目が見えないのに映画!?
みなさん、ピンとこないかもしれませんね。
わたしもはじめはそうでした。
目の見えない人が映画を観たいと思っているなんて、思ってもみませんでした。
しかし、そうではなかったのです・・。
視覚障碍者との出会い
私がそのことを知ったのは、ひょんなきっかけからでした。
わたしは、特にボランティアや福祉活動をしていたわけではなく、映画が好きで映画館でアルバイト勤務をしていただけの、そこら辺にいるフリーターでした。
それが、たまたまネットで知り合った映画好きの仲間と、上映会をやらないか?という話になり、その集いに参加することになりました。
最初のミーティングで、何をどんな風に上映しようか。という話になり、集まっていた仲間が、みんなチャップリンが好きだったこと、仲間の一人が手話の勉強をしていたこともあって、チャップリン映画を聴覚障害者にもみてもらおうという案があがりました。
チャップリンはサイレント映画。
聴覚障害者も健聴者とかわらず鑑賞できる、バリアフリーな作品といえば、そうでしょう。
しかし、仲間の一人が「じゃあ・・視覚障害者はチャプリンを知らないんだね・・。」
ポツリとそんなことを言いました。
そういえば、目のみえない人は映画という娯楽を楽しむことができないのか・・
チャップリンの、あのおもしろさと感動を体験することはできないのか・・
チャップリン好きな私たちは、なんだか身につまされる思いがしました。
そんなとき、鴬谷に東京キネマ倶楽部という、活動写真を上映するシアターレストランができ、そこへ行って、チャップリンの作品を観る事ができました。
その時、初めて聴いた澤登 翠さんの活弁。
作品はチャップリンの「街の灯」でした。
さすが日本一の活動弁士とあって、澤登さんの活弁はとても面白く、素晴らしかった。
わたしは、その活弁を聴いて・・
「チャップリンがしゃべってる!活弁を用いれば、視覚障害者にもチャップリン映画が鑑賞できるのではないか?」と思いました。
「街の灯」は盲目の花売り娘に恋をしたチャーリーが、一途に彼女を愛し、無償の愛を捧げる感動の名作。
よしこれだ!視覚障碍者を対象に、チャップリンの「街の灯」を上映しよう!
そんな勢いで、「街の灯」のバリアフリー上映の企画が決定しました。
わたしはまず「こうばこの会」という視覚障害者が中心となって公演を行っている、トークパフォーマンス劇団の練習におもむき、チャップリン映画を楽しむ可能性を探りにいきました。
しかし、視覚障碍者のみなさんからは、
「チャップリンを鑑賞するのは難しいのではないか?」
「チャップリンが、敢えてサイレントで撮った作品だというなら、それに音声を入れてしまったら、チャップリンの作品ではなくなってしまうのではないか・・」と、後ろ向きなコメントしかいただけませんでした。
それでもあきらめきれず、何人かの方に「キッド」の活弁上映も観てもらいました。
しかし「弁士の語りはおもしろかったけど・・チャップリンを楽しんだとは言えない・・」と、そんな意見がかえってきました。
弁士さんは、見えていることを前提に台本をつくっています。
だから、チャップリンのビジュアルパフォーマンスには、敢えて説明を加えないのです。チャップリンのおもしろさを、視覚障碍者に伝えるには、このパフォーマンスにも説明を加えなければなりません。
わたしたちは、弁士さんの台本を元に、さらにもっと解説をいれ、チャーリーがどんな動きをしているか、どんな状況になっているか、言葉にしてみましたが、とにかくまぁ、しゃベり続けることになります。
それにどんなに早口でしゃべっても、チャーリーの華麗なるパフフォーマンスは、決して言葉で伝えきれるものではありませんでした。
果たしてこれを映画とよべるか?
そんな疑問がよぎりました。
たしかにこれは、チャップリンの作品ではなくなってしまう・・
映画でもなくなってしまう・・
結局、この企画は散々悩んだあげく、上映会開催の予算がくめなくなってしまったこともあり、お蔵入りしてしまったのですが・・
このことがきっかけで、わたしは知り合った視覚障碍者の方々と話をしているうちに、みなさんが映画に大変興味をもっていることを知りました。
「チャップリンよりも、今話題になってる作品を観たい!」
「洋画は全部字幕だから、観に行ってもわからないけど、邦画はよく観るよ。」
「日本語吹き替え版のビデオはよくみるから、もっと情報を知りたい。」
「テレビドラマみたいに、映画にも副音声がついたら、よくわかるのに・・」
「公開中の作品の話題についていけないのが残念。」
「みんなと一緒に洋画も映画館でみたい!」
何も、チャップリンや活弁にこだわる必要はなかったのです。
みんなが本当に観たがっているのは、話題作だったり名作だったり、普通の映画だったんです。
視覚障碍者の方は、セリフが日本語ならば、セリフを聴いて、ある程度は想像できる。
でも、映画は場面展開が早いから、見える人にとなりで少し状況説明をしてもらったり、あとでわからなかったところを補足説明してもらったりして鑑賞しているそうです。それで、想像を膨らまして楽しむのだと言います。
その状況説明や補足説明が副音声という役割なのです。
テレビドラマでは、NHKの連続テレビ小説や、火曜サスペンスについています。
サイレント映画のチャップリンを伝えるのは、確かに困難だったかもしれないけれど、
もっと一般的な映画なら!
そして、ドラマの副音声という発想。
これを映画にも応用すれば・・
わたしはこれをきっかけに、「映画に副音声をつけること」「洋画の字幕を朗読すること」などを、どこかですでにやっていないか?と、とにかくいろいろ調べはじめました。
それで、わかったのが大阪にはシネヌーヴォというミニシアターがあって、そこでは定期的に、目の不自由な方のために字幕朗読上映会を行っているということ。
いくつかの地方の映画祭で、ボランティアが字幕を朗読したり、副音声をつけたりするバリアフリー上映が行われていたこと。
「太陽はぼくの瞳」と「ザ・カップ」という映画が、試写会で日本語吹き替えと音声ガイド(副音声)付で上映されていたことなど。
映画を鑑賞した視覚障碍者の感想もきくことができました。
みなさん、映画館という空間で、大きな音響で、みんなと一緒に映画を楽しめたことをとても喜んでいて、もっとたくさんの映画を観たいという感想を残していました。
わたしは、このことに大変興味をもって、海外のことも調べはじめました。
わかったことは、あとでもっと詳しくお話しますが、
アメリカでは、98年に「タイタニック」が、劇場封切公開と同時に、一般の劇場で視覚障碍者にも鑑賞されていたこと。そしてその後も「スターウォーズ・エピソード1」などの大作が、一般の劇場で次々にバリアフリー上映されていたこと。200タイトルを超える副音声付きのビデオも販売されていることなど。
わたしはこのような、日本と海外のバリアフリー上映の現状を知って、日本はなんて遅れているんだろう・・と思いました。
日本ではアメリカのように、視覚障碍者が一般の劇場で、これ程の大作を公開と同時に鑑賞できる機会は全くありません。
それに、配給会社が副音声を付けた例も試写会やDVDのみで、まだたったの3作です。
あとは、ボランティアによる年に数回のバリアフリー上映のみ。
それも大体作品は、話題作などではなく福祉的な意味合いの強い、決まった作品ばかりです。
視覚障碍者の映画鑑賞への要望はたくさんあるのに、まだ伝わっていないという現状。
海外はあれだけ進んでいるのに、日本ではまだまだ足下にも及ばないという現状。
この二つの現状を知って、わたしはボランティア団体を立ち上げる決意をしました。
いつでも好きな時に映画館で公開している作品を、視覚障碍者も自由に鑑賞できる環境をつくるために、活動する団体をつくろう!
それで、立ち上げたのが「バリアフリー洋画上映推進団体 City Lights 」なのです。
「City Lights」は、もうお気付きかもしれませんが、チャップリンの「街の灯」の原題です。そもそもチャップリンの「街の灯」の上映会を・・というきっかけから始まったということもあり、「街の灯」で登場した、盲目の娘に無償の愛を注ぎ、奮闘したチャーリーのように、私たちもこの活動を行っていこう!という意味も込めています。
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