2006-02-21
ペトラとのトーク!(今年最後のアップです)
皆様、長いようで短かったベルリン国際映画祭が終りました。本日のベルリン新聞まで読んで、ペトラとの総括を掲載させていただきたいと思います。
今回は、老体にムチ打ち(汗)、毎日とりあえず何か書こうと思って更新いたしました。あまりたいしたことは書けませんでしたけれども、リアルタイムの鮮度の良さもあるので、きつかったけれどもやってよかったと思います。
頑張ってこられたのも、毎日読んでくださる読者の皆様のおかげです。
どうもありがとうございました!!
途中で、映画評論家のご夫妻、大久保賢一さんと森山京子さんにもお声をかけていただき、今回はご一緒する機会はなかったものの、いつも優しい眼差しで、こんな映画の専門家でもない私に接してくださり、感謝の気持ちでいっぱいです! お土産までいただいて、恐縮しています。ありがとうございました!
私からのプレゼント、気に入っていただけたでしょうか〜〜??笑
また春に、日本でお会いできるのを楽しみにしております!
さて、ではペトラとのトークをスタートいたします! 以下、ペトラはP、私はYです:
Y:何か、今年のベルリナーレは結構楽しめたよね。
P:そうね、以前ほどは途中退場しなかったし(笑)、疲れていても、最後まで見たいって気分もあったしね。まぁそれでも、私はヨシコよりはうんと途中退場したい作品があったけれどもね。(プンプン!)
Y:ペトラはすぐに怒るから!汗
まぁでも、それにしても良い作品が多かったと思う。今回の金熊受賞作品だけれども、どう?
P:ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後の母子の葛藤を描いた作品ね。これ、私は見た時はさほど感じなかったのだけれども、全体的に見たら、政治的な問題もあると思うけれども、悪くなかったと感じる。私にとって映画は、内容と動悸がとても大事。そして芸術的要素が作品に漂っているかどうかっていうこともとても大事なのね。そういう意味では、ちょっとだけ物足りないものを感じるけれど、でも実際この作品が受賞したってことで、少なくても女性の監督が注目され、ボスニアの現状を知る機会があったのだし、意味のある受賞だと思うわ。私は好きな作品じゃなかったけれども、オーケーだわね。
Y:私もこの作品が金熊賞を受賞したのは、ランプリングの気持ちが反映しているのだと思った。彼女自身は、やはり女性に頑張って欲しいということと、あまり光の当らない国にも注目して欲しいということ、そして何よりそういう国の芸術性も知るべき、と思っているのではないかな。そして今回とても大事だったのは、負の要素の作品ではなく、どんなに厳しい現状であっても、「希望」の持てる内容が好まれた、ということなのかな。
P:そうね、それはそう。新聞では、ドイツ映画が受賞せず、俳優賞などでお茶を濁されたという気分もあるみたいだけれども、それはやはり、希望がない映画が多かったってことなのかもね。切ないというか? 見ていてつらいドイツ作品が多かったね。でも、良くできていたけれども・・・。
Y:そうね、ところで銀熊賞なんだけれども、俳優の受賞はどう思った? 最優秀男優賞、最優秀女優賞、そして芸術賞をもドイツの俳優が独占したけれど・・・。
P:その前に、審査員グランプリ「ア・ソープ」のペルニレ・フィッシャー・クリステンセン監督(彼女はその他、ベルリナーレに初めて参加した優秀賞も受賞しているのね)、そしてもう一人はイランの「オフサイド」ジャファール・パナヒ監督。「ア・ソープ」これね、デンマークの女性の監督。ものすごく喜んでいたよね。でも私は理解できない。どうして2つも受賞するの、この作品!! 内容は別に悪くなかった。でも、受賞するほどの力も魅力もなく、俳優も輝いていなかった。
Y:実際、ある新聞には、今問題になっているデンマークの例の風刺画と、中東との関係を引き合いに出して、ゆえにデンマークとイランの作品が選ばれたのだろうってあったけれども・・・。
P:私はそれはないと思う。そういう政治的要素より、ランプリングがどうしても女性監督に賞をあげたいという気持ちがあったと思うし、前向きな内容だし、イランの作品「オフサイド」も、政治というより、もっと身近な女性の問題を取り扱っていたからこそ受賞したのだとは思う。「オフサイド」に関しては、良い受賞だと思うし、これでオーケー。良かったわ! 女性がサッカー球場に入れないという話は、実際似たような経験を監督が身近の人から聞いて、それで描こうと思ったのよね。
Y:これ、徐々に良い雰囲気が出てくるのよね。
P:そう、最初は会場の検閲官と折り合いが悪い女の子達が、最後に車で運ばれる時になると、もう彼らと一体になってサッカーのことで盛り上がり、別の世界を形成する・・・。そうした希望の持てる作品には意味があったと思うわ。
Y:キアロスタミ監督のお兄さんだか弟だかが、ベルリナーレのイラン作品上映に、ファシストに加担するのか、とか何とか言ってボイコットしたって噂があったよね。
P:うん、私もそれは考えた。でも、この受賞作品には少なくてもイランの現状の批判がちゃんと描かれている。それは価値のあるものだと思えたのね。
Y:それは私もそう思うわ! 同感!!
P:この作品に限らず、今回選ばれたイラン作品は、政治的な意味で公開されたのではなく、あくまでも芸術性が高いということでセレクトされたのである、とベルリナーレサイドが新聞に発表したよね。
Y:うん、それは大事なことだったのでしょうね。
P:次は最優秀女優賞のドイツ人、ザンドラ・ヒュラーはすごく良かった!
Y:そう!! 私も彼女しかいないって思ったわ! ものすごい演技だったよね。怖いくらいに。彼女なしにはあの作品は成立しなかったと思うもの。
P:それに芸術賞のユルゲン・フォーゲルも良かった! 彼は今回俳優だけでなく、脚本もプロデュースも手がけたことで、評価を得たのよね。
Y:そう、とても良い選択だと思った!!
P:最優秀男優賞のモーリッツ・ブライプトロイは・・・最低〜〜!!!
Y:そう、私も、彼が受賞すべきではないって思った。
P:でもその代わり、ドイツ映画には全く賞がいかなったのだしね。俳優に銀熊、そして作品にはゼロ。そういうのだったらまぁいっかって感じだわ。
Y:それにしても・・・彼ではなくて、誰がいいと思った?
P:ヒース・レドガー? 彼は丁度カウボーイの話で注目の俳優だけれど、彼の演技は良かったなぁ、それにその時の相手の女優さんも良かった。
Y:でも、作品はさほど良くなかった・・・。
P:・・・そうね、それはいえるわ・・・。あと、オーストリア作品のパウルス・アンカー。
Y:うん、彼ヨカッタ! おじさんね、ものすごくパワフルに動く人。酔っ払いで、でも最後に何かをつかむの。あの作品も好きだったな〜。賞取れなくて残念「スラミング」ね。
P:そうそう!! もちろん、我らのアウグスト・ディールもかっこよかったけれど!
あと、アルフレット・バウアー賞に、アルゼンチン、ドイツ、フランス合作映画で、「El Costodio」(影)。ボディガードの話。これ、ひどくない? 何であんな古めかしい作品に革新的な賞とやらが行くのかしら? 疑問。
Y:・・・そうね、私もあの作品は別にちっとも心に響かなかった。
P:ここで、賞とは関係なくて、ベルリナーレ・スペシャルで見た作品、「ミラレパ」ネティン・チョクリンク監督で、ブータンの作品。
Y:すごいね!! どんなだったの?良かったの?
P:11世紀に生まれた仏教における最高のマイスターである、ミラレパについてのお話だったのね。
ミラレパの父親が亡くなってから、すぐさま親戚縁者がやって来て、ミラレパと彼の母親を追い出し、財産を全て奪ってしまうのね。
Y:ひどい!!
P:でね、その母親は全てのひどいことをした親戚達に復讐を誓うのね、で、どうしたかというと、黒魔術に行ってミラレパにそれを練習させ、その後その村全体に魔術がかかり、全員死亡するのよ。
Y:え〜〜!!! 仏教徒ではなくて、そんな残酷な話なの??
P:まぁ聞いてよ、それでね、その後彼は心が満足せず、ひどいことをしたと悩み、全く心の静寂がなくなってしまったのね。それでトラウマもひどくなり、どうしたかというと、仏教に救いを求めて、最終的にはマイスターになるの。
Y:ほう!! そういうお話なのね。ペトラは仏教徒だから詳しいし、見たかった映画でしょ。良くできていた?
P:これは、仏教の初期の話であり、あらゆる意味で深いことが描かれていたのよね。非常に空虚なこともあるし、マイスターになるための修行もあるし・・・。そういうことが、丹念に描かれていたと思う。
そしてこの作品によって、許しを学ぶということの大切さを感じてもらえれば良かったのね。そういう映画。
Y:随分哲学的な映画ね。
P:それはそうよ! 監督はとても著名なインドの僧侶でね、それだけでもご立派なのだけれども、今回は監督もしたの。数年前には、何かサッカーの映画で、彼はスタントマンとしても演技したことがあるの。面白いでしょ?
Y:へぇ。
P:それに映画学校には通わなかったの。
Y:どうして映画作ったのかな?
P:それは舞台で説明していなかったけれども、ミラレパという人物は、とても人間的で、つまりは殺戮と最高のマイスターを経験したわけだけれど、そういう地獄をも見た人間でも、最終的に最高の地位に達することができるという、いわば私達のお手本のようなお方なのよね。そういう意味で映画にすべき作品だったと思うわ。見て良かったと思う。
Y:作り方はどうだったの?
P:非常にプリミティブで簡単なものだった。でもだからこそ、監督のスピリチュアルな内面が十分に描かれていたと思うし、シンプル イズ ベストって感じたわ。
Y:他に私が見なかった作品で、ペトラが見たのがある?
P:ある! パノラマで、ドキュメンタリー映画「Leonard Chen I’m your man」。Lian Lunson監督作品ね。オーストラリアの女性監督。これはレオナルド・コーエンという有名な歌手を追っているドキュメンタリーで、なかなか楽しめたわ。他に言うことがないのだけれど・・・。ボノなどの世界的な歌手達が、コーエンの曲のカバーを歌って、そのバックステージとか、コーエンのインタビューなどが織り交ぜてあるんだけれども、これね、もっと本当はご本人の歌を聴きたかったな、というのが私の感想ね。何もそんな有名人にリカバーさせることもないんじゃないかなって思ったけれど。
Y:あともう一本見たよね?
P:うん、コンペ外作品だけれども、ベルリナーパラストで栄誉上映された、サム・ペキンパー監督の「ビリー・ザ・キッド」! これ、ディレクターズカット版で、しかもデジタル処理したのよね。世界プレミアとして上映。これの面白いところは、実際監督はすでに亡くなっているわけでしょう。でも、それでも彼が残したメモなどが発見されて、それに忠実に添ってデジタル化し、そして内容を監督の希望通りにできるだけ近づけた作品なのね。そういう意味で面白かったな。
Y:どこが違うの?
P:うまく言えないけれど、16分長くなったのよ、オリジナルよりも、そこにMGMの何かパワーが見られるのではないかな?
Y:で、どうだった?ウェスタンだけれども、良かったの?
P:わかるでしょ、ヨシコ!! 私はウェスタンファンじゃないのよ!! だからね、殺し合いも見たいと思わないし、きつかったけれども、監督の意図するところは理解できたわ。そういう感じね。
Y:私がホラーとか怖いってのと同じかな。でも、良い作品は評価するっていう・・・。
P:私はホラーは本当に嫌いよ!! サイコサスペンスも駄目!!でもね、見ろと言えば見る。ただ今回は見なかった。
Y:私も、すごく怖がりだし、結構スピリチュアル系なので(汗)、怖いものを見ちゃうんだよね・・・・。だから怖くて、あまりそういう映画は見ないようにしているの。夢でうなされたりするし・・・。園子温監督の「奇妙なサーカス」は、ペトラは最初から見たくないって言っていたよね。私は、ちょっと怖いもの見たさもあり、何か見なければ!という気がして見たのね。丁度行かれる時間帯だったし。結果、見て良かったって思うけれど、本等にすごく怖くて、ちょっとだけうなされた。笑
でもね、人物が皆劇画タッチというか、ちょっとユーモアがある表現をしているのね、それがまた逆に怖くて・・・。
P:私は、ただ単に主人公が性的虐待や暴力を受けるのが嫌なの。だから見たくなかった。でも、ヨシコが見て言っていたでしょ、最後に信じられないような復讐劇があるって。それで救われたの、ああ良かったって。
Y:トリア監督の「ドッグヴィル」とか、最後にすごいことになって、スカっとする観客も多いって言うけれども、あの作品は私は最後まで見られなかったのね、心理的にしんどくなって。ドキドキしてしまって。園監督の作品は、キューブリック監督の「シャイニング」とか、デヴィッド・リンチ監督作品と新聞では比較されていたけれども、それもそうかもしれないけれど、最初に感じたのは「赤い影」だったなぁ。ものすごく独創性があるのね。
P:私はシャイニングもリンチ監督作品も、今ひとつ好きになれないけれども、要するにしっかり復讐するところまで見せてくれればオーケーなの。だからね、園監督作品がベルリン新聞読者賞を受賞したのはすごく嬉しいわ。
Y:うん、そうね!!! 私もすご〜〜く嬉しかった!
P:ヨシコが焦って映画のタイトル書き忘れた作品、コンペ外ですでに日本でも4月公開で盛り上がっていて、ナタリー・ポートマンも来日したという・・・
Y:ああ、「V for Vendetta」。ウォッシャウスキー兄弟の脚本ね。私は結構好きだな〜。ナタリー・ポートマンはイスラエル出身で、幼い頃から戦争のような悲惨な光景をイスラエルで見てきて、それが日常になっていたから、そうしたことは良くないことだと訴えたかったとか、そんな感じのことを言ったのよね。言葉はちょっと違っていたかもしれないけれども・・・。
P:彼女は美しいだけでなく、すごく知的で社会派でもあるので、とても興味深く見たわ。良い映画だと思った。それに、ベルリンのバベルスベルク・スタジオで撮影されたというのにも、すごく意味があると思う。
Y:パノラマの「アブソルート・ロバート・ウィルソン!」ってのもあったね。見なかったけれど。ペトラは、以前シアター関係の仕事をしていて、ロバート・ウィルソンは好きだったのよね?
P:彼の演劇メソッドは素晴らしいものだったけれど、時代と共に、全く進化しないで同じことをくり返しているようで、それがつまらなくなってね。で、嫌いになったの。だからこの映画も見たいと思わなかった。
Y:ペトラは、コンペの中ではウィンターボトム監督作品が一番だったのよね。私もそうだったけれども。彼は監督賞を受賞したけれど。
P:ターゲスシュピーゲル紙だったと思うのだけれども、彼の作品をステレオタイプだと批判し、さらに9・11後にどうしてそんな危険なアフガニスタンにお気軽に行ってしまうのだ、そういうところにも責任がないのか、という言葉があったけれども、だからといって、2年以上も恐ろしい牢獄に入れられるのはナンセンスよ!!! しかも死亡した友達までいるんだから・・・・。
Y:メルヘンみたいと言われた、ドイツ映画(コンペ作品)「あこがれ」も良かったよね。
P:あれはある意味、凄かった。役者はひとりもプロがいないのに、よくあそこまで描写を素晴らしく映像に残せたと感心したもの。
Y:最後の子供映画「水の花」。これは私達日本人の目から見ると、すごく美しいのだけれども・・・。
P:これ、私達ドイツ人にとっては、少なくても私と私のまわりの人間だけれども・・・あの、少女がずっと下を向いて、希望のない変化のない人々でしょう。例えば父親、ひどい!! 母親、ひどい!! 子供を何だと思っていると言いたい!! 救いのな映画だと思ったわ。とにかくいつも暗いのっていうのは、感覚が鈍くなっているようでやりきれないの。カメラワークは確かに優れていたと思うけれども、あまりに救いのない映画で辛かった。でも、ひとつのシーンが気に入ったのだけれども、つまりはそこにだけ自然な心、ナチュラルな行為があって、それは小さな少女が縁側で踊るシーン。本当に素晴らしいって思った!!!
Y:ありがとう!!!
ということで、なんだか長くなってしまいましたけれども、ああ、まだまだ触れていない部門もあるのね、テディとかね・・・でも、これは私は専門じゃないので、ヘタなこと言えないし、見ようと思った時に具合悪くなって見逃してしまったし・・・。全てを見るのはどうしたって無理だし・・・。カバーできなかった所は他のサイトでご覧くださいね!笑
P:26のコンペ作品、そしてベルリナーレ全体では、今回が最大規模で1115上映をしたベルリナーレ。本当に楽しかったです!!! 読者の皆さん、どうもありがとう!!
Y:で、どうなの? また来年もやりたい? 随分しんどいって言っていたけれどもねぇ・・・。
P:もちろん参加したい! 私は画家として、別の視点でドイツ人で見ているのだけれども、普段の生活とは全く違う別世界が10日間広がっているわけでしょう? それは、日常を忘れて何か新しい中で感じる楽しさがあるのね。すごく精神的にも癒されるし、あるいはびっくりすることもあるし。そうしたドラマティックな10日間を過ごせて、私はどんなに体力的にきつくても、幸せだなぁって思うの。
Y:了解!!! 笑
では、体力の続く限り、どんどん進みましょう〜!!!! 来年があるかどうかは、わかりませんけれども、もしもあったら、今年同様、よろしくお願いします!!!
P+Y: また来年〜〜!!! (本当に??汗)
最後になりましたけれども、ポット出版の編集者、日高さんには、いつもいつもお世話になりました。私は原稿書くのが精一杯で、日高さん、あるいは他の編集者の方にお願いして、写真を入れ込んでいただきました。とても助かりました!!
ベルリナーレ事務局でも、このサイトはとても気に入っていただいていて、(読めないのにね・・・笑)とても嬉しいです!
日高さん、本等にありがとうです〜〜!!!!
また、来年もよろしくです!
hola