2002-01-21
医学・医療情報の公開
[2002年1月21日執筆]
(株)メテオインターゲートというところがメディカルオンラインという医師向けのサイトを開設している。このサイトではいくつかのサービスを提供しており、「文献検索」では2001年12月現在、13万論文が収録され、24時間オンライン図書館として「週刊日本医事新報」などの学会誌・専門誌のダウンロードができる。疾病名、医薬品名、学会名、著者名、論文タイトルなどのキーワードから検索でき、アブストラクト(抄録)の閲覧料は1件30円。全文ダウンロード料金は1論文400円となっている。
また、「医学書籍のネット販売」では医学書籍をインターネットで販売し、支払い方法は「代金引き換え」「銀行振り込み」「コンビニエンスストアでの支払い」「クレジットカードでの支払い」の4種類が可能となっていて、購入金額の3%を文献ダウンロードの割引額とする特典がある。
ほかにも「治療薬剤Q&A」「学会・研究会情報」「メールマガジンの配信」「お役立ち情報」「最新ニュースの配信」「ホスティングサービス」「電子化受託サービス」「学会ナビ」といった機能があり、まさに「忙しい医師」向けのサービスが豊富に用意されている。
このサービスを見ると、これまで医師や病院職員に対する資料提供を中心に活動してきた病院図書館司書の危惧もうなずけよう。アグリゲータが推奨する電子ジャーナル管理システムの導入後、その行く末には従来の図書館サービスがそっくり民間の情報業者に奪われてしまうのではないかと考えても無理はないのである。
しかし、医学・医療情報をめぐる中心的な問題はむしろ医師―患者という関係性の中で情報がどう位置づけられるかということであろう。
1997年6月26日、アメリカ国立医学図書館が構築する医学雑誌記事データベース「Medline」がインターネット上で無料公開されたことはきわめて象徴的な出来事であった。これまで商業データベースを通して有料で提供されていた世界最大の医学データベースが一般市民に開放されたのである。これは医学・医療情報の観点から言 えば、医師だけでなく患者やその家族にも情報が公開されていくという非常に画期的な転換点であったといえるだろう。
日本においても、学会がつくった治療指針や信頼できる臨床研究などの医療情報を集積し、一般公開する「電子図書館」が2002年度から官民共同で始まる見通しとなった、と報道されている。
2001年8月17日付け「朝日新聞」大阪本社版夕刊によれば、この電子図書館構想は「患者側にとっては、標準的な治療法やその根拠となる論文を手に入れることで、治療への理解を深め、医師らを選ぶ基準にもできる。ひいては医師側も常に最新情報を治療に生かす努力が求められ、医療の質向上につながる、と関係者はみている」という。
すでに国立情報学研究所の情報検索サービスには「臨床症例データベース」があり、2001年10月からは画像情報の提供も開始されている。しかし、「医療情報の電子図書館」という構想には明らかに今日の医療情報をめぐる環境の変化が反映されているのではないだろうか。つまり、医師が絶対的な権威を持ち、情報を独占していた時代から、患者の知る権利・選ぶ権利・決定する権利が尊重される時代になってきたという背景があるだろう。みずからの健康に関する情報を入手したいと考える人々が多くなってきたのは当然のことである。
しかし、ここで注意しなくてはならないことは、出版メディアにおいては著者と読者がいればあとは不要というような単純なものではないということである。インターネット上の大量の、玉石混交の情報があればあるほど、出版における編集という機能が重要視されるように、出版コンテンツに関する情報を的確に整理し、信頼に足る情報を利用者に提供する図書館司書の仕事は必要であるに違いない。ただ、図書館サービスが資料提供から情報提供に質的に転換していこうとしている現在、そのはたす役割はダイナミックに変化しつづけるだろう。
いずれにせよ、新しいタイプの電子出版の進展と医師―患者という社会的関係性の変化はこの場合、相互に影響を与え合うことになると私には思えるのである。