2008-02-10
ベルリナーレ 2月9日
3日目の今日は、朝9時からプレス枠のコンペ作品「Lake Tahoe」(Fernando Eimbcke監督)を見ました。
16歳のJuanのある1日の話。
家も何もかもうんざりのJuanは、日産の赤い車で町から出ようとしたが、事故を起こしてフロントを電柱にぶつけ、修理しないとどうにもならないことに。
家に電話をしてもいままでと変わらず、母親は無関心で自分だけの感傷に浸って浴室から出て来ようとしないし、弟は何が何だかわからない。
他の幾人かの人に会って助けを求めるも、どうしたことか不条理なことの連続。みんな自分のことしか考えていない。
思春期のやるせない心を、巧みにワンシーン・ワンショットで美しく色鮮やかに描いていて、とても好感が持てました。
カメラはほとんど固定されていて動かないのですが、ほんのたまにJuanが歩道を歩いている時に、少しだけ彼を追うカメラワークがあります。
あとはセリフも少なく、音楽は皆無と言っていいほどで、でもその場面に流れる自然の音や町の音、生活音などが、とても効果的に入ってきました。
手法は、決して新しい訳ではありませんけれども、ここまで徹底的に形式にこだわると、すごく新鮮で気持ち良く見ることができて、最後まで楽しめました。
私の息子も16歳・・・汗。
鬱屈した感情や、どうしていいのかわからない奇妙なエネルギーをもてあましている様子は、映画を見ていて痛いほど伝わってきて、息子の顔が浮かんでしまいました・笑。
そして、ぺトラの感想:
美しく、センシブルな映画。Embcke監督が、深い愛情を持って「ある1日に起こる運命と人々の交わり」を描いている。ティーンエイジャー特有の反抗や憤りを胸にかかえたJuanが、町をさまよい、経験する。
とても心地よい映画。役者も素晴らしかった。日常にある「陳腐な出会い」を巧みに描いていて良かった。
そう、人生ってそんなものだよね、と思わせる面白さがあった。
・・・
2本目は、コンペ作品をやめてパノラマ部門の作品、元祖パンクの女王と言われたパティ・スミスを追ったドキュメンタリー「Dream of life」(Steven Sebring監督)を見ました。
ぺトラも同様に見たいと言ったので、一緒に見ることにいたしました。
この作品、パティ・スミスがミュージシャンですから、音楽ドキュメンタリーだと思っていたのですが、それは間違いでした。
もちろん、音楽も流れますし、コンサートシーンもあります。楽屋でのひとときも映っていますし、彼女が音楽家としてメッセージ性の強い部分が強調されたりもします。
でも、音楽ドキュメンタリーではありませんでした。
もっともっとプライベートで、彼女の内面に入りこんでいく、パティ・スミスというひとりの人間の内面への旅をしているような感じでした。
監督は、もともと写真家で有名だそうですが、ある人物を介してパティ・スミスと出会い、写真の仕事をし、でもそれだけでは終わらず、「彼女は他の人とは違う」と感じて、6年間も彼女と家族を撮り続けたそうです。
とても丁寧に、彼女の心を一番大切にしながら、じっくりと対峙してきたのでしょう。そういう二人の間の美しい空気を感じました。
それに、パティ・スミスという女性は、内面の美が表層にさりげなく自然に現れていて、お化粧をしていない素顔や佇まいがこの上もなく美しく、本当に素敵でした!
時々、監督の映像のアプローチがかなりとっちらかっているなぁ、妙なバランスだなぁ、と見ていて感じましたけれども、それはまるでパティ・スミスの部屋そのもののようで(のだめの部屋みたいな雰囲気があります・・汗)、シンクロしていて面白かったです。
良い作品だと思いました!
そして、ぺトラの感想:
とてもいろいろな側面をぎっしりと詰め込んだ、重層な印象を持つドキュメンタリーだと思った。ロックレディのパワーを魅せるには、多面的過ぎてあまりにいっぱいいっぱいという感じ。
でも、すごく霊的で個人的なエネルギーや愛情、繊細な雰囲気に満ちていて、しかもポリティカル・ステイトメントもあり、すごく楽しめた。私の大好きなアーティストだから、もう一度じっくりと見たいと思った。彼女の素のままの美しさにも触れることができて、彼女のオーラも感じられた。
本日(土曜日)、ベルリンのパッション教会でコンサートがあったようだけれども、行かれなくて本当に残念!
ぜひライブを体感したかったわ!
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そして、本日最後の作品は、再びコンペに戻って「Gardens of the Night」(Damian Harris監督)をぺトラと見ました。
いやぁ、かなり怖かったです・・・。
何が怖いって・・・これは、幼児売春、少年、少女買春の話だったから、子供を持つ親は皆すごく恐怖を感じたでしょう。
7歳のレスリーは、学校に行く途中である男の巧みな言葉によって、誘拐されてしまう。
睡眠薬を飲まされて着いたところは、知らない街の知らない部屋のベッド。
そこには、黒人の同じくらいの年齢の少年もいた。
ストーリィというか、話の流れはとても単純で、最後がどうなるのか簡単に予想できる映画なのですが、やはりテーマが重すぎて、どう表現するのだろうかと気がきではなく、見ていてハラハラしてしまいました。
途中で出て行くジャーナリストが続出、気持ちはわからないでもないです。
心臓に良くない映画です。
見る側がどうしても想像してしまうので、そこが最も怖いのですね。
映画としての質はそんなに高いものではないと感じましたが、すごく考えさせられるテーマでした。
絶対に絶対にあってはならないことです!!!
そしてぺトラは・・・
本日の、最もどうコメントしたらいいのかわからない作品だった。
子供の誘拐と性的暴行という、重大なテーマ、そしてその子供たちのたどる人生・・・。
レスリーの7歳の頃と、17歳になった時の2部に分かれているが、17歳の頃のストーリィはあまり血が通った感じがなく、説得力に欠けたように思う。でも、それでも十分に見る価値のある作品だ。
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そして、昨日ご紹介できなかった、8日にぺトラが見た作品です。以下、ぺトラより:
40年前、伝説のロック・グループCSNY(Crosby, Stills, Nash, Young)が、ベトナム戦争反対を掲げた。
“Freedom of Speech Tour” は、アメリカ中に熱を与えた。
彼らは、イラク戦争にも反対を表明しており、コンサートでもブッシュや戦争を批判している。
そうしたことをふまえて、Neil Young (Pseudonym Bernhard Shakey)が映画で、いかに音楽家としてお金を得るためではなく、意味のあるポリティカル・メッセージを示し、世の中にアピールできるかに挑戦した作品だと思う。たとえば、ローリング・ストーンズとは違ったアプローチ・・・。
素晴らしい音楽とメッセージだと感じた・・・。
以上です。
ということで、今日はこの辺で!
明日は、コンペ2本と日本映画を2本見る予定です。