2002-09-07

小・中学校図書室のコンピュータ化と日書連MARC

8月27日、大阪府書店商業組合は組合加盟書店を対象に「日書連マークと学校図書館の電算化」の説明会を開催した。

5 年間の時限立法措置として全国の学校図書館の整備事業に650億円の予算がついたこと。学校図書館のコンピュータ化が進展してきていること。そうした情勢を受けて日本書店商業組合連合会(日書連)は日書連MARC(マーク=機械可読目録、コンピュータ上で検索などの機能に対応するように作られた目録データのこと)を傘下書店に供給すると発表していた。大阪府書店商業組合の説明会の案内状には次のように書かれている。
「知識の共有化と日書連MARCの学校への積極的な提案がなければ、納入学校より突然納入中止(取引停止)となることも考えられます」

この案内状を見れば残暑厳しい中でも日書連MARCの説明会に行かねばならないだろう。実際、説明会が始まったときには書店組合事務所2階の会議室は本屋のおやじさんで埋め尽くされていた。

まず、冒頭,大阪市長と大阪市教育委員会、大阪府知事と大阪府教育委員会に宛てられた8月20日付けの要請書に関する説明が行われた。
要請書には次のように日書連MARCのことが書かれている。

「私ども書店組合では、このような状況(金沢市、熊本市、静岡市などをはじめとして全国的にIT化が小中学校で立ち上げられつつあること=筆者注)対応すべく、全国組織である日本書店商業組合(略称・日書連)が、既刊本百数十万冊のデータを整備しました。さらに、これから発行されるすべての書物の新刊図書館用データを含めて、日々ご提供できる準備を致しました。また、各学校の図書室の蔵書は中央図書館のように多くなく、管理の仕方もそれに相応しく簡便化とローコストが求められます。(中略)その節は、何卒私どものこのデータ化(略称「日書連マーク」)をご利用くださいまして、地域書店の木目細やかな日常サービスと共に、これまでと同様に学校図書館への納入業務を続けさせていただけますようお願い申し上げます。」

つまり、図書館流通センター(TRC)の独壇場の感がある公共図書館と違い、小学校、中学校の図書室では地元の書店のほうが便利だし、今回、書誌データも提供できることになったので、これまで通り図書の納入を続けさせてほしいという要請内容となっているのである。

これを見ればすでに分かるように、日書連MARCは名指しこそしていないものの、TRCに対抗するための武器として登場した。かつて公共図書館では電算化が進展すればするほど、TRCのシェアが拡大していった。それは公共図書館がTRCMARCを積極的に採用してきたからにほかならない。それまで図書を納入していた地元書店はTRCにはとても対抗できず、敗退していったのである。

そして、今度はついに小学校や中学校の図書室まで、電算化の波が押し寄せてきたのである。年間わずか20万円や30万円とかの図書予算しか持たず、これまでまったく競争のなかった学校図書室にまで、TRCがやってくる。ある日突然、地元業者が納入できなくなるという脅威が現実のものとなってきたのである。

学校図書室が電算化されるとどうなるか。使用するMARC、装備の関係でその後の図書購入するルートが決まってしまうケースが多い。コンピュータ関係業者が学校から呼ばれて、図書室電算化を検討するときに、蔵書の入力などの関係からTRCMARCを勧め、TRCとの取引が始まる可能性が高いのである。だからその前に、地元の本屋が学校図書館の電算化を提案し、日書連MARCを採用してもらい、取引を継続させよう、ということである。本屋は本だけを納品すればいいという時代は終わった。学校図書室の電算化についていける本屋だけが生き残れるのである。

説明会では学校図書室の電算化が急速に進んでいることについて、次の8つの理由を挙げていた。
1. パソコンの性能が向上し、低価格になったこと。
2. 初心者でも容易に扱えるパソコンの利用環境が整ってきたこと。
3. インターネットなどのコストが安くなったこと。
4. コンピュータの利用教育に対する考えが、学校現場に広く浸透してきたこと。
5. パソコンを扱える教職員が増加したこと。
6. 一般家庭でもインターネットをはじめコンピュータを手軽に利用するようになったこと。
7. 文部省の施策でも、学校図書館でのコンピュータ利用を推進するようになってきたこと。
8. 読書推進にも役立つとの事例が多く紹介されていること。

これまで図書基本台帳の作成、ブックポケットや図書ラベルなどの装備などを無料奉仕で行ってきた地元書店は多いが、それがバーコードとMARCに取って替わるのである。それにともなって、貸出・返却・検索などを行う図書館管理ソフトが必要となってくる。書店の側では納入する本のMARCを抽出して、バーコード付き装備をして書誌データをフロッピーディスクなどにコピーしてセットで納品する。図書室の側では貸出・返却・検索ソフトでそのデータと貼り付けたバーコードを利用することになる。

日書連MARCは取次の大阪屋の協力で開発したものだが、MARCがあるだけで学校図書館の電算化ができるわけではない。そこで大阪府書店商業組合の説明会では(株)教育システムの図書館電算化システムの「情報BOX」「蔵書WEB」「KSブックデータ」「司書Tool」が紹介されていた。

「情報BOX」は貸出・返却・検索ソフトである。貸出・返却業務は個人カードと本についているバーコードをスキャンするだけ。個人カードのバーコードで現在、借りている本や予約中の本の一覧が出る。図書目録検索では書名、著者名、キーワードでの検索ができ、個人情報検索では貸出履歴からクラスの貸出状況、読書傾向の表示・印刷ができるというもの。しかし、これは返却するたびに記録が消去され読書の自由を守っている公共図書館と異なり、学校図書館の電算化は個人情報の観点から問題があるかもしれない。

「蔵書WEB」は購入した本の表紙画像、目次データ、内容要約、キーワードなど詳細データをダウンロードすることができる基本機能をもつもの。これは日書連MARC(書名、著者名、ISBN等書誌データ)と日外アソシエーツ「BOOKISBN抽出サービス」の元データ「BOOKデータベース」を併用した「KSブックデータ」と呼ばれる?教育システムのオリジナルデータである。

「司書Tool」では、書籍を図書室で貸出できるように装備するためのソフトで、新規購入した本をISBNコードで検索し、バーコードを印刷し、データ登録を行う。また、背ラベル印字、蔵書台帳の印字などが可能となるものである。

いずれのソフトも従来に比べてきわめて安価に提供されていることが特徴的である。図書館の情報システム化はすでに公共図書館や大学図書館などでは常識のことではあるが、それがついに小学校、中学校の図書室にまで及んできたというところが注目に値する。

(株)教育システムのパンフに「『なぜ、パソコンで検索できないの?』という子どもの問いかけに、先生!もはや言い訳できません!!」とあったが、それはまさにその通りであろう。しかし、本を検索して調べものをするだけではなく、1冊の本を最初から最後まで読んでみようよ、と児童、生徒に話してくれる小中学校の教員がはたしてどれほどいるのか、じつに気になるのである。