2002-09-11

TRCの急展開―公共図書館、学校図書館から大学図書館へ

 前々回、前回と公共図書館、学校図書館と図書館流通センター(TRC)の最近の動きを取り上げてきた。では、ここでTRCのホームページ(http://www.trc.co.jp)の「沿革」から抜粋してその歴史をすこし振り返っておこう。

1979年 株式会社図書館流通センター設立。
1982年 TRC MARC発売開始(累積20万件)
1983年 新刊書早期納品システム「新刊急行ベル」運用開始
1985年 TRC MARCが学術情報センターの参照MARCとして採用される
1987年 オンライン注文システム「TOOL」稼動
1989年 新刊書在庫システム「ストック・ブックス(SB)」運用開始
1993年 学校図書サービスと合併。TRCMARC100万件突破。TRCMARC採用館1200館突破
1995年インターネット上で、表紙カラー画像付き新刊情報の提供と書籍販売開始
2000年インターネット・オンライン書店「bk1」(株式会社ブックワン)に出資
2001年 図書館専用インターネットサービス「TOOLi」運用開始。大学図書館向け向総合ソリューションサービス「ROOTS」開始。
2002年 株式会社TRCサポート&サービスを設立

TRCは図書館に書誌データベース「TRCMARC」を販売し、図書館用に装備された図書を納入するために生まれた会社である。図書原簿作成、バーコード貼付、背ラベル作成・貼付または貼り替え、フィルムコーティング、ラベルキーパー貼付、持出し防止用テープ装着、印押し、ブックカード・ブックポケット記入・貼付、補修・製本・再製本などの作業を図書館に代わって行う。また、公共図書館の側は「新刊急行ベル」、「ストック・ブック(SB)」、「新継続」という新刊在庫システムなど、TRCの提供するサービスをこれまでは便利に使ってきたわけである。

そのTRCが今日では公共図書館に対するアウトソーシング事業に乗り出してきた。TRCのパンフによると対利用者サービスとしての貸出・返却のカウンター業務、図書の配架、書架整理、新聞・雑誌の整備、閉架書庫の出納。資料収集・整備関連では、図書の発注・受入、図書整理、蔵書登録。そして、蔵書点検もTRCが行ってくれるのである。さらに前々回述べたようにPFI方式(公共施設の運営の民間企業への業務委託)による日本で最初の公共図書館となる三重県桑名市立図書館新館の設立・運営を手がけるまでに至っている。

一方、前回述べたようにTRCは従来、地元書店の独壇場だった学校図書館の分野にも進出している。1993年に学校図書サービスと合併し、2001 年3月には、新学習指導要領の「総合的な学習の時間」が2003年より小学校、中学校、高等学校で全面実施されることに対応するため、取次の日教販と業務提携した。『「総合的な学習の時間」のためのブックカタログ』2001年版を「TRCでは取引のある小・中学校の図書館4000館をはじめ、各教育委員会や取引のない学校図書館3000館などに1万部強を配布」しているのである。(出版業界紙「新文化」2001年3月29日付け)

また、2001年6月、TRCは丸善と業務提携し、図書館業務を受託するための総合ソリューションサービス「ROOTS」(ルーツ)を共同で提供すると発表している。

すでに丸善もTRCも書誌検索や選書、発注、予算管理、図書装備など、図書館向けのシステムを個別に構築しているが、それぞれのサービスを統合して提供することで図書館のアウトソーシング需要に応えようというのである。(「新文化」2001年6月28日付け)

大学図書館市場における最大手業者である丸善でさえ、TRCMARCやTRCの図書装備に対抗するよりも提携する方が得策と考えたということなのであろう。

しかし、TRCが公共図書館だけでなく、大学図書館にまで事業を展開していくと、いったいどのようなことになっていくのだろう。

TRCの「大学図書館専用システム」のパンフによると、TRCは次のようなサービスを提供できるという。

1. 図書装備とNCデータ登録を一括してサポートします
2. データ登録には、信頼の書誌データTRCMARCを活用します
3. 豊富な選書情報をご利用いただけます
4. 図書館専用として日本最大のTRC物流センター(志木ブックナリー)を利用します

大学図書館現場はこれまできわめて職能意識が高く、受入業務、整理業務、閲覧業務のどれをとっても専門性が問われる職場であった。ところが18歳人口の減少による大学の「生き残り」の時代を迎えて、まずは私学から徹底的なコスト削減策が具体化され、図書館現場がたとえ反発しようとも会計サイドからの要請により、閲覧業務や整理業務の外部業者へのアウトソーシングが実施されるようになってきている。それが国公立大学においても独立行政法人化の波の中で私学と似たような展開になりつつあるのである。

このような状況の中でTRCは公共図書館、丸善は大学図書館というような棲み分けの時代は終わりつつあるのではないだろうか。つまり、TRCは公共図書館から小学校、中学校、高等学校という学校図書館、そして大学図書館にまでマーケットを拡大してきた。それがアウトソーシング需要の波に乗って、ついには TRCが図書館を運営する方が効率的だという状況になってきているように思える。

2002年6月に発表されたTRCの決算(2001年4月~2002年3月)では売上高246億6940万円、経常利益は16億3345万円、当期利益は 9億9782万円である。また、TRC MARCの累積件数は210万7419件、MARC採用図書館は3941館となっている。(「新文化」2002年6月27日付け)ちなみに丸善の書籍・文化雑貨部門の売上高が979億7600万円、紀伊国屋書店の売上高は1133億9591万円(うち大学マーケットへの営業を行う営業総本部の売上高は 412億8128万円)である。

TRCは今後、日本の図書館をどのように変えていくのだろうか。