させていただいたけれど。すごく素適な時間だったわ。イッセーさんのお人柄にも触れることができたし、すばらしい経験だった。それにしても、イッセーさんは本当に魅力的なオーラを放っていらっしゃるわねぇ。

Y:とても物静かな感じの話し方で、誠実に一所懸命答えてくださって。すごく素適だった! 私も大ファンなの。でも、なかなか彼のお芝居とかに行くチャンスがなくて。彼は俳優というより、やっぱり特定のジャンルを超越したアーティストね。だから、俳優の中で考えられないけれども、とっても好きなアーティストだわ。
それと、桃井かおりさんもいらしていたけれども、女優さんの中では、彼女が一番好きなの。

P:へ〜〜〜!! そうなんだ。他の女優を知らないから比較できないけれども、やっぱりイッセーさんと一緒にお芝居しているくらいだから、よっぽど個性があるのでしょうね。

Y:それはそう!! すごいよ〜〜!!
記者会見でも目だっていたよね。すごい女優光線バチバチ放っていたね。

P:ドイツの女優のタイプとは違うわね。プライベートの時間でも、あんなに自己主張が強いの?ドイツの女優って、普通で会うといつもみんな一般人と同じ感じでノーマルなのよね。桃井さんは、かなりのハイテンションだったわね(笑)。

Y:キュートだったよね。嬉しそうだったし。ちゃんとベルリナーレに来てくれただけでも嬉しいね。やっぱりそういう心意気が嬉しいじゃない?

P:それはそうね。チャーミングな人だなって思ったわ。イッセーさんには特別なものがあるって思う。やっぱり彼はただ者ではないね。受賞を逃して本当に残念だった。彼の今後の成功をお祈りするわ。

Y:私も!! 3月にミュンヘンとベルリンで行なわれる一人芝居も、とっても楽しみ!早く3月にならないかな〜〜。ペトラも見る?

P:見る見る見る〜〜〜!!

Y:さて、前にも書いたけれども、最高賞の金熊賞は、南アフリカの映画、「ウ・カルメン・イ・カエリチャ」(マーク・ドーンフォードメイ監督 レポートはこちら)が選ばれたわけだけれども、とにかく意外の一言だったわね。

P:着想は面白いけれども、長すぎて映画の面白さは半減していたな。演劇の新しい試みとしてはオーケーだけれど。何も金熊賞受賞しなくてもって感じ。

Y:面白かったのは、どこかの新聞に、「とても残念だったのは、多くのジャーナリストたちが、朝9時に上映されたこの映画を見逃してしまったことだ」ってあったよね(笑)。要するに、皆どうってことない映画だと思ったと。私は最初から無視するつもりもなかったし、ちゃんと見ていたけれど、本当に最初は、カルメンをきれいと言ったり、他の女性をチャーミング・ガールと言ったりするのは、冗談なのかと思ったほど。そういうパロディの映画なのかと思ってしまったけれど、途中でそうじゃない、いたって真面目に描いているんだって思って、本当にびっくりしたわ。そういう意味では楽しめたというか? でも、記者会見ではとてもみなさん真面目で説得力もあり、カルメン役の女性もラブリーな印象があったけれど。南アフリカの現状を考えると、本当に大変なものを皆さん背負った中で、一所懸命に映画を作っているんだなって感じたわ。記者会見だけでも、かなりの映画にできるって思うほど、熱っぽくみなさん、長々と(笑)語っていらしたけれど。今回は、長いのが強かったなあ。

P:私は初めて参加したけれども、ハードだったけれど楽しめたわ。次回があるのであれば、ぜひ他の部門、パノラマやフォーラムもチェックしてみたい。それから、子供映画も楽しみなの。今回は見ることができなかったけれど。

Tao Se
「Tao Se」 松坂慶子
監督Yonfan

Y:そう、20日もちゃんと見ようと思って、3枚もチケットを調達したけれども、忙しかったし、家でもごたごたがあったので、結局諦めてしまったわ。松坂慶子さんの妖艶なお姿も拝見したかったのだけれどもね・・・。う〜〜ん、残念!
まぁ、何でも欲張るのは良くないから、私はこれくらいで丁度いいなって思っているんだけれどもね。

P:そうよ。淑子は十分頑張っているわよ! イッセーさんの取材でも、素適な空気を感じたよ。あのままずっと長くおしゃべりできるといいのになって、日本語がわからなくても感じたもの。

Y:ありがとうありがとう!!(涙)まぁ、毎回思うんだけれども、本当に次回ってあるのかな?

P:あるわよ!! また私と組んで、映画祭にどっぷり浸かりましょうよね!

Y:体力を保たないとな〜〜〜♪

読者の皆様、ばたばたして、一気に日曜日に書き上げたものですので、何かと稚拙なところがあるかもしれませんが、どうぞお許しくださいませ。
読んでくださり、ありがとうございます!
では、もしかしたら、また来年!!!・・・・汗。

・・・

<青木淑子のひとり言・映画祭後記>

とても荒削りでいい加減なレポートで申し訳ありませんでしたが、読んでくださり、ありがとうございました!私は、どちらかというと、最後まで見て(たとえ途中で寝てしまっても、できるだけ途中で出ないように努力して)感想を述べたい方なのですが、ペトラの強烈な個性に吸い込まれてしまい(笑)、映画館で眠ることもなく、最後まで見るか出てしまうか、というはっきりした選択を今回はしました。どうやら私は、強い個性の人の影響を受けやすいのかもしれません・・・。でも、ペトラと一緒に見ることで、ヨーロッパの人と私の考え方の違いなどがあり、それなりに楽しめたと思います。彼女の意見を聞いて翻訳して書く作業は、私の耳にとっては多少厳しいこともありましたが、徐々に快復しているであろう私の身体は、かなり頑張ってくれました。ペトラもとても協力的で、私のことをフォローしてくれましたし、ありがたかったです。

その後、イッセー尾形さんは、他の国の記者にも絶賛されて、「どうして受賞できなかったのか不思議だ!」という意見が多く、1日に15本以上の取材を各国から受けたと聞きました。さすがですね!「太陽」は、今秋日本で公開されるのではないか、という噂も飛んでいますけれども、とにかくぜひ早く公開して欲しいと思います。私も、ソクーロフ監督の他の作品「ヒトラー」、「レーニン」は、ぜひ見てみたいと思っています。知人の話によると、ヒトラーなどはかなり薄っぺらな内容という印象があったそうですが、自分で見てみないとわかりません。「太陽」にしても、ある日本人は、イッセー尾形さんの演技は素晴らしかったけれども、内容は薄っぺらな感じがして面白くなかった、と言っていました。確かに、そう感じる雰囲気はあります。でも、ソクーロフ監督は、この難しいテーマを前にして、かなり繊細に挑んだのではないかな、と思うのです。役者のことを考え、社会的なことを考え、ぎりぎりのところで頑張ったのだと思います。しかも、それは総合芸術としての映画でなければならない。私は素晴らしかったと思います。「太陽」のパンフレットをいただきましたけれど、とてもセンスの良いパンフでした。写真も良いし、ドイツ語と英語で書かれているソクーロフ監督の文章も心に響きました。だから、私は彼の他の作品にもとても興味が湧いてきたのです。

他に、「パラダイス・ナウ」がとても良かったと思います。ペトラにとっては、この作品が一番良かったようです。私は「太陽」、次に「パラダイス・ナウ」。主人公を演じた俳優さんは、始終プレスセンターになっているハイアットホテルの正面玄関で、タバコを吸って人間観察(?)をしていました。よっぽど声をかけようか、とペトラと言っていたんですが、ちょっと勇気がなかった(笑)。ジャーナリストはみんな気づいていたみたいですね。「ほら、あそこにテロリストがいる。」と言っているのが聞こえました。俳優さんはテロリストじゃないんですけれどもね。そういう役をしたということで・・・。記者会見で監督がおっしゃっていましたけれど、キャスティングもすごく難しいと。特に女性が大変で、今回はアラブ系フランス国籍の女優を起用せざるを得なかったそうですが、アラブでそれなりのしっかりと演技できる女優をさがすのは、いろんな事情から厳しいようです。そういう意味では、今回の女優さんはかなり頑張ったと思います。私は違和感を感じませんでした。アラブの人が見るとまた違う印象なのでしょうけれど・・・。

それから、金熊賞受賞作品の「カルメン」ですが、どうか誤解のないように!決して太った方が良くない、と言っているのではありません。そうではなくて、映画を純粋にコンペ作品として見た場合、画面があまりに重く感じられたのです。でも、南アフリカの方がご覧になったら、それは当たり前で、そう感じないのかもしれませんね。私は、たとえ出演者が太っていようが痩せていようが、小さかろうが大きかろうが、それは関係ないと思います。でも、観客である私は、感情移入できればいいなと思って見ているのです。パラダイス・ナウはそれができました。でも、カルメンはできなかった。その違いは何か?私的には、やはり画面が過食気味な感じがするように思えてならないのです。題材も設定も面白いと思ったし、社会的にも意味のある作品だとは思います。でも、あまりに演劇的で、映画的だとは思わなかったのでした。

賞は、審査員の主観で決まってしまうようにも思います。客観的に審査するのはかなり難しいでしょう。今回の審査に疑問を持ったジャーナリストも、(いつものごとく)大勢いました。でも、それは仕方がないことなのかもしれませんね。

個人的に印象深いのは、やはりイッセー尾形さんと桃井かおりさん。尾形さんの、とても誠実なお人柄には感動しましたけれど、その取材の時に、ひょっこり顔を出してくださった桃井さんが、すごく気さくでチャーミングなのには驚きました。大女優で人気者なのに、人懐っこくて、ジョークを飛ばし、明るい気を振りまいてくださいました。その後取材の部屋がいっぺんに華やかな花でいっぱいになったようで、ああ、やっぱり女優さんだなぁ、女優光線で輝いていらっしゃるなぁ、と感じたのでした。記者会見では、「サユリというハリウッドの映画に出演したのだけれど、そこでは出演者もスタッフもみんな一緒にいろいろアイデアを出し合って、頑張ってみんなで良い映画を作りましょうという感じがあったけれど、そのままロシアに行ってソクーロフ監督の現場に入ったら、もう監督の中ではしっかりとしたイメージもあり、カメラもご自分で撮っていらっしゃる。これはもう、監督に身を委ねようという気持ちで、監督を信頼して演技しました。」とおっしゃっていました。とても印象に残っています。

私は、通常は監督で映画を見るタイプです。私の好きな監督の作品が上映されていると、まずそれを見たくなります。他は話題作ですが、時間とお金に余裕があれば見る、という程度。次に出演者に注目して見る、ということになりますが、それはあまりありません。でも、好きな俳優さんや女優さんが出演している映画は、けっこう私の好きな監督の作品ということが多く、それは偶然ではないですね。とても嬉しくなります。

仕事で今まで取材した映画関係者は、圧倒的に監督が多く、特に印象に残っているのは、ヴィム・ヴェンダース、クロード・シャブロール、デヴィッド・クローネンバーグ、ミロシュ・フォアマン、ロバート・ロドリゲスなど。あ、日本の監督も素晴らしかった! 北野武監督や、是枝弘和監督。女優さんを取材することはほとんどなく、今までではコン・リーがとても素適でした。雑誌の特集を組まないと、なかなか取材までにはならないのですけれども、来年もこの映画祭レポートが実現するのであれば、ぜひ一人くらいは取材をして、インタビューの全文をサイトに掲載させていただきたいと思います。個人的には、ヴェンダース監督とお話したいです。ヴェンダースと知り合って、すでに20年以上になりますが、とても尊敬している監督です。例えば、私の友人でフンボルト大学で日本映画を教えているかよちゃんに、専門的なインタビューをしてもらい、その時の写真を私が撮るなどして、皆様にご紹介できたら素適だな、と密かに思っています。実現すると信じて、イメージして1年間この企画をあたためたいと思います。

それではまた!!

来年の映画祭レポートがあるならば、もっともっとパワーアップしたいです。そのためにも、健康一番!もっと元気になりたいと思います。

お元気でお過ごしください。ありがとうございました!

PS:もっと別の角度からの映画祭情報をご覧になりたい方は、少しですが、写真入で映画祭のことを私が書いたサイトがあります。下記のサイトですが、過去の読み物から映画祭情報をご覧いただけます。ご興味のある方はぜひご覧ください。イッセーさんや桃井かおりさんの写真も掲載しています。

オーガニック・ライフ・イン・ジャーマニィ

青木淑子

ベルリナーレ受賞結果:

●金熊賞 「U-Carmen Ekhayelisha」
Mark Dornford-May

●銀熊賞 「Kong Qui」
Gu Changwei

●監督賞 Marc Rothemund監督
「Sophie Scholl-die letzte Tage」

●最優秀主演女優賞 Julia Jentsch
「Sophie Scholl-die letzte Tage」

●最優秀主演男優賞 Lou Taylor Pucci
「Thumbsucker」

●最優秀美術 Tsai Ming Liang
「Tian Bian Yi Duo Yun」

●最優秀映画音楽 Alexandre Desplat
「De battre mon ceour s’est arrete」

●嘆きの天使賞(Agicoa-Preis) Hany Abu-Assad
「Paradise now」

●Alfred-Bauer賞 「Tian Bian Yi Duo Yun」

●ショートフィルム賞 「Milk」
Peter Mackie Burns

●ショートフィルム 審査委員賞 「The Intervention」
Jay Duplass

                「Jam session」
Izabela Plucinska

●パノラマ ショートフィルム賞 「Green bush」
Warwick Thomaton

●子供映画、大賞 「Blubird」
Mijke de jong

尚、日本人の受賞はありませんでしたが、
激励として、Nakagawa Yosuke監督作品
「真昼の星空」がリストアップされました。

このエントリへの反応

  1. ヤマタク・宮台真司・松沢呉一ファンは必見!の映画『Dr. Kinsey』……マッカーシズムという名の”赤狩り旋風”に倒れたセックス研究の旗手……

     きっと、駄作にちがいないと思っていた。フランス映画誌での評価は「まあまあ」といったところだし、予告編を見ても心惹かれることはなかった。今年に入ってから、アメリカで制作された伝記物映画を何本も観て、安易な想像力にいささか辟易していたので、『Dr…

  2. パラダイス・ナウ
    Palestinian Film Looks at Suicide Bombers