2009-02-10
第59回ベルリナーレ 2月9日
今日は早朝、ベルリンに雪が降りました。
でも、写真のように、うっすらと積もるくらい。
雪が降るくらいなので、こちらはずっと暖かく、
帽子や手袋なしで外を歩けるくらいです。
6年前はすごく寒かったのが、うそのようです。
毎日、青木さんと私は、だいたい8時半に会場について、
プレス用のエリアに行って資料をもらいます。
そこには、その日の記者会見のスケジュールや、新聞2紙、
スクリーンなどデイリーの冊子ほか、ミネラルウォーターが置いてあって、
自由に持っていくことができます。
新聞はドイツのものなので、青木さんが読んで、
前の日に見た映画の評判や、その日見る映画の情報について
いろいろ解説してくれるんです。
星取り表が毎日掲載されているのですが、
それを見ると、今のところ、フランソワ・オゾンの「Ricky」、
イラン映画の「About Elly」、ボスニアがらみの問題を扱った「Storm」、
ハートウォーミングなラブストーリー「Gaigante」などが
幅広い評価を集め、「Mammoth」「Little Soldier」などは
賛否両論でした。また、サリー・ポッターの「Rage」は
評価がだれも低かったです。
私の感じでは、まだ金熊賞一押しと言える作品は
出てないように思います。
さて、前置きはこのくらいにして、
今日見た4本を紹介します。
キアヌ・リーヴス見たさに潜入した記者会見の様子も
お知らせしますね。
●新鮮さがほとんどなかった
ラブストーリー「Alle Anderen(Everyone Else)」
ドイツ映画です。
バカンスを楽しむ1組のカップルが、最初は子どもじみたじゃれ合いを
楽しんでいるも、ちょっとしたことで気持ちがすれ違ったり、
また戻ったり、またすれ違ったり…という様子を延々映し出します。
ポスターがちょっと刺激的だったので、
見る前はあらぬ妄想がいろいろ頭をかけめぐったのですが、
まあ、なんてことはない、よくあるラブストーリーでした。
痴話げんかをしては、愛をかわして仲直りし、
「私のこと愛してる?」と彼女が聞くと、彼は答えず、
その様子にいらだつ彼女…。
かといって、派手なけんかをするわけでもなく、
微妙にすれ違っていくんです。
でも、くだらないと言って席を立つほど
不快感を与えるわけではないので、
この2人、どうするのかなぁとダラダラ見続けてしまう、
ソフトな昼メロチックなテイストでした。
何の社会性があるわけではないけれど、
こういった男女間の感情のすれ違いは万国共通のようで、
途中退席する人はあまりいませんでした。
監督は、Maren Ade(写真下右)という女性です。
●イラクからの帰還兵を描いた
アメリカ映画「The Messenger」
イスラエル出身で、「アイム・ノット・ゼア」の脚本家である
オーレン・ムーヴァーマン(写真下右)の監督デビュー作。
イラクで負傷して、長い間病院にいたウィルが
アメリカに帰ってきます。その彼を待っていた仕事は、
イラクで戦死した兵士の家族に、その死を知らせにいくという
メッセンジャー役。
上司のトニーと連れ立って、何件もの家を訪ねるウィル。
伝えにきた彼を悲しみゆえに口汚くののしる家族や、
泣き崩れる老いた両親…、それを黙って見つめるしかないウィル。
そんな心が痛む任務の中で、心惹かれる女性オリヴィアに出会います。
一兵士の視線を通して、イラクに何人もの兵士を送り、
その兵士が死んで帰ってくるという、今なおあるアメリカの現実が
浮かび上がってきます。
その中で、上司と部下の関係の変化や、元恋人とのやりきれない別れ、
新しい恋の行方が、ベタつきのない演出で語られ、
とても質の高い作品に仕上がっていると思いました。
私自身はアメリカのTVドラマ「ブラザーズ&シスターズ」で
このイラクの問題を知り、普通の人々が苦しむ姿を垣間見ましたが、
映画でもこういうテーマが扱われるようになったのだなぁと
興味深く見ました。
ウィルを演じたベン・フォスター(写真上左)も、
上司のトニーを演じたウディ・ハレルソン(写真上右)も
いい味出していました。
ハレルソンはただでかいだけの印象しかなかったのですが、
中年になって、渋さが加わり、初めていい俳優さんだなぁと感心しました。
サマンサ・モートンは好きな女優さんで、ウィルに心寄せられる女性を
演じていたのですが、若かった頃のキュートさが消え、
ちょっと貫禄でちゃって、残念でした。
まあ、うまかったですがね。
●中年の主婦が直面する魂の危機と
新たな旅立ちを描いた「The Private Lives Of PIPPA LEE」(コンペ外)
子育てが一段落した中年の主婦の方々にお勧めの映画です。
私はとっても好きです。ある種のファンタジーですね。
ロビン・ライト・ペン演じるピッパー・リーは、
2人の子どもを育て上げ、裕福で魅力的な30歳年上の夫をもち、
料理ももてなしも上手な完璧な主婦。
その彼女が、ある日、朝起きてみると、
キッチンにチョコレートケーキが食べ散らかされていて、
言いようのない不安におそわれます。
何回かそんなことが続いたある日、防犯カメラに録画された
キッチンの映像を見てみると、なんとそこに映っていたのは
夢遊病者のように動き、ケーキを食べる自分の姿で、
ピッパーは愕然とします。
そして、今まで自分がどんな人生を送ってきたのか、
振り返るのです。
母親を嫌って、母親のような生き方をしたくないと家を飛び出した娘時代。
夫に出会って、結婚するまでの自分…。
子育て、そして、今は娘に嫌われている自分…。
女の切ない人生が描かれるのですが、テイストがユニークなので、
結構笑えます。
出演時間は短いものの、ジュリアン・ムーアやモニカ・ベルッチ、
ウィノナ・ライダーがインパクトのある役で出ているんです。
特に、ウィノナはちょっとイタい感じがしますが、会場の爆笑を誘っていました。
そして、キアヌ・リーヴス。年上の女性との恋の役が多いですね。
今回もぴったりはまっていて、素敵でした。
監督は、レベッカ・ミラー(写真下右)。自身のデビュー小説を自身で映画化したそうで、
この監督さん、父はあの有名なアーサー・ミラー、
夫はダニエル・ルイス。そして、記者会見で見たご本人は、
女優かと思うくらい、美人さんでした。
天はいくつもの才能を彼女に与えたのですね。
まあ、親とか夫とかの七光りとは思えない仕上がりでした。
そして、キアヌ・リーヴスの記者会見に行ってきました。
写真は、記者会見場のハイヤットホテルの裏口で、
スターの入り待ち(昼間の別の日)、出待ちをする人々です。
記者会見場には昨年からライターのカメラ持ち込みは禁止になったそうで、
記者会見の写真は撮れませんでした。
様子をちょっと紹介すると、ロビン・ライト・ペン、キアヌ、監督、
若手の女優2人の計5人が参加。やはり、質問はキアヌと監督に集中して
いましたね。キアヌは、映画とは違って、ほおのあたりからヒゲをはやし、
ワイルドでした。いくつになっても、脂ぎってなくて、素敵です。
●よしながふみのマンガ「西洋骨董洋菓子店」を映画化した
韓国映画「Antique」
Kulinarisches Kinoのカテゴリーで上映された映画で、
22時からの上映に、行ってきました。
これはプレスパスで入れなかったので、7ユーロ払ったんです。
飲食できるところで、早く行けば、映画にちなんだケーキなども
食べられたようです。
この映画のことは、よしながふみ好きな青木さんの情報で
初めて知りました。青木さん宅にマンガもあったので、
夜寝る前に2巻まで読んだんです。中途半端ですが…。
日本では、4月から恵比寿ガーデンシネマなどで
公開するようですね。
日本では、タッキーや椎名桔平、藤木直人などで
テレビドラマ化されたみたいです。
監督は、ミン・ギュドン、主演は、チュ・ジフン。
上映前に、監督と、フランス人パティシエ役の俳優さんの
挨拶がありました。
映画は、半分ストーリーを知り、半分知らない状態で見たのですが、
前半のちょっとコメディタッチの軽い雰囲気が
事件がからんでくる後半はいいあんばいで緊迫し、
どんどんハイテンポになって、引き込まれていきました。
主要キャスト4人を演じる俳優陣が、どの人もはまっていて、
特に、私はチュ・ジフンによろめきました。
青木さんは、パティシエを演じたキム・ジェウクがいいそうです。
韓国では大ヒットしたようですが、日本でも、
またおばさまたちを動員するのではないでしょうか。