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[第9章●午前3時の小ワザ]
18… 名前に「殿」は付けてはいけない
[2004.10.25登録][2004.10.26更新]

石田豊
ishida@pot.co.jp

これはまったく「デジタル/シゴト/技術」ではなくって、まるっきりのアナログ話題なんだけど……。


ぼくのところにも、書いたものに対する質問のメールやお手紙(は最近まれになりましたが)が送られてくることがある。このサイトに書いたものに対してもあるし、単行本や雑誌記事に対するものもある。

自分の経験でいうと、手紙やメールを書くという行為は、相手に悪意がある場合はなかなかできないことだ。すくなくとも「話すに足る相手」と認めていなくては、それはできない。そうじゃないだろうか。

そう思うから、どのような叱正であろうと苦情であろうと、はたまた非常に文意が取りにくい質問であろうと、たいへんありがたいと思っている。

でもな〜、正直にいうと、受け取ったときに「ウ」と絶句するようなメールや手紙も、けっして少なくない。

まずメールの差出人の名前が書いていないもの。つまり質問だけはあるが、それは「誰」から発せられたかわからないようになっているわけだ。そういうのはたいていhotmailなどの使い捨てメアドから発信されている。

激励のメールであるとか、はたまた苦情であるとか、感想などの場合はそれでもいいのだ。別に気にしない。しかし、質問の場合は違うのではないか、と思うのだ。

質問ってのは、要するに相手に何かをきくわけだ。相手の時間を取るわけだ。それだったら、せめて名前くらい名乗るのが礼儀だと思う。

当然、質問者は相手(この場合はぼく)のひととなりをしらないわけだから、個人情報を渡してしまうのに危惧を感じる気持ちはよくわかる。名簿業者に売られるかもしれないし、どっかの掲示板で実名入りの悪口を書かれるかもしれない。そのリスクは存在する。

でも、それなら聞かなきゃいいのである。匿名でものを尋ねることのできる場所はいっぱいある。そういうところで聞けばよい。あるいは自力で解決すればよい。

ほんと、別に住所や電話番号はいらないけれど名前くらい名乗れよな〜って激しく思う。それでも返事を書いちゃうことも多いのだが、気分のいいことじゃない。

それから、「殿」。

「殿」を敬称だと思っている人が非常に多いようだ。たとえばぼくに向かって「石田豊殿、貴殿の著書××の×ページには云々」というようなメールを送ってくる。

はじめの頃は、喧嘩を売ってきているのかと思った。それでもそれだけで過剰にヒートすることもないので、質問に冷静に答えたりすると、返事が返ってくる。「石田豊殿 貴殿のメールにより、疑問が氷解しました。ありがとう」

別に喧嘩売っているわけではなかったんだ。なんどもこういうメールなり手紙なりを受け取っていると、だんだん「殿を敬称、しかもかなり丁寧な敬称と思い込んでいる人々が存在している」という事実がわかってきた。

そりゃね、殿様というくらいだから、〜殿は昔は最大級に近い敬称であった時期もあるのでしょう。しかし敬語というのはインフレルールになっていて、時代とともにだんだんその価値が減じるのです。「貴様」なんでいうと、いまは敬語でもなんでもないが、漢字を見ると「貴」である「様」だからね。往事は敬称だったこともあるのでしょう。でもいまはそうじゃないですね。

殿もまったく同じで、名前の下に殿をつける、つまり「石田豊殿」と書けるのは、「同輩あるいは目下に対する時、のみ」である。あるいはオフィシャルな立場で相手になにかを申し送る場合、かな。

だからちょっと前までは役所からの手紙は石田豊殿で来た。これは「私個人があなた様にたいして手紙を送っているのではないのですよ、公の立場での手紙なんですよ」という含意でもあった。辞令や賞状が殿になっているのも同じ(しかし、そういうのも最近は変わってきましたね。役所からも様でくる)。

もちろん、質問者にとって、ぼくは「目上」でもなんでもない。しかし、未知の人にはじめて手紙を書く場合、「目上」として取り扱うのがルールである。目上とか目下とかの関係ができるのは、つきあい始めてから。

だから、最初は様付けでいけばいいし、それが堅苦しいとかんじるなら「さん」でいいんだ。なにも「殿」をつけることはないし、つけてはいけないのだ。

それに関連して二人称の取り扱いも要注意だな。

ひじょーに荒っぽくいうと、日本語には二人称の敬語は存在しない。「あなた」と書こうと「あなたさま」と書こうと「貴殿」と書こうと、それは敬語でもなんでもない。どちらかといえば、その逆だな。「貴兄」なんていうもさらなり。初対面の相手に書く場合は、注意深く二人称を避けるのがルールなんです。

なにも「あなたの本」ってな妙な言い回しにしないでも「貴著」あるいは「ご本」でよい。それがキモチワルイと感じるなら(そのセンスは理解できる)具体的な書名、記事名をあげればいいのである。どうしても二人称的な単語が必要なら、「あなたの説では」なんて書くより「石田さんの説では」って書いた方がどれだけ無難かしれない。

本の著者に質問をするということは、考え方によっては、客からメーカーへのクレームと考えられなくもない。本来ならちゃんとわかるように(質問なんかしなくてすむように)記述されているべきものなのに、それがなされていない。だから聞いてやっているんだ。客としての当然の権利である、と。

それは重々理解できる。そう考えてもらってもちっとも構わないし、現実にそうとしか考えられない質問もある。つまりこっちのミスを指摘していただいている場合ですね。「書いてある通りにやったんですが、動きません」。ほんとかなあ、あ、スペルが違っている!!(大赤面)というような場合ですな。

そうであっても上に記したことは決して変わることはないとぼくは思う。

客がメーカーにクレームを付ける場合であっても、相手に対してしかるべき敬意を払うというのが、我が社会のルールである。それがお互い労働者どうしとしての思いやりであり、仁義だと思う。「客」といい「店」というが、お互いシゴトをしていれば立場は相互にいれかわる。客のときだけはぞんざいな口をきいてもいいというのは、まったくもって無粋であるし、お里が知れるというものだ。

なんだか、こんなことを書くと、いきなりぐっと老け込んだようにおもうよなあ。

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ただのシロートさんより
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[2004-10-24]

しらんかった

"殿"の件、知らなかった。私も「最大級に近い敬称」と思ってました。(恥)。ただあまりに堅苦しいので使ったことは無いです。勉強になりました。今は、個人経営の外注なので、相手は年上だろうと年下だろうとお客「様」。
ところで、今は公共事業関係の仕事が多いのですが、書類などの表紙に、例えば「大阪市**課殿」としますが、名古屋圏だけは「殿」は使ってはいけないことになっている。ですから「名古屋市**課様」としないと、表紙だけで「ペケ」。今回の話でなんとなく納得だけど、でも納得出来ないのも有って・・・。
あと、関係ないかも知れないけど、部下に「先生」付けて呼ぶ上司。完全にバカにしてますよね。

ひだかさんより
ご意見いただきました

[2004-10-25]

「殿」いますよねー。

たしかに。「ケンカ売ってんのか!?」という反応も全く同意。
殿が「本質的に」正しいとしたら、貴様はどうなんだ、という部分も同意。で、二人称の敬称は存在しない、というのは英語でもひょっとしたら一緒で、命令形にyouが無いのは実はある種の敬意を含んだ表現で、youを付けるとものすごーく失礼に聞こえるのかもしれない、などと想像してしまいました。(映画とかでケンカ腰で「You!」ってシーン、結構ありますしねえ)

松沢呉一さんより
ご意見いただきました

[2004.10.26]

殿よりも腹立たしいのは…

いますよね、殿をメールや手紙につけてくる人。でも、ほとんどの場合、「この人は殿を単なる敬称だと思っているのだろうな。ものを知らないヤツだ」と思う程度のことで、「ケンカを売っているのか」とまでは思わない。そこまでのことを考えて「殿」を使う相手なら、こっちから敬意を払ってもいいくらいのもので。
それよりも、この文章において同意できるのは、他人に質問をすることに躊躇がない人に対する苛立ちです。せっかく答えても返事ひとつない人もよくいます。あるいは「答えていただけるとは思ってませんでした」といった返事を出してくる人もいて、そんな程度の人に答えてしまったことを大いに後悔してしまいます。「だったら質問するな、ボケ」ってことです。
「答えてあげないと失礼な著者だと思われるかもしれない」などと考えて、答えなくていい無礼な質問に答えてしまうこちらの小心さの問題かもしれませんが。

鈴木雄介さんより
ご意見いただきました

[2004-10-28]

二人称

両親の会話で「辻堂」「東金」と言えばそこに住む親類を指す。「明日の法事、辻堂は来るの?」「東金はどうもケチだ」という用法。そもそも日本語は相手をズバリ指し示すことを避ける傾向にあるのは周知の事実だが、、、とか書き始めて疑問がムラムラと沸き起こってきた。

日本語には二人称の敬称がないっていうけど、外国語には二人称の敬称ってあるんですか?>石田さん

黄地さんより
ご意見いただきました

[2005-09-09]

インフレなるほど

下記の文に納得、いままでちょうどよい表現が思いつかなかったのです。
「敬語というのはインフレルールになっていて」

インターネット上の掲示板などでは、、、さん付けが無難ですかね。

*匿名*さんより
ご意見いただきました

[2005-09-29]

*無題*

殿はれっきとした敬称です。
確かに現在は殿は同僚か目下の者に対して又は公的文書のみで使用するパターンが多くはなっていますがね。
「貴様」は明治時代に既に蔑称として使われていたので「貴様」と「殿」は同じものとして捉えない方が良いでしょう。「殿」はまだ本来の意味で用いている人(無知な人ではなく)がいるのですからね。「殿」をスタンダードな敬称として使っている人がいる以上、それにいちいち目くじらを立てるのも大人げないと思うのですよ。何故なら正しい敬称なのですから。腹が立つ気持ちは分かりますけど。

ハスハナさんより
ご意見いただきました

[2005-10-13]

*無題*

9/29の*匿名*さんと同意見です。
辞書にものっている「敬称としての殿」は
>「殿」を敬称だと思っている人が非常に多いようだ。
と書いていらっしゃるとおりなら、現役の敬称といえるのではないでしょうか。

すぽぽ!さんより
ご意見いただきました

[2005-10-23]

ある意味

ハスハナさんに同意します。
ただ、小生も「殿」は目下の方に対する敬語と捉えていました。
即ち、お客さんや目上の方に対して使うのは失礼と。
多くの方がこれを普通の敬語と捕らえているのであれば、そういう
意味で「殿」を使用する方に悪意は無いと思いますが、
また、多くの方が「使い方が違う」と感じるのも事実と思います。
状況によっては悪意に取られてしまうでしょう。
ならば、分かる範囲で誰もが間違っていると思わない使い方をする
べきと思います。
強制できませんが、皆さんの意見を読んでそう思いました。

*匿名*さんより
ご意見いただきました

[2005-12-02]

*無題*

ひろしさんより
ご意見いただきました

[2005-12-24]

「殿」と「様」の違いを調べてて辿りつきました

自分もすぽぽ!さんと同じ意見です。

http://home.alc.co.jp/db/owa/jpn_npa?stage=2&sn=119

「殿」を使うのが完全に間違ってるとは思いませんが、失礼であると誤解されないような言葉使いをするのが無難だと思います。


http://www.e-t.ed.jp/edotori40092/m21.htm

「貴殿」も国語の教科書(?)によると尊敬語ですが、同様のことが言えるのではないでしょうか

サプライヤー社員さんより
ご意見いただきました

[2005-12-29]

相手に合わせるパターンもあります

大メーカー様に部品を納めているサプライヤーの一社員です。
文書では全て「殿」が使われています。私は転職組なので、
最初はその習慣に馴染めませんでした。なんとなく、「様」を
使ってみたことがありますが・・・。お客様とのミーティングの
とき、あれ、ずいぶんくだけてますねと笑顔で言われ、書き直し
たものを後日提出しました orz
相手がどういうつもりで使っているかを考えて、こちらも対応
しないといけないと学習しました。
違うな、長いものには巻かれろ、という教訓かもしれません。

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