2018-08-03
出版する権利・著者の権利、著作権について
社内で、著作権にからんで社員から質問があって、
メールを書いた。
それを日誌に書いとこう。
●品切れ・重版未定について
・絶版というのは、著作権と契約の面からみると、
著作物の使用契約を、出版社側から、更新しない状態(契約をやめた)。
したがって、著作権者は、その契約に拘束されず、その著作物をいかようにも利用していい状態。
他の出版社に、もう一度「売っても」いい。
・品切れ・重版未定、という在庫ステータスは、
重版する予定なんだが返品とかありそうで、
その判断を一時的に先延ばしている状態、ということのはずだけど、
重版する気はないのだが、
絶版にすると、他の出版社に著者が売ることができるので、
それをさせないために、使われる実態もあるよう。
これが、日本文藝家協会、などからものすごく批判される点。
「塩漬け」とも言われている。
ある文芸系の出版社の友人に聞いたのですけど、
その社では、こうした権利の塩漬けはよくないということで、
品切れ・重版未定のものを絶版にして、
作家に「権利をお返しします」と、一斉に連絡する取り組みをしたそう。
結果は、さまざまなリアクションがでたそうだけど、そこは割愛。
こうしたことから、品切れ・重版未定は、
絶版同様、契約が切れている状態という解釈に、
十分に根拠があるのだろうと思う。
●紙の本と電子書籍の出版契約
・紙の本と電子書籍で、利用する権利はそれぞれ別に契約する必要がある。
電子書籍の利用は「公衆送信権」という利用形態で、
紙の本とはその利用の形態が違うから。
・著作物を出版するためのには、
出版許諾契約と、出版権設定契約と、大きく二種類の方法がある。
紙の本、電子書籍とも、どちらの契約形態でもかまわない。
ポイントは、紙の本、電子書籍、それぞれに契約することです。
(一つの契約書に両方の内容をいれることもでき、ポット出版は両方いれてる)
電子書籍などなかった(あるいは例外だった)ころの契約は、
当然、紙の本の契約だけのはずです。
ということは、電子書籍の契約は「空いている」状態ということ。
大手出版社、とくにコミックに関してこのことは重大な問題で、
「空いている」電子書籍の契約を
他社に取られないように、契約変更を急いだようだ。
出版社同士なら、空いているからといって、それを取ると、
自社の著者にも「やられる」可能性が増えるので、
そこまで過激なことはしないだろうと考えられるが、
そうした業界内「常識」を共有していない会社を警戒し、
契約変更、あるいは電子書籍化により早く取り組んだ、
という事情があったのかもしれない。
●編集者の労力について
僕の感覚から言っても、著者だけでなく、
編集者がその著作物を完成させるのに、一定の役割を果たしていると思う。
もちろん、その貢献はさまざまで、ひとまとめにできない。
編集者の貢献なんか殆どないこともあるし、
一冊まるごと編集者が書き換えるなんてこともある。
あ、うちじゃないけど(笑)。
むしろ出版社というものに、社会的な意味があるとしたら、
こうした役割を果たすことに、その意味があるのだと思う。
(また別な役割も、あると思ってますけど)
このことは、大手出版社でも、同様に考えているようです。
だから、先般の著作権法改正の際に、
出版社に「著作隣接権」を出版業界が、求めたのだと。
結果は、出版権設定契約の拡充というとこまで押し戻された。
僕も、著作隣接権が出版社にあるのがいいという立場。
しかし、だから現在、編集者には、なにも権利がないということ。
●デザイン、イラスト、写真
デザインに著作権はない、イラスト、写真には著作権がある。
たとえ、幼稚園の子供の書いた絵でも、
子供がシャッターを押したものでも、著作権がある。
ただし、それに価値を見出して対価を払う人がいるかどうか別問題というだけ。
猿が撮った写真の著作権を、その飼主のカメラマンが主張して、
争った事があったよう、、、、だけど、それはまた別問題。
ただ、図表は、どんな図表かによって権利の有無が変わる。
単純な折れ線グラフなどは、権利がないでしょう。
下記の版面に権利がないのと同じように。
それがイラストのようなものになっていれば権利のある場合もある、
ということ。
●版面権
版下(昔の言葉ですね〜)をつくった人(オペレータなど)や、
つくることに金を出した人(出版社など)に、
その版下そのものの権利はない。
つくった人に権利があるなら、重版に際して「版下利用料」のようなものを支払う根拠がでてくる。
つくることの費用を負担した人(出版社など)を無視して、
その版面を使うことには、たしかに道義的な問題はある。
もう20数年前ですけど、その道義的な責任を主張して、
利用料のようなものを支払ってもらう話をしたこともあるし、合意もできた。
ただし、底本の版面そのものを利用して
紙の本として「復刊」するという話だった。
ただ、その版面に、独立して著作権のあるイラスト・写真がある場合、
その版面を利用すると
結果的にイラスト・写真を利用してしまうことになるので、
そのイラスト・写真は個別に許諾を得る必要がある。
また、書協の出版契約の雛形には、版面の権利は出版社にありという条項を入れいて、契約で権利を獲得する構造になっている。
●書影について
・電子書籍として販売するには、書影はゼツ必。
これはシステムとして必要というより、
販売サイトで、その電子書籍を見せるため。
紙の本のカバーを利用することがほとんだと思う 。
デザインに著作権はない、と思うので、カバーを利用することも可能。
ただし、デザイナー・イラストレータ・カメラマンときちんと合意をえる。
・グーグルが図書館の本をスキャンして、一般に公開することをしたときも、
イラストとか、写真をわざわざ消して、公開していたのを見た記憶がある。
著作物の塩漬けは、著作物そのものにいいことはない。
放棄=絶版にして、著者に権利を返すこよも考える必要がある。