2003-01-07
新刊書店のような公共図書館
最近、私は公共図書館をあまり利用しなくなっている。20年くらい前、明石市に住んでいたときは明石城公園にある自宅から歩いて10分ほどの明石市立図書館を毎週のように利用していたものである。月に2回発行される「これから出る本」を毎号チェックして、行くたびに2、3冊は新刊書籍をリクエストしていたのではないだろうか。明石市立図書館はほとんどすべてのリクエストに応じてくれ、毎週のように自宅に電話がかかり、私はリクエストした本を借り出して、読んだ。緑風出版などかなりマイナーな出版社の3000円近くする本でも太っ腹なことに買ってくれたのを覚えている。
また、子どもの本は相当な点数を借りていたものである。さらに隣接して兵庫県立図書館があったので、結構、重宝していた。
その後、神戸市垂水区に転居して、今度は快速電車で3駅先の神戸駅で下車、さらに歩いて15分ほどの大倉山にある神戸市立中央図書館に通った。ここでも私だけではなく、子どもの本も相当借りていた。
当時のメモがある。たとえば1990年1月14日、神戸市立中央図書館で借りた子どもの本は『にんじんケーキ』『うたうケーキはどうかしら』『はんたいことば』『もっとはんたいことば』『ごんぎつね』『名犬ラッシー』『あたまにかきのき』『なかよしくまちゃん』の8冊。こんな調子で1月28日、9冊。2 月13日、11冊。2月25日、13冊と紙芝居2冊。3月11日、8冊。3月25日、4冊。というぐあいに結構遠いわりにはよく通ったものである。 1990年というと私の子どもたちが小学生と幼稚園に通っていたころのことである。
1991年に垂水区に神戸市立垂水図書館が開館し、図書館通いは非常に便利になった。しかし、リクエストに関しては明石市の時とは異なり、なんでも購入してくれるというわけにはいかなかった。特に1995年の阪神・淡路大震災以降は、予算の関係で買えない可能性の方が高い、とリクエストしたその場で言われたものである。
それでも図書館に行くと新着図書の棚を眺め回して気に入った本があると借りていた。しかし、ここ4、5年、かなり私自身の本の読み方が変わってきた。必要な本はすぐに欲しい。したがって最初から所蔵している可能性の低い垂水図書館を窓口に中央図書館から回ってくるのを待つことをしなくなった。また、2週間おきに返却するのも忙しく、結局、前にも増して本は買うのがいちばん便利ということになってきた。
私としては垂水図書館の使いにくさは次の4点。
1. 検索するにも端末がカウンターの職員しか操作できないようになっている。
2. 蔵書構成が薄い。私が借りようとする本は中央図書館からの取り寄せばかり。
3. 日曜日の新聞・雑誌のコーナーが混みすぎていて、ちょっと記事を見ようにもほとんど不可能。
4. 閉館が夕方6時なので、平日の利用は不可能。
先だって、久しぶりに垂水図書館に出かけた。ベストセラー本を3冊借りようとしたら、3冊とも貸出中だった。『世界がもし100人の村だったら』には6 人の予約がついていた。『世界がもし100人の村だったら2』はその日が返却期限なので戻ってくればすぐに電話するとのこと。『GO』は貸出中なので返却されれば電話する、と以上の返事をもらった。
翌週、垂水図書館から予約していた本が返却されたとの電話をもらった。本を借りて帰ろうとすると、カウンターのところに「図書館見学用データ」と書かれた紙があるのを見かけたので、そのコピーがほしいというと、コピーはないといわれた。そこで、では写させてくださいといって、書き写した。以下が全文。
図書館見学用データ(平成14年4月1日現在)
蔵書 83000冊(うち児童23000冊)
登録者数 35000人(うち子ども7000人)
来館者数 1200人(1日平均)
年間34万人
貸出人数 600人(1日平均)
1年では17万人
貸出冊数 2000冊(1日平均)
日曜日や夏休みは3000冊くらいの日もある。
1年では56万冊
開館 平成3年11月25日
広さ 686m2
教室10個分くらい
働いている人 9人
神戸市民150万9780人のうち、垂水区の人口は22万5193人(2002年8月1日現在)。区民だけでなく垂水近辺で働いている人も含めてだろうが、3万5000人が登録し、延べで年間34万人が来館し、17万人が56万冊の本を借りて帰るというのは、はたしてどうなのだろう。
私は小学生だったころ、大阪府豊中市に住んでいた。そして、電車で3つ目の駅にあった豊中市立図書館をたまに利用していたことを思い出す。本を借りるというより、たしか映画会が目的で行ったような気がする。しかし、その木造の図書館はじつに地味で静寂で、それでいて心躍るような未知の世界であった。私は今でもその不思議な感覚が忘れられない。
いまの公共図書館はどちらかというと新刊書店の感覚に近いように思えるのである。