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[第9章●午前3時の小ワザ] 19… 続・台形の面積の公式は必要か |
[2005.05.31登録] |
石田豊 |
ここの記事はさほど人気があるわけでも読者数を誇っているわけでもない。それが証拠にいつまでたっても閲覧数で「青木淑子の断食日記」「黒子の部屋」を抜けないでいる。「黒子」などは著者の松沢さんの方針で最新10回分しか読めない(よって、アーティクル数が圧倒的に少ない)にも関わらず、だ。 もともと読者がそう多くない(といっても日あたりにすると、ぼくの予想を大きく上回る方々に読んでいただいており、これはホントに感謝に堪えない)うえ、いただいたご意見に対して原則としてコメントしない方針でいるためか、コメントの書き込みも多くない。唯一の例外が「台形の面積の公式は必要か」である。いただいたコメントは10通になるし、「面白度」の投票数も60票もある。いうまでもなく、これが目下のところ最高票数だ。ちなみに次点は「耳栓は必需品だ」の54票。 どっちかというと、耳栓記事のほうがここの編集方針にそったものであるのだから、台形の記事に反応が集まるのには、多少は妙なこころもちがする。 台形面積の記事はおおよそ1年前に書いた。1周年を記念して、というわけでもないが、いただいたコメントに対するお返事かたがた、続編つーか補足のようなものを書いてみたい。 まずはコメントに対する返事から。 まずはbreitohorn99さんの「左右対象の台形の名前は何と呼べばいいですか」。これは「等脚台形」ですね。 通行人Aさんの「AB型の人口計算で9.4%で有効桁数は2桁とありますが、9.4%=0.094ということで有効桁数は4桁になるのではないのですか?」。これは原稿通り2桁が正しいと思う。たとえば数値が3400であった場合、3.4×10^3とみなし、有効桁数は2桁とする。これが有効桁数の考え方だ。3400を有効桁数4桁で表わす場合は、3.400×10^3と記述せねばならない。実務的には3400.0と書くのもいいだろう。9.4%の場合は9.4×10^-2でやはり2桁になる。こういう反応をいただくについても、我が国では「常識」のレベルとして有効桁数の考え方が落ちていないということがわかる。 さて、前回の原稿に関して。 読み返してみると、いささか舌足らずな部分もあるな。まずは旧稿の補足から。 小学校の算数はいささか立ち位置が不明瞭なところがあるんだけど、中学高校の数学は(理念的には)実学ではない。つまり、社会に出たら必要だから覚えておきなさい、というお節介な気持ちで構築されているわけではないと思う。 これは中学、高校、大学、大学院、プロの数学者と続く「数学」という学問体系をレベルに応じて教えるものである(と思う)。三角形の面積、方程式、三角関数、対数、微積分が「社会に出ると必要だから覚えとけ」というわけではなく、今後数学をより深く学んでいくためには、こういうのが前提として必要になるよ、ということにすぎない。三角形の面積の出し方(というか、そのロジック)が理解できないと、その後の数学の幾何分野は何一つわからなくなるし、二項定理が理解できなければ、微分はまったく操作不能になる。 もちろん中学で数学の学習を完了する人もいるし、高校に進学しても、数Iで「卒業」の人もいる。どこで終わっても、そのレベルまでで「数学」という学体系をまるごと伝えようという構想のもとに数学という教科が設計されていると思うのだ。 そもそも「社会に出て必要か否か」で判定を行うなら、少なくとも高校で学習するほぼすべてのことは教える必要はさらさらない。荘園の崩壊過程なんぞ知らなくても大多数の社会人はなんの痛痒も感じないだろうし、周期律を知らなくてもまっとうなオトナになれる。まさにFumiさんがおっしゃるように、実学的な要請でいうなら、加減乗除でことたりてしまうのである。 実学的な学習は社会に出れば、その環境の中で必然的に押し付けられる。たまたま業としてしまったそれぞれの分野で「おまえ、それくらいは知っておけよ」ということは無数にあるし、誰もがそういう知識や技能を必死こいて自分のものにする。そうしないと自分の職業生活が送れない。そういう実学的な要請で義務教育あるいはそれに続く高等教育のカリキュラムを組み立てようとしても、それは不可能だ。なんとなれば、被教育者は将来どのような分野へ進んでいくかが未だ決まっていないからである。 こうした文脈の中で、台形面積の公式を考えると、台形面積の求め方は、その後の数学(という教科)で、二度と再び出現しないテクニック(あるいは論理)であると思うのだ。台形の面積を習うのは小学校だが、台形という概念そのものが、中学高校では(あるいは大学の数学では)出現しない(と思う)。台形の面積の公式は、数学体系の中では鬼っ子なのである(ちがうかなあ)。そんなもんは教えなくてもいいし、覚える必要はさらさらない。 いただいたコメントのいくつかで「設計業界では台形の面積公式は必須不可欠」とか、そんなことをいうお前は井の中の蛙だとまでいい募られているのだが、反論すると、実学的な要請の前で、もっとも大きなハードルは台形の面積の公式ではなくて、「目の前にある図形を台形だとみなせるか」という判断であることは論をまたない。台形とは、「四角形の中で向かい合う二辺が平行である」という図形であるのだが、「向かい合う二辺が平行」というのは証明つーか検証が非常に難しい。 建設業界では台形の面積の公式は日常的に使うぜという報告をいただいているのだが、逆に、ぼくはそれに驚愕した(まさに井の中の蛙だわな)。うワー、ほんまか、という感じだ。ある図形を(近似的にであっても)平行四辺形あるいは長方形だとみなすのは比較的ラクである。対角線の長さを計測することで、あるいはそれぞれの角度を計測(角度の計測は難しいが)することで、これは平行四辺形だ(あるいは長方形とみなせる)と断じることができる。でも、台形は別だ。台形の成立用件は、上底と下底が平行というだけなんだから、実際の図形を目の前にして、これが台形だと言うためには、この二辺が平行であるという証明をしなければならない。んなこと不可能である。ていうか、むちゃくちゃ手間がかかる。だからこそ、土地の測量図は不定形な土地の中に三角形を措定することで面積を求めているのである。浅学ゆえかもしれんが、ぼくは測量図の中で台形が描かれているのは見たことがない。 逆に、図面を描くにあたって、ここは(アプリオリに)台形だとしている設計図でつくられたなにものかを使う、あるいはその中に住むなんてことを考えると、これはホラーだね。ほんとに、んなことやってんすか? もちろん、現場では台形の面積公式を使うこともあるだろう。それは経理の現場で、「ふたつの計算結果の間の差をとってそれを9で割る」というテクニックと同じだ。ふたつの集計結果の間の差が9で割り切れたら、桁を読み間違えている、つまり、具体的には43864を48364と間違えて足し算しちゃったんではないかという作業仮説がでてきて、そこに注意して計算過程を見直すというテクニックがある。 こうしたテクニックと同じく、上底たす下底わる2ってやることもなくはないと思うのだが、それはあくまで現場での知恵とかテクの部分であろう。じゃなきゃ、こわすぎ。 ぼくが前稿で言いたかったのは、「台形の面積公式はそのご、応用がききませんぜ」ということであり、実学上の要請云々ではない。ま、実学的要請もない(あるいはあるべきではない)と思ってはいるんですがね。(この項、続く) |
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Fumiさんより [2005-05-31] |
*無題* 台形の面積が「鬼っ子」だなんて知りませんでした もっとも 私は算数や数学について深く考えたこともなかったから 知らないのはあたりまえか でもふしぎだなあ 私は現在60代半ばのフラフラ自由人 数学とは何の縁もありませんが 「台形」という言葉を聞いて即座に思い出しました 「だいけいはじょうへんかへんにたかさかけ2でわらないとこたえでないぞ」 こんな言い回しはいつ習ったんでしょうか 小学校高学年だったとすると もう半世紀を経ましたね この間 台形面積算出なんか いちどもやったことは無かったでしょうが 即座に出てくるのが不思議です 「ひとよひとよにひとなみに」 「貸そかまああてにすんなひどすぎる借金」・・・イオン化傾向 なんてのもありましたね |
さとさんより [2005-06-24] |
高校数学で現れた台形公式 平成元年告示の高等学校学習指導要領に基づく科目「数学C」に,台形公式を利用した数値積分法が取り上げられています。したがって,「高校段階に至るまで出てこない」というのは,必ずしも正しいとは言えません。 計算機でのプログラミングの際,定積分∫a→b f(x) (表記の意味は,察してください)を求める近似法として,分割した図形を「縦Δx,横f(a1)の長方形」とみなして計算するのが区分求積法ですが,これを「上底f(a1),下底f(a2),高さΔxの台形」とみなして計算するのが台形公式です。このほうが区分求積法で求めるよりも誤差が小さく得られることにより使用されています(プログラムを書くためのものなので,一般の定積分で考えるときの「長方形」とは図形の取りかたが異なっています)。 もっとも,この計算方法,平成11年告示の学習指導要領からは消えてしまいましたが……。 |
土木設計屋さんより [2005-10-18] |
難しい事は分かりませんが・・・ 建築設計はしりませんが、土木設計では台形の公式は 数量計算に頻繁に使用しています。 8割の人間にとって学問自体がトリビアだっとしても、残りの数%から 発明家が生まれたりするのは紛れもない事実でしょう。 誰の家にでもきっとそういう人達が考え出した物であふれているのでは? 国内の知識レベル、学問レベルの維持向上を考えても やはり無駄とも思える事にも意味があるのではないかと思います。 結局読んだ人が思う事と石田さんの主張している事との ベクトルが違うと思うので、どこまでも噛み合わなさそうです。(^^; |
*匿名*さんより [2005-12-06] |
*無題* |
れーじさんより [2006-02-11] |
発想がまだ井の中です(便利だよ台形面積) 実用の1つをご理解いただければ、平行の証明が必要云々などそれこそ些細な一面とお気づきになるでしょう。 これ↓は台形の使用例の一例ですが 川の断面積を実際計測する場合は、川に横断線を設定してそこを渡りながら水深を計る訳です。 そして、水深を平行線として多数の台形の集合として断面積を求めるのです。 こういった計算上で台形の平行の証明は不要ですし、図面にも出ません。書く必要ないからね。 しかし、川の洪水安全の基礎でめっさ使われてます。 |
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