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芝居編 10090807060504030201
映画編 10090807060504030201

芝居編04●劇場の観客席における多様性の維持について

●書き手
高島琴美さん
バリアフリーシアター・
ジャパン
]  

「障害者にやさしい社会はみんなにやさしい」という言葉は、誰でも一度は聞いたことがあると思う。
 
 でも、それは、いくつもの誤解の上に立ってさらに、考えることを停止した言葉であるか、あるいは非常に深い意味を持つので、多くの人に理解されにくい言葉であるかの、どちらかであると思う。『障害者にやさしい社会はみんなにやさしい』という言葉の意味を、より正確に書きなおすと、こんな感じだと思う。
 
『ニーズがそれぞれ違う、多種多様な障害を持つ人すべての人が生きやすい社会、つまり、障害者にやさしい社会は、全人類、つまり、程度や種類の差こそあれ、生きることに困難をもっている、この世に生きる人すべてにやさしい』
 これなら納得できる。
 視覚障害者のための誘導ブロックが、車椅子使用者にとっては、移動の困難を増加させるというのは、事実である。障害の種類によって、必要なサポートは違うし、場合によっては、他の障害を持つ人にとって、使いにくいものになる。しかし、これは、考えてみれば、至極当然のことなのだ。また、障害のある人にとって使いやすい場所が、その障害がない人にとって、同じように使いやすいか?というのは、疑問だ。
 この点は、今後、十分に考えられるべきポイントだと思う。
 
 今、バリアフリーシアター・ジャパンでは、「高齢者・身体障害者等の利用を配慮した建築設計標準」の今年度内改訂に向けた作業をすすめている国土交通省に、以下のような2点を盛り込むことを提唱しており、省内では、具体的な検討がされている。
 この「建築設計標準」は、「高齢者・身体障害者に配慮した設計を進める際の留意点、参考になる事項を国土交通省の立場で示すもの」であり、今回の改訂は、平成6年のハートビル法制定時以降初めてのものになる。この2点を盛り込むことができれば、劇場のバリアフリーが大きく進むとバリアフリーシアター・ジャパンは考えている。
 
以下は、その内容です。
 
●「高齢者・身体障害者等の利用を配慮した建築設計標準」の改訂に、
1.日本語字幕・音声ガイド操作オペレーターが使用する「バリアフリー操作室」の設置
2.車椅子使用者が、ロビーも含めた劇場内を自由に移動できるハード整備
の2点を盛り込むことを、提唱します。
 
●「劇場にいること」のすべてを楽しめることが、劇場のバリアフリーです。
 劇場に行く…何を見に行こうかな?誰と行こう?必要なチケットを用意して、その日を楽しみに待つ。
 劇場にスムーズに着き「いらっしゃいませ」と迎えられ、スムーズにチケットもぎりからロビーに入り、飲み物を飲みながら、パンフレットやこの日の公演のために用意されたさまざまなグッズを手に取り、これは!と思ったものを買う。
 偶然出会った知人とおしゃべりをし、開演のベルを聞き、他の観客と同じように、自分の席に着く。
 座席は、自分で選択できる。観客席のざわめきや緊張感を楽しみながら、周りの観客といっしょに、開演の時を待つ。目が不自由だったり耳が不自由であっても、公演の内容を十分に堪能して、感想は心の中に溢れるばかりに。
 公演が終わり、「楽しかったね」「来てよかった」と満足し、同行した友人たちと、ビールでも飲みながら、感想を話し合う。
 これが、観客の楽しみです。
 そして、「ああいう演技なら自分でもしてみたい」「今度コンサートやるんだ、来てくれよ」「車椅子で入れる照明操作室で、照明の仕事につきたいなあ」「(笑)そのセンスではちょっとねえ…」と、話題は尽きず、夜は更ける…。
 これが、「普通の観客の、普通の劇場の楽しみ方」のはずです。
 これらの「普通の劇場の楽しさがすべての人の楽しみになること」が、劇場のバリアフリーです。
 ただ「客席へ到達できること」だけでは、劇場のバリアフリーではありません。
 
●劇場のバリアフリーのために
1.日本語字幕・音声ガイド操作オペレーターが使用する「バリアフリー操作室」の設置
 
バリアフリー操作室とは、「操作オペレーター等が使用する部屋」です。
調光室や音響室、映写室などの、必要不可欠なハードがあります。
同じように、「バリアフリー操作室」は、視聴覚に障害がある観客が劇場を楽しむために、必要なハードなのです。
 
このようなハードがあれば、以下のことが可能となります。

・音声ガイド、日本語字幕の操作室として、プロのスタッフの使用
・同行したガイドヘルパーによる、観客席の視覚障害者へイヤホンガイド
・劇場付きの、音声ガイド、日本語字幕ボランティアの育成
・非常災害時の音声ガイド、日本語字幕を使用した避難誘導
「バリアフリー操作室」の条件
1.音響室、調光室と同様に、舞台が正面からよくみえること。
2.機器操作の配線などが可能なこと。
3.車椅子使用者も使用可能なこと。
4.音響的に観客席と分離することが可能な上で、日本語字幕操作室と音声ガイド操作室は、それぞれ専用の室であることが望ましい。
(監修 日本舞台音響家協会理事 山北史郎)
 将来、目が不自由な観客、耳が不自由な観客へのサポートの不足による観客席への影響が予想されます。
この問題の効果的な対策が、バリアフリー操作室の設置です。
 
 現在も、目が不自由な観客、耳が不自由な観客は、劇場へ足を運んでいます。
音声ガイド、日本語字幕がない場合、演劇や映画の理解にはバリアがあります。このため、「同行者が隣の席で、視覚障害者には小声で、聴覚障害者には、手話や指文字、そして難聴者の場合には時としてやや大きな声で、舞台の説明をする」というのが現状です。
 観客席は、舞台と一体化し、感動を創り出す場所です。静かなシーン、緊張するシーン、観客が集中できる環境が必要です。現在は、観客数が少ないことから、隣席でのサポートは、目立つ状況ではありませんが、『声がうるさい』『感興をそがれる』などの他の観客とのトラブルは、少数ですが発生しています。
今後、観客の増加に伴い、サポートが必要になることは明白です。
「バリアフリー操作室」の設置は、この問題の有効な解決策です。
 
2. 車椅子使用者が、ロビーも含めた劇場内を自由に楽しめるハード整備
 
 劇場の楽しみは、観客席につく前に、始まっています。
 劇場にスムーズに着き、「いらっしゃいませ」と迎えられてロビーに入り、飲み物やパンフレットなどを手にすること。偶然出会った知人とおしゃべりをし、ざわめきのなかで開演のベルを聞き、周りの観客といっしょに、開演・上映の時を待つこと。公演が終わり、「楽しかったね」「来てよかった」と満足し、同行した友人たちと、会話を楽しむこと。
 これらの「普通の劇場の楽しさが、すべての人の楽しみになること」が、劇場のバリアフリーです。
 
「劇場の楽しみ」のための条件
1.車椅子使用者に、他の観客と同じ動線が確保されていること。
2.ロビーカウンター、チケットブースなど、劇場内の観客対応設備が、車椅子対応であること。
3.出演者やスタッフなどとして、車椅子使用者を含む障害者が想定されていること。
このようなハードがあれば、以下のことが可能になります。
・車椅子使用者の「普通の劇場の楽しみ」の享受
・非常災害時を含むスタッフの対応の充実
・観客の中のボランティアの活動の活性化
 現在も、車椅子使用者等の移動への、劇場スタッフの対応の問題があります。
この問題の効果的な対策は、他の観客と同じ動線の確保です。
 
 現在は、劇場入り口からロビーをとおったスムーズな動線が確保されていないことが多いため、劇場で、スタッフが対応しなければならないことが多くあります。
劇場の場合、ホテルなどと根本的に違う「スタッフの問題」があります。
 ホテルの場合は、フロントにいるのはそのホテルを熟知しているホテルスタッフです。しかし、劇場の場合は、「貸館」という使い方が、一般的に多く行われています。この場合、チケットもぎり、ロビー案内は、劇場のハードを熟知していない劇団スタッフや、外部スタッフです。
 現在も、日常使わないエレベーターを使う、荷物運搬用の通路を使うなどの方法で観客席に案内することは、スタッフと観客の双方にとって、負担になっています。今後、観客の増加にしたがい、他の観客と別のルートにいちいちスタッフが案内しなければならないとすると、人的に対応しきれないことも考えられます。
 また、非常災害時には、スタッフの対応は、不可能ではないかと考えられます。車椅子使用者が、ロビーも含めた劇場内を自由に移動できる動線を確保することは、この問題の有効な解決策です。
 
●そして、ハードが、人を育てます。
 
図書館では、「対面朗読ボランティア」が活躍しています。
ここでは、「対面朗読室」の存在が、ボランティアが活躍するために必要な条件でした。
劇場でも、「バリアフリー操作室」や「他の観客と同じ動線の確保」で、多くのスタッフや、市民ボランティアが活躍します。
 
●「多様な人がともにいる劇場」の実現を。
 
「多様な価値観や意見の共存」、が、バリアフリーシアター・ジャパンのテーマです。いろいろな人がここちよく共有、共存するためには、そのためのシステムが必要です。
観客の声、劇場スタッフの声、演劇映画の創り手などのプロフェッショナル…多様な意見のネットワーク、新しいノウハウの創造と交流と展開が、バリアフリーシアター・ジャパンのしごとです。
   
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