2006-04-04

斎藤綾子・新刊記念!

ff.jpg斎藤綾子さんが新刊『ハッスル、ハッスル、大フィーバー!!』を発表した。その名の通り、パチンコ小説である。もうパチンコ依存症にはたまらない作品だ。帯の言葉を借りると、「セックスも男遊びもテキトーにこなし、執筆もパチンコほど熱中できない独身小説家が、ある日突然にとり憑かれた”死後の不安”。負け犬ポルノ作家(37)、ついに自分の墓を買う」。

綾子先生とは毎晩のようにパチンコについて長電話する仲間で、というか綾子先生のパチンコ道は、オチンコ道同様、プロ以上のものがあるので、とにかく勉強させてもらっている。伏見も現在、同じくパチンコ小説を書き上げつつあって、友情の証で同時期に出版したかったのだけど、生活費捻出のために他の書き下ろしを優先させて、それは叶わなかった。自分もパチンコ店を舞台に描いていて思うのは、やっぱ綾子さん、描写が抜群に上手い! こんなふうに表現できたらなあと、うらやましかった。

綾子ファンならずとも、パチンコファンには必読の欲望小説、乞うご期待!

●斎藤綾子『ハッスル、ハッスル、大フィーバー!!』(幻冬舎) 1400円+税

★さて、今回は、仲良しの綾子先生の新刊発表を記念して、綾子先生と伏見がレディースコミック誌「ease」で連載していたお悩み相談の第2回を、ここにアップロードさせてもらうことにした。単行本にしようという企画ではじまったものだったが、残念なことに雑誌の休刊にともなって3回で終わってしまったものだ(どこかの編集部で続きを引き取ってもらえないですかね?)。

斎藤綾子・伏見憲明の人生相談
「姐さんに聞け!」
第2回(初出/ease/宙出版)

『愛より速く』『良いセックス 悪いセックス』など、セキララなセックス遍歴を文学に高めたエロの巨匠・斎藤綾子と、ゲイライターとして『プライベート・ゲイ・ライフ』で一世を風靡、『魔女の息子』で文藝賞を受賞した気鋭のオネエこと伏見憲明が、あなたの悩みを一刀両断! マイノリティとして胸を張って生きてきたふたりの姐さん方の言葉はすべてが本質、目からうろこのお答え続々です!(目から涙の場合あり)

Q.私は人から「色気がない」とよく言われます。人並みにおしゃれとかはしてるつもりですが、確かに彼氏もなかなかできません。「色気」って何でしょうか?
(26歳・女・フリーター)

斎藤 色気はね、その人の傷み具合と関係してるからね。傷みがない清新なものに色気を感じるって人が結構多いと思うんだよ、最近。ロリコンとは言わないけれど(笑)もちろん若さとか美しさにもすごく色気は感じるけど、傷んでいくからこそ色気が出てくるということもあると思うんだけど。

ーーーちょっと崩れたところに色気が漂うということはよく言われますね。

伏見 色気を漂わせるには、自分自身に官能する力が必要だと思う。ナルシズムっていうか。彼女は視線が外には向いてるんだけど、全然自分には向いてないんじゃないかなって。社会的な視線では自分を見てても、エロ的な見方をしてないんじゃないかなって気がするけど。

ーーー自分の体をエロ的に見るっていうのはどういうことなんですかね? みんなやってるんでしょうか。

伏見 オカマはみんなやってるわよ(笑)。

斎藤 アプローチされやすい外見として演出する色気もあると思うんだけど、相手から話を引きだすとか、相手の開いた部分に入って行くみたいな、そういうことで相手に色気を感じさせるって手もある。

伏見 ちゃんと化粧をして、おしゃれな格好をしていても色気を感じられない人は確かにいて、そういう人は色気がその人の中でうまく循環してない感じはあるよね。滞ってる感じ。

斎藤 美しい外見に色気を感じるには、その美しさと、例えば「あたしを誘って」っていうような、すごく内面の傷んだ壊れた感じ、相手をすごく求めて閉じられない、そういうものが同時に出ていればすごくいいと思う。内側がヨロイカブトを着てるのに、きれいにしててもそれは色気にはなんない。

伏見 あとはそこそこ「やらせてくれそうだ」っていう印象を与えたほうがいいと思うのね。やっぱりモテる人ってそういう雰囲気を出してる。

斎藤 ヨン様なんてすぐ抱いてくれそうじゃない。いつも奇妙な微笑みで、セックスじゃなくてもギュッとハグしてくれそうなさ。色気ってある種遊びで、彼女は本気でちゃんと心を通じ合えるような相手と出会いたいって心の底で思ってるんじゃないかな?

伏見 たぶんその「本気」っていうのが、色気の流れを滞らせてるんだと思う。

斎藤 そうだね。あたしは基本的に「やらせてくれそうな風情があって絶対やらせない」っていうのが色気だ思うんだよ。「やらせてくれそう=優しそう」くらいの気分でもいいかもしれないけど、ご馳走食べられそうなのに食べさせてくれないっていうのが、一番そそられる状態なわけじゃん。

ーーー端的に色気って言うのを体現してるのは誰なんでしょうか、いま。

斎藤 杉田かおるじゃない? この時代は。二十歳で3億を超える借金を背負うほどの傷みっぷりがあって、手に入れた男なんじゃない? あれだけ傷んでる人生を生きてるように見えて、それでも全然へっちゃらでいられるのは、セクシャリティを飛び越えた色気が出てるからじゃないかと思う。

ーーーセクシャリティを飛び越えて?

斎藤 男にアピールするとか、女としていかに自分の価値を落とさないようにするかという類いじゃない色気が出てる。すごくパンチのある、生命力としての色気が出てるから。

伏見 彼女はおそらく、自分の身をさらしてその荒んだ部分を強調して商品にしてる人が、ある瞬間に違う面を見せたときに生じる色気で勝負したんだと思う。

斎藤 あれだけの人がすごく女っぽいことをしたら「エロ……」ってなると思う。

伏見 逆にあの歳で、女っぽさだけでいくと馬脚を現すけれども、反対側に振り子を振っておいて「こっちもあるのよ!」って見せたときに、たぶん御曹司は落ちたんだと思うな。

斎藤 杉田かおるみたいな人が40人くらいいたら、ちょっとは意識変わると思わない? 体がナンボのもんじゃい! みたいな感じで体当たりで生きてて、でも結構ハッピーよっていう女の人が増えたら、「女の肉体としての商品価値」という観念が、例えば「老いにさらされてすごい鬱になる」というようなことも含めて吹っ飛ばせるんじゃないかなって気がするよ。「求められる肉体」っていうのを物差しにして自分を測るんじゃなくて「求めりゃいいじゃん自分から」って。自分に価値つけるんじゃなくって、男の子に値札をつけるっていうあたしのやり方は男の子をすごく凹ませたかもしれないけど、そのくらいの気分でアプローチすればすごい気楽だよ。

     *

伏見 あと僕が思うのは、どれだけ自分をスクリーンにできるか? ということ。

ーーースクリーン?

伏見 相手の欲望を映し出すスクリーン。だから我が強い人ではなくって、相手の好きなものを見せてあげられる人のほうが色気が出るんじゃないかなって気がするんだよね。

ーーー一枚の白い紙になって、相手が思い込んでいるものを映す。

伏見 僕が色気モードで、例えばデブ専バーとかに行ってモテようと思ってるときには自分の名前は言わないし、うんうんって聞いて相手の求めてるものを演じようとするよね。相手が兄貴を求めてたら「そうだよなー……」とかって言って肩叩いて。心の中で「イヤ〜ン」とか思いながら(笑)。

斎藤 わかるわかる(笑)その作業がエロティックだったりするのよ。相手がどういうイメージを持っているのかってことをまさぐる感じ? 一見サービスしてるようで、実はそこからエロティシズムが始まっているという。

伏見 26歳ってまだ若いから……セクハラでも猥談でもいいけど、振られたときに「もう!!」って言うんじゃなくて「も〜やだぁ〜」ぐらいの感じ? そのくらいのステージから勝負するのが一番いいと思うね。あとは、あんまり本気感を出さない。女が本気を相手に求めると、男は結婚とか妊娠とかいろいろ考えちゃうところがあると思う。

斎藤 現実が来ちゃうからね、男の人は。

伏見 だから「本気を振り回さないほうが本気の相手と出会える」っていうパラドックスは昔からあると思うんだけれども。「本気」にこだわって「自分を大事にする」人って、逆に性的な部分以外に自分の価値を見てないのかもしれない。ほかに自分を支える、あるいは自分を表現する価値の軸があれば、性的な部分が安かろうが高かろうが別にいいと思うんだけど。ちゃんと社会的経済的な軸を持てているにもかかわらず、性愛の軸の中ではいまだに「遊ばれる」とかいう価値観を引きずっているからいけないんだと思う。

斎藤 ある種相互で理解している差別感みたいなのがエロスを生んだりするからね。ちょっと昔はさ、いい感じで男と女の間にそれがあったのかもしれない。だからまだ女の色気も男の色気も、男らしさ女らしさという形で出しやすかったし、分かりやすいことだったのかも知れない。けど今は、そういうところを出さない生き方が浸透しちゃってるから。「セクハラでしょ?」とか「女の子呼ばわりしないでください」とか。日常はそれでいいからさ、エロスのシーンでは差別感を存分に楽しんで、安い女になってみるのも手だよ、ナルシズム全開でね。

(質問)
Q.同性とのつきあいが面倒なんです。彼と過ごす時間が一番心が安らぐので、いつもベタベタしているせいか、親しい友だちができません。彼と一緒にいないときはひとりでいたいとすら思ってしまいます。学生のうちはこれでいいのかもしれないけど、社会に出たときのことを考えると自分で自分が不安です。私、これでいいんでしょうか?
(21歳・女・大学生)

斎藤 もしかしたら、ひとりでいる時間が足りないんじゃないかな。あたしなんか始終ひとりだから(笑)いかに友だちが大事かってしみじみ感じるわけじゃん。

伏見 僕は友だちってあんまりいないんだよね。だからこの人の気持ちも分かるところがあって、ごく少数の深い友だちはすごく大事なんだけど、中途半端な「一緒にスポーツで汗流そう」くらいの友だちってあんまり必要って感じがない。それだったらセックスしてるほうがいいと思っているので、彼女の「彼氏といられればいい」っていう気持ちも分からなくはないの。もうひとつ言うと、彼女は、性愛を媒介にした関係以外でいい出会いをしていないんだと思うのね。あるいは、性愛がないと彼女が誰かに好かれる機会がない、つまりろくでもない女(笑)っていう可能性もあるよね。

斎藤 面倒って言う以前に、彼女は女友だちできっとイヤな思いはしてるよね。それが自分の中にその理由があるっていう風には感じてないのかもしれないね。

ーーーでもそれを突きつけられたらきついです。

斎藤 あたしはわりと、全然価値観があたしと違う女友だちもいるんだよ。結婚して子育てしてたりとか。

伏見 僕も例えば、全然違う価値観の人のことがね、嫌いかといわれたら嫌いということでもないんだけど、情緒を共有できるかっていうとそれはなかなか難しくて。

斎藤 日常を共有するのは確かに難しいね。

ーーーこの子は「これでいいのでしょうか?」と聞いているんですが。

伏見 必要じゃないんでしょ?

斎藤 そうだよ、のびのび出来てればいいんだよ。不自由してなければ。

伏見 まあ、21で若いしね、これからいろんな出会いがあるし。社会に出てすごく女の友情が必要になるときがあるかもしれないし。男運に恵まれなくなって……ねえ。

斎藤 唯一言うんだったらね、友だちってあくまでも他人だから! 恋人もそうだけど。過剰に期待しないことかな。過剰に期待したり期待されたりすると殺されたり殺したりするからな……殺人事件とかでよくあるでしょ? 自分と同一視しちゃってて「なんで分かってくれないの?」みたいな感じでバッサリいったりさ。面倒なのが当たり前なんだからさ、健康なんだと思うよ。