2006-02-18
9日目
9日目の金曜日は、コンペ作品初上映の最終日。審査員は恐らく、すでに前日までに見てしまい、どの作品を金熊賞にするか会議をしていると思われます。私達は、コンペ作品最後の2本と、コンペ外作品を見ました。そして私はさらに夜、パノラマ部門の日本映画を見ました。
1本目は、コンペでイランの映画「Offside」、Jafar Panahi監督。女性は入場できないサッカー競技場。そこへ、男装した女の子達が、あらゆる手を使ってもぐりこもうとします。でも、結局厳しい入場チェックによってつかまってしまうのですが・・・。これ、私はなかなか楽しめました。少なくても、イランの女性はサッカー場に入れないということがわかったし、作品の中でも彼女達が、「日本人の女性は競技場に入ってもいいのに、どうして私達は駄目なの?!」などという台詞がありましたし・・。急に思い出したのは、ある時そのお国のご招待で行った中東のこと。そこでは、女性はかならず髪にスカーフをしていないといけないのです。理由は、「黒髪を見ると、男性が欲情するから。」と聞きましたが、本当なのでしょうか?でも、私達外国人の女性は、スカーフなしでオーケーだったのです。それで、そのまま夜のコンサートに出かけたのですが、いやはや、本当にものすごくじろじろ見られました。それも、男性だけでなく、女性にも・・・。その他、もろもろ危険なことがあったのですけれども、とにかく中東でカルチャーショックを受け、その衝撃は凄まじいものでした。(ベドウィンにも会いに行きましたし・・・)
それにしても・・・・ワールドカップへの人々の熱狂は、作品に描かれている通り、本当に凄いです。ここドイツでもものすごいですし、怖いくらいです・・・。口をあんぐりしながら見ました。
2本目は、これもコンペでドイツ作品「Requiem」。Hans-Christian Schmid監督。これ、強烈でした・・・。東ドイツ出身の女優、Sandra Huellerが熱演。才能ある女優さんだな、と思いました。彼女が演じたことで、この作品は完成度がずっと上がったと思います。70年代のテュービンゲン。ありふれた、普通の小さな町で暮らす、ありふれた家族。大きな出来事も起こらず、ひたすら敬けんなクリスチャンとして絵に描いたような生活を「強いられる」長女、マヌエラ。でも彼女は精神的な抑圧からか、悪魔にとりつかれているような状態に陥り、発作が起きると狂気がむき出しになるのでした・・。それを両親は、神の力で抑えようとするのですが・・・。内容は、あまりに悲しく、辛いので、気持ちがずきずきしてしんどかったです。親は、子を理解できず、時に残酷な態度や行動をするものです。そうすることこそが愛なのだと信じて・・・。でも、それがいかに子供の精神を深く傷つけているのか・・・。実話をベースにしたストーリィで、結局彼女は33歳にして亡くなるのですが、人間が人間を受け入れることの、なんと難しいことか・・・。本当に辛い映画でした。
3本目は、前評判も高いアメリカ映画、コンペ外ですが、「Capote」Benett Mueller監督作品。ターゲスシュピーゲル紙など、「この作品がコンペ外で、他のコンペ作品は幸運だった。もしもコンペに入っていたら、確実にこの作品が受賞するだろうから。」などと絶賛していて、本当にそんなにすごいの?と興味シンシンで見ました。で、感想は、「そこまで言わなくていいんじゃないかなぁ、でも、もちろんいい映画だったけれど。」という感じでしょうか。とにかく主演のPhilip Seymour Hoffmanがすごい演技を見せています。彼自身もこの役が非常に気に入ったとのことで、きっとなりきることに成功したのでしょう。私はカポーティ作品が好きですから、それだけでも見る価値はあります。見て良かったとも思いました。とても繊細な心の描写を、うまくホフマンが演じていました。写真家のアヴェドンが、カポーティが後に本にする殺人者のポートレートを撮っていたんですね。へぇ、と思いました。
4本目は、なんと22時から動物園駅近くの映画館での上映作品。ひーこら言いながら頑張って見に行って参りました。パノラマ部門の日本作品ですよ〜!「46億年の恋」Takashi Miike監督。偶然、同じ日に殺人容疑で監獄に入れられた2人の青年。でも、それはきっと必然だったのでしょう。この世には、偶然などないのです・・・。監獄の中でも暴力的な青年と、ほとんど言葉を発しない青年。この2人を通して、生と死が目の前で揺れるのでした・・・。そして暴力青年の死。果たして彼は誰によって殺されたのか?・・・この作品、私の趣味ではないですけれど、トリア監督の「ドッグヴィル」的セットや、紀里谷監督?の「キャシャーン」的CG映像で、不思議なイメージが頭の中に残りました。でも、最も印象的だったのは、青色です。すごく美しい青でした。
ところで、カポーティの時に、私が大尊敬する映画のスペシャリスト、松山さんにちょこっと伺いました。彼女は本当に素晴らしい映画人。愛情を持って、さまざまな作品を見ていらっしゃいます。ご本人もドキュメンタリー映画などの監督もしていらっしゃいます。それで、コンペではどんな作品が金熊をとるか、予想を伺ったのですが、「いや、そういうのは簡単に言えるものじゃないからね、ただ、私がコンペの中でどれが好きだったか、というのは言えるけれど。」ということで、3作品をあげていただきました。ひとつはウィンターボトム監督の「The Road to Guantanamo」。これは私と同じ意見で、嬉しくなりました。「でも松山さん、ウィンターボトム監督は、数年前に「In this World」で金熊賞を受賞しているんですよね、あの時もかなりポリティカルだったわけで。でも私は、あの時の作品より、今回の方がずっと面白いし、受賞すべき作品だと思うのですが、いかがですか?」と聞いたところ、彼女もそう思うとのことで、さらに嬉しくなりました。あとの2本は、ボスニアの母子家庭の話「Grbavica」、そして今日の「Offside」だそうです。「ドイツ映画が多くノミネートされていましたけれども、それはどうでしょう?」「う〜〜ん、いいんじゃないのって感じかな。」とのこと。なるほど!!ターゲスシュピーゲル紙での予想は、ドイツ映画の「Longing」のようです。(今日の分が入っていないので、変わるかもしれないですが)
明日の夜、発表になります。どうなりますか???
ちなみに私的には、やはりどれが賞を取るのか、ということより、どの作品が好きかといえば、ウィンターボトム監督作品でしたが、他の作品も良いものがいくつかありました。もうここまできたら、シャブロール監督にも受賞していただきたいし、オーストリア作品やボスニア作品も良かったです。ドイツ作品も粒ぞろいで、longingやRequiemあたりが光っていたと思います。