●Motion Picture Access Project (MoPix)
MoPixプロジェクトとは、WGBHのメディア・アクセス・グループの主導プロジェクトです。メディア・アクセス・グループには、研究開発部門であるCPB/WGBH
アクセシブル・メディア・センター、また、キャプション・センター(字幕センター)およびDVS(ビデオ説明サービス)から成る制作サービス部門があります。
MoPixは1992年に設立され、字幕や副音声ナレーションを通じて、聾者、難聴者、盲目者、視覚障害者の人々にアクセス可能な、劇場映画の制作に関する研究・開発を行っています。
プロジェクトは、米国教育省の一部門である、米国障害者リハビリテーション研究所(NIDRR) による、125,000ドルの一部補助金によって立ち上げられました。
●WGBH教育財団
マサチューセッツ州ボストンにあるWGBH教育財団は、伝達、啓蒙、娯楽事業を行うテレビ、ラジオ、その他の通信プログラムの提供を通じて、公共の一般教育を推進する非営利組織です。WGBHはアメリカ最大の公共放送局で、PBSのプライム・タイム番組の4分の1以上を制作しており、放送事業のほか、教育技術や、CD-ROM、双方向ビデオディスクおよびワールド・ワイド・ウェブ・サイトのコンテンツの開発を行っています。WGBHは、メディア・アクセス分野の先駆者でもあります。
WGBHは、サービスを享受できない観客に対するアクセス可能なメディア制作に関して、素晴らしい実績を持っています。1972年、WGBHのキャプション(字幕)センターは、PBSによる最初の字幕付テレビ番組、French
Chef(フレンチ・シェフ)を放送し、沈黙という障害を突き破りました。キャプション(字幕)センターは、毎年10,000時間以上のテレビ番組、家庭用ビデオ、音楽ビデオ、大型映画、および、その他メディアの字幕制作を行っています。
WGBHは、世界初のテレビ副音声制作機関の最大手、Descriptive VideoServiceィ(DVS)の本拠地であり、テレビ、家庭用ビデオ、映画およびその他の視覚メディアの副音声制作を行っています。DVSは、PBS
、ケーブル・チャンネルのTurnerClassic Movies(ターナー・クラシック・ムービー)、およびImax Corporation(アイマックス社)の副音声制作を行う専門業者です。DVS
Home Videoィの制作作品には、200本以上のタイトルがあります。
1993年、WGBHはCPB/WGBH アクセシブル・メディア・センター(NCAM)を設立し、サービスを享受できない観客にアクセス可能な、メディア制作技術の開発を行っています。
NCAMは、CD-ROM、ワールド・ワイド・ウェブ、デジタルテレビ (DTV)、および映画といった、様々な種類のメディアによるアクセス・ソリューションの研究・開発を専門に行っています。
●劇場映画を聴覚障害者、視覚障害者にアクセス可能とするMoPixシステム!
NCAMは、1992年より教育省の資金を得て、劇場映画のクローズド・キャプションを、観客の椅子に取付けたスクリーンに表示する技術(後画面のキャプショニング、という名称)を開発してきましたが、その実用システムMoPixがボストン市の映画館で1999年10月に稼動を開始しました。映画フィルムに書き込まれているクローズド・キャプション信号は、観客の後面(スクリーンと反対側)に設置されたプレキシガラス表示装置へ信号ケーブルによって伝送されます。このプレキシガラス表示装置に出力されたクローズド・キャプション信号は、前方(スクリーンの方向)へ投影され、観客はこれを椅子に取付けた透明なアクリル盤のスクリーンに映して読むことができます。また、椅子に取付けられたヘッドホーンを使えば、映画の各画面を説明するナレーションを聞くことができるのです。
新聞報道によれば、MoPixシステムを映画館に設置する費用は、12,000ドル〜15,000ドル。また、映画「スターウォーズ:ファントム・メナス」にクローズド・キャプションを入れるのにかかったコストは15,000ドルであったと報じられています。このように劇場映画をアクセス可能にする技術が開発されたこともあり、劇場映画には全てクローズド・キャプションをつけるべきだという集団訴訟が、2000年2月初めにオレゴン州ポートランド市で起こされています。訴えられたのは、大手の映画館チェーンであるRegal
Cinemas、Century Theatres、Carmike Cinemasの3社。この内、最大手のRegal Cinemasは、保有する全米400の映画館スクリーンのうち、既に48箇所にはMoPixを設置済です。それでは、City
Lightsが、日頃研究・実験している視覚障碍者の映画鑑賞のための副音声システム(DVS Theatrical R)に的を絞って、MopiX
ではどのように行われているのか、Q&A式に御説明いたしましょう。
Q1)DVSシアトリカル副音声システムとは?
A)
DVS Theatricalは、映画館の経営者が、盲目者および視覚障害者の観客のために副音声ナレーションを提供することを可能にしました。それも、全員の観客にナレーションを行う必要がなく、特殊なプリントや専用上映も不要です。
副音声ナレーションは、赤外線あるいはFMトランスミッター経由で小型の受信機に送られます。盲目者や視覚障害者の観客は、映画館のどの座席からでもヘッドセットで副音声を聞くことができます。副音声ナレーションは、視覚を失った人々に、視覚メディアの持つ有効性をより重要に感じてもらう方法です。それは、登場人物の行動、場面設定、表情、衣装、場面変換といった重要な視覚要素に関するナレーションされた副音声情報です。副音声はサウンドトラックの合間に挿入され、台詞部分を邪魔することはありません。
Q2)副音声はどのようにフィルムと同期を取るのですか?
A)
副音声は、映写の際、フィルムと同期再生できるよう、ナレーションを取り、オーディオ・テープやディスクに録音されます。通常の映画館ではDTSデジタル・オーディオ・システムを使用し、副音声を再生します。DTSシステムは、CD-ROMによるマルチ・チャンネル・デジタル・オーディオを提供しています。副音声ナレーションはCDに収められており、DTSプレーヤーのほかのディスクに収められています。フィルムの映写機に取り付けられた特殊なリーダー・ヘッドがフィルムに印刷してあるタイムコード・トラックを読み、フィルムと同期を取ったオーディオを再生するよう、DTSプレーヤーに信号を送ります。DTSプレーヤーは、赤外線あるいはFMトランスミッターで副音声を送信します。次に、トランスミッターは副音声を映画館に送信し、受信機の付いたヘッドセットで副音声を聞くことができます。ヘッドセットは携帯できるので、映画館のどの座席からでも副音声を聞くことができます。
Q3)ヘッドセットはどのようなものを使っているのですか?
A)
DVS Theatricalは、当初、大画面式映画館で上演されました。WGBHはグループごとに分けたフィールド・テストを行ない、ユーザーが、ヘッドセットで副音声ナレーションだけを聞きたいか、それとも、ナレーションとサウンド・トラックの両方を聞きたいかどうかを決めました。反応は様々でしたが、ユーザーの多くは、ヘッドセットで音声が混ざると反響効果を作り出すので、わずらわしく聞こえるという報告をしました。
使用されるヘッドセットは映画館ごとに異なります。映画館の中には、個人のステレオ・システムと同型のヘッドフォーンを使っているところもありますし、小型受信機と片耳のイヤ・ピースの付いたシステムを使用しているところもあります。映画館の職員は、ヘッドセットを提供する場合、書面か口頭の説明書を添える必要があります。
たいてい、ヘッドセットには、オン/オフ・スイッチと音量調節つまみが付いています(中には、片方の耳ごとに音量調節つまみがついているヘッドセットもあります)。
音量調節つまみは、聞きやすいボリュームに調節することができます。標準のヘッドセットを使用する場合、ヘッドセットを付けてみて、片方の耳だけで聞こえるかどうか試した方がいいかもしれません。
それに、DVS Theatrical は、映画館が難聴者のために提供している補聴援助システムの邪魔にはなりません。DVS Theatricalのシステムは、補聴援助システムとは異なる周波数で提供されています。DVS
Theatricalが適切に設置されていれば、それぞれが干渉しあうことはありません。
Q4)DVS Theatricalの設置コストは?
A)
設置コストは、映画館の規模や今までに設置した機器の種類といった要素によって、劇場ごとに異なります。リア・ウィンドウ・システムおよびDVS
Theatrical両方の機器の見積もり価格は、約11,000ドルです。Boston Light & Sound社は、映画館の協力で、適当な設置部品の算定や正確な見積もりを行ないます。
Q5)映画の副音声制作にかかる費用や時間は?
A)
2時間の映画の副音声制作には9,000ドルかかります。
副音声は映画ではないため、特殊なプリントを制作する必要はありません。さらに、映画が家庭用ビデオやDVDといった他のフォーマットで販売されても、一度制作した副音声は何度でも使用できます。WGBHは制作期間が短い作業に慣れていますので、スタジオとの共同作業によりスケジュールの調整を行います。しかし、副音声を映画の上映日に間に合うように制作するためには、出来るだけ早い段階で、スタジオに必要な資料を提供してもらう必要があります。
Q6)副音声はどのように制作されるのですか?
A)
副音声ナレーション制作は、映画制作後の一過程として制作されます。映画の最終原稿草稿後、3/4“のビデオテープによる映画のコピーがWGBHに提供されます。
副音声は、ディスクライバーという、特別に訓練を受けた作家によって書かれています。ディスクライバーは、まず、視覚障害者や視覚を失った人の経験を疑似体験するために、映画を見ずに聞きます。ディスクライバーは、サウンドトラックによってすでに伝えられている情報に、細かい注意を払います。そして、特別設計されたコンピュータ・ソフトウェアを使用し、映画の中にある間を抽出し、その空間に入るだけの、最も表現豊かで効果的な副音声を作り出します。原稿が完成した後、何度かの編集作業とチェック作業が繰り返されます。原稿は、タイミング、連続性、正確さ、自然な流れという点からチェックされます。その後、プロのナレーターは、映画を見たり聞いたりしながら、原稿を読みます。
Q7)映画が家庭用ビデオ、DVD、その他の形態で販売される場合、副音声はどうなりますか?
A)
映画に一度、字幕や副音声が付けられると、それが他の形態で販売されるようになっても、字幕や副音声の制作を繰り返す必要はありません。現在の字幕および副音声ファイルの再フォーマットは、映画の変換バージョンの変更によって必要になることもあります。しかし、再フォーマットは簡単で、費用のかからない作業です。
と、いうわけでアメリカでは50館近くの映画館で話題のヒット作を、誰がいつ観にいっても鑑賞できるシステムが導入されているのです。
日本も、以前に比べれば、洋画の日本語吹き替え版が頻繁に行われるようになりましたが、この日本語吹き替え上映には、DTSがフル活用されています。
アメリカでは、英語吹き替えで映画を鑑賞するのが主流です。
しかし、日本はアメリカとは違って、原音を字幕で鑑賞するのが主流です。
なので、DTSを吹き替え用に使用する使い道しか、今は考えられていませんが、さらにもう一歩前進して「副音声」にまで、発展させてほしいものです。
それに、DTSだけが方法ではありません。
副音声再生の同期をとる作業をするオペレーターがいれば、MDやCDから音を出して、同期をあわせることだって可能です。
(実際、City Lights ではこういった方法でバリアフリー上映を行っています。)
これならば、ほとんどコストはかかりません。
この投稿を読んでいる映画関係者の方々に是非、検討していただきたいと思います。
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