2002-04-15

若者・ケータイ・読書

 書店の経営危機の背景には若者のメディア接触の変貌があることを前回、指摘した。たとえ現在の消費不況が回復したとしても、書店全体の出版物販売額が今後、右肩上がりで上昇していくとは思えないからである。

 ではどのようなメディア環境の変化があったのであろうか。

 まず、個人の情報化とでもいうべき情報機器の普及がある。パソコン、ファクシミリ、ビデオ、CDプレイヤーなどの普及率はかなりのものであるが、どれ一つとってみても例えば70年代に高校・大学に通った私の学生時代にはなかったものである。そして、現在の若者のメディア環境で特筆すべきものはなんといってもケータイとインターネットであろう。とりわけ、インターネットに接続できるケータイの普及には目をみはるものがある。かつてのパソコンユーザー、すなわち高学歴、高収入で都市に住む階層だけでなく、これまで情報リテラシーが低いとされてきた層にもインターネットは確実に普及しているのである。

 大手広告代理店の博報堂がまとめた『ケータイ生活白書』(2001年 NTT出版)が列記する近未来のケータイのイメージは次のようなものである。

 地図やカーナビ、パソコン、手帳メモ、新聞、ラジオやウォークマン、小型カメラ、テレビ、伝言板、秘書、雑誌や本、銀行・証券会社、財布やクレジットカード、リモコン、コンビニ、友達や相談相手、ゲーム機、ペット。

 これを見るとすでに「近未来」ではなく現実化しているものも多いことに気づくだろう。つまりケータイはもはや電話というこれまでの概念をはるかに超えてしまっている。情報へのゲートウェイ(出入り口)としてのケータイととらえた方が分かりやすいのである。

 そこで指摘しておかなくてはならないのは若者の生活費に占める通信費の支出が増えていることである。大阪大学生活協同組合が2000年に実施した大学生の消費生活に関するアンケート調査では大阪大学の学生の9割がケータイ(PHSを含む)を持ち、そのうち6割がケータイ代を本人が支払っている。備え付け電話しかなかった時代にはそもそも大学生に対する電話代の設問すらなかったのである。1ヶ月の電話代は自宅生6560円、自宅外生7240円、寮生 10960円、下宿生7030円で平均6560円。

 また、単身世帯を対象に1999年に実施された「総務庁 全国消費実態調査」でも30歳未満の男女の通信費は前回(1994年)調査の2倍に達し、食費をけずってケータイやPHS、パソコンなどの通信費に支出していることが明らかになっている。

 ところで情報通信に関しては経済的な側面だけでなく、生活時間の問題も当然考える必要があるだろう。一人の人間がもつ可処分時間は限られており、ケータイやパソコンに使う時間が増えているということは、ほかの時間がけずられているということである。

 本や雑誌の販売額が年々減少していることには、じつはこのような背景があるのである。

 実際、大学生活協同組合連合会では1997年10月に実施された「第33回学生の消費生活に関する実態調査報告書」(1998年9月発行)以降、読書時間の調査をやめてしまった。1日の読書時間が「ほとんどなし」と答えた大学生は1987年には25・1%だったが、1997年には41・0%に増えている。まだ、平均読書時間も1987年に45分だったのが、1997年には31分に落ち込んでいる。さらに生活費に占める書籍費は2000年には月2910円(下宿生)で10年前に比べ約1000円も減っている。

 学校図書館協議会を毎日新聞社が共同で行っている学校読書調査によると、1ヶ月の読書冊数0冊と答える「不読者」が増加している。1955年、1975年、1999年の「不読者」は、小学生3・7%→9・9% →11・2%、中学生8・6%→29・9%→48・0%、高校生14・6%→34・7%→62・3%となっている。

 これらの統計が示していることは、書籍には関してはすでに平均読書冊数や平均読書時間など出してみても意味をなざず、読む人と読まない人がはっきり2極分解し、若者にとっては読書が明らかに少数者のものになりつつあるという実態である。

 さらにもっと冷徹な事実は日本の若者そのものの減少である。国立社会保障・人口問題研究所「人口の将来推計 低位推計」によると、0歳から19歳の人口は 2000年の2593万人が2010年には2295万人とじつに298万人、率にして11・5%も減少すると見られている。(「朝日新聞」2001年4月 27日付け大阪本社版朝刊)

 人口そのものが減少し、本を1ヶ月に1冊も読まない人の比率は高くなる一方という「若者像」から、これからの出版メディアを考えていかざるをえないというのが、ここでの私の結論である。

【お詫びと訂正】
 前回、第14回の文中「波屋書店」とあるのは「波屋書房」の誤りでした。お詫びして訂正します。