2009-02-09
第59回ベルリナーレ 2月8日
昨日はいったん家に戻ってから、
想田和弘監督の「精神」を見に出かけました。
何と上映時間は22時15分からとかなり遅く、
2時間超の上映時間だったので、タクシーで家に帰り着いたのは
午前1時半を過ぎていました。
でも、ベルリンっ子たちのナイトライフが少し垣間見えて面白かったです。
上映場所のCubixという映画館は、旧東ドイツ地区にあり、
6年前に見た「グッバイレーニン」で知ったテレビ塔が
すぐそばにあるんです。
映画館の隣には、ビニールハウスのような簡易カフェなのか、
簡易ディスコなのかがあって、若者の派手な音楽がもれてきていて、
深夜を過ぎても、多くの人がまだたむろって遊んでいました。
さて、肝心の想田監督の映画「精神」がどうだったのかは、
今日見た3本の映画のあとに、紹介しますね。
●巨漢でシャイな男性が主人公!
彼が恋に落ちてとる行動がユニークな「Gigante」
恋とは無縁だった35歳のJaraのちょっと変わったラブストーリー。
Jaraはとにかく巨漢で、おなか周りなんか、
まるでワイン樽のよう。仕事は、スーパーマーケットの警備員。
いつも、スーバーの監視室で、何台もの防犯カメラを切り替えながら、
犯罪の防止に目を光らせています。
といっても、すっごく暇なスーパーのようで、
カメラに映し出されるのは、従業員同士の子どもじみたけんかや、
掃除用具に隠して万引きする姿などで、いつもクロスワードで
時間をつぶしています。
その彼が、ある日、監視カメラに映ったJuliaに恋してしまうのです。
以来、彼女のあとを毎日のようにつけて、
彼女の生活をのぞき見るわけです。
シャイで経験がないから、告白する、とかに行かないで、
まるでストーカーのごとく付け回すわけです。
でも、ヌーボーとした風貌ゆえか、なんか微笑ましい感じなんですね。
もっと音楽を派手に使って、テンポ良く描いてもいいんじゃない?とも
思いましたが、何とも言えないまったり感がこの映画はいいんだと思います。
細かいシチュエーションにもこだわって作っていて、
くすっと笑えるユーモアが心地よい、ハートウォーミングな作品でした。
ウルグアイ、ドイツ、アルゼンチン、オランダの合作で、
監督は、ブエノスアイレス出身のAdrian Biniez(写真下右)。
●ニューヨーク、タイ、フィリピンの、
子どもをめぐる現実が描かれる「Mammoth」
スウェーデン、ドイツ、デンマークの合作です。
監督は、スウェーデン出身のルーカス・ムーディソン(写真下右)。
日本でも「ショー・ミー・ラブ」や「エヴァとステファンとすてきな家族」が
公開されているので、知っている人も多いのではないでしょうか。
今回、映画の舞台はニューヨーク。
高級アパートに暮らす夫婦と8歳の娘、そして、そこで働く
フィリピンから来た子守りのグロリアをめぐる物語です。
ガエル・ガルシア・ベルナル演じるレオは成功したクリエイター。
出張でタイに2週間ほど行くことになります。
妻のエレンは、ERで働く外科医。刺されたり、暴力をふるわれて
運び込まれる人々の命を救うために献身しています。
そして、フィリピンに2人の息子を置いて出稼ぎにきている
子守りのグロリア。
彼女と息子との携帯電話でのやりとりはしょっぱなから泣けます。
年取ると、こういうシーンにはめっぽう弱いですね。
一番かわいい盛りの子どもを置いて、
他人の娘を世話しなければならない現実。医師の母親もまた、
自分で選んだ職業とはいえ、自分より子守りになついている娘を
ものすごくさびしい気持ちで見ています。
一方、父であるレオは、世界中の男たちがタイで女を買っている現実を見て、
自分だけはそうなるまいと、ヒーローじみた行動をとるのですが…。
ニューヨーク、フィリピン、タイと、
遠く離れてしまった家族が直面する問題が、
舞台を変えて、次々と描かれていきます。
そこに、その国特有とは言えない、グローバル化の中で生まれている問題が
浮かび上がり、それによって孤独に泣き、傷つけられる子どもたちの
姿が映し出されていきます。
最後の方は、少し感傷に流れすぎた気もしますが、
私的にはかなり高得点をあげたい映画です。
でも、終映後の客席の反応は、拍手もあったものの、
ブーイングもかなり多かったです。
ラストのまとめ方への批判なのでしょうか?
確かにここで扱っているタイやフィリピンの現実は、
「やっぱり家族はいい!」的な納得のさせ方で解決できるわけじゃないけれど、
この映画自体は、新しい描き方で問題を提起していたと感じました。
●新しい試みではあるけれど
全編これはキツい「Rage」
「タンゴ・レッスン」や「耳に残るは君の歌声」のサリー・ポッターの
新作と聞いて、プレス向けの上映は大混雑しました。
でも、NYのファッション業界を舞台にしたブラック・コメディという
題材の描き方があまりに斬新すぎて、途中退席の人が続出しました。
とにかく、ドキュメンタリーではなく、
フィクションでこの手の手法は、今まで見たことありません。
全編英語で、ほとんどよくわからなかったのですが、
設定としては、ファッション業界にかかわる14人の人々が、
新作コレクションの準備中に、若いブロガー、ミケランジェロの
インタビューを受けるというもの。
一人ひとりが、バストアップの大写しで、
正面を向いて、語りかけます。
背景はバックスクリーンのみで、人ごとに色が変わっていきます。
出ている俳優さんは、ジュディ・デンチ、ダイアン・ウィースト、
ジュード・ロウ、スティーブ・ブシェミなどなど、そうそうたるメンバー。
女装のジュード・ロウなんて、滅多に見れるもんじゃありません。
しかし、ただ、独白するだけの映像なので、
英語がわからないとキツいです。わかっても、最初から最後まで、
ずっと同じはキツいと思います。
しょうがないので、目の色がみんなキレイだなぁとか、
さすが、ファッション業界というだけあって、
仕立てのいい服着ているなぁとか、
人によって違う背景の色が、すっごくキレイだなぁとか、
そんな細部を眺めていました。
●ただただ見つめることで
いろいろなことが見えてくる「精神」
フォーラム部門に招待されたこの作品は、想田和弘監督(写真下)の観察映画第2弾。
第1弾は、選挙運動を追ったドキュメンタリー。
「精神」は、岡山にある「こらーる岡山」という外来の精神科クリニックが
舞台。うつ病や躁鬱病、統合失調症などを長年患っている人々に、病気になるまでのことや、
今の日常生活、気持ち、不安や悩みなどをインタビューして、
それらを包み隠さず映し出していきます。
クリニックで先生(写真上右)の診療を受けるシーンも入っています。
精神疾患に関しては、まだまだ表立って取り上げることを避けたがる
日本にあって、よくこれだけの映像が撮れたなぁと思います。
実際、撮影は一人ひとり、許可を撮りつつ行ったそうで、
相当ていねいに作られています。
患者さんたちが話す内容は、それこそめちゃくちゃシリアスであるものの、
どこか突き抜けた感があるからか、見ている方がしんどくなることは
あまりありません。時折、笑いを誘う場面も結構ありました。
途中、25年患っているという人が出てきて語る、
偏見についてのくだりがとても印象深かったです。
他人は偏見の目で見るが、自分の中にも偏見があって、
それを取り去るのがとても大変だったということ。
また、普通とそうじゃないという分け方をするけれど、
すべてが健康で過不足ない人というのはあり得ない。
みんなどこかしら、健康に見える人にも普通じゃない部分があるということを
病気と向き合う中で感じたということでした。
確かにそうだよなぁと、聞き入るシーンがありました。
想田監督がすごく懐の深い視線で撮っているからでしょうか。
病気であってもなくても、そう変わりはないという、
温かさを感じました。
この映画には、全体を通して押しつけがましいところがなく、
そこがとっても心地よい。
そして、ただただ見つめることで、いろいろなことがわかってくるという
観察映画ならではの醍醐味も感じました。