2003-01-21
公共図書館は大学生には無縁?
前回は「ベストセラーをめぐる攻防~作家vs図書館」というNHKのテレビ番組を大学の「メディア論」の受講生に見てもらい、設問への回答を分類して示した。
回答をみると大学生たちはきわめて冷静に図書館の複本問題をとらえ、その本質を突いた意見が出ていることに気づくのである。
設問の第一の、公共図書館がベストセラー本などを複本購入して利用者に提供することについては、利用者として歓迎する意見と賛成できないという意見に分かれた。
まず、「歓迎派」は無料で読みたい本を読めるのだから利用者にとってこれほど良いことはない。また、本が出版されてすぐに読みたいから予約待ちは嫌だ、という。図書館に本が置かれることは作家が世間に認められるということだから喜ぶべきである。そして、読者は必要な本は手もとに置いておきたいのだから作家はおもしろい本を書けばいい、という意見である。
一方「反対派」は、図書館は本屋と違うのだから1つの作品を1冊購入して貸し出すべきである。また、ベストセラーはあとになってあまり借りられないから有効に税金が使われていない気がする。さらにベストセラーは図書館を平べったい感じにしてしまうとも主張している。
ところでベストセラーなど人気のある本の複本購入に対して賛成も反対もあえて表明せず、必要な本は借りずに買うので関係ないと答えた人たちもいることを忘れてはならない。
設問の第二の、出版社が販売機会を奪われていると主張することについては、「出版社に同情しない」が「出版社の言い分ももっともである」を上回った。読者の立場からすれば出版社の事情よりも自分たちの財布の中身の方が気になるという意見である。
設問の第三の、作家などが図書館での貸出に制約を考えていることについては、「制約はない方がいい」や「どちらがいいか分からない」より「制約はあった方いい」と答える人が圧倒的に多かったのは意外だった。
制約の内容を具体的にみてみると、新刊書の貸出は一定期間しない、一つの図書館での複本購入冊数に上限を設ける、図書館に売る本を高く設定する、 1冊に10円払う、といった結構、核心を突く意見が出されている。CDやビデオのレンタルに慣れた発想が大学生にはあるのだろう。
設問の第四の、図書館のネットワーク化、ビジネス支援については、そうした取り組みに期待するという意見が多かった。自分の目的にあった本を探してくれる司書が増えれば今まで図書館を利用しなかった人も利用する、という意見。利用者のニーズにぴったりの図書館があれば生活になくてはならない存在にもなり得る、といった前向きに評価する意見が多かった。
ただ一方では、ネットワーク化よりも1ヶ所にあらゆる資料がある方がよいという意見もあった。
以上、大学の「メディア論」のクラスでの調査概要を述べてきたが、この調査で注意しなくてはならないのは、公共図書館の複本問題に対する大学生の意識は以上のように分類することができても、それは大学生の公共図書館の利用実態をそのまま表しているわけでは全然ないということである。文化コミュニケーション学科の「メディア論」の受講生なのだから、メディアには多少なりとも興味がある学生のはずなのだが、その学生たちにしても公共図書館を利用している人たちは少ないようなのである。
やや資料づくしになるが、以下の調査を見ていただきたい。以下に示すのは2002年10月12日に同じく京都学園大学の「メディア論」受講生を対象に実施した図書館利用に関する調査の結果である。
【設問】
10月7日、国立国会図書館関西館がオープンしました。ところで、あなたは図書館をよく利用しますか? 「公共図書館」派、「大学図書館」派、「両方利用する」派、「どちらも利用しない」派? いずれかをまず書いてから、図書館の利用について自由に意見を述べてください。
【結果】
回答者46名(カッコの中に参考までに学年を記載)
「公共図書館」派(4名)
●私は「公共図書館」派です。大学生になってから図書館は利用していません。でも最近、とても本が読みたくて家から一番ちかい図書館に行ってきました。けど休館でかりることができませんでした。よく思うんですけど、休館日とかケイタイですぐ調べられるようになればいいなあと思います。本を読むのは大好きだし、図書館の雰囲気も大好きなので、これからはマメに通いたいと思います。せっかくタダで本が読めるのでたくさん利用したいです。学校の図書館は場所がちょっと遠いのと、新しい本があんまりない気がしてめったに行かない、というか、何回しか行ったことがないです。(2回生)
●「公共図書館」派。本を借りに行く必要がある時は近くの図書館まで足を運ぶ。これまでは読書感想文や自由研究と言った夏休みの宿題に使う本を借りに、毎年夏休みに行っていたが、大学になってからはレポートを書くのによく本が必要となったので、今年になって既に3回程借りに行った。大学の図書館にはほとんど行っていない。慣れている所の方が気軽にいられて良いからだ。(1回生)
●「公共図書館」派。私が読む本は小説が多いので、公共図書館を使っています。大学図書館は利用したことがなく、専門的な本が多いようなので、レポートなどで調べることがあれば利用しようと思っています。(1回生)
●「公共図書館」派。本などを買って読むのもいいけれども、高くついてこまるという点では図書館は静かでいつでも好きな時に読めたり、また好きな作家の本を時間にかんけいなくよめる所とかでよく利用します。(2回生)
「大学図書館」派(18名)
●「大学図書館」派。授業の空き時間に利用できるし、静かなふんいきが好きだから。(1回生)
●私はあまり本を読む事を今までしなかったため、図書館や本屋に行く習慣がありませんが、大学に入り、いろいろ論文等、利用する機会が増えたので行きます。しかし、大学のレポートや論文で使う本は値段が高いのが多いし、専門すぎたりとかして本屋に置いてない場合や買えない場合が多いので、私は図書館の方が多く利用します。中でも大学の図書館をよく利用します。亀岡に住んでいるので、公共の図書館の数も少なく場所も遠い。蔵書数も大学の方が多いので、調べたい本がある可能性が高い。図書館は利用しやすく、交通の便の良い所の方が、利用者が増えると思う。例えば駅前とか。(4回生)
●図書館はあまり利用しない。私は「大学図書館」派です。あまり本を読まないので、大学図書館もあまり行かないけど、やっぱり学校の方が勉強でわからないところは必ず大学の図書館にあるので、探しやすいし、利用しやすいと思う。公共は一般の人の利用もあって、おちつかない。大学の学習分野のは大学にそろってあるし、調べたりするといったら、大学の勉強のことなので、私は大学で十分だと思う。(2回生)
●「大学図書館」派。特に本を借りるわけではなく、勉強をしにいく。問題集などを貸し出してくれるとうれしい。(3回生)
●「大学図書館」派。家の近くに公共図書館がないので大学の図書館を利用します。図書館には調べものがある時ぐらいしか行きません。(3回生)
●「大学図書館」派です。僕は基本的に本を借りるのはあまり好きではなく読みたい場合は買います。しかし、ちょっと調べたい時や授業関係でしかたなくの時は大学の図書館を利用しています。借りて読むのが好きではないのは、ゆっくり読みたい気持ちがあるのと面白ければ何回も読みたくなるからです。読むのが遅い僕はまんが喫茶は絶対利用しません。もったいない。(2回生)
●「大学図書館」派。私の町には公共図書館がなく、県立の図書館にも遠いので行きません。大学図書館はレポートをする時にしか利用しませんが、毎日大学に来ているので利用しやすいです。国立国会図書館に僕は行ってみたいですけど、借りるのが面倒とか……。図書館は借りやすい所が一番いいです。(2回生)
●図書館はあまり利用しない。大学のレポートなどの時に、調べものや、資料のために、大学図書館を利用するくらいだ。本を読みたいなら、書店で買うし、書店の方が種類も多いし、新書もチェックできるし、新品できれいだから。それに、私は、図書館では、落ちついて本を読むことができないので。ビデオ、DVD についても、同じように落ちついてみれない。(2回生)
●大学図書館を利用しています。毎日、学校に来るからです。(3回生)
●僕は「大学図書館」派なんですけど。大学でもし時間があったら、よく図書館へ行って本を読んだり、雑誌を読んだり、ビデオを見たりします。すごく便利だと思います。(3回生)
●大学に入学してからは「大学図書館」派になったと思うが、高校の頃は「両方利用する」派だった。高校の場合、本の種類が少なく公共図書館まで行っていたが、大学の場合は種類も多いし、「大学図書館」派になった。図書館利用は一般の人にとても役立つと思うし、なかなか買えない高い本やマンガなどもっと分野を幅広くしてたくさんの本をおいたら人生にも役立つと思うし、利用者も増えると思う。(2回生)
●私は大学図書館だと思います。私は昔から図書館というか本がたくさんある場所の雰囲気が好きで、余裕のある時は行きたいと思っていますので、行ける範囲に公共の図書館があればそちらにも行ってみたいです。(2回生)
●「大学図書館」派です。大学の図書館はよく授業のレポートなどをやるのに利用します。やはり大学の図書館の方がレポートをやるのにつごうがよくおなじ年代の子が多いので行きやすいです。(2回生)
●「大学図書館」はよく利用します。いろんな資料が調べられるから便利だと思う。それも静かに中で勉強ができる。(3回生) ●「大学図書館」派です。何故って、やっぱり近いからです。返す必要があるので近くにないと使いにくいし、大学図書館は割りと本の状態が良いので。(1回生)
●たまーに大学の図書館に行きます。公共図書館は家から歩いて10分位のところにあるけど、まったくとおらない道にあるのであまり行かないし、あまり本が置いてないのでめったに行きません。本屋さんに欲しい本があっても、お金がなくて買えないし、本を買うくらいなら服代にまわしています。自分の欲しい本が図書館にいってもあることはないし、とりよせてもらってまで読む気もないので、気付いたら本離れしてしまっています。でもお金さえあれば本も買いたいです。(1回生)
●僕は「大学図書館」派です。大学図書館には読みたい本もあるし、週に5、6回大学に行くので、大学図書館を利用します。図書館は無料で多量に借りられるのでとてもよいと思います。(1回生)
●僕は「大学図書館」派。図書館を利用することが少ないのですが、調べることがある時は大学図書館です。まず家の近辺に公共図書館がありません。図書館はどんなところにもあって場所によって本のそろいはさまざまですが、どこの図書館も便利で静かでふんいきが好きです。(1回生)
「両方利用する」派(16名)
●「両方利用する」派です。それは参考書や資料等、探す物によって選ぶからです。(1回生)
●「両方利用する」派です。でも本を借りるために利用するというよりは、「勉強の場」として利用しています。小学生のころから静かで集中できるのは図書館だと思っていて、実際テスト前か受験生の時には近所の図書館や学校の図書館をよく利用していました。本を借りるために利用する場合は、学校の図書館よりも公共図書館を活用しました。そっちの方がパソコンで検索ができるので探しやすかったし、品数も多かったからです。(1回生)
●私は「両方利用する」派です。図書館は雰囲気が落ち着いていて、中は静かだし、レポートなどを書くときなど利用します。家では勉強などするときは集中できないので、公共・大学図書館など勉強できるような空間の所を利用します。大学図書館は講義と講義の間の空き時間によく行きます。公共図書館は休みの日など、大学図書館に行けないときによく行きます。ときどき、返却期限がすぎてしまうこともあるので気をつけたいです。(1回生)
●今は、あまり通っていませんが、「両方利用する」派です。学校のレポートなどに必要な時ぐらいしか利用しませんが、どちらも使っています。その時の気分で。でもやはり期限があるので、めんどうくさいなと思います。(2回生) ●自分は「両方利用する」派だ。平日は大学図書館、土・日は公共図書館を使う。ただ、公共図書館の方が幅広い分野のものがあるので便利だ。図書館を利用する目的は、ほとんど新聞か雑誌が目的で、その他の本はほとんど読まない。でも、図書館は自分の世界にどっぷり入れるので、時間があればよく利用する。(1 回生)
●「両方利用する」派のどちらかと言えば「公共図書館」派です。時と場合によっては「大学図書館も利用しますが、やっぱり家の近所にあって、日頃小さい頃から使い(通い)慣れてる方が、行きやすいので、「公共図書館」をよく利用します。なぜか大学よりも地域密着型の公共の方が行きやすい雰囲気がある気がします。(2回生)
●私は公共図書館も大学図書館も両方利用する派です。私の場合、本を読むために利用するのではなく、レポートの為に利用することが多いです。読みたい本は自分で購入して読むのでそのようなことがないのです。それにしても大阪にオープンしたあの図書館はスゴイ!!テレビで見てびっくりしました。(3回生)
●「両方利用する」派。大学図書館では授業内容に合う本がたくさんあるので期末テスト前に利用する。公共図書館は面白い本を見つけたら借りる。(2回生)
●私は「両方利用する」派です。大学生になってよく公共図書館に行くようになりました。家にいるより集中できるし、涼しい暖かい。それに大学にない小説やエッセイ集があるから利用します。ただ少し遠いのと6時には閉まってしまうことが難点です。学校の図書館はレポートなどで利用しています。やはり学部にあった本が多いし、学校に来るついでに借り、返しができるので便利だと思います。(3回生)
●両方利用する派です。大学に入ってほとんど毎日大学に来るから、大学図書館を利用する方が便利だと思います。もし、大学図書館で必要な資料が見つけられない場合は公共図書館へさがしに行くと思います。(3回生)
●僕の図書館の利用方法は試験前に静かに勉強したい時や一人で静かにボーッとしたい時に利用する程度です。そう頻繁には利用しませんが落ち着いて勉強ができる為、活用させてもらっています。大学図書館と公共図書館では両方利用しますが大学図書館は騒がしいことがあるので公共図書館の方が好きです。(2回生)
●両方利用する派。普段は大学図書館を利用するけど、たまに公共図書館を利用する。あんまり行かないけど、大学の図書館に行けば必要な本はそろってるので大学の方を利用するけど、公共図書館は広くて本の種類も多くて、大学の図書館よりも静かだし、居心地がいいからたまにはいいと思う。(4回生)
●「両方利用」派です。もし見たい本は「大学図書館」でなかったら「公共図書館」にあるかもしれません。(3回生)
●授業でレポートが出た時だけ行きます。その時は両方利用します。図書館は少しかたくるしいイメージがあるので、あまり行きたいとは思わないです。でも最近はCDやビデオを置いてる図書館もあると聞いたので、そういう図書館なら行きたいです。(3回生)
●僕は両方利用する派です。公共図書館ではよく書物を調べたり、大学では館内のパソコンでインターネット等を活用したりするので非常に便利です。(2回生)
●私は「両方利用する」派です。大学図書館を利用し、欲しい本がない場合に、公共図書館を利用するようにしています。(3回生)
「どちらも利用しない」派(8名)
●どちらも利用しない派。最近はインターネットを使えば家から出ることもなく、調べたいことがすぐに調べられるので利用しない。(4回生)
●ぼくは図書館をあまり利用したことありません。ぼくは読書はあまりしないからです。昔はけっこうしていたが高校・大学になってあそんでばっかりで本をよまなかったので最近漢字がやばくなってきました。(1回生)
●ぼくは「どちらも利用しない」派です。図書館の本は公共の本で自分の他にも借りた人がいるし、これからも借りていく人がいます。その人達のことを考えると「汚してはいけない」とか「ページが折れたりしてはいけない」と思ってしまい、楽に読めない部分が自分の性格としてあるのです。自分の本ならページが折れてしまったりしても「仕方ないか」で自分だけがガマンすればいいことです。でも借り物の本はそうはいかないので気を使ってしまいます。もうこれは自分の性格の問題なのですが。だから読みたい本は買ってます。(1回生)
●僕は図書館はあまり利用しないです。受験の時は行ったりしたけど、最近はほとんど利用してない。図書館は静かで集中して本を読んだり、勉強するにはいいが、図書館が家から遠い場合などは不便だし、利用しようとも思わない。(1回生)
●「どちらも利用しない」派。最近、必要な情報は全てインターネットで調べているので、図書館はほとんど利用しません。(1回生)
●私はあまり図書館は利用しません。調べ学習がある時くらいだと思います。図書館へ行くよりかは普通に書店に出向き、本を買う方が多いと思います。それに本を読む時間が今はないのであまり読みません。(1回生)
●「どちらも利用しない」。公共図書館に行きたいけど、場所が遠い。大学図書館は私が読みたいと思う本がなかった。高校の時は興味のある本がいっぱいあったんですけど……。(1回生)
●どちらも利用しません。それは今のところ利用目的がないからです。でも、図書館はとても便利であると思う。なぜなら、わざわざ本を買わずに無料で借りて読むことができるからである。一度だけガレリア亀岡の公共図書館に行って、3冊ほど本を借りたのですが、読む時間がなくて、結局読まないまま返却してしまいました。だけど、今日のこの授業を受講して、何だか急にその読めなかった本を読みたくなったので、また借りに行こうと思います。(1回生)
以上の調査結果から私は次のように考えた。
まず、「公共図書館」派の人の意見を見ると、好きな作家の本を自由に読むために公共図書館を利用する人がいるようである。
一方で「大学生になってレポートを書くのに大学図書館を利用する」というのは、必然的なことである。「蔵書数も多い」「毎日行くところだから」「授業の空き時間に利用できる」「静かだから」といろいろな理由が挙げられているが、やはり基本は大学の学習に必要な文献が大学図書館には揃っているということだろう。しかし、「調べる」という機能面からは逆に「インターネットを使えば調べられるので利用しない」という人も現れてきていることは注目に値する。「両方利用する」派は、利用する文献によって使い分けるということだろう。「調べる」のは大学図書館、「借りる」のは公共図書館という人も多いようである。また、結構、「自習室」としての図書館利用派も多い。
「どちらも利用しない」派は、「読書しない」「ゆっくり読めない」「インターネットで調べるから利用しない」とさまざまな事情から図書館に行かない。
この調査結果をみると、全般にそれほど本を読んだり、本を調べものに利用したりしているわけでもないように思える。つまり、「レポートを書く必要があるときだけ、図書館に行く」という行動をとる人が多いように見受けられるのである。また、「利用する」という人も授業の空き時間に大学図書館に行く、雑誌やビデオをみる、インターネットを利用することを「利用する」に含める人と、本を借りたりしなければ利用したうちに入らないと考えている人もいて、設問の受け止め方が回答者によって異なるようにも思える。
いずれにしてもこの調査では公共図書館が大学生の生活の一部になっているようには感じられないのである。