2009-02-07
第59回ベルリナーレ 2月6日
今日は朝9時からプレス向けの上映が始まるため、
青木さんの家を7時半前に出発! 8時半前には、
会場のあるポツダム広場駅(ポツダマー・プラッツ)に着きました。
ベルリンへ来る前、ドイツは100年に一度の寒さと聞いていたので、
相当の覚悟をしていましたが、意外と暖かいです。
実際、1月はマイナス17度くらいまで下がっていたそうですが、
今は、マイナス2、3度といったところでしょうか。
さて、前置きはこのくらいにして、
今日見た3本の映画を紹介しますね。
●軍人だった若くない女性が主人公の
デンマーク映画「Little Soldier」に涙…
コンペティション部門の枠で上映される映画は、
全部で26本ありますが、コンペ対象外の作品が8本ほど混じっています。
昨日のオープニングもそうで、世界的に公開される大作映画がそうですね。
ですので、コンペ対象作品としては、この「Little Soldier」が
第一作目となります。
デンマーク映画なんて、日本ではほとんどお目にかかれません。
予備知識ゼロで見たのですが、冒頭から目が離せず、
ぐいぐい引き込まれ、ラストシーンでは人生の哀感が募って、
涙してしまいました。
物語は軍人であるロッテが、隣国でのミッションに心も体も傷ついて、
故国デンマークに帰ってきたところから始まります。
どう見ても20代には見えず、くたびれた感じの30代半ばの女性。
そのロッテが父親のもとで働くため、久しぶりに実家を訪れると、
そこには年若いナイジェリア人の恋人、リィリィがいます。
ロッテの仕事というのが、このリィリィのドライバー。
高級車ジャガーに乗って、リィリィを送り届ける先は、
彼女をお金で買う男たちの家。
普通の客だけでなく、リィリィに睡眠薬を飲ませ体をなで回したり、
拳銃を突きつけて一緒に死のうと迫ったり、危ない変態男も混じっています。
遠い海外から女を手配して売春させ、そのうちの一人を愛人にしている父親、
その父親の庇護の元で葛藤をかかえながら、リィリィと情を深めて行くロッテ。
ロッテが最後にとる行動は、父への決別でもあり、
自分の足で立って歩いて行く決意でもあったわけで、
ラストシーンは、そのことを映像でもくっきりと表していて、見事でした。
遠いデンマークの国の話ではありましたが、
描いているテーマは世界共通のものと言え、
地味ながらも、俳優陣の演技力で、とても見応えがありました。
それにしても、主役の女優さんのシワといい、おなかのタルミといい、
日本のキレイな女優さんと違ったリアルな感じがよかったです。
監督は、コペンハーゲン出身の女性監督Annette K.Olesen(写真下右)。
●年上の女との恋愛は永遠のテーマ!?
ケイト・ウィンスレットが見事な「The Reader」(コンペ外)
2000年に日本でもベストセラーになった、
ドイツ人作家ベルンハルト・シュリンクの「朗読者」が原作の映画です。
当時すぐに読んでいたものの、すっかり内容を忘れ、
しかも本はどこかに消えていたので、ポットの那須さんに急遽借りました。
ドイツに来る飛行機の中で読破! おかげで、英語にそれほどわずらわされずに
映像に没頭できました。
この映画、ドイツが舞台ですが、
アメリカ・ドイツの合作になっていて、監督はイギリス人、
言語も英語で、ドイツ語の字幕スーパーでした。
よって、主人公の二人の名前が、ハンナはハンナのままでしたが、
ミヒャエルは英語読みのマイケルに!?(なんか変ですね…)
まあ、そんなことはどうでもいいっちゃあ、いいですね。
映画はどうだったのかというと、これが原作のイメージを損なわない、
かなりいい出来でした。
内容を少し説明すると、ケイト・ウィンスレット演じるハンナは、
バスの車掌をしながら孤独に暮らす30代半ばの女性。
その彼女が15歳の青年マイケルと出会います。
性に好奇心旺盛な年代のマイケルをハンナがリードする形で始まった関係は、
ひと夏のうちにどんどん深まり、やがて、別れた後も、生涯にわたって
忘れることのできない関係へと進んで行きます。
ハンナがアウシュビッツの看守だったという過去により、裁判にかけられ、
刑務所に入るという展開に至り、ハンナを忘れたい、でも忘れられないという、
マイケルの想いが綴られていきます。
本を読むより、映像の力に圧倒されたのは朗読のシーン。
ハンナが刑務所に入ってから、文盲のハンナのために、
何本も何本も朗読のテープを送るマイケル。
文盲であるがために、罪が重くなったハンナ。
そのハンナを助けられなかったマイケルの、
愛なのか、贖罪なのか、わからないけれど、
声を介して愛のやりとりをしているようで、
何とも美しい純愛シーンにもう、泣けました。
女はこういう映画に弱いんです。
ハンナを演じるケイト・ウィンスレットは、その脱ぎっぷりといい、
人生に疲れた感じといい、それでいてエネルギーに満ちた感じといい、
見事な演技だった。私は結構この女優さんが好きで、
彼女が演じるなら間違いないだろうと思っていたら、
まさにその通りでした。ちょっとラストはキレイなおばあさん過ぎたけど、
まあ、それはしょうがないですね。
マイケルの青年時代を演じたデイヴィット・クロス(写真上)、大人になってからの
レイフ・ファインズ(写真下左)も秀逸。監督は、「リトル・ダンサー」
「めぐりあう時間たち」のスティーヴン・ダルドリー(写真下右)。
最後の方で、マイケルがハンナの遺言で、アウシュビッツで生き残った女性を訪ねる
シーンがあるのだけど、ここは原作とは違う
監督の意図を感じるシーンでした。
●何とも中途半端だった
フランソワ・オゾンの「Ricky」
フランソワ・オゾン(写真下右の中央)と言えば、
「8人の女たち」「スウィミング・プール」など日本でも有名な監督。
最近新作を見ないなぁと思っていたら、
こんな映画を撮っていたんですね。
登場する赤ちゃんは文句なしにかわいかったけど、
ストーリーは、何とも中途半端な感じがしました。
赤ちゃんに秘密があって、普通じゃない赤ちゃんぶりなのですが、
それはそれで、今までになくて面白かったです。
でも、もっとファンタジーに徹してもいいのに、
リアルドラマの部分を結構ていねいに描いているんです。
まあ、新しい家族の形を書きたかったのかもしれないけど、
オゾンにしては、毒気が足りなく、
物足りなさが残りました。
これ、日本で公開されるでしょうか。
明日は4本見る予定です。
お楽しみに!
五賀雅子