2002-05-13

大阪府マルチメディア・モデル図書館展開事業とは

 今回は、第14回「書店の危機と変貌する若者のメディア接触」において少し触れた大阪府立図書館のインターネットを利用したレファレンス(e-レファレンス)の話のつづきである。

 このe-レファレンスの話はそもそも「大阪府マルチメディア・モデル図書館展開事業」として2001年9月から2006年3月まで4年半をかけて地域の情報拠点としての公共図書館をめざす実証実験のうちの一つである。全体の実施計画書によると、その事業目的は以下のようになっている。なかなか興味深いので、長いが全文引用してみよう。

 「インターネットの急速な普及は、膨大な電子情報に誰もが自由にアクセスできる環境を創り出した。しかし、情報ハイウェイ発祥の地アメリカと比較し、『IT革命の成果の市民への還元』という面で大きく遅れを取っている。
 例えば、公共図書館・大学・民間企業等が一体となって子供から質問に答える『ネットワークレファレンス(The Virtual Reference Desk: VRD)の取り組み』や、また政府機関が利用するITは、Webサイトを含めすべての障害者が利用できるものにしなければならないという『障害者や高齢者などへのバリアフリーな環境の整備』の面でも、大きな格差が出ている。このほか、デジタルコンテンツ製作の遅れや、電子情報の所在を探索する環境なども整備できていない。
 このようなデジタルデバイドの解消をめざす上で、『IT革命にふさわしい情報拠点としての図書館の役割や機能』を踏まえた、戦略的な研究開発が期待されている。
 IT革命の成果を、地域の情報拠点としての役割を担う公共図書館において、具体的な内容と効果を伴った形で実現する事を目標とし、『福祉型Web図書館システム』『複合型Web図書館システム』『Web電子図書館システム』『参加型Web学校図書館システム』の4つの柱からなる『マルチメディア・モデル図書館』を、全国公共図書館中、最大級の大阪府立図書館を中心として、大阪府域の公共図書館や学校図書館、専門機関と協力して構築し、すべての人が容易に利用できる高度な図書館情報サービスの実現を目指した実証実験を行う。」

 つまり、デジタルデバイドを解消するために公共図書館が高度な情報サービスを作り上げ、すべての市民に利用してもらおうというのがこの事業の趣旨である。

 そのためにまず具体的に「マルチメディア・モデル図書館」の4つの柱を打ち出している。実施計画書によると概要は以下の通り。

1.福祉型Web図書館
 障害の有無、コンピュータの利用経験の深浅に関わらず、インターネットをはじめとする情報を等しく享受できるよう、利用者のニーズにあわせて、音声出力、点字出力、文字の拡大等が容易に選択できるシステムを実現する。障害者・高齢者用の汎用デジタル録音システムとして世界各国が共同開発中のDAISY (digital audio-basedinformation system)フォーマットのデータ入出力ができるシステムを構築する。Web上の公開情報に多用されているPDF等のファイル形式を、特に視覚障害者が扱い易いように、利用者がファイルの形式を意識せず、利用しやすいテキスト形式などに自動変換できるシステムを構築する。
2.複合型Web図書館システム
 日本語Z39.50プロトコルによるWeb横断検索システム及び書誌同定技術の研究開発を行うとともに、当該システムと集中型Web検索システムと併用したバーチャル総合目録を図書館相互の連携により実現する。Z39.50プロトコルを各図書館のゲートウェイとしての役割を持つサーバだけでなく、ロボット・ソフトに適用し、通常のゲートウェイ方式では検索が難しい世界各国の文献が探索できるシステムを構築する。
3.Web電子図書館システム
 利用者が容易に貴重資料を閲覧できるようにするため、高精細画像表示技術を用いて、精密さを要求される画像等の図書館資料の電子化及び公開ができる電子図書館システムを実現する。利用者が当該システムを利用して検索した電子資料は、利用頻度に応じてキャッシングし、インターネット上に散在する電子資料を高速で提供できるシステムを構築する。
4.参加型Web図書館システム
 上記の各システムを基礎に、画像半開示技術、電子透かし技術、利用者認証技術、GUI技術等のコンテンツ流通技術を用いて、著作権保護に配慮した参加型レファレンスデータベースシステムを市町村図書館、小・中・高等学校との連携、情報の共有により構築する。

 このような電子図書館が作られたなら、たしかに障害のある人にとって、また図書館に足を運ぶ時間のない市民にとってじつに便利である。

 そして、小学校、中学校、高等学校の児童、生徒にとっては総合的学習の基礎になる調べ学習が容易にできるようになるだろう。例えば学校図書館に所蔵しない資料を公共図書館で探す場合、これまでも夏休みの自由研究のための参考図書は質と量の双方において乏しかったのではないだろうか。野山の草木に関する本があいにくすでに貸し出されていたとすると、児童・生徒ははたしてその1冊の本を夏休みの間に借り出すことに成功するであろうか。

 今日では総合的学習の先取りで学校の生徒が公共図書館にクラスごと出向いていくこともしばしば行われているが、複数の学校が一度に来館すればもはやお手上げであろう。その点、電子図書館化はより多くのレファレンスに対応できるのではないだろうか。

 インターネットの急激な普及によって膨大な電子情報が生まれたが、日本の児童、生徒たちがそれを活用するための情報リテラシー教育を十分に受けているとはいいがたい。電子メールによって図書館のレファレンスが利用でき、さらに実際の資料を入手できる体制が作られる必要があるだろう。

 IT革命と言われても市民がその恩恵を受けていないようでは話にならない。大阪府の事業は具体的な図書館利用法であるがゆえに、かなり有効なものだと私は思う。