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芝居編 10090807060504030201
映画編 10090807060504030201

芝居編09●劇場のバリアフリーとは?バリアフリー化されるべきものは?

●書き手
高島琴美さん
バリアフリーシアター・
ジャパン
]  

先日、テレビで、現実の犯罪を素材にしたクイズバラエティー番組を放送していたのを見た。
いろいろな犯罪を犯した人がどうやってその犯罪を実行したのか、手口が詳細に説明されるのだが、
そのなかで、泥棒に入る人の話が、とても興味深かった。
その人は、鍵を開けたり、窓から忍び込んだり、いろんな訓練を自分で考え出してやっているのだ。
その中に、「寝ている飼い犬の横を通って泥棒に入る方法」というのがあった。
自分の気配を消して、犬の横を通るとのこと。「気配を消す」?どうやって?
その方法とは、寝ている犬の寝息に、自分の息をあわせるのだ、という。
うーーーーん、そうか。それで気配が消えるのか。

息といえば、劇場だ。

昔ある人気俳優が主演の舞台を観ていたとき。
なかなか出てこないその人に、観客席いっぱいの女性は、じーっと待っている。
静かなドラマが進む。やり取りが続き、芝居が進む。
幕が開いてかなり時間が過ぎ、やっと出てきた彼、そしてその一言目のせりふ。
「別に」。乾いた感じの一言。
そのせりふが終わった瞬間、ため息ともつかぬ息が、観客席からいっせいに起き、劇場を包んだ。
「ふー」というか、「ほー」というか、そんな感じのため息が、はっきりと劇場全体に響いた。
観客の多くはある程度の年齢だったし、キャーという感じの声ではないし、
何か声をかけようとしていたのでもなかった。
じーっと待っていた2000人以上の人たちが、息を詰めて待っていた、
ため息が響いたことで、お互いに分かって、緊張が抜けた。
そしてその次の瞬間、みんなが笑った、照れ笑いの声も、また響いた。

で、本題。
劇場のバリアフリー化というとき、一番重要だと思うのが、
「何をバリアフリー化するのか」ということ。
私は、こんなふうに思います。

●携帯電話の音が壊すものとは何か

劇場で、コンサート会場で、携帯電話が鳴る。これが、ぜひとも避けたい事態であることは、
観客、主催者、アーチストに共通に理解されている。
携帯電話の音が鳴り響かないため、主催者側は場内の注意喚起アナウンスなどに心を砕いている。
さて、では、その携帯電話の音は、いったい「何を」壊すのだろうか?
基本的に、携帯電話の音によって、せりふや演奏が聞こえなくなることが問題なのではない。
「コンテンツの内容が観客に伝わらないこと」は携帯電話の音問題の本質ではない。
静かな会場に鳴り響く携帯電話の着信音が壊すのは、
「会場を満たしている、異空間としてデザインされた呼吸・空気」である。

●異空間としての空気とは、たとえばこういうことだ

緊迫した演技者の演技とその呼吸に、観客席は固唾を呑み、水を打ったような静けさが空間すべてを満たす。その呼吸はステージの上にも伝わり、演技者と呼応する。そして、静けさが破られる瞬間が訪れ、観客は演技者とともに、驚き、泣き、笑う。すばらしい演奏が行われるときには、観客席から掛け声がかかり、拍手が起き、感動した観客は立ち上がって演奏者をたたえる。スポーツを観戦しているとき、大きなホームラン、芸術的なゴール、思いがけない展開やファインプレーに客席全体が沸く。観客の期待がこもった応援、拍手と歓声に選手は緊張し、力づけられ、それにこたえるプレーをする。
そして時には、冷ややかな空気が会場全体を包むこともあるだろう。

●「観客席という現場」に足を運び、体験するということ

それは、単に、「作られたプログラムが先にあり、それを理解すること」ではない。
現場で起きるすべてのことを感じ、観客席からも発信し呼応し、ともに現場の呼吸・空気をつくりだすことである。

劇場などの集会施設に到達し、内容を理解し、呼吸・空気の形成に参加する。そのすべてが、バリアなく、すべての人に開かれている。
これが、バリアフリー化されるべきことがらの本質である。

   
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