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映画編 10090807060504030201

映画編06●見えない人と一緒に映画を観る方法 その1

●書き手
稲葉千穂子さん
City Lights

さて、今までご紹介した視覚障碍者の方々の意見を読んで、目が見えなくても「映画館で映画を観たい!楽しみたい!」と思っている人たちがたくさんいらっしゃるということは、よくおわかりいただけたと思います。

ならば!ということで動きだした City Lights ですが、見えない人と一緒に映画を鑑賞する方法とは……?と、みなさん疑問に思っていらっしゃると思います。
それをこれから説明していきます。それは大きく分けて2つあります。

1つは映画館に一緒に観にいって、隣で「こそこそ」場面を説明する方法。
もう1つは、セリフと場面説明(属にいう副音声・音声ガイド)の朗読MDを作っておいて、映画館に持ち込み、
見えない人にはイヤフォンでそれを聴きながら鑑賞してもらう方法です。
まず、前者から説明していきましょう。

「こそこそ」説明というと……「ニュー・シネマ・パラダイス」で、盲目になった映写技師のアルフレードが奥さんと映画を観ているシーンでもやってました。
覚えてますか?奥さんがアルフレードの耳元でささやきながら、シーンの説明をしているんです。
あと・・最近だと、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」ですね!
目が見えなくなってきたセルマ(ビョーク)がキャシー(カトリーヌ・ドヌーブ)と映画館で、大好きなミュージカル映画を観ているシーンがありましたね。
セルマの手をとって、キャシーが映画の中のダンサーの動きを、指でなぞって教えてあげたりしていました。
City Lightsに入会を希望するボランティアさんって、結構この「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に影響を受けて、「私もキャシーになりたい!」って言う方、多いんですよね。(笑)
でも、あれは「こそこそ」ではなく、普通の声で説明しちゃったために、前に座っている観客のおじさんに怒鳴られてましたね……。
そうです。それを気をつけなくてはなりません。
周りのお客様の迷惑にならないように、「こそこそ」とやるのが基本です!

この方法は、公開中の邦画、アニメ、日本語吹き替え上映の作品を観にいく時に使います。字幕版の洋画では無理です。
さすがに、字幕を全部、その場で「こそこそ」読むわけにはいきません。
一緒に鑑賞している晴眼者が、もう映画鑑賞どころではなくなってしまいますし、サポートされている視覚障碍者の方も、ここまでやられると心苦しいですものね。
それに、見えない人に「楽しませてあげる」に徹するんではなく、City Lights的には、「一緒に映画を楽しむ」っていうスタンスで行きたいですからね。
こういう風にいうと、ベテランボランティアの人から批判の声を浴びるんですが・・
「ボランティア」の考え方についても、一言もの申したいですね。
まあ、それは追々ということで・・

さて、City Lightsでは、この「こそこそ」サポートで、今年の夏「千と千尋の神隠し」を観にいきました。
某映画館に団体で予約をして、14名ずつ、2日に分けて行きました。
盲導犬の受け入れが心配だったので、映画館の方に聴いてみると・・「3匹以内なら許可します。」とのお返事。4匹以上になると、周りのお客様がびっくりされるので・・という理由です。
3匹も4匹もそんなに変わらないんじゃない?という突っ込みは・・
今は、置いておきましょう。
まあ、その時は盲導犬同伴の方が2名だったので、許可をもらって堂々と映画館に乗り込みました。

そうそう、映画館には障害者割引というのがあるんですよ。
通常1800円のところ、障害者と同伴者はいつ行っても1000円で映画が観られます。ほとんど全部の映画館が障害者割引をしています。
City Lights の視覚障碍者の方々は、City Lights に入会するまで、このことをみんな知りませんでした。
これはなんとも、もったいないことです。


さて、さて、場面説明の話に戻ります。
その時は、観にいく作品があの「千と千尋の神隠し」ということもあって、もうすでに観てしまった晴眼者のメンバーがいたので、パンフレットを参考に、ネタばれしない程度に、舞台設定とキャラクターの容姿説明をしてもらい、簡単なあらすじも事前にゆっくりと聴いてもらいました。
がちがちの説明だけだと眠くなってしまうので、クイズ形式も用いてやりました。
熱心なメンバーが、事前説明の演出をしてくれたおかげで、鑑賞を待つわくわく度は最高潮に達しました。


やはり、当日映画を観ながらその場で説明する「こそこそ」サポートだけでは、全然足りないですからね。
特に、ああいったアニメ映画ですと、スピードも早いし、アニメの世界だから日常生活からは想像しにくい場面もいっぱい出てきますので……。
映画館に行く前に、予備知識は必要です。
まぁ、これも人によってでしょうが、初めて観て、自分の想像で楽しみたいという方もいらっしゃるし。
逆に、小説が映画化された作品だと、点訳本や録音図書を利用して、原作の本を読まれてから映画館にいくようにしている視覚障碍者の方もいらっしゃるようですし。
かえって、初めてみる晴眼者より、読書家の視覚障碍者の方が詳しいぐらいです。


さぁ、事前にキャラクターや舞台設定もインプットされたことだし、いざ鑑賞です!
「こそこそ」サポートは、基本的にマンツーマン体制をとります。
晴眼者と視覚障碍者が交互に座るようにして、いつでも気になる場面については、隣の人に聞けるように座ります。
幸い、その頃は夏休みだったので、子供がギャーギャーわめいていたこともあって、「こそこそ」はそれほど気にせず鑑賞できる環境でした。これは好都合でした。
大体アニメ・日本語吹き替えは子供向けですからね。環境としてはやり易いです。
シリアスな邦画だと、「こそこそ」を一層意識するか、すいている日をねらって行くか・・ですね。


難しい「こそこそ」サポート

「こそこそ」サポートをするボランティアさんは、誰もがはじめは戸惑います。
気のきいた説明の言葉が、口をついて出てきません。
何ていったら伝わるだろう……と頭を悩ませていると次のシーンに移ってしまう。
自分の言葉次第で、印象が変わってしまうと思うと、本当に悩みます。
「あぁ、わたしにもっと言葉の引き出しがあったら……」
「古舘伊知郎ばりに、言葉があふれ出てきたら……」
こんなことを思って、「こそこそ」サポートをする度に反省します。
でも、このジレンマが自分を成長へと導きます。

難しく考え過ぎるのもよくないです。
「一緒に楽しみたい」と思えば伝わります。
言葉にしなくても、隣で観ている人の「気」みたいなものが伝わるはずです。
これを過信して、説明を甘んじでもいけませんが……。
お部屋で1人でみるビデオと映画館で映画を観ることの大きな違いはこれですよ!
映画館は、たくさんの人の感動の「気」で充満しているのですから!
共有体験になるのです。
だから、上手な説明ができるかどうかより、まず一緒に行くことが大事だと思っています。

自分の説明の不甲斐なさに打ちのめされていても、パートナーの人から
「説明があったからわかったよ。」とか「少しの説明でもあると全然違うよ!」
とか「説明なしではここまで楽しめなかったよ。」と言ってもらえると、本当にうれしいです。

そして、何よりも終わってからみんなで話題を共有できることが楽しいです。
その日も、映画を観た後、喫茶店に行って「カオナシはさぁ……」とキャラクター分析を楽しんだり、「釜じい、いいキャラだねぇ。」と言い合えること。
それが、職場や別の友達ともできたらいいじゃないですか!

また説明が足りなくてわからなかったところを、お互いに確認しあえるのもいいですね。みんなで話していると、パートナーの説明の批評も面白おかしくできるのでいいです。
言葉1つでこんなにイメージが変わってしまうんだぁということも、意見交換を通して納得できます。
中高生のボランティアプログラムにも、取り入れてみてはいかがでしょうかねぇ。
生徒の国語教育にもなりますよ!絶対。

こうやって話してみると、見えている晴眼者であっても、いかにセリフを聴いていないか、いかにシーンを見逃しているかがよくわかります。
映画をより深く観る訓練になりますね。


お互い見える人同士で映画を観にいって、ここまで話がはずむでしょうか?
ここまで、いろんな発見ができるしょうか?

これは、目が見えれば誰でもできるボランティアだと思います。
せっかく障害者割引もあるわけですし、みなさんも、目の不自由な人を映画館に誘ってみてはいかがですか?

その後 City Lights では、秋に「陰陽師」をこの方法で鑑賞してきました。
そして、冬の目玉は・・そう、話題沸騰の「ハリ−ポッタ−と賢者の石」
(日本語吹き替え版)を観にいきま〜す。楽しみだなぁ。わくわく。


次回は、少しもう1つの「音声ガイド」サポートの方法についてお話します。

   
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